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リアクション
15:00
「さて本日、朝からピーカン晴れにて絶好の雪合戦日よりとなりました。私、今回この戦いの実況を勤めさせていただきます、アメリア・レーヴァンテイン(あめりあ・れーう゛ぁんていん)ともうします! どうぞよろしく!」
アメリアが実況魂全開でマイクを握っていた。
「なお今回、私共が紅白雪合戦の開始の開始の合図を任されました。それでは、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)がまもなく、開始の合図をとらせていただきます」
「……やれやれ……仕方ない……今回は付き合ってやる……」
紅白の陣の中間地点に特大の陣太鼓が置かれていた。二人はそこに立っていたのだ。クルードが特大のばちを構え、全力をもってそれを振るう。
「……むぅん!!」
太鼓は相応の答えを返した。音というよりも腰が抜けるほどの衝撃が走り、さしものクルードもおののきに頬をゆがめたほどだった。
そうして、フィールド全体に開始の合図が響きわたった。
「…さて、我ら…【雪中行軍放火隊】は…いくぞ!」
鬼崎 朔(きざき・さく)、ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)は行動を起こした。
目的は敵の段幕源となる雪山を無力化することである。目的こそ外道だが、行動はきちんと規定の時間に従う仁義を守っている。
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)とミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)も同じ目的を持った同士である。役割を分担し、朔達は進路の安全を確保することが主な目的である。
のしのしと罠を警戒しながら行軍する朔の前に、早速怪しい物体が現れた。
「…これは…かまくらか…? カリン…気をつけろ…」
しかも中に暖かな鍋が設置されている。怪しい。
トラッパーのスキルから鑑みると、さらに怪しい。
「でも、朔っち、おいしそうだよこれ…」
とはいえカリンも、この鍋がトラップなのはわかっている。ただおいしそうで、トラップとして処理するのがちょっともったいないだけだ。
「ま、しょうがないよね、スカ吉いくよっ!」
「はいお姉さま! 了解であります!」
スカサハが大喜びで命令を遂行した。大喜びでグレートソードを振り回し、トラップを無効化していく。
少し進んだ先にもまた同じようなかまくらを見つけ、また処理をしたが、この先これらがいくつあるか知れたものではない。朔は携帯を取り出した。
「…マルトリッツ、聞こえるか? …かまくらを見かけても…近づくな、…そうトラップだ…」
『おおっ、この方々は紅組でしょうか。なぜかかまくらを破壊しております、もしかしてトラップなのでしょうか!?』
かまくら破壊の様子を、アメリアが中継していた。
クルードの箒に二人乗りして、上空からの視点でカメラをがっちり構えている。
『……食のトラップ……というわけか……』
壊れたかまくらから転がり出た鍋を見て、クルードがつぶやく。
観客席では、それを仕掛けたエレンが悔しがっていた。
「あーん、引っかかってくれませんわぁ! でも、仕掛けはまだあります!」
「ほう、それは楽しみじゃのう」
にやにやとアーデルハイトがコメントを入れた。
エヴァルトとミュリエルは着々と進行を進めていた、カマクラを避け、森の中の落とし穴は寸前で回避した。抜かりなく自軍に通達し、確実に敵陣への距離をつめて
いく。
白いシーツをかぶって雪色に擬態し、大量の油を運搬している。これで敵の雪山を崩し、様々に行動を制限してやるのだ。
「にしても、雪で埋められるトラップとは、まったくシャレにならんな!」
「助けてもらってありがとうございます」
「何、気にするな! パートナーだからこれくらい当たり前だ」
エヴァルトに恋心を抱いているミュリエルは、彼に助けられたという思いで胸を弾ませていた。足を滑らせて穴にはまりかけた彼女を、彼はそのたくましい腕で、まるで姫を助ける王子様のようにすくい上げてくれたのだ。
ぽわぽわと胸中を暖める思い出だけで、彼女は雪が溶かせそうだった。
「大丈夫か? 風邪をひいていないか、顔が赤いぞ?」
「だだ、大丈夫ですうっ!」
ちなみに彼は、実際には首根っこをひっつかんで引きずりあげただけなのである。
北條 柘榴(ほうじょう・ざくろ)はじっと中継モニターを見つめていた。雪合戦という戦いのダイナミックな予感に心を弾ませているのだ。
和原 樹(なぎはら・いつき)とフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が隣に座り、二言三言言葉を交わしながら画面に見入っている。
「そういえば、あっちのパーティーとこっちの雪合戦が勝負してるって聞いたんだけどさ、勝敗の基準はなんだろうね?」
「ええっ、そうなのですか? 僕それは初耳です」
「…もしかしたら、ババ様の行き当たりばったりだったのかもしれんな」
「あっはっは、ありえるな。あの人のことだから、そこのところに『まさか』っていう気はしない」
樹は下でもらってきた豚汁をすすって思い出した。自分はこの後の目的のために今七厘を持っていて、おにぎりまであるのだった。
「焼きおにぎりにして、するめでも焼こうかな」
「香ばしい良いにおいですね、お腹がすいちゃう」
「まだありますからどうぞ」
柘榴だけでなく他にも分けてしまって荷物が軽くなる。どうせむこうではパーティー料理も出るのだ。
「んじゃあそろそろ、俺らはパーティーのほうへ向かうとしよう。あの湖でワカサギ釣りがしたいんだ」
「行ってらっしゃい、いっぱい釣れるといいですね」
柘榴に見送られて、樹とフォルクスはパーティー会場へと向かった。
曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)は実は雪合戦の参加者ではなかった。
たまたま雪見をしながら散歩している時、あのとんでもない太鼓の開始の合図を聞きつけて来てみれば、雪合戦の最中だったのだ。
彼がたどり着いたのは白組の陣で、何人かが忙しく雪玉を作ったり、敵陣を伺って何事か会議をしている最中だった。それのどこをどう見たものか。
「楽しそうだね、オレも混ぜてー」
見慣れない人物など、敵と認識されてもおかしくないだろうに、彼はそのあまりのナチュラルさに、ごく普通に雪玉制作の仲間に入っていた。
相棒のマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)は、あまりののんびりさに頭をかかえていた。
「りゅーき、私たち敵と思われたらどーするんですか」
もーしょうがないですね、とマティエは彼の護衛をすることにした。落とし穴でも掘ろうかな。
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