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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第2回/全3回)

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第2回/全3回)

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いざ遺跡へ!


 迅たちの出発から遡ること数時間。
「まさか襲撃事件の犯人が不良グループだったとはな……! だがその『ただの不良』という認識がクイーン・ヴァンガードを油断させ、今回の事件につながっているのかも知れん! なるほど、辻褄が合う!」
 朝っぱらから相変わらずのトンデモ理論を展開する神代 正義(かみしろ・まさよし)は、ツァンダの町を歩いている。やがて正義はコンビニ前にたむろする不良グループを見つけると、先日手に入れた『鬼魔狗野獣会総長』と書かれた布きれを見せて彼らに声をかけた。
「そこの不良少年たち! このグループに心当たりはないか!」
「ああ、なんだテメェ?」
「失せろ、ぶっ飛ばすぞ!」
 少年たちに取り合おうとするそぶりはない。そこで、正義のパートナーフィルテシア・フレズベルク(ふぃるてしあ・ふれずべるく)が代わりに歩み出た。
「お願い……おね〜さんの力になってくれないかなぁ……」
「はい、お姉様! 喜んで!」
「ちょっと拝見します!」
 フィルテシアがもつ天然お姉さん属性特有の色気で、少年たちは簡単に落ちる。男なんて単純なものだ。
「お、おいこれって……」
「ああ」
 が、布きれに書かれた文字を見た途端、へらへらしていた少年たちの空気ががらりと変わった。
「お姉さん、このグループは――」
「待て」
 一人の少年がフィルテシアに何か言おうとしたのを遮って、奥からリーダー格の男が出てくる。
「俺が説明する。こいつぁ有名な不良グループの名前だ。とんでもねえ悪たちだぜ」
「やはり……! こいつらが集まっている場所なんかを知らないか!」
「知ってるさ。やつらは洞窟みてえな場所をたまり場にしててね。場所を教えてやろう。ここから行くんなら――」
 男は地図を書いて正義に渡してやる。
「おお、ありがとう! フィル、すぐに向かうぞ。さらばだ親切な不良少年たちよ!」 
「がんばろぉ〜ふぁいお〜♪」
 正義たちは軍用バイクに乗り、猛スピードで去っていく。
 その後ろ姿を見つめながら、少年が言った。
「あの、デタラメな場所教えてましたけど……」
「今日国頭の野郎があそこに一人で行くって噂を聞いたんでな。さっきのわけわかんねーやつがそこに突っ込んだら、おもしれえことになりそうじゃねえか」

 一方、蒼空学園の正門前。こちらでは、これから遺跡へ向かう生徒たちが集合してリフルを待っている。
 誰よりも早く正門へとやってきた隆は、昨日ゲイルスリッター襲撃の現場に居合わせた生徒にリフルの疑いがほぼ晴れたこと口止めし、その代わり今日限りで監視をやめることを約束していた。
「来た!」
 木の上に登っていたシャミア・ラビアータ(しゃみあ・らびあーた)は、いち早くリフルの姿を発見する。
「再びの参上! シャミアだぜー!」
 シャミアは大声で叫びつつ木から飛び降り、リフルに挨拶する。
「おはようリフル。私も遺跡に連れてって!」
「……」
 無表情でシャミアの顔を見つめるリフル。
「え、なに? 木から飛び降りるとかまじありえない。てかこの人、この前初対面でいきなり逆立ちしながら挨拶してきた人じゃん。危なくね? 耕されるんじゃね? お近づきになりたくないんですけど」
 彼女の心境をギャル風に代弁するとこんな感じだろうか。
 ここでシャミアは持参したお菓子を取り出す。今回はリサーチに基づいてリフルの好きそうなものを用意した。バレンタインを意識してチョコレートもふんだんに使ってある。
「お近づきの印といってはなんだけど、一足早いバレンタインのプレゼントは如何?」
「……遺跡ツアーへようこそ」
 リフルはありがたくプレゼントを頂戴した。
 このタイミングを見計らって、五条 武(ごじょう・たける)も『妖精スイーツ』を手にリフルへと近寄る。
「やあ、俺も遺跡に連れて行ってくれないか? 自分も古代シャンバラについて知りたいんだ。まッ、仲良くしようぜ?(妖精スイーツをチラ見せ)」
「構わないわ……」
「リフルー。クールな顔してるけど、よだれ垂れてるよ(ウ・ソ♪)」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)が悪戯に笑いながらリフルの顔を指さす。
「……!」
 リフルは瞬時に顔を隠した。
「あは、赤くなってる。リフルったらかわいいんだー」
「もう沙幸さん、あまり人をからかうものではありませんわよ(ナイスですわ!)

 沙幸のパートナー藍玉 美海(あいだま・みうみ)は、心の中でガッツポーズをした。
 さてメンバーもそろったとことだし早速出発、といきたいところだったが、ここで問題が発生する。監視役として来ていた隆にイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)が文句をつけたのだ。
「貴様のように無能な輩の下劣な邪推、非常に不愉快だ。遺跡調査に同行するというのなら、この俺を納得させる証拠をもって出直して来い。リフルが襲撃犯だという証拠をな」
「……またか。貴様のようなやつにはもう飽きた」
 隆はつまらなそうに吐き捨てる。
「なんだと?」
 険悪なムードに周囲がざわつき始める。甲斐 英虎はすぐに二人の間へと割って入った。
「まあまあまあ、そうカリカリしないでさー。ほら、リニカちゃんが怖がっちゃってるじゃない」
「こ、怖がってなどいない!」
 隆の後ろでリニカが必死に反論する。
 そこに、騒ぎを聞きつけて教師であるアーキス・ツヴァインゼファー(あーきす・つゔぁいんぜふぁー)がやってきた。アーキスは言う。
「騒がしいぞお前たち。一体何事だ」
「いやー、それがですね――」
 英虎がアーキスに一部始終を説明する。
「なるほどな。よし、そういうことならオレが引率の教師兼監視役として遺跡調査に同行しよう。他の監視者は同行を認めん」
 アーキスは昨晩リフルにアリバイができたという事実をまだ知らない。彼ももリフルが怪しいことは間違いないと思っており、監視役も必要だと感じていた。
 しかし、監視役を生徒に任せると、今まさに目の前で繰り広げられているような仲違いが起きかねない。生徒同士は仲良くあるべきだ。それなら自分がその役目を引き受けよう。自分なら嫌われても構わない。
 アーキスは教師としての責任からこのように考えて発言したのだが――
「冗談言うな」
 隆が納得するはずもない。
「おい、俺の話はまだ終わっていないぞ」
 イーオンも口を挟む。
「ムガハラ、お前は教師に対する口のききかたというものを知らんようだな」
「ありゃー、なんか余計ややこしいことになってきた……一体どうすりゃいいんだよー」
 英虎はお手上げといった様子で頭を抱える。心配そうに状況を見守っていた甲斐 ユキノも、英虎の近くでおろおろし始めた。
 ヴァンガードエンブレムをつけた教師と生徒たちが言い争いをし、やはりエンブレムをつけた生徒が板挟みになっている。
「ったく、しゃあねえなあ……」
 そんな様子を見て、高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)が面倒くさそうな顔をしつつ動いた。
「ようお前さんたち、クイーン・ヴァンガード同士でなに見苦しいいがみ合いしてんのよ?」
「「「うるさい、黙ってろ!」」」
 隆、イーオン、アーキスが同時に悠司を怒鳴りつける。
「なんだよ、仲いいじゃん……。えーっと、あんたとあんた、ちょっと」
 悠司はイーオンとアーキスを手招きすると、二人と肩を組みながら隆に背を向けて言った。
「なあ、あの石頭にリフルの無罪を証明するにはやっぱ一緒に連れてくしかねーよ」
 だが、悠司の説得にも二人は首を縦に振ろうとしない。
「このままじゃいつまでたっても遺跡に行けないぜ? 頼む、あんたらが大人になって折れてくれ」
 悠司は諦めず情に訴えて頼み混む。すると、二人はしぶしぶながらもようやく彼の言うことを聞き入れてくれた。
「…………仕方ないか、オレが生徒たちの邪魔をしては本末転倒だからな……」
「……納得したわけではないが、ここはお前に免じて引き下がってやろう。しかし、もしもあいつがこれ以上行き過ぎた真似をするようなら、今度こそ容赦なく叩き出すぞ」
「サンキュー! 恩に着るぜ」
 悠司は二人の返事を聞くやいなや隆の元に駆け寄り、事の成り行きを話す。隆は訝しげな顔をしたが、さすがにこれ以上話をこじらせるようなことはしなかった。
「いやー、キミすごいなー。助かったよ」
 英虎が感心の面持ちで悠司に言う。
「ま、クイーン・ヴァンガードになったおかげで、俺もただ同然で防具やら装備やら使わせてもらってるしねぇ。たまにゃ恩返しくらいしますよ」
 こうして、一同はなんとか遺跡へと出発することができたのである。

 遺跡へ到着するまでの時間を利用して、シャミアはリフルとの会話を試みる。
「ねえリフル、あなたきっと眼鏡を外した方がかわいいよ」
「これをしていると落ち着く」
「ふーん、そうなんだ。あ、そうそう、この間そのチョーカーは大切な人にもらったって言ってたけど、くれたのはどんな人なの?」
「……とても尊敬できる人。みんなに慕われていた」
 そう言うリフルの横顔は、温かさと寂しさとを同時に湛えているように見えた。
「リフルが尊敬する人かあ」
(『慕われていた』ってことは、今はもういないのかな? これ以上は触れない方がよさそうね)
「着いた」
 シャミアが考えていると、リフルが前方を指さす。そこには、小さな洞窟の入り口のようなものが見えた。
「ヒャッハー! お宝ゲットだぜー!」
 シャミアは懐中電灯とハケを持って脇目もふらずに駆け出した。
 シルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)は、リフルが一人になったのを確認して彼女に声をかける。
「やあ、どうも。この間図書室で会ったの覚えてるかな?」
 こくり。
「それはよかった。遺跡の探索やリフルさんの講義、楽しみだなあ。まぁ、今日は邪魔者もくっついてきてるけど、気にせずマイペースにいこうよ」
 こくり。
「ところで……」
 シルヴィオは自分のパートナーが目を離しているうちに切り出す。
「実は俺もクイーン・ヴァンガードなんだ。俺がヴァンガードになったのは、ミルザム様の真意を知りたいから。別に親しいわけでもない俺が言うのもなんだけど、彼女、自分から女王になりたいと思うようには見えなくてね。シャンバラの女王を凄く尊敬しているみたいだし……もしかしたら、リフルとは気が合うかもな」
「そう……」
「あれ、なんかイマイチな反応だね? ミルザム様のことはあまり好きじゃないとか?」
「そういうわけではない」
「彼女頑張ってるからさ。頑張ってる女の子って応援してあげたくなるんだよね、俺」
 そんなことを話しているうちに、二人も遺跡の入り口付近までやってきた。