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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第2回/全3回)

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第2回/全3回)

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賑やかな昼食


 遺跡中心部の片隅。リフルと大勢の生徒たちは、シートを広げてこれから昼食を楽しもうとしている。
「なんか流れでお呼ばれしちゃったけど、貴重な遺跡の中で食事なんかしていいのかな……」
 高村 朗(たかむら・あきら)はそわそわした様子で周囲を見回す。
「大丈夫……バレなければ」
「バレなければって……はは、リフルちゃんは食べ物のことになるとイメージ変わるねえ」
 さらっと言うリフルに、朗は苦笑いをした。
「でも、今回はリフルちゃんが遺跡調査に連れてきてくれてちょうどよかったよ。この間戦艦島の遺跡を冒険したときは、調査しても分からないことが多かったからなあ……まあ、遺跡調査なんてそんなものなのかもしれないけど」
「根気が大事」
「なるほど、いいこと言うね。ところで今冒険って言ったけど、俺の将来の夢は冒険家になってパラミタ全土を踏破することなんだ。旅にも何度となく行ってるんだよ。そうだ、遺跡調査とかには出かけるみたいだけど、リフルちゃんて多分基本インドア派だよね。よかったら今度一緒に冒険に行かない? きっと楽しいよ。……って、聞いてないね」
 リフルの視線は既に、ずらりと並べられた料理に釘付けだった。
「お待たせしました。どうぞ、たくさん作ってきたんで遠慮なく食べてくださいね」
 樹月 刀真が皆に弁当を勧める。
「うん、おいしい。これからもよろしく」
 漆髪 月夜は刀真の作った弁当をつついて満足げに頷くと、料理を取り分けて立ち上がった。
「刀真さん、どこに行くのですか?」
「ちょっと」
 月夜は一言だけ言って歩いて行く。その先には隆とリニカがいた。
「……なんだ」
「はい、おいしいよ?」
 隆の前に料理を差し出す月夜。
「くれるのか!? おいしそうだと思ってずっと見てたんだ!」
 リニカが素早くそれを口に運ぶ。
「んまー!」
「あ、ちょ、リニカおまっ! 俺のミートボールを……!」
 隆もお腹がすいていたのか、二人は料理の取り合いを始めた。
「しかし、確かに座学では分からないことが色々とありますね。非常に勉強になります。それにしても、女王は何を思って星剣を十二星華に託したんでしょうね」
 刀真がリフルに尋ねる。
「どうやら十二星華には、アムリアナ女王陛下を護衛する以外にも何か他の役割があったよう」
「他の役割、ですか……」
「十二の星剣にはどんなものがあるの?」
 戻ってきた月夜も質問する。
「星剣といっても、全部が剣の形をしていたわけではない。槍や、遠距離武器もあったらしい」
「興味深いわね」
「えーと、リフルさん……俺も弁当を……その……」
 刀真たちと会話するリフルに自分も話しかけようとして、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)はしどろもどろになる。彼は異性を妙に意識してしまう性格なのだ。そんな佑也のために、アルマ・アレフ(あるま・あれふ)が一役買って出る。
「突撃隣のリフルちゃーん! ねえねえ、佑也が自分の作ってきたお弁当も食べて欲しいって。佑也ったら照れ屋さんだからさー」
「ア、アルマ」
 パートナーの突然の行動に、佑也は恥ずかしがる。が、リフルが自分の顔に視線を向けていることに気がつくと、包みをほどいて弁当を渡した。
「別に大したものではないが……食べたければ食べるといい」
 リフルは弁当を受け取ると、早速手をつけ始めた。
「……」
「……」
 黙々と食べ続けるリフルと、その姿を緊張の面持ちで見つめる佑也。やがて中身を空にしてしまうと、リフルは弁当箱を返しながら佑也の顔を見て言った。
「おいしかった」
「そ、そうか。それはよかった。こんなものでよければまたいつでも作ってきてやるぞ」
 リフルから顔をそらした佑也は平静を装ってそう答えたが、嬉しさを隠しきれてはいなかった。
「ねえリフル、剣の花嫁って簡単に記憶喪失になるもんなの?」
 リフルが一息ついたのを見て、アルマが問いかける。
「あたしの場合、忘れたっていうか、覚えてないっていうか……所々抜けてる感じなんだよねー」
「気が遠くなるほどの時間を眠り続けている剣の花嫁も多い。契約をきっかけに目覚めた際、記憶の欠落が見られてもおかしくはない」
「ふーん、そうなんだ。ほら佑也、せっかくなんだから佑也もっとリフルと話しなよ」
 いまいちまだ馴染めていない佑也に、アルマが助け船を出す。
「そうだな……。リフル、なにやら色々大変そうだが、その……俺はどんな些細なことでも力になりたいと思っている。まぁ、なんだ。何かあったら気軽に声でもかけてくれ。それからあれだ、何かリクエストあるか? 食べたいものの」
「らーめん」
「ラーメン? そりゃちょっと弁当にするのは難しいな……」
 リフルの意外な回答に佑也が困惑していると、六本木 優希がそろりと近寄ってきた。
「あの、こんなものをもってきたのですが……」
 優希が示す先では、ミラベル・オブライエンが土鍋とカセットコンロをもって立っている。
「最近お取り寄せした鍋焼きラーメン(たくあんつき)セットですわ。取り皿もご用意してありますので是非召し上がってください」
「うわ、あったよラーメン!」
 ミラベルの言葉を聞いて、佑也はその用意のよさに舌を巻いた。
 ラーメンといえばこの男のことを忘れてはいけない。そう、ラーメンに生きる男渋井 誠治(しぶい・せいじ)である。
「おお、こんなところに来てまでラーメンを食べようとは、なかなか分かってるじゃないか! ちょっぴり悔しいくらいだぜ。オレもラーメンスナックをもってきた。さあみんな、食べてくれ!」
 渋井がお菓子の入った袋を取り出す。
「あ、ラーメンのお菓子だったらあたしももってきておりますわ。他にもチョコレートやグミキャンディなんかがございます」
 先ほどから隅の方でもじもじしていた甲斐 ユキノは、このチャンスに思い切って自分も口を開いた。
 二人が周りの生徒たちにお菓子を配っている間に、誠治のパートナーヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)はリフルに挨拶を済ませようとする。
「初めまして、私はヒルデガルト。誠治がいつもお世話になっているらしいわね。これからもよろしく頼むわ」
 リフルも軽く頭を下げる。
「私もお弁当……というか、いびつなおにぎりをもってきたのだけれど。もっと綺麗な料理がいっぱいあるわね」 
「食べる」
「そう? じゃあどうぞ。――実は私にも古代シャンバラ王国時代の記憶で欠けている部分があってね。今日この遺跡を見たりあなたの話を聞いたりして、戦死する前のことについて色々と考えたわ」
 お菓子を配り終えた誠治が、リフルの近くにやって来て座る。
「ヒルデ姉さんとは最近契約してさ。シャンバラ史とか剣の花嫁についてちゃんと勉強してみようかなーって思ってるんだ」
「歓迎」
「色々教えてくれよな」
 話に花を咲かせている誠治たちの元に、どこからか紙飛行機が飛んでくる。それを誠治が拾い上げると、一人の男が走ってきた。
「はい、これ。そうだ、よかったらあなたも一緒にどうすか?」
 誠治は紙飛行機を渡し、男を昼食に誘う。男はメモ帳による筆談でこれに答えた。
『ありがとう。俺は紫煙 葛葉(しえん・くずは)。連れがいるんだけど、呼んでも構わないかな?』
「ん? ああ、多分大丈夫かと。きっとみんな歓迎してくれます」
(面白い人だな……)
 誠治の返事を聞いて葛葉が手招きをする。姿を現したのは天 黒龍(てぃえん・へいろん)だ。
「邪魔するぞ。リフル、知り合いからおまえのことは聞いている。古代シャンバラ女王と食事以外には興味がないとのことだったが……よく勉強会や実地調査をやろうなどという気になったものだな。一体何がおまえをそうさせたのだ?」
「……」
「む、何かまずいことを聞いたか?」
「……嬉しかった……のかもしれない」
 リフルはそう答えた。以前の彼女だったら、きっと何も言わなかったはずだ。リフルを囲む生徒たちが、少しずつ彼女を変え始めているのだろうか。
「それにしてもたくさんいるなあ。みんな友達になってほしいくらいだ」
 昼食を共にする生徒たちを見回して、誠治が呟く。
「そうだ、いい機会だし記念撮影しようぜ! カメラはもってきてないけど、携帯でいいよな」
 それを聞いて、ヒーローマニアのアルフレッド・テイラー(あるふれっど・ていらー)がデジカメを取り出す。
「よかったらこれを使ってくれよ! いつでもヒーローが録れるように、デジカメは常備しているのさ!」
「お、こりゃ助かるぜ」
 誠治はアルフレッドからデジカメを借りると、生徒たちを集合させていく。
「リフル、真ん中に来なよ。そこ、もうちょいこっちに寄って。……オッケー、それじゃいくぞー。はい、チーズ」
 忘れられないワンシーンが、確かに刻まれた。