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リアクション
「はい、あーん」
朱 黎明(しゅ・れいめい)が差し出した料理にナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)がぱくっと食いつく。
イルミネーションのよく見えるレストランで、後ろでは黎明がクリスマスプレゼントに呼んだジャズ演奏家が音楽を奏でていて、雰囲気満点なのだが、2人はまるでピクニックにでも来た恋人かのように振舞っていた。
「食事のマナーより自分の欲求に素直なのが妾じゃっ」
大きすぎるほど大きい胸を張るナリュキを見て、黎明が微笑む。
「私も楽しんでくれるなら、それが一番ですよ」
「にゃー、小父様ありがとなのじゃ〜」
ニコニコとナリュキが微笑む。
黎明は本当に楽しんでくれるならと思っているらしく、桐生 ひな(きりゅう・ひな)が好みに合わない味付けに醤油をかけていても、まったく何も言わなかった。
「ありがとうございますーえへへ」
笑うひなを見て、黎明は笑みを返し、ひなに尋ねた。
「でも、良かったのですか? 年頃の女の子なのですから、気になる人とかがいたら……」
「いいえー、今日は緋音ちゃんが忙しいし、大丈夫ですよ」
黎明の心配に、ひなはそう答える。
食事が済んでデザートになると、ナリュキがプレゼントを取り出した。
「小父様にはこれじゃろうと思ったのじゃ!」
プレゼントの中身は冬用の皮手袋だった。
着けててもトリガーを引く手がぶれないよう、厚みの物を選んでくれていた。
レストランを出ると、ひなが2人に先駆けて帰ると言い出した。
「あ、ナリュキが物足りなさそうな顔をしてるので、今晩はお持ち帰りしちゃっても全然構わないですよっ。私は一足先に帰りますので、如何するのかは二人にお任せしますねー」
手を振り振りひなが去っていく。
「いいのですか?」
黎明が確認すると、ナリュキが頷いた。
「折角の聖夜じゃし、妾は帰りたくないにゃ」
「分かりました」
黎明は笑顔を向け、2人でしばらく、イルミネーションの輝く街を歩くことにした。
クリスマスの街は綺麗で、とても綺麗で……。
黎明の胸が痛くなった。
イルミネーションの向こうに、亡き妻の面影が見える気がする。
景色が歪んで見えかけたとき、ナリュキが黎明を呼んだ。
「小父様!」
黎明はハッとし、目の前にいたナリュキを思わず抱きしめた。
「……」
何か苦しそうな表情の黎明を見て、ナリュキは大胆に黎明の右手首を引き、自分の大きな左胸にその手を押し付けた。
「れ、黎明……妾の心音が聴こえるかぇ……?」
「ええ、聞こえますよ……」
ナリュキは、生きている。
心臓の音を聞いて、黎明はそんなことを思っていた。
「……黎明」
ナリュキがそっと黎明の頬にアリスキッスをする。
聖夜にどうかもっと明るい表情をして欲しいと願ったのかもしれない。