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リアクション
17:00
もうこの時間には周囲が暗く落ち込み、視界が悪くなってきた。
もちろんフィールドはライトアップされたが、明るく照らされる場所と、闇を深める場所ができて、プレイヤーは注意深くならざるを得ない。
終夏はブランカとともに赤陣へ攻め入った。あのおちょくった雪玉の恨みを晴らすのだ。
ライトの隙間で身を潜め、雪玉を山盛りにしたカゴをいくつも下げ、ブランカはちょっとくたびれていた。身を隠せるスキルがないので、こうやって死角に入っていくしかないのだが、とかく大荷物なのだ。
「やれやれ、こういうときの終夏は体力切れても動けるんだよな…まああとでぶっ倒れるんだけど、せっかくだし思いっきりやらせてあげないとなー」
レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)とセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)は、雪玉をせっせと氷術で固めていた。
「セシー、これだけ作ればいいんじゃねえか? 敵が来たしそろそろ攻撃しようぜ」
「そうかも知れぬな、では行くぞえ! 一番バッターレイディス! 我が魔球受けてみよ!!」
「おーらおらおらおらぁ!」
ゴムを巻いて雪玉を壊さないように工夫したバットで、彼女の雪玉を打ち返す。いい手ごたえがして雪玉は綺麗な放物線を描いた。
「いい感じだけど、コントロールは難しいなあ、ってちょっと待ってくれよ! 次弾装填早い!」
そう言いつつレイディスはそのことごとくを打ち返す。
どこへ飛ぶか分からない雪玉は、終夏の箒を翻弄し、なかなか攻撃のタイミングをつかませなかった。
「次はもっと早く投げるぞえー! 打ち返せるものなら打ち返してみろ…じゃー!」
「やっぱそう来たか! もうこまけえこたぁ気にしねえ!」
さっきまで一応は上空の終夏をなんとか狙おうと頑張っていたが、もうそんなことは気にしていられなかった。チェインスマイトまで使って雪玉をガンガン打ち返す。
コントロールはもうめちゃくちゃだが、今度は雪玉の間隔が狭まり、量が増えて結局同じことだ。その合間を縫ってなんとか終夏も雪玉を投げるが、結局はもうレイディスに打ち返されてしまうことになる。
『おやおや、かわいいカップルが地獄の千本ノックです、って、私どももこれは危険です、狙わないでくださいー!』
実況のアメリアにまで雪玉の被害が及びかけ、彼女らはそこを早々に退散した。
「わーっ!」
とうとう雪玉が直撃し、終夏は箒から叩き落された。あわててブランカは助けにはいるが、もう既に彼女はくたびれきっていた。
「あ、はいはい俺達降参でーす」
もう終夏も気が済んだろう、あっさりとブランカは白旗をあげた。
「よーし、私は正々堂々と、赤組を勝利に導くよー! やっちゃうよー!」
霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は気炎を吐き、やる気に満ち溢れていた。
卑怯推奨狡猾礼賛だっていうけど、そんなもの関係なく、真っ直ぐにつっこんでやるのだ。倒れるときは、前のめりだ。
フィールドに駆け込んで、手当たり次第に敵を探しはじめる。
レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)と鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)は、日野 明(ひの・あきら)とルカルカ・ルー(るかるか・るー)に見送られてフィールドに足を踏み入れた。
真一郎は雪にまぎれるために白の防寒具を着込んでいるが、レーゼマンは普段の軍服だ、ひとり目立つことこの上ない。
明もルカルカもおそろいの白いスノーウェアでもこもこしているのでなおさらだ。
しかしレーゼマンには、ちょっとした思惑もあって普段の格好をしているのだ。
(あなたには、私が活躍するところを見て欲しいのだ)
かっこ悪いところは見せられない、卑怯なところも見せたくない、正々堂々、まっすぐとした明に対する思いの表れでもあった。
「それでは、行って参ります」
「行って来ますよ、待っててくださいね」
「いってらっしゃーい、勝ち星期待してるねっ」
「…あ、あの、レーゼマンさん、気をつけて行ってらっしゃい!」
ルカルカは、明が勇気を振り絞ってレーゼマンに激励を贈るのを、微笑ましく見つめていた。
真一郎は、そこで気の利いた返事を返すんだ! とレーゼマンに期待していた。
「…はい、気をつけて、行ってきますね」
なんの捻りもない返答だ、まったく彼らしいが、もうちょっとここでなんとかなれば、ヘタレがなんとかなるだろうに。
真一郎は恋人であるルカルカと目配せをして苦笑した。
しかしきっと一歩間違うと死亡フラグになりかねないので、彼らはこれでいいのかもしれない。
彼女達は観客席へ行き、用意していたきりたんぽ鍋をセットする。
おいしそうな鍋をぐつぐつする幸せはちょっと何者にも代え難く、周りの人にもふるまっていく。
「アーデルハイト様、ラズィーヤ様も、きりたんぽ鍋いかがですか?」
「熱いので気をつけて下さいねん。静香様は、こちらにはいらっしゃらないんですね…」
「そうですわね、あちらも楽しいようですの」
取り皿にお箸を添えて、いただきます。お箸で思い出したことを、ルカルカはつぶやいた。
「レーゼマンさん、実はお箸使えないのよねん」
「そ、そうなんですか?」
明はちょっと食いついてきた、引いたのではなくて、些細なことでも彼の一面を知れたという喜びである。
「あ、中継にレーゼマンさん達が!」
「が、がんばってくださいー!」
だがまだ彼らは進行中で、ただ歩いているところを映されているだけだ、フライング応援にちょっと頬を染める。
しかしすぐに雪原をのしのしと進む透乃と遭遇した。
「出ましたね白組! 私と正々堂々戦いなさい!」
彼らとて望む所である、なんとしても胸を張った勝利を明に捧げるのだ。
「本気になった私の力…見せてやろう!」
レーゼマンの眼鏡が差し込んだライトで光り、同時に雪球が投げつけられた。
『交戦が始まりました、雪景色の中、教導団軍服が鮮やかに目をひきますね!』
雪の吹き溜まりや谷部分に身を隠し、回り込んで雪玉を投げあう。
真一郎は彼を立てるべく、超感覚で敵の所在をとらえた。
「レーゼ! 4時の方向!」
「…見えたっ!」
レーゼマンが反応し、飛んできた雪玉を間一髪で避け、その方向にまた雪玉を叩き込む。
「うわっちゃっ!」
影から透乃が転がり出て、今度は真っ直ぐ突っ込んできた。
「雪玉ぼんばー!」
雪玉を抱えただけのただのタックルかと思いきや、懐の雪玉を眼前にばらまかれ、とっさに足元に向かってレーゼマンは雪玉を投げつけた。
「うわあっ!」
その時彼らはたまたま盛り上がった丘の上におり、彼女は足をとられてそのまま丘を転げ落ちて、ツルツルすべる氷地帯に飛び込み、はるか遠くに運ばれて行ってしまった。このトラップはエレンの作で、コントのような展開にアーデルハイトもラズィーヤも、エレンも大喜びだ。
『なんと、赤組の方はアイスバーンか何かでしょうか、遠くへ行ってしまいました!』
『……誰かのトラップか……運がないな……』
「悪く思うなよ…」
レーゼマン達はそこを立ち去った。この活躍は彼女に見てもらえただろうか。
一応ダウンを確認するためにアメリア達は透乃を追った。
『あれ? 赤組の彼女は、無事のようですね、とても元気そうです』
『…悪運が強い……というべきか……』
吹き溜まりに引っかかって埋まってしまった透乃だが、すぐに抜け出して雄叫びをあげる。
「くっそーやられたぁ! 今度こそっ!」
幸いにしてダウンが実況によって確認されず、有り余る闘志が伝わった彼女は続行を許された。今度こそ、と新たな敵を探してさまよい始める。
「レーゼマンさん! 大丈夫ですか!?」
観客席から飛び出してきた明たちが、レーゼマンの元に駆け寄ってくる。敵を倒した彼らが無事なのか、明は居てもたってもいられなかったのだ。
「ああっ、手がすごく冷たいです…!」
ただそれだけのことに、明はおろおろしてヒールをかけた。手で優しく包んで、レーゼマンは心まで温められる。
「やけちゃうなー」
「そうですねえ」
真一郎もルカルカも、横でにやにやと二人の世界を見守っている。
しかしやはりその場で気の利いたことは何一つ言えないレーゼマンに、もっとがんばってもらわねばと思うのだった。
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)と強盗 ヘル(ごうとう・へる)は、レーゼマンと鷹村が観客席から出てくる女性に迎えられているのを見守っていた。かいがいしく手当てを受け、望遠レンズを通しても分かるリア充の気配に、当初の目的を変更することに決めた。実は彼も、レーゼマンを応援しているはずなのだが。
「レーゼマンに花を持たせるつもりでしたが…やっぱり加減した敵を相手にするより、全力の敵と相対したほうが、彼もより彼女にアピールできるでしょう…!」
これは嫉妬ではない、きっとない、断じてない!
自分は試練、そう! レーゼマンが乗り越えるべき巨大な壁となる!
敵だ! お前は身も心も敵となるのだ!!
「白いマットのフィールドに、今日も嵐が吹き荒れる…戦場に女性連れの相手に、戦闘で負ける訳にはいきません!」
「…なんかすごく汚された気がするから、そのネタやめてくれよ」
ヘルは横目でザカコにあきれていた。孤児院の子供達元気かな、と逃避の混じった遠い目だ。
氷術で氷の玉をいくつもつくり、丘の上に待機して、レーゼマンを待ち受ける。
特に大きな玉にはヘルが収まって、転がる勢いを操って彼らを襲う手立てだ。
「来たぞ!」
ヘルの氷玉を皮切りに、有効射程に入った彼らを、ザカコは容赦なく襲った。
「彼女にいい所を見せたいなら! 我々ごとき撃破してみせてください!」
『おおっ、先ほどの白組の方が、容赦ない氷玉の攻撃にさらされています!』
実況が追いつき、状況をわめきたてる。観客席の一部では、悲鳴のような緊迫感が走っていた。
ザカコのナビでレーゼマンを執拗につけねらうヘルの影で、ザカコ本人もそれらの影にまぎれて接近してきていた。
「教導団の力、見せてもらいます!」
超感覚でザカコを捕らえた真一郎はザカコに雪玉を投げつけた。殺気看破でそれを察知したザカコはカタールをクロスさせて防ぐ。
バーストダッシュでザカコに追いつき、雪玉を食らわせようとしたところへ、カウンターが入る形で氷玉に吹っ飛ばされた。
「おや、ラッキーですほんと…でもあなたはラッキーなんかでは仕留めませんよ!」
『おおっと、一人が氷玉に吹き飛ばされました、気絶してしまったようです!』
「真一郎!」
とっさに駆け寄ろうとしたレーゼマンに、させじとカタールが投げられる。
足元にたたきつけられたカタールには爆炎波が纏わせてあり、雪が一瞬にして水蒸気と化した。
勢いに吹き上がる雪にまみれ、爆炎波の余波で溶けて水になる。レーゼマンは視界をふさがれ、ずぶぬれになったところに、さらに奈落の鉄鎖で足止めされた。
「くうっ」
しかし彼の記憶はそこまでだった。
ちょっと間違った方向に力が入ったザカコの雷術で意識を吹き飛ばされて、彼も敗者へと名を連ねることになったのだ。
『なんというコンボでしょうか、もはや雪合戦の域を超えた戦闘行為、私感動を抑えられません!』
『……もはや雪合戦とはいえん……が、その卑怯な手を躊躇わず使うその精神に賞賛を贈ろう……いっそ清清しいからな……』
「戦いというものは、いつもむなしいものですね…」
そう言ってザカコは勝者の栄光の道をたどり、パーティーへと赴いた。
半分泣きながらレーゼマンに駆け寄る明を追って、ルカルカは現場へと走った。真一郎さんも心配だが、泣いている彼女をほうっては置けない。
そこに先ほどのリベンジに燃える透乃が現れた。明を狙って雪玉を構える彼女へ、ルカルカの容赦のない断罪が下った。
「危ない!」
ドラゴンアーツの強力な拳で首筋を一撃する。
完全にノックダウンした透乃を見下ろし、彼女は恐ろしい笑顔で吐き捨てた。
「恋する乙女の邪魔をしようなんて、100万年早いのよ」
しかしこんな姿は、真一郎には見せられない。
「お待たせしました、救護班です、この方の彼女さんですかぁ?」
「あらあら、果報者ですわねえ」
唯乃とエラノールは、寄り添う二人を微笑ましく見つめた。
「すみません、彼氏さんを救護室へ案内しますので、そちらにお越しくださいね」
「私達が責任を持って送り届けますから。一応赤白のカウントもしなければいけませんの」
「は、はい…」
シィリアンは透乃を見て、首もとのあざに顔を引きつらせていた。
「す、すごいよ…これやったの誰? ムチウチになってないといいんだけど」
「あははー」
ルカルカは、ちょっと渇いた笑いを漏らした。
それにしても、彼らがちゃんとそうなると、いいんですけれどね。
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