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【2019体育祭】魔法と科学の借り物競走!!

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【2019体育祭】魔法と科学の借り物競走!!

リアクション


*14:00〜* 午後の競技開始


 Eチーム
 文月 唯『それでは午後の部、Eチームの競技を開始いたします』
 九条院 京『はい、こちら現場の九条院なのだわ。早速借り物を開始しているのだけれど、なんだか大丈夫なのかしら?』


 ・村雨 焔…………………………ネットオークションで最低落札数万円相当のプレミアム同人誌
 ・クロセル・ラインツァート……親から貰った本
 ・マナ・ウィンスレット…………親友のディノ・シルフォードと一緒に作曲した楽譜
 ・朝野 未沙………………………髑髏
 ・レイディス・アルフェイン……スナイパーライフル


 村雨 焔は死守したいつもどおりの格好で帯剣したまま、リーズ・ディライドの前に立っていた。しばらく値踏みするように眺めていたが、咳払いをして手を差し出す。

「借り受けて、構わないか?」
「構わないけど、ボクが持っていくよ。ゴール前で触ればいいんでしょ?」

 にこっと笑って、紙袋に包まれたプレミアム同人誌をぎゅうっと握りしめた。村雨 焔は小さく頷くと、颯爽とトラックへと駆け出していき、その後をリーズ・ディライドも追いかけていった。だがその目には違う光が宿ってしまったようだった。

「ボクの前は、誰も、走らせないぃいいいいい!!!」

 そう叫びながら、リーズ・ディライドはゴール前まで一気に駆け抜けていった。その手にしている紙袋を強く、強く握り締めながら。

「どうか俺にそのお手にしている本を貸してくださいませ!!!」
「ご、ごめんなさい!」
「私も、申し訳ありませんっ!」

 相沢 美魅はとセフィリア・ランフォードまるで校舎裏での告白を勢いで振った女子生徒のように駆け出して、さらにバーストダッシュで駆け抜けていく。クロセル・ラインツァートは一瞬ぽかん、としてしまったが、足元から「しっかりしろ!」という声が聞こえて、自身もドラゴンアーツの怪力を足に応用し、マナ・ウィンスレットを引っつかんで駆け出した。

「やっぱりイルミン相手じゃ貸してくれないんですね……」
「弱気になるな、クロセルが悪いわけではないのだし、最悪ゴールで触っているだけで良いんだ。あまり深く考えるな」

 かわいらしい外見とは裏腹な言動に、今はただただ納得して二人の後を追いかけていた。体育祭にメイド服で挑んでいるのは、機晶姫の修理屋で名をはせている朝野 未沙だ。

「髑髏?」
「そ、この髑髏の名前をいえたら貸すよ」

 フリードリヒ・常盤が自慢げに取り出したのは、不謹慎ながら、右半分を白、左半分を黒くペイントしたものだった。本物ではなく、あくまでもアクセサリーのようなものであるのは朝野 未沙にも理解できたが、名前と問われてもピンとこずにうーんと考え込む。

「うーん、生きていた頃の名前? イタコでもいなきゃ無理じゃない?」
「まぁ、通じないか。女の子相手じゃクトゥルフなんて分からないよな……」
「ううん、未羅ちゃんなら分かったかもしれないけど……困ったなぁ」
「……実は僕も、うろ覚えだから今日はいっかな……はい」

 頭をかきながら、フリードリヒ・常盤は髑髏のアクセサリーを差し出す。朝野 未沙はにっこりと笑って受け取ると、「ありがとう!」と次げてメイド服のすそを軽く持ち上げて走り始める。
 

 朝野 未沙と色違いのメイド服を纏い、可愛らしく髪の毛にリボンを絡ませているレイディス・アルフェインは一見するとごく普通の美少女だった。影野 陽太は快く貸し出しアイテムを差し出す。

「はい、どうぞ!」
「ありがとうな、大事に扱わせてもらうぜ」

 スカートのすそが翻るのも気にせずに駆け出していく後姿を見て、相手が男と知ってかしらずか「可愛いなぁ……」と思わず呟いていた。
  

 戦闘慣れしているメンバーの競争と言うこともあり、直接的な攻撃こそないものの、自作のトラップであるとか、氷術による足止めがかなりの頻度で行われており、会場内はヒートアップしていた。

「く、直接攻撃がルール違反でさえなければ……」
「あくまでも、コレはスポーツですからねっ!」
「クロセル、まだつかまえられないのか?」
「無茶言わないでください、足止め攻撃がこんなに多いと、先に進むのだって一苦労なんですよ?」

 クロセル・ラインツァートはマナ・ウィンスレットを小脇に抱えながら、先頭を逃げ続ける相沢 美魅とセフィリア・ラインフォードの後を追い続ける。最終生涯写真撮影まで来ても、いまだに捕らえられずにゴール前でのおいっかけっこが続いていた。

 村雨 焔とメイド二人の戦いはその中でも壮絶を極めており、同じ学校なのだから一緒にゴールすれば良いという発想に至る頃には、クロセル・ラインツァートが根負けした相沢 美魅から借り物を受け取っていたところだった。

「ゴールするときに触ってるだけですからね?」
「ありがとうございます!」

 マナ・ウィンスレットもちょこん、と触るだけでいいいなら、という約束でOKを貰うことができた。

「さて、それじゃ俺にとって仮面は」

「「「自分にとってはずせない大事なもの(だ)!!」」」

 ゴール前に駆け込んできた黒い外套はゴールで待っていたリーズ・ディライドの紙袋に手を置き、紺色のメイド服と黒いメイド服姿がクロセル・ラインツァートを吹き飛ばした。ほぼ同着といっても過言ではないこの状態に、緋桜 遙遠はクリス・ローゼンとも相談し、放送テントのメンバーとも話し合う場を設けた。
 しばしの審議の後。

 文月 唯『今回の試合、全員一等扱いということにさせていただきます』

 ブーイングと歓声が同じくらい観客席から上がる。選手達も納得が行かない様子では合ったが、顔を見合わせていたらそんな気も薄れてしまったようで、お互いに噴出して笑い出していた。 

 リーズ・ディライドは七枷 陣に借りていた紙袋を早速返し、自分の出番のため挨拶もそこそこにスタート位置に向かう。その背を見送る間もなく、紙袋の中身を確認した。エアパックは少し破けており、本自体は一見すると無事であるが……角がわずかに曲がっていた。
 七枷 陣はその同人誌を買ったときの写メをおもむろに呼び出し、確認した。購入時には、そんなところに傷はなかった。

「クソロリめ……」

 ブチン、という音とともに呟かれた言葉には、これ以上にないほどの殺気が篭っていた。



 文月 唯『全員一等という不測の事態でしたが、続いてまいりましょう。Fチームの競技を開始いたします』
 九条院 京『今回は借りる相手が武闘派だから、大変なのですわ!』


 
 ・影野 陽太……………………メイド服か機晶姫
 ・フリードリッヒ・常磐………自身の剣
 ・相沢 美魅……………………仮面
 ・セフィリア・ランフォード…【残月】
 ・リーズ・ディライド…………マカロン

「あのぉ、ちなみにどっちなんでしょうか?」

 影野 陽太が苦笑しながら問いかけると、朝野 未沙はにっこりと笑ってピンク色のメイド服を取り出した。「やっぱり」と、思わず呟きながらうなだれると、メイド服を受け取って体操着の上から着る決意をした。すっぽりと着込むと、どこから取り出したのか赤い大きなリボンを坊ちゃん刈り頭の後ろに丁寧につけてもらう。

「うん、似合ってるよ〜」
「ありがとうございます……」

 心の中で、カンナ会長にだけは見られたくない……と思いながら貴賓席に目をやると、楽しげにこちらを見つめている環菜の姿があった。それをみて彼ががっかりしたのは、もちろん言うまでもない。

「……え?」
「いや、一応大事な剣だし、腕試ししてからのほうがいいかなって思ったんだけど……?」

 レイディス・アルフェインはメイド服を既に脱いだ形で剣を構えてにっこりと笑う。フリードリヒ・常盤は後ずさりしながらどうにかならないかと思考をめぐらせていた。競技を終えたレイディス・アルフェインに『直接攻撃を禁止』するルールは適用されない。

 同じように自らの武器である残月を貸し物に書いた村雨 焔も残月を構えてセフィリア・ランフォードの前に立っていた。彼女は受けてたつといわんばかりに、同じく武器を構える。

「力ずくででも、貸していただきます」
「望む所だ。来い」

 言葉が合図となり、目にも止まらぬ速さで二人の剣は交わった。

 相沢 美魅とリーズ・ディライドは吹き飛ばされたときにかすり傷を受けたクロセル・ラインフォードとマナ・ウィンスレットが救護テントにいると聞いて訪れていた。

「あの、借り物を……」
「借りに来たよ〜」

 相沢 美魅は貸すときに渋ったせいもあってか、少し罰が悪そうな表情で四方天 唯乃から治療を受けるクロセル・ラインツァートをみつめる。だが、思っていた以上に彼は気安い笑顔を向けて仮面を差し出した。

「いいんですか?」
「大事なものですから、後で返しに来てください」
「私の秘蔵のマカロンも貸してやろう。コレはゴールしたら食べてしまって構わないぞ?」
「わああ! ありがとう!」

 大喜びでその場を去る二人を見送ったクロセル・ラインツァートに、四方天 唯乃が声をかける。

「よかったの?」
「いいんです。アレは予備の仮面ですから……怪我をしていなければ、先ほどの追いかけっこをまた繰り返しても良かったのですがね……」
「うむ、そういえば秘蔵のマカロンはまだある。救護レンジャーのメンバーにもおすそ分けしよう」

 そういって、マナ・ウィンスレットは小さい身体を包むローブの中から籠に盛られたマカロンを取り出して救護テントのテーブルに置く。


 影野 陽太が第一障害を、スカートに引っかかりながらもようやくこなした頃、村雨 焔は残月を収めていた。だが剣を差し出すことはせずに、呼吸が上がっているセフィリア・ランフォードの前を歩き始めた。

「ゴール前で、触れれば良いだけだ。付き合おう」
「そうでしたね、では今しばらくお付き合い願います……!」

「逃げていないで、武器を抜いてくれないか?」
「いや、ホント、そういうつもりではなかったし……他の人も出発しちゃったし、ゴール前でだけ触らせてくれれば良いんだ!」

 フリードリヒ・常盤はレイディス・アルフェインの振るう剣から逃れながらそういうと、向こうもようやく「あ、そっか」と声を上げて剣を収めた。仲良く手をつないで、ということはさすがにしないが最後に出発する形になってしまったので、とにかく急いで障害物に向かっていった。


 フィア・ケノブレア『出発が他のチームと違いかなり出遅れているので、長引きそう』
 神和 綺人『ですが、借りる段階でもかなり楽しめるチームですねぇ』
 フィア・ケノブレア『スリルのない人生なんてつまらないもの』
 神和 綺人『どこから引用してきているのか分からない解説やめてください……』


 テスト障害を乗り越え、生涯写真撮影を抜けて、ようやくゴール前に立ったのは白いフリルが飾られたピンク色のメイド服を、極力汚さないようにすそを持ち上げて走っていたが、めくれるときのくすぐったい感覚がすそが翻らないよう押さえながら走る結果となり、思った以上に時間がかかっていた。幸いなことに、周りがトラブル続きだったためそれでもトップを維持できていた。この姿をした写真が永久保存されるのは嫌だが、とにかく一等で到着できたことを喜んでいた。

「これなら、環菜会長に褒めてもらえるかな……」
「さ、あなたの半身に一言」
「コレがあるから、俺は戦えます!」

 その宣言が終わるのとほぼ同時に、フリードリヒ・常盤と、セフィリア・ランフォードが駆け込んでくる。その両端に、レイディス・アルフェインと村雨 焔も併走していた。


 九条院 京『一等は決まったものの、まだ2等の得点は大きいのだわ!』


 僅差で、フリードリヒ・常盤が剣の鞘を掴んで「ホントはパートナーが大切なんだが、な!」と声を上げる。ゴールを認められ、続いたセフィリア・ランフォードも残月の鞘に触れた状態で「大切な幼馴染との、思い出の品です」と宣言する。

 遅れて到着した相沢 美魅とリーズ・ディライドは仲良く同着三等となった。

「親と仲が良かったときの思い出なんです」
「ボクのじゃないけど、陣くんの品物だから、ボクにとっても大事なんだよ」
「その大事なものを、よくも傷つけてくれたじゃないかクソロリ」

 ゴール認定直後にリーズ・ディライドの銀色のもみ上げをつかみあげ、極上の笑みを相沢 美魅に向けて「お疲れ様、あ、このマカロンは代わりに返しといてもらって良いかな?」と告げて、痛がって悲鳴を上げるパートナーをずるずると引きずっていずこかへと去っていった。


 文月 唯『なにやら、最後に不穏な空気が流れましたが続いてGチームの競技を開始です』
 九条院 京『リーザ・ダンライテとやらもかわいそうなのだわ……』
 文月 唯『名前間違っていますが、気にせず現場状況解説願います』
 九条院 京『さ、最後の借り物チームなのだわ! 実況にも熱を入れていくのだわ!!』


 
 ・城定 英希…………親の形見のコート
 ・椎名 真……………恩人が作曲した着メロ
 ・荒巻 さけ…………リィム フェスタス
 ・水上 光……………観客席にいる白いコートを羽織ったヒゲ守護天使の羽一枚


「大丈夫にゃん、ブルマに大事にしまって走るから、貸してほしいにゃん♪」

 ネコミミにブルマ姿の城定 英希はにっこりと笑いながらロミー・トラヴァーズにお願いする。綺麗にたたんでもらった親の形見のコートを抱きしめながら、しばらく唸っていたが、後ろにいるマシュ・ペトリファイアに顔を向けて、にっこり微笑む。

「まろの大事なコートは、マシュが一緒に持っていってくれるのじゃ。だから英希にいはまっすぐゴールを目指してくれればいいのじゃ」
「わかったにゃん♪ マシュ、よろしくお願いにゃん」
「その口調、何とかならないのかねぇ……」

 同行の仲間に若干呆れながらもコートを抱えて城定 英希の後について駆け出していった。椎名 真は、『音』という借り物に関してどうすればいいのか、クリス・ローゼンに聞きに来ていた。

「ゴールの前でこの音を流す、という形でOKにしようと思います。なので、まずはこの音を鳴らせる状態にすることが大事ですね」
「それなら大丈夫だ。その音ならすぐに鳴らせる」

 二人の会話に入ってきたのはリュース・ティアーレだ。手にした携帯電話から、椎名 真に電話をかけているようで、椎名 真の携帯電話から二人にとっては思い出のメロディが流れる。

「まさか、オレの大事なものを真が引くことになるとはな」
「はは、そうだな……じゃ、ゴールに着いたら、鳴らしてくれ!」

 そういい残して、椎名 真は自分の携帯電話を握り締めて駆け出していった。荒巻 さけは十六夜 泡のところに訪れて借り物について丁寧にお願いをすると、二つ返事で貸してもらえることになった。ストラップほどの小さな魔女を両手に乗せさせてもらう。ちゃんとブルマ姿をしているリィム フェスタスは丁寧にお辞儀をして微笑みかける。

「よろしくお願いいたします」
「鞄には、入れないほうがよさそうね。つかまっていてくださる?」
「ジャージのポケットにお邪魔させていただければ、一番つかまりやすいです」

 いわれるままにジャージの胸ポケットに導くと、信太の森 葛の葉お手製の達筆なネームタグの上にリィム フェスタスの顔がちょこん、と飛び出して見えた。いい?とみじかく問いかけて頷いたのが見えると、荒巻 さけはすばやく駆け出していった。

 比賀 一からは「いるからとってくればいいんじゃないか?」とだけ言われて探していた水上 光は観客席でようやくお目当ての白いコートを来た守護天使のハーヴェイン・アウグストに声をかける。「羽を一枚ほしい」というと怪訝そうな顔をされたが、事情を話すと納得された。

「そういうことなら、普通に持っていくんじゃつまらないだろ? たとえば、腕相撲とかな。言っちゃ悪いが、俺はこう見えても古代じゃ隊の奴らに150連勝って言う記録を持ってるんだ、そうそう簡単には勝てないぜ?」
「勝てないと、ダメか?」
「勝負ってのは、やってみなきゃわかんないだろ。ほら、ボウズ手をだしな」

 コートとジャケットを脱ぎ去り、袖をまくったハーヴェイン・アウグストは適当な台に腕を乗せて口元をにやりとゆがませた。水上 光は少し戸惑ったが、「ひっかるさーんっ! ファイトですわ〜〜〜!」と、駆け寄ってきて応援するモニカ・レントンの声援を聞いて、決意したように自らも台の上に腕を乗せた。

「だれか、合図してくれ」
「では、いきますわよ? レディ、ゴー!!」

 ハートをあしらったチアガール衣装のモニカ・レントンが合図を出して、両者の気合がぶつかり合う。だが力の差は歴然としており、十数秒で決着がついた。負けてしまった水上 光は、悔しさで顔をゆがめるが、ハーヴェイン・アウグストは一枚羽をちぎって、水上 光に差し出す。

「なかなかいい顔してたじゃないか。あとは経験だけだな。またやろうぜ?」

 そういって、ジャケットとコートを引っつかみ、ヒゲ面の守護天使はその場から立ち去った。

「別の意味で、借りができちゃったな……」

 その後姿を見送って、水上 光は借り受けた羽を持って競技場へと戻っていった。

 積み木、麻袋、平均台、テスト、どれも見慣れたためか誰もが難なくこなしていき、借り受けたのが早い順にゴール前までたどり着いていた。生涯撮影会では、城定 英希は写真写りを気にして多くの角度を要求して後れを取ってしまった。荒巻 さけはあらかじめ予習していたおかげでテストの難関をすり抜けており、トップでゴール前に立つ。

「楽しみと、生きる事は同じ意味を持っているわ。今を楽しむために必要なものは、須らくわたくしにとって大事なものです」

 文句なしの答えに、見事一等を勝ち取った。その後を追ったのは椎名 真と水上 光だった。

「ここで勝たなきゃ、借りた意味がないんだっ!」
「俺だって、友達のために負けるわけには……っ!」

 握り締めた羽を突きつけるように、緋桜 遙遠の前に僅差で立った水上 光は、声を張り上げて宣言した。

「ボクの目指す先にいる人から貰った、大事なものだ!」
「はは、負けちゃったけど……命を駆けて守りたい人と、同じくらいに大事にしてるつもりだよ」

 緋桜 遙遠は水上 光、椎名 真の順にゴールを認める。遅れて到着した城定 英希は一瞬考えこむと、ロミー・トラヴァーズのコートに触れながら、「敵を欺くにはまず味方から、ってところかな」そういって会場内から総ずっこけの音を出した。


 文月 唯『最終レースとなりました、Hチームの競技を開始いたします』
 九条院 京『なんだか名残惜しいのだわ……最後まで熱血してほしいのだわ!!』


 
 ・リュース・ティアーレ………携帯電話
 ・比賀 一………………………ぬいぐるみ
 ・十六夜 泡……………………コスプレ衣装
 ・ロミー・トラヴァーズ………思い出の帽子


 椎名 真は借り物が発表されてすぐに、リュース・ティアーレのところへ向かった。彼が差し出した携帯電話を手に取り、黙って頷くと、リュース・ティアーレは真っ先にトラックへ駆け出していった。

「うを! これ、いいのか?」
「壊したらただじゃおきませんわ……あと、見つかることも絶対にダメです」

 荒巻 さけが確認のために見せたぬいぐるみは、環菜のデフォルメぬいぐるみ。許可を貰って触ると『ナデナデシテー』という電子音が流れる。感動しながらもう一度触ろうとすると、荒巻 さけの手で袋の中に入れられてしまった。

「わかりましたの?」
「わかってるって、俺だって蒼学の人間だしな……まだ死にたくない」

 苦笑しながら袋を預かると、大事そうに抱えて駆け出した。精密機械ゆえに、あまり激しく走るのも控えようと考えながら足を動かしていた。

「き、きるの?」
「大丈夫にゃん、本当なら逃げる予定だったんだけど、イルミンの生徒なら予備を着てもらうにゃん」
「で、でも……私、年齢的にもうそういうのは……」

 年齢的に、そう言い放ったときにギラン、と城定 英希の眼鏡が光る。

「コスプレは、いくつになってもいいものです。年齢に縛られるなんて、あってはならないんです。例え三十路、四十路になっても己の体をアピールするためにしていいんですっ!」

 なにやらよくわからない勢いに押されて、とりあえずブルマはなんとしても拒否し、ネコミミを身につけて(コスプレとあっただけなので、ネコミミだけで許可してもらえた)トラックを駆け出した。ネコミミだけでも体中から湯気が出そうなほど恥ずかしいのか、真っ赤になりながら走り出していた。
 戻ってきているリィム フェスタスがネコミミの上につかまりながら、「でも似合っててかわいいです」と小さく呟いた。

 ロミー・トラヴァーズは自分の被っている帽子を脱いで、水上 光に差し出した。

「まろのコートと同じくらい大事な帽子なのじゃ。代わりにコレを預けるから、貸してくれぬかのう」

 惜しげもなく大事な品物を代わりに、という少女の言葉を受け取り、水上 光は戸惑うことなく、その昔あこがれていた人物から譲り受けた思い出の帽子を差し出した。

「キミなら、絶対大丈夫だって信じた。だから、がんばって!」
「うむ!」

 満面の笑みで、代わりに借り受けた帽子をかぶってトラックを駆け出していった。水上 光も習うようにして、ロミー・トラヴァーズの帽子をかぶり、他校ながらも彼女をモニカ・レントンとともに応援し始めた。


 慎重に進んでいるためか、ジャンプも戸惑っている比賀 一と、ぶかぶかのジャージが積み木に引っかかっているロミー・トラヴァーズは、出遅れてしまう。リュース・ティアーレはトップを突っ切り続け、その後をまだ顔を真っ赤にしている十六夜 泡が追う。
 最後の生涯撮影会で多少時間をとられるが、ぎりぎりになって、十六夜 泡はバーストダッシュでリュース・ティアーレを抜いた。


 九条院 京『見事な追い上げなのだわ! 十五夜 滝さん!』
 フィア・ケノブレア『ぎりぎりのバーストダッシュは効果的ですね』
 神和 綺人『あの、選手の名前くらい間違えないでください、そしてそこを突っ込んでくださいよ』



「大事なパートナーだもの!」

 愛らしいネコミミの間で、それを聞いていたリィム フェスタスは照れたように微笑む。一等を認める合図が出ると、出遅れてしまった比賀 一はがっくりして袋を落としてしまった。手から離れたその袋をとっさに拾うことができず、背筋が凍りついた瞬間、その脇を通っていたロミー・トラヴァーズが絶妙なタイミングで袋をキャッチする。

「借り受けた大事なものなのじゃから、手放しちゃだめなのじゃ!」

 にっこりと笑って袋を比賀 一に差し出す。心底ほっとしたように御礼を口にしている間にリュース・ティアーレは緋桜 遙遠の前に立つ。

「遙遠さん」
「さ、最後の宣言をどうぞ」
「あいつとこの着メロのおかげでオレは今ここにいます」

 二等が決まり、間もなくロミー・トラヴァーズと比賀 一も到着する。袋を拾ってくれたお礼に、と彼女に先を譲った。

「まろにとって大事だから、大事なのじゃ」
「羽が大事ってわけじゃないが、まぁ、相棒みたいなやつのだからな」

 同着の三等として得点をもらうと、観客席から歓声が沸き起こる。こうして借り物障害物走は幕を閉じたのだった。