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【十二の星の華】シャンバラを守護する者

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【十二の星の華】シャンバラを守護する者
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第1章


 薬屋のおやじがホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)の部屋に飛び込んでくる少し前。
 ジャタの森では異変に気がついた者が数名いた。

「早くその猫華特製ジャタ松茸入り茶わん蒸しパンをよこすのです」
 ジャタの森の中にあるパン屋『猫華』から出てきたばかりの雨宮 七日(あめみや・なのか)が隣でパンの入った紙袋を抱えている日比谷 皐月(ひびや・さつき)に手を突き出した。
「はいはい……」
 皐月はその手に今買ったばかりのパンを乗せる。
「……くさいです」
「えっ!? オレぇっ!?」
 美味しそうなパンを直ぐに頬張ろうとした七日の手が止まった。
 と、同時に口から出た言葉に慌てて自分の服の臭いを確かめる皐月。
「そうではなく、あの煙じゃないですか?」
 皐月でも七日でもない指が木々の上から伸びている煙を指して言った。
「なんだってあんな煙が……って、うおっ! びっくりしたぁ!!」
 皐月の隣にいつの間にかいたのは、たまたま近くを通りかかった九条 風天(くじょう・ふうてん)だ。
「ああ、すみません。驚かせるつもりはなかったのですが……」
「それより、あの煙……気になりますね」
 七日の言葉に風天と皐月は煙を睨んだ。

「なんですかねぇ、あの黒い煙は……」
 そう言うと朱 黎明(しゅ・れいめい)はスパイクバイクを止め、煙を見つめる。
 ツーリング中だったようだ。
 良く見る為にゴーグルを外していると、近くの草むらから出てきた2人がいた。
「も、もくもく煙ーっ!」
「本当ですね……」
 こちらはクエスト帰りのアレクサンダー・ブレイロック(あれくさんだー・ぶれいろっく)赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)だ。
「あの煙の量からしてだいぶ大きな火事っぽいですね」
 黎明が呟くと、側にいた2人も頷いた。

「やっぱり森は落ち着くじゃた」
 森の中とトナカイに乗って久しぶりに訪れていたのは羽高 魅世瑠(はだか・みせる)だ。
 ゆったりと羽織ったポンチョが風に軽く揺れる。
 その下は……ぎりぎり見えない。
「まったくじゃた……」
 その隣でまったりしているフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)が同意した。
 魅世瑠と同じ格好をしている。
「魅世瑠ー、『じゃた』って言わナイとダメ、じゃた?」
 いつもとは違う口調で話している2人にラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)が疑問を投げかける。
「別に言わなくても良いじゃた」
「じゃあ、いつモの喋り方に戻すネ」
 口調を戻せるのに素直に喜んでいる。
 だいぶ窮屈に感じていたようだ。
「まぁ! 大変ですわじゃたっ! ……あら、口調がうつって……って、そんなことはどうでも良いですわじゃたっ!!」
 語尾が治らなくなってしまっているアルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)が指を指した方向からは黒煙が上がっており、木々の上からは少しだけ赤い揺らめきが見えた。
 4人はまったり散歩を早々に切り上げ、慌ててトナカイで駆けて行った。

「森の空気は何故こうも爽やかなのでしょうね」
 伸びをして、空気をゆっくりと吸い込むルイ・フリード(るい・ふりーど)
 磨き抜かれたスキンヘッドが陽光に反射して眩しい。
「って、どこに行く!? そっちじゃなくて、目的地への道はこっち」
 あらぬ方向へと歩き出したルイをリア・リム(りあ・りむ)が慌てて止めた。
「おや、そうでしたか。有難うございます、お礼のルイ! スマイル! を――」
「いや、暑苦しいからいらない……」
 輝くツルツル頭と笑顔を見て、やれやれといった風に頭を振る。
「はぁ〜……メンドクせぇ……。昼寝してたのによぉ……」
 そんな2人の側を同じく(無理矢理)散歩させられていた鬼崎 洋兵(きざき・ようへい)達が通りかかった。
 くわえていた煙草の煙を吐き出すと、ひと際大きな溜息をついた。
「そんなこと言わないで、ほらぁ暖かい日差しは良いでしょ?」
 今にも帰ってしまいそうな洋兵をユーディット・ベルヴィル(ゆーでぃっと・べるう゛ぃる)が腕を組んで引きずっている。
「やあ、爽やかなお散歩日和ですね」
「……いや、なんだか焦げくさい」
 ルイに挨拶された洋兵はそう告げた。
 その言葉に周りを見渡すと確かによく燃えていそうな煙を発見した。
「ちっ……しゃあねぇ、行くか」
「ちょっと火事! せっかくのデートの邪魔するなんて……空気読みなさいよっ! ああ、でもなんだかんだ言って動いてる洋兵さん、素敵」
 洋兵とユーディットに続いて、ルイとリアも火事の起きている方向へと向かって行ったのだった。


「あっ! 良かった繋がった! 急でごめんね! 実は――」
 ホイップは、かいつまんでエル・ウィンド(える・うぃんど)へと内容を説明すると、すぐに来てくれるという。
「ホイップちゃんの力になれるならどこへだって行くよっ!」
 エルはそう叫ぶと携帯を切り、ジャタの森へと向かおうとしたが周りにいた人達に取り囲まれた。
 そうここは教室の中で、授業が終わったばかりなのだ。
「で、いつも騒がしいホイップ君からなんの連絡だったんだね?」
 儀式魔術学科の講師アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が素早くエルに質問した。
「何か大変な事態になっているのなら私達も向かうわ」
 アルツールの授業の助手をしていたエヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)も声を掛ける。
「私達も何かお手伝い出来る事があれば行かせて下さい」
「うむ、ホイップとは一度面識があるしな」
 一緒に授業を受けていたジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)ガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)も申し出てきた。
「うん、ホイップちゃんからの連絡でジャタの森にある村が火事に――」
「火事!?」
 耳に入ってきた言葉を聞くなり狭山 珠樹(さやま・たまき)はエルの肩をつかみガックンガックンと揺さぶった。
「いつ!? どこでですの!?」
「ちょっ……まっ……話しが……でき……ない」
「す、すみません」
 我に返った珠樹はパッと手を放し、エルが口を開くのを待った。
「はぁ……びっくりした。場所はジャタの森にある村。今まさにその火事が起きているところみたいだよ」
 事情を聞くとそれぞれ準備をしてから向かおうと一度解散となった。


「ホイムゥーーーっ! 来たよーーーっ! 乗ってーー」
「ありがとう!」
 空京では電話をもらった小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が小型飛空艇でホイップの元へと到着したところだ。
「グランさんは私の後ろへどうぞ」
「助かります!」
 一緒に来たベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が自分の小型飛空艇の後ろを指した。
 薬屋のおやじ以外は乗り物がなかったのだ。
 2人がそれぞれ準備が出来るとおやじは自分のバイクにまたがった。
「それじゃあ、出発――」
「あ、あの……どうかしたの?」
 ただごとではない様子の一同にお使いの途中だった琳 鳳明(りん・ほうめい)がおずおずと話しかけてきた。
 その制服から教導団の生徒だとすぐにわかったので、ホイップは急いで今起こっている火事の事を話した。
「私も行くよっ!」
「良いの!?」
「うん、困った時はお互い様だよねっ」
「ありがとう!」
 こうして軍用バイクにまたがった鳳明も加え、メンバーは村へと急行したのだった。


 ちなみに、こちらはルカルカ・ルー(るかるか・るー)の自室。
「ホイップちゃん! 今行くよーーーっ!」
 事情を聞いたルカルカは窓から魔法の箒ですっ飛んで行ってしまった。
 あまりに慌てて飛び出した為、パートナー達にちゃんと連絡をしていないのだった。
 まあ、最終兵器と呼ばれている彼女の事なので心配することはあまりないかもしれないが。