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【2019体育祭】魔法と科学の借り物競走!!

リアクション公開中!

【2019体育祭】魔法と科学の借り物競走!!

リアクション


*10:00〜* 開会式


 開会式を告げるファンファーレがなり響く。
 会場内が次第に静けさを取り戻してくると、放送席からマイクを通してスピーカーから声が流れる。進行表そって行われるそれは、格式ばってはいるがそれぞれの学校らしさが溢れるものだった。各校の効果が終わると、放送席からコメントが入った。

 神和 綺人『それでは、各自競技を開始したいと思いますが、その前に……本日のメインである蒼空VSイルミンの【借り物障害物走】について、連絡があります。今配られているプリントをご覧ください』

 運営委員関係者総出で配っているプリントには、競技のチームわけと、ルールについて書かれていた。それを見て、幾人もの生徒達が驚いた声を張り上げた。


 文月 唯『先ほど皆様から戴いた【自分の半身】について書かれた紙をシャッフルし、3〜4人のチームで分けさせていただきました。ルールについて、そちらに書かれている通りです。不明な点は、放送席までご連絡くださいませ』

借り物障害物走

 その1:組み分けられたメンバー間で借り物を決定します。
     (AチームはBチームから借り、BチームはAチームから借りるといった方式。なのでA=B C=D E=F G=Hです)
 その2:借り物を手にした状態でゴールすること。(何を借りるかは競技直前にお知らせします)
 その3:最後の生涯は、必ず借りたものと共に乗り越える。ズルはいけません。人生とはズルできないものなのです。
 その4:審判の前で、貴方自身の半身に対してメッセージ。その想いを認められればゴールインです。
 その5:最後の生涯までは、借り物は手にしていなくてもOK。

 尚、負けた学校長様には運営が特別に用意したブルマを着用していただきます


 そのルール表記の最後に、ちいさーく表記されたものに、貴賓席にいる校長の二人は顔を引きつらせた。環菜はつややかなおでこに目に見えるような怒りマークを見せ、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)も驚きを隠せない様子で思わず席から立ち上がっていた。


 白波 理沙『チームわけについては、既にそのように確定してるわ。何を借りるかは、スタートするまでのお楽しみ。ちなみに、先ほどから問い合わせが多いんだけど、ルールのほうに書かれた『生涯』は誤字ではないわ』

 明智 珠輝『なお、この最後の部分は、今朝方後夜祭実行委員会から足されたもので、後夜祭にて披露されるとのことです。フフフ、とても楽しみですねぇ』


 不敵な笑みが会場内に響き渡る頃、選手が持っているプリント内容と同じものが会場の巨大スクリーンにも映し出された。


 Aチーム

 ・東條 カガチ(とうじょう・かがち)………柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)
 ・七尾 蒼也(ななお・そうや)…………携帯電話
 ・エル・ウィンド(える・うぃんど)……黄金の改造制服
 ・ラグナ アイン(らぐな・あいん)……………如月 佑也、アルマ・アレフ、ラグナ ツヴァイ


「カガチ! Aチームですよ〜!」

 体操着にブルマというお約束の格好をしている柳尾 なぎこは、はしゃいだ様子でスクリーンに映る名前を指差して喜ぶ。その片手には、朝位置で動いていた購買で買ってもらったたい焼きがあった。Tシャツに短パン姿の東條 カガチははしゃぐパートナーを眺めて、おもむろに頭に手を置いてゆっくりと撫でてやる。


「ちぇ、せっかくアイツの名前書こうと思ってたのになぁ」

 体操着に短パン姿の七尾 蒼也はため息をついてルールの書かれた紙を見直す。
 そこには、「尚、複製品は認められません」とものっ凄く小さく書かれた注意書きを見て顔をしかめる。エル・ウィンドはそれを横から覗き込んで、同じく苦笑を漏らした。

「まぁ、複製できるものとは限らないしねぇ」
「現に衣装貸し出しでしかも【衣装に限り身につける】とかあるしなぁ」

 隣にとても恥ずかしい衣装を貸し出す予定の人間がいるのを思い出して、七尾 蒼也はさらにため息をついた。


 新しく購入したハンディカメラでパートナーのラグナ アインを撮影していた如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)は、無意識で捻挫している足に力を込めて立ち上がろうとしてしまった。えんじ色のブルマ姿をしたラグナ アインがレンズの向こうでにっこりしているのだけは確認できたのだが、パートナーが何を貸し出すのか確認する前に転んでしまった。幸い、カメラは無事なようだ。

「あ、あたったたたたた!!!」
「蒼学ファイットォ〜〜〜!! って佑也、大丈夫?」

 応援団長として声を張り上げていたアルマ・アレフ(あるま・あれふ)は眼を丸くする。体育教師に見えなくもない彼女は、心配するでもなく痛がる如月 佑也を見下ろす。ラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)にいたっては、ラグナ アインとお揃いのえんじブルマをはいて上機嫌なだけではなく、主よりも高性能なハンディカメラで熱っぽい呼吸を漏らしながら撮影を続けていた。

「はぁはぁ、姉上……脚線美が美しくたまらないっ……。白く滑らかな陶磁器のごとく美しい……ああも惜しげもなく晒しているのがもったいないですぞ」
「……くそ、何でこういうイベントの前日に捻挫とかするかな、俺……」


 Bチーム

 ・緋桜 ケイ(ひおう・けい)…………………ヴァーナー・ヴォネガット
 ・立川 るる(たちかわ・るる)…………アルパカの写真集
 ・神野 永太(じんの・えいた)…………………今はいているパンツ
 ・燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)…神野 永太


「ケイ、わかっておるな?」

 悠久ノ カナタ(とわの・かなた)は再三繰り返した問を弟子に投げかける。緋桜 ケイはゆっくりと頷いた。

「俺と、ヴァーナーの中が公認のものになるための、重要なイベントだ。絶対にはずせないぜ!!」
「うむ。おぬしならできると、わらわは信じておるぞ」

 それにしても、冗談で言ったのが本当に当たるとはな。

 悠久ノ カナタが心の中で小さく呟いたのは、きっとこの先も永遠に内緒なのだった。

 立川 るるは上下にジャージを着込んでいたが、観客席に効いている暖房のおかげかようやく脱ぐ気になったらしく、その下には紺のラインが入った体操着にブルマをちゃんと着ていたようだった。アルパカの写真集をラピス・ラズリ(らぴす・らずり)と眺めながら、もふもふと楽しんでいた。翼をパタパタさせながら、ラピス・ラズリは立川 るるに向き直る。内容は確かに愛らしい動物の写真集であるが、最近購入したコレを【自分の半身】というには……という疑問が絶えず頭にあったので、こっそりと耳打ちするように問いかける。

「でもこれ、半身じゃないじゃないかなぁ?」
「もふもふ〜」
「……聞いてないか……」


「永太にとって大事なものは、パンツなのですか?」

 燦式鎮護機 ザイエンデは、隣にいるパートナーに問いかける。自身はいつもどおりの装甲を身につけた姿だが、神野 永太は体育祭らしく体操着に短パン姿だった。問いかけられて『一度は書こうと思ってやめてしまった』名前の持ち主に顔を見つめられているのを思い出して顔が赤らんでしまったが、そっぽを向いてごまかした。

「え、あ、いや、その。大事だぜ? 下着」
「なるほど。永太のパンツなら、確かに大事なものです。貸し出すときも、きっと注目を浴びてしまうでしょうね」

 機晶姫である燦式鎮護機 ザイエンデは、あくまでも「自分にとって大事なパートナーの品物だから」という意味だったのだが、神野 永太はいまさらながらそういう意味じゃなく、ことの重要さを思い出した。

「……これいつ脱げばいいんだろうか……」


 Cチーム

 ・久世 沙幸(くぜ・さゆき)………………髪につけているリボン
 ・樹月 刀真(きづき・とうま)………………漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)
 ・ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)……雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)等身大ぬいぐるみ
 ・ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)……ネックレス


 かわいらしく「さゆき」と名札のついた体操着をまとう久世 沙幸はブルマ姿を恥らうように、シャツのすそで隠そうと必死になっていた。藍玉 美海(あいだま・みうみ)はそうやって久世 沙幸が伸ばしたシャツに手を添えて、にっこりと微笑んで彼女の顔を見つめる。

「美海ねーさま」
「沙幸さん、こういうのはあえてすそを延ばしているほうが、いやらしく見えますのよ。わたくしを誘っているのなら、そういってくださればいいのに……」
「ち、ちがうもん! そういうんじゃないのっ」

 言われてすぐに、ブルマの中にシャツを入れてたわわな胸がより一層強調されるのも気にせずに綺麗にしまいこむ。それを見て銀髪の魔女は「そうすると、胸元や脚線美が強調され、内腿がはっきりと確認できてたまりませんのよ……」と囁いた。

「優勝、かぁ」
「刀真がんばってね」

 漆髪 月夜はブルマの上にウィンドブレーカーを着込み、売店で購入したお菓子やジュースをほおばりながら激励の言葉を投げかける。体操着に短パン姿の樹月 刀真は苦笑気味にそれを眺める。周りの蒼空学園の空気も、優勝に向けて熱意が高まっているのを見て、地震のテンションもあげていこうと深く息を吐いた。

 ソア・ウェンボリスも、やはりブルマ姿を恥らいながら上に防寒用のジャージを着てもじもじしていた。

「ベア、この格好本当に変じゃないですか?」
「ご主人……俺様が知る中でもかなり上位に位置するブルマの似合いっぷりだ」
「ほんとうですか? ありがとうございます……でも誰が決めたんでしょう、推奨って……」
「そのロマンが分かるやつ……俺様の心の中で友と呼んでやるにふさわしいやつだ」

 明智 珠輝『へっくしょいぃ!』
 リア・ヴェリー『失礼いたしました。
 バカ珠輝! マイクに向かってくしゃみするな!
 明智 珠輝『ふふふ、私の噂をしていますね……犯人はブルマ愛好家の諸君! 私には分かるのですよっ!』


 放送がいきなりぶつんときられた後、遠くにある放送席から悲鳴が聞こえてきたのはきっと気のせいだったのだろうと言い聞かせる。納得のいくくしゃみを聞いて、巨大な白熊2匹(一方はぬいぐるみ)と美少女は競技に向けて準備万端で出番を待っていた。


「がんばる女の子は可愛いなぁ」

 体操着にハーフパンツ姿のケイラ・ジェシータが無意識のうちに呟いた言葉を、御薗井 響子(みそのい・きょうこ)は聞き逃さなかった。

「それもまた、セイシュン」
「うん! そうだね、こうやってガクセーはセイシュンをオーカするんだ」

 満面の笑みをケイラ・ジェシータはパートナーに向けた。



 Dチーム

 ・沢渡 真言(さわたり・まこと)……………………ペンダント
 ・渋井 誠治(しぶい・せいじ)……………………彼女から貰った手編みのマフラー
 ・小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)…………………超ミニスカのステージ衣装
 ・セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)……青い魔女帽子


 偶然にも各校の境目に座っていたメンバーは同チームであるということで会話が弾み、人目もはばからず、自慢げに自らの大事なものを披露しあっていた。特に熱が入っているのが渋井 誠治だった。

「いいだろ〜俺の彼女すっげぇ編み物上手だろ!? 初めてのプレゼントなんだ……このひと編みひと編みが俺への想いでできてるんだぜ」

 周りがその熱弁にあき始めていた頃、紺色のブルマで見事な脚線美を見せ付ける小鳥遊 美羽は自慢の衣装を広げながらルールと照らし合わせて首をかしげた。

「ちなみに、これ彼が当たったら着てもらわなきゃダメなのかなぁ?」
「でしょうね。アクセサリーには身につけるとかかれていませんが、【衣装に限り身につける】とありますから」
「私の帽子も、すこし小さいかもしれんのぅ……」
「でもしわつけたくないから、被っていくわけにいかないもんね」

 同じくブルマ姿のセシリア・ファフレータは青い帽子を眺めながら、沢渡 真言もうなずいた。女三人そろって、学校関係なく今は和気藹々として話を続けていた。
 
 


 Eチーム

 ・村雨 焔(むらさめ・ほむら)…………………………【残月】
 ・クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)……仮面
 ・マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)…………マカロン
 ・朝野 未沙(あさの・みさ)………………………メイド服か機晶姫
 ・レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)……自身の剣

 ルールの細かいところを読み直して、クロセル・ラインツァートはほっと胸をなでおろした。

「同時出場可能だってさ、よかったな」
「ただ、お互いの借りるものによっては難しいかもしれないな」

 剣士二人に囲まれ、明らかに体力的な差があるのを見て取り、マナ・ウィンスレットは小さな体で盛大なため息をついた。だが、そのうちの一人は今朝野 未沙に満面の笑みで取り押さえられていた。

「や、メイド、服?」
「ほら、私の貸し出すものが機晶姫って、幅広すぎるからメイド服にすることにしたんだ。だから、レイちゃん……協力してほしいなって」
「協力するのは構わないんだけど、今ここでそれに着替える必要あるのか? 預かるだけなら……」
「ただ預かってもらうのも芸がないしね〜」

 本当はメイドの着替えは沢山あるから、そんな必要はないんだけど……なんてことを心の中で付け足しながら体操着姿のレイディス・アルフェインにメイド服をかわいらしく着飾らせて満足げに周りを見渡すと、体操着姿にすらなっていない村雨 焔の姿が目に入る。無意識にとっさに朝野 未沙から顔を背けるものの、なにか怪しげなオーラを感じた。

「せっかくのお祭りだし、着てみない?」
「え、え、遠慮しておく………」



 Fチーム

 ・影野 陽太(かげの・ようた)……………………スナイパーライフル
 ・フリードリッヒ・常磐(ふりーどりっひ・ときわ)………髑髏
 ・相沢 美魅(あいざわ・みみ)……………………親から貰った本
 ・セフィリア・ランフォード(せふぃりあ・らんふぉーど)…親友のディノ・シルフォードと一緒に作曲した楽譜
 ・リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)…………ネットオークションで最低落札数万円相当のプレミアム同人誌


「まかせて! 絶対に勝つから!」
「その点は心配してないが、お前の一番の仕事はコレが傷つかないよう見張ることだ」

 七枷 陣(ななかせ・じん)はドスの聞いた低音でパートナーのリーズ・ディライドに再度忠告する。優勝を目指す蒼空学園の一員として貸し出すのに抵抗はないが、勝利をつかむことよりもそれを守りきるのがメインである……この競技についてのルールが発表されてから五回目の忠告である。
 厳重にエアパックに包まれた封筒の中に入れられた同人誌だが、その道の人間にはほんの少しの衝撃でも本には毒であるといわれているとかいないとか。このときリーズ・ディライドはあまり深く考えていなかった。


 Gチーム

 ・城定 英希(じょうじょう・えいき)…………コスプレ衣装
 ・椎名 真(しいな・まこと)……………携帯電話
 ・荒巻 さけ(あらまき・さけ)…………ぬいぐるみ
 ・水上 光(みなかみ・ひかる)……………思い出の帽子

 身に纏うコスプレ衣装を提示した城定 英希は周りから冷ややかな視線を受けても毅然として観客席に座っていた。
 ブルマ姿にネコミミを着用という、これまたマニア受けしそうな格好なのだが、残念ながら彼は正真正銘の男であると周りからも知られている。

「お祭りは楽しくしなきゃいけないにゃん」

 語尾に猫言葉がついたときには、彼の座席2つ分は空間が開いてしまった。

 愛らしいチアガール姿を早速披露しているのは、水上 光のパートナーモニカ・レントン(もにか・れんとん)だ。早速蒼空学園の生徒達を激励すべく、応援のダンスを披露しており、早速蒼空学園の士気を高めていた。

「蒼学ファイトですわ〜! ひっかるさんもファイトですわ〜!」


 ジャージの下にブルマをあわせる全時代的な着こなしをしていた荒巻 さけは、色違いを身に纏い、ビデオを構えて眼をらんらんと輝かせている信太の森 葛の葉(しのだのもり・くずのは)の背後にある大きな風呂敷包みを見て苦笑を漏らす。

「どないしたん? あ、もうお腹すいてきはりました?」
「違うわ。なんだか、気合を入れすぎたお母さんみたいね」

 荒巻 さけの言葉に、信太の森 葛の葉は耳まで真っ赤にしてうつむいてしまった。しばらくしてチラッと、上目遣いにパートナーを改めて見上げる。

「せやかて、さけの晴れの舞台どす。気合も入ります……優勝したら、たんとご馳走作りますよって。ちなみに、ぬいぐるみて、あのぬいぐるみ?」
「そうよ。御神楽環菜校長のぬいぐるみ」

 そういって取り出したのは、おでこが強調された愛らしい少女のぬいぐるみだ。信太の森 葛の葉が撫でると、「ナデナデシテー」とかわいらしい電子音声が流れた。

「壊れないように、この袋に入れておくわ。鞄の中に入れておけば、壊れないでしょ」
「さけは頭がええどすなぁ」





 Hチーム

 ・リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)………恩人が作曲した着メロ
 ・比賀 一(ひが・はじめ)………………………観客席にいる白いコートを羽織ったヒゲ守護天使の羽一枚
 ・十六夜 泡(いざよい・うたかた)……………………リィム フェスタス(りぃむ・ふぇすたす)
 ・ロミー・トラヴァーズ(ろみー・とらばーず)………親の形見のコート 仲間


 体操着に長ジャージを着た十六夜 泡の肩にちょこん、とのっかっている手のひらサイズの魔女、リィム フェスタスは、推奨服である体操着にブルマの姿で参加していた。

「自分のものじゃないのを書いている人もいるんですねぇ」
「でもその人にとって大事なものであることが大事なのかもしれないわね……私にとっては、リィムが半身だけど」

 その言葉を聞いて、小さな魔女はオッドアイを細めて微笑んだ。
 
「借り物競争、ねぇ……俺が知ってるのとはだいぶルールが違うが……」
「俺が知ってるのとも違うさ。ま、イベントごとは楽しいのが第一だからな」

 比賀 一はハーヴェイン・アウグスト(はーべいん・あうぐすと)と共にルールブックを眺めながらため息混じりにそう言い放つ。狙うは優勝の一点のみであるが、細かい得点取得法については書かれていないのだ。

「そのほうが楽しい、って所だろうな。若いうちは楽しんどけ」

 ヒゲ面の守護天使は、ニヤニヤしながら相方の肩を叩いて激励した。


 マシュ・ペトリファイア(ましゅ・ぺとりふぁいあ)はぶかぶかのジャージを引きずり、はしゃぎながら準備運動をするロミー・トラヴァーズの後ろで彼女の貸しモノである【親の形見のコート】を丁寧にたたんで抱えていた。ブルマをはいたその後姿は、ジャージが大きすぎる成果、下をはき忘れているのではないかという錯覚を引き起こす。

「楽しそうだねぇ」
「もちろんじゃ! まろはこの戦いのために、昨日もいっしょうけんめい準備運動をしてきたのじゃからなっ!」

 えっへん、とかわいらしく胸を張る姿をほほえましく見守っていると、配られたプリントに書かれている【大切なもの】の隅っこに小さく仲間、と書かれているのを見つける。マシュ・ペトロファイアは思わず、口元が緩んでしまった。

「なんじゃ? マシュ」
「ロミー殿、応援してるよ」
「むろんじゃっ!」