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白銀の雪祭り…アーデルハイト&ラズィーヤ編

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白銀の雪祭り…アーデルハイト&ラズィーヤ編

リアクション

  縲怩P5:00

 雪合戦当日、フィールドは朝からよく晴れた。
 開始は15:00から始まる、その前に主催者アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)とその客人ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)はフィールドの下見に訪れた。
「絶好の雪合戦日よりじゃのう」
「ええ、楽しみですわね」
 彼女らは、互いに4km離れた紅白の陣地を一目で見渡せる高台にいた。
 そこには黒子部隊・笑転ジャーが、彼女らのために観戦席を設けてくれているのだ。人がたくさん集まってもいいように、こたつや暖房設備などもぬかりない。
 フィールドの方向に開け、どの位置からも全体への傍観を邪魔しないつくりはさすがとしかいいようがない。
「先ほど何人か、フィールドの方へ向かうのを見ましたわ」
「罠でも仕掛けて、もっと楽しませてくれようというのじゃろうな、楽しみなことだのう」
 互いの陣地間は距離があり、小さな丘や小さな森が散らばるために、その戦端はどこにでも開かれうるのである。
 そこにさらにスパイスを加えようというのだろう。
 しかし、ここまで完璧に設備を整えてくれてはいるが、ショウテンジャーは非の打ち所のないほどアナログな集団だったのだ。
 観戦席の一角に積まれたモニターや中継機材を見て、ラズィーヤは目を丸くした。ショウテンジャーはこれらの機材を扱いかね、潔くこちらに投げてきたのだ。
「これらの機材を用意してくださったのは有り難いのですが、これを設置するとなると、一苦労ですわねえ…」

 桐生 円(きりゅう・まどか)は、前日からフィールドの森に隠しておいた竹とバケツを取り出した。
「さっさと作っちゃって、パーティーにいくのだよ」
 彼女は罠を仕掛けはするが、合戦に参加する気は毛頭なかった。雪で汚れるのも当てられるのも面倒くさいのだ。
 しかし何もしないのもつまらない、せいぜい紅白どっちでもいいから罠にひっかかってもらって、戦闘妨害やリタイアで混乱する様を想像して罠作成にはげむのだ。
「どこに作ろうかな」
 わくわくとあたりを眺める少女は、雪を前にはしゃいでいるようにも見えるが、その心中は恐ろしいトラップでいっぱいだ。
「この一帯に踏み込んだらどこもかしこも罠って、素敵かもね」
 そうと決めれば狙いを定めて魔法で穴をあけにかかる。
「サンダーブラストっ!」
 森全体に雷を落とし、器用に木々の間に穴を開けてゆく。雪を吹き飛ばし、その下の凍り付いた土をえぐって、まず落とし穴のくぼみを作ると、ロープをはって雪で埋めた。そのロープの端は竹に繋がり、またその端をたわませて雪を満たしたバケツを支えて釣り合っている。
 いざ何者かが足を踏み入れ、穴の上に足をかけるとロープが外れ、竹がバケツをひっくり返して犠牲者を埋葬にかかる外道なトラップである。
 雪の重み程度では発動しないように調整もし、作動も確認し、カモフラージュまで鼻歌交じりの上機嫌ですべての作業を終えた円は、やり遂げた自分をパーティーで称えるために、意気揚々と引き上げた。

 神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)もまた、喜々としてトラップを準備していた。
 カマクラをつくって、中においしそうな鍋を装備したり、熱湯風呂やその他諸々のトラップをいくつも作っていた。
 もちろんそのおいしそうな鍋は、どれがほんとうにおいしくて、どれが見た目だけのヤバい鍋かもわからない。
 熱湯風呂はどう見ても命をかける覚悟が必要であり、それにはまってリアクションを許されるものは古今東西ごくわずかしかいないという禁断の罠だ。
 しかも罠はそれだけではなく、まだ仕掛けは存在する。氷の滑り台など、気づかず足を踏み入れるとよいのです。
「これだけあれば、フィールドをひっかき回せるはずですわね」
 雪合戦自体は寒いからパスしても、罠作成で十分体が温まって、心地よい汗をかいているほどだ。充実感と火照った体に気持ちよい冷気が、エレンを高揚させていた。
「さて、次はじっくり観戦席で、高みの見物を致しましょう、うふふ」
 作り上げたトラップを確認して、足取りも軽く観戦席へと移動する。
 この先には、自分のトラップが戦況を左右する達成感と、おこたでぬくぬくするしあわせが彼女を待っているのだ。

 まもなく開始時間が近づき、観戦席には人が集まり始めていた。
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は、来場者へ暖かいものを提供する準備にかかりきりになっていた。
 本当は雪合戦参加者のために休憩所を作りたかったのだが、いかんせん紅白の本陣には距離があり、そういった意味ではどちらにもつく意志のない彼女は、平等な場所として観戦席のそばにブースを構えることにした。
 負傷者を救護しようという声も耳にしたので、そういう場所を作っておけば便利だろうという心もあって、人々の手も借りて準備は進んでいた。
 ホットドリンクの類を手際よく用意していると、高務 野々(たかつかさ・のの)が、メイベルたちに伝言を持ってきた。
「先ほどアーデルハイト様達にお話しをしてきました、補給所や避難所、そういったものは好きにやってよいとのことですから、皆さんで楽しめるように頑張りましょうね。
あと肉まんなども差し入れにいただいてしまいました、皆で分けましょうね、あつあつです」
「ありがとうございますぅ、先ほどフィリッパがお餅を作りましたので、お汁粉に入れる分をお持ちくださいねぇ」
「ありがとうございます、ありがたくいただきます」
 野々もメイベルも、出すメニューがかぶっていたので協力体制をとり、準備を進めていく。
 コンロや鍋などもそれぞれが持ってきていたので、規模はちょっとしたものだ。
「あんこできたよっ。次は何をすればいいかな?」
 セシリアが小豆を煮、ひたすら皮を取り除き、潰して漉してできた力作のこしあんが登場した。
「まあすごいですわ!これだけあれば全員の口にも入りますわね!」
 野々が目を見張ってセシリアに賞賛を投げる。
「セシリア、フィリッパのお餅を手伝ってあげてくださいねぇ」
 今度はフィリッパがつきあげた餅が湯気をたてて運ばれてくる。蒸籠には次のもち米もスタンバイされていて、どんどんメニューが充実していく予感をいや増している。
「お餅、いっぱいつきましたけれど、これだけあればきな粉餅や磯部焼もどうでしょう?」
「あんこ餅だってできますわね、」
「あら、赤だしの豚汁も素敵ですぅ、二種類とも置きましょうね、メニューが増えて楽しいですわぁ」
「私のところでは赤だしだったのですよ、そちらの味見させてくださいな」
 きゃあきゃあと賑やかに準備は進められ、いつの間にか有史の手で雪の家まで作られて、立派なショップのなりになってきた。救護スペースを作ることも忘れず、構
えはどんどん立派になっていく。
「あら、どなたかかわいい雪だるまを置いてくださいましたわぁ」
 だれかが雪だるまを置いてボードを持たせ、看板にしてしまって、彼女らの休憩所は雪合戦開始前から賑やかに繁盛していた。

 実は雪だるまはこれ一つだけではなかった。観客席を囲むように全部で8つ設置されていて、とある陣を形成していたのだ。
 諸葛涼 天華(しょかつりょう・てんか)が、どさくさに紛れてアーデルハイト達への襲撃があるだろうと警戒して敷いた陣である。
 石兵八陣ならぬ、雪兵八陣というように雪だるまでアレンジした彼女は、本家本元諸葛涼の末裔なのだった。
「まあ、このくらいでいいだろう。不埒な思いを抱いて近寄るものは本来の正しいルートを使わず、みすみす罠にはまることになるのだ…」
 正しいルート、つまりパーティー会場から道をつけてある最短ルートと、フィールドから一番近く見える休憩所のそばを通るルートから入れば安全というわけである。 トラッパーを駆使して作成されたその陣を無謀にも突破しようとすれば、恐ろしい幻覚を見ることになるだろう。
「ふふっ、すべては偉大なる先祖孔明の罠なのだ」
 雪を触ってかじかんだ手に息を吐きながら、策の出来とこれから潜り込むおこたの暖かさを想像して、年相応に微笑みながら天華は観客席に向かった。

「もうすぐ始まるねえ」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)は中継機器の設置を手伝いながら時計に目をやっていた。9時間という長丁場であるスケジュールなので、しっかり準備をしないと見物する方もくたびれてしまいそうだ。
「ていうか、こんなのすら設置できねーとは、なんつーアナログなんだよ」
 白銀 昶(しろがね・あきら)がぼやく。さっさと北都と二人でこたつでぬくぬくしたいのに、予想外の労働を強いられてふてくされ気味だ。
 説明書を読んで、てきぱきと配線や接続状況を確認していく。説明書読んで片づけられる程度の作業だが、笑転ジャーに対する謎は深まるばかりだ。

「実況の方にこちらのマイクセットを預けて、あとは時間を待てばいいんだね」
「イヤホン聞こえるかチェックしたか?」
 すべて抜かりなくチェックは終わった。持ってきた肉まんやホットドリンクを出して、ほかに手伝ってくれた人にも振る舞う。
「マイクテストマイクテスト、うむ、無事に準備が整ったようじゃのう」
「あーあー、本日は雪合戦日よりですわー」
「労働してちょっと甘いのが欲しいぜ、北都チョコまんくれよ」
「はい、昶熱いから気をつけて、アーデルハイト様もラズィーヤ様も、ホットミルクとコーヒーもありますよ」
「これはタシガンコーヒーですのね」
「胡麻餡まんか…胡麻は体によいものじゃ、それをもらえんか」
 時間もせまり、観戦者は思い思いのこたつを占拠して、下のショップで頂いてきた食料や飲料などを配り、みんなで協力して快適な空間を作り上げている。

 もちろん一番ベストな場所にあるこたつは、アーデルハイト達が占拠している。
「さて時間じゃ。見せてもらおうか、皆の奮闘をのう!」