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謎の古代遺跡と封印されしもの(第1回/全3回)

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謎の古代遺跡と封印されしもの(第1回/全3回)

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第一章 ――遺跡内部 第二層――

・リヴァルト隊

「入口らしい場所ってここしかないんだけどさ。やっぱり落ちた場所ってのはここかい?」
 入って来た入口を眺めながら、五月葉 終夏(さつきば・おりが)はリヴァルトに質問した。
「それが、違うんですよ。私が目を覚ました時、天井に穴なんて開いてませんでしたから」
 リヴァルトは苦笑しながら答えた。彼が遺跡で目を覚ました時、周囲に一緒に流れ込んだ砂こそあったものの、自分を落としたであろう穴は存在していなかったのである。
「それじゃあ、きっと遺跡の仕掛けかなんかですか?」
 東間 リリエ(あずま・りりえ)もまた彼に問いかける。リヴァルトは少しずつではあるが、遺跡の事を思い出してきていた。
「かもしれませんね。なぜそれが作動したのかは分かりませんが、この遺跡には他にもいろんな仕掛け――トラップなんかもあるかもしれませんね」
「トラップ? 前に来た時、あったんですか?」
 彼女の質問は止まらない。やはり気になる事は多過ぎるくらいのようだ。
「まだ調査が行き届いてない遺跡だ。何が起こってもおかしくはないだろう?」
 リリエのパートナーのドラゴニュート、ジェラルド・レースヴィ(じぇらるど・れーすゔぃ)が口を挟む。
「まだ完全に思い出したわけではありませんが……私はその類に引っかかっていないと思います。部屋で目を覚ました時も怪我はありませんでした」
 リヴァルトの答えを聞きつつも、ジェラルドは警戒しているようだ。
(部分的に記憶が残っていた。そしてここに来て少しずつ思い出していく……何か引っかかる)
 が、表向きはこの場のメンバーと普通に遺跡について話しているだけである。
「でも、記憶喪失になる可能性があるっていうのは危険ですよね。罠よりも厄介ですよ」
「そうだね。そのせいでリヴァルトのスタート地点が分からないんだしさ。砂も多いって事はこの階層のどっかではあるんだろうけどね」
 終夏はもう少しこの階層を調べようと考えていた。リヴァルトと合流する前に多少は見たものの、今の事を聞いたことで改めて調べる必要性を感じたためだ。
「ただ、疑問はあるんだよなぁ。完全に記憶を消さないで君を帰したって事は、遺跡側にも意図があるのかねぇ? 相応しい人物を待っているとか……ね」
 少し離れて様子を窺っていた黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)が鎌をかけるかのようにリヴァルトをじっと見つめる。
「かもしれません。もしくは、私の記憶を完全に消そうとして失敗した、という可能性もあります」
「どういう事だい、それは?」
「遺跡は人を遠ざけようとしている、けれど『封印されているもの』が私達を呼んでいる。だから二つの反する意思を持った何かがぶつかり合い、結果こうなっている、というわけです。あくまで私の推測ですが、ね」
 困ったような苦笑を浮かべるリヴァルト。その言葉の真意を他の者は知る術はない。
(やはり出来過ぎている気がする)
 にゃん丸は訝しげにリヴァルトの言葉を聞いていた。
「うーん、とりあえず行動しない事には始まりそうもないよね。歩いてるうちに、リヴァルトももう少し思い出すんじゃないかな?」
 遺跡の探索を進めることを提案する、終夏。
「それには賛成だねぇ。俺が先導する」
 と、にゃん丸。
「それなら僕と蘭丸は護衛に回るよ。こういう遺跡、もしかしたらトラップだけじゃなくてモンスターも出るかもしれないからね」
 その場に居合わせていた女性のような風貌の二人、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)とパートナーの森 乱丸(もり・らんまる)が武器を構える。
「ありがとうございます。助かりますよ」
 リヴァルト自身も剣の腕はかなりのものである。ただ、彼としてはなるべく遺跡調査に専念したかったため、この申し出はありがたいものだった。
「それじゃ、行きましょう。早く原因が分かるといいですね」
 リリエがリヴァルトを促すように声を発した。

              ***
 
「ここ王国首都の戦場跡地だろ? ……それにしちゃきれいだな。」
 第二層の探索を続けるリヴァルト一行。にゃん丸は遺跡の状況に疑問を感じていた。彼は光精の指輪で辺りを照らしている。はっきりと見える鎖帷子に蒼学制服、肩にロープを掛けた姿はどこかシュールだ。
「五千年前の遺跡にしては、確かにそうだね。上から降り積もったらしい砂が点々としてるけど、ここまで保存状態がいいのは見たことないよ」
 リアトリスもまたこの遺跡を不思議に感じていた。
「リアトリス殿、誰か来ます」
 蘭丸の言葉により、リヴァルト達に近付いて来る者の姿をその場の者は捉える事が出来た。光精の指輪のおかげで、それほど警戒せずには済んだ。相手は赤髪の学生と背の高い男だった。
「この遺跡、広いなー。おっと、もしかしてリヴァルトかい?」
 佐伯 梓(さえき・あずさ)は外見の特徴からリヴァルトだと思ったらしい。彼の姿は、遺跡の第一発見者として調査団には知れ渡っているようだ。もう一人はパートナーのオゼト・ザクイウェム(おぜと・ざくいうぇむ)である。
「ええ、そうです。私の顔も随分と知れてしまってるようですね」
「この遺跡の第一発見者だからなー。もうそれなりに人数いるみたいだけど、俺も探索手伝うよ。それに、いろいろ調べた方が何か思い出せるだろうしね」
 梓を加え、一行は探索を再開する。その際、情報交換もした。
「へえー、少しずつだけど記憶が戻ってるんだ。でも、話聞いた感じだと魔法の力っぽい感じがするんだよ」
「遺跡の仕掛けのせいかもって思うんですけど、今のところそれらしきものは見つかってないんですよね。封印の扉に魔法がかかっているのか、あるいは守護者みたいな人が記憶を消そうとしたのか……」
 梓とリリエは魔法使いであるためか、魔法による忘却術という可能性も考慮していた。
「扉か。リヴァルト、どうやって行ったのかは分からないかい? 君が最初に目を覚ました場所さえ分かれば思い出せるとは思ったんだけどさ」
 終夏がリヴァルトに尋ねてみる。なかなか落下地点は見つからないが、歩いた場所は部分的に思い出していると踏んだからだ。
「そうですね……あ」
 リヴァルトは何かに気づいたようだった。
「どうした?」
 にゃん丸が反応する。
「これは……見た事があるような気がします」
「魔法陣、かな? これ」
 梓はそれに気付いた。壁には魔法陣と思しきものや、何を意味しているか分からない幾何学模様がある。
「これといって反応はありません。魔力の類も一切感じませんね。でも……ただの模様にしては不自然です」
 二人の魔法使いはそれを分析している。
「もしかしたら、この模様がある場所を辿ればリヴァルトの記憶も戻るんじゃないか?」
 見たところ、壁だけでなく床にも模様はある。そしてそれは通路の先にも点在しているようだった。
「他のフロアの人と連絡を取れればいいんですが……」
 リリエは困ったような素振りを見せる。遺跡の中ではパートナー以外の者と連絡を取る術はない。
「いえ、取れなくはないですよ」
 リヴァルトが荷物から何かを取り出した。古いものではあるが、地球のトランシーバーのようだ。
「砂漠のベースキャンプに電波の基地を張るように頼んで、私が持ってきました。他の子機は司城先生が管理してるんですが……同時に使える数が限られているので、遺跡の中で他に誰が持っているかは分かりません」
 それはリヴァルトが事前に用意していたものらしかった。もし他のフロアにいる人間が持っているならば、情報をある程度は共有する事が出来る。
「じゃあ、今までの事を他の人にも教えましょうよ。もしかしたら、別フロアで何か掴んでいる人がいるかもしれませんし」
「俺も賛成。危険は少ない方が、他の調査員も安心出来るからな」
 リリエ、梓は連絡をするのがいいと判断した。
「では、やってみます」
 リヴァルトはトランシーバーを口元へと近付けた。