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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第2回/全3回)

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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第2回/全3回)

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第三章 夜明けが近づいて

 外はまだ暗い。しかしそれでも確実に時間は過ぎていて、朝が近づいているのだ。
 外は、…… まだまだ暗い、それなのに。
「あれ? もしかして…… 朝までに終わらない?」
 木槌を手に、修復中の穴を見つめてレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)は苦笑いを浮かべた。壁に空いた穴には、下部の一部だけにイルミンスールの木材が当てられていたが、それは直径5メートルにもなる穴の、ほんの1割程度しか塞いでいなかった。
「もしかして私たち…… 一番時間がかかるんじゃ……」
「あなたが派手に壊したからでしょう! さぁ、手を動かして! 朝までに終わらせるんだから」
 パートナーで英霊の明智 ミツ子(あけち・みつこ)がレベッカに木材を手渡した。レベッカは口を歪めながら木材を穴へとあてた。
 大講義室の一番奥の壁。パッフェルの襲撃時、レベッカはスパイクバイクに乗り、壁を破って登場した。その時に空いた、いや、空けた穴を3人で修復していた。
「ねぇ、やっぱり朝までに直す事ないと思うネ、明日は授業しないと思うヨ」
「そんな事は分からないでしょう? 夜明けには人質と女王器の交換があります、全てが上手くいけば、授業をするかもしれません」
「でも、もう直ぐ夜明けだヨ」
「だから急ぐのでしょう、はい、手を動かして」
「…… 上手くいく………… そうしたら、アリシアも助かるネ!」
「そうね。あっ、アリシア? 大丈夫?」
 パッフェルの襲撃時、剣の花嫁であるアリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)は左肩を水晶化されてしまった。その範囲は拡大し、今は上半身の殆どが水晶化してしまっており、右腕だけが辛うじて動かせるといった状態であった。それでも辛そうな顔を一度も見せずに、自身のヒールで体力を、驚きの歌でSPを回復させてレベッカたちを手伝っていた。
「皆さん頑張っていられます。水晶化したからと言って、わたくしだけが休んでも良いという理由にはなりませんわ」
「レベッカ、見習いなさい。ぜひ見習いなさい」
「わかったヨ、嫌なんじゃないヨ、ただ塞ぐには穴が大きすぎると言ってるヨ」
 だからあなたが壊したのでしょう、とミツ子が詰め寄ったとき、隣の研究室に生徒たちが次々に入っていくのが見えた。教諭の研究室と大講義室の間には壁があるが、その壁にも大きな穴が空いている。その穴はパッフェルが空けたものだったが、その穴を通して中の様子を見ることができた。
 バイオ容器と資料を交互に見つめては操作しているノーム教諭に、背から葉月 ショウ(はづき・しょう)は声をかけた。
「教諭、時間です」
 返事をする事なく、教諭は水晶化したユイードの腕に薬品を塗った。腕に変化は………… 見られなかった。
「話し合いと、有志を募った結果、このメンバーで女王器を運ぶ事になりました」
 如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は、ショウの背中越しに教諭を覗き込んだ。
「あの… 私たちの準備は… もう… できてるですぅ」
「教諭、ご同行をお願いします」
 背を見せたままで反応を見せない教諭に、姫宮 和希(ひめみや・かずき)が声を荒げた。
「そろそろ出発しないと、夜明けになっちまうんだって!」
 ダンッ!!
 教諭は机を叩いて立ち上がると、口を開く事をせずに、早足で研究室の奥へと姿を消した。
 戻ってきた教諭は手に女王器「青龍鱗」を抱えていたのだが、教諭はそれをショウへと手渡した。
「えっ、教諭?」
「女王器の運搬、それから人質交換は「特選隊」が指揮をとりたまえ」
 教諭の視線を受けた樹月 刀真(きづき・とうま)が教諭に問いた。
「教諭は、どうされるおつもりですか」
「私は残る。水晶化の謎を解くためにね」
「しかし、それでは取引が」
「彼女は私を指名していない。戦闘になれば私は邪魔なだけだしねぇ」
「そんな! 俺たちだけでパッフェルと取引するなんて、どう考えても無茶です」
 ダンッ!!
 顔を歪めて唇を噛み切りながら、教諭は再びに机を叩きつけた。今度は机の側面部を、何度も何度も叩きつけた。
「水晶化された生徒たちとアリシアの命。女王器を渡した所で助けられるのはどちらかだ。どちらも助けるには…… そのためにも水晶化の解除法は、必ず見つけてみせる」
 教諭は皆を前にして頭を下げた。
「アリシアを、頼む」
 俯いた教諭の足元に、血の雫が零れて落ちた。


「彼女を護衛する為に来たのです」
「あんたたちも姫さんに惚れたクチか?」
「姫さん?」
 トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)に案内されてパッフェルの前に通された3人は、チーム「交渉人」を名乗っていた。巨樹を背に立つパッフェルに、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が問いかけた。
「あなたは、女王候補になる気はないのですか?」
「あんたにその気があるなら、イルミンスールはあんたの支援をする。もちろん女王候補としてな」
 パッフェルについた者たちは一様に驚きの表情を見せたが、パッフェルだけは眉も動かさなかった。
 ウィルネストは、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)に論じた案をパッフェルに説明した。もちろんこの案を、エリザベートが退けた事はウィルネストもクロセルから聞いていたが、パッフェル本人がどう答えるのか、そこに期待していた。
「…… 興味ない」
「興味がない? 本当は女王候補になれない理由でもあるんじゃないの?」
「…… 女王には、ティセラがなる」
ティセラ? 彼女もあなたと同じ、十二星華の一人ですよね、それなのに彼女に協力する理由は何なの?」
「…………」
「おぃおぃ、だんまりかよ。じゃあ、イルミンスールがティセラを担ぐってのはどうよ」
「…… それはティセラが決める。…… 私は…… 知らない」
「それならなぜ、あなたは「剣の花嫁」たちを水晶化させているの?」
「弟子にしてください!!!」
!!!!!!!!!!
 光学迷彩軽身功を駆使したのだろうか。桐生 円(きりゅう・まどか)はパッフェルの前に突然に現れると、パッフェルに手を差し伸べていた。
 うぅぅぅぅぅぅぅぅー、という呻き声が聞こえた後に、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が風のように一行の前を過ぎていった。
「私に服を選ばせてぇー!」
「待って、今はボクが握手してもらう所なんだから」
「服作ってもいいですかぁ〜? 黒も似合いそうだから黒基調でぇ〜」
「ボクは師匠と呼ばせてもらいます、眼帯つけろって言われたら眼帯つけますんで」
「あっ、ずるいわよん♪ 後から来たくせにぃ、パッフェルちゃんの可愛さは、あたしの物なんだからん♪」
 円とオリヴィアの2人に、そしてこちらも気付かぬ間に現れたヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)も加わり、キャアキャアキュンキュン言って始めた。パッフェルは初瞬には圧されたものの、すぐに3人を置いてゆくように巨樹の影へと歩みを始めた。
 そんなパッフェルを追う3人を見て、一行は呆気に取られて見ていたが、パッフェルの前に急に現れて見せた円とヴェルチェの身のこなしに驚かされたのも事実であった。3人はどうやら味方につくようだが、今後、パッフェルを狙う者があれだけの動きをしてくる可能性だって十分にある。
 一行は各々に緊張感を得ると、自然と背筋が伸びるのを感じたのだった。


 イルミンスールの森の中。巨樹に比較的近づいた地点に陣を張っていたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)デーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)の3人は、陣を横切り駆け抜けようとしたウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の一行を呼び止めた。
「どこへ行くつもりだ」
「どこへ? この先に居る者を、私は一人しか知らないのですが」
 エヴァルトの問いに答えたウィングの口調は静かなものであったが、魔力が視覚化して溢れているような怒りを纏っているのをエヴァルトは感じた。
「我々はイルミンスールと十二星華との取引が公正に行われる事を望んでいる。そのような目をした者を通すわけにはいかない」
「退け」
 ウィングは妖刀村雨丸を鞘から抜きながらに歩み始めた。村雨丸が空を斬る度に霧がウィングの姿を隠していった。
「待て! 女王器は例え奪われたとしても取り返すチャンスはあるが、水晶化はここで話を拗らせたら取り返しがつかなくなる! だから今は要求どおり人質交換をするべきなんだ」
 エヴァルトは咄嗟にバスタードソードでウィングの一撃を受けたが、その重さに圧され弾かれた。
「ぐっ、ロートラウト!」
「まかせてっ!」
 機晶姫であるロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が突進を仕掛けたが、ロートラウトの戦闘用羽子板がウィングに届くよりも前に、ウィングのパートナーである夕凪 あざみ(ゆうなぎ・あざみ)がロートラウトを蹴り飛ばしていた。
「ウィング様、ここは私が」
「あぁ、任せたぞ」
「はい」
 あざみは霧の中に煙幕ファンデーションを放って視界を余計に遮ると、ウィングの身代わりにするべくお人形を霧の中に放った。
「デーゲンハルトっ」
「ダメだ、見失った」
「くっ、こっちも変わり身だ、くそっ」
 霧と煙幕が晴れたとき、ウィングと美羽の一行の姿は無かった。エヴァルトは携帯を取り出しながら「毒苺のなる巨樹」を目指して駆け出した。