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リアクション
・「扉」を目指す者達
「やっぱりこういう遺跡だと一番奥とかに大事なものがありそうだよな。それこそお約束ってなもんだろ?」
「周くん、マンガとかだったらそうだけどここは本物の遺跡だよ? それもまだちゃんと調査されてない、ね。まあここまで来ちゃったし、他にも怪しいと睨んだ人がいたから良かったけどね」
図書館フロアの一階、その外側の廊下のような場所を歩いているのは鈴木 周(すずき・しゅう)とパートナーのレミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)だ。そして、もう一人、
「そのお約束かもしれませんが、例の第一発見者、リヴァルト君の証言だと隠された場所に何かあるみたいですからね。やはり目指すなら最深部、ですよ」
と、二人と話しているのはウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)である。
「そういえば、ここまでどういうルートで来ましたか? 図書館フロアはあの通り、一階まで簡単に行けるようになってましたが……帰りのためにもどうやって来たのかは覚えておくに越したことはありませんからね」
ウイングは銃型HCを取り出した。
「周くん、これ。あ、あたしのはこっちだよ」
三人はそれぞれHCを繋いで、マッピングしたデータを互いに送受信する。
「これがあるのはありがたいですよね。あ、来ました」
「図書館に行くまでは大変だったけど、そっからは同じように来たみたいだな。ほら、図書館の一階からここまでは同じだろ?」
入口からのルートこそ異なるものの、途中から三人は同じようなルートでやってきたようだった。
「ですね。でもこれで上階の規模は大体掴めました。もし戻るときに何らかのトラップでどこかが塞がってしまっても、迂回が出来ますよ」
「じゃあ、地図を更新しとかないとね」
三人のデータを重ね、最新のものにする。
「じゃあ、行こうぜ! 途中で時間も食ったんだ、もっと早い奴らがいるかもしんないしな」
「私も古代の書物探しに夢中になってしまいましたからね。そろそろ宝探しといきますか。まあ、収穫といえばこのくらいでしたけからね」
ウイングは一冊の本を取り出した。
「古代シャンバラ語のはずなのにどういうわけか読めない本ばかりでして。これに至っては本を開くことすら出来ません。気になって持って来たんですよ」
「そいつは怪しいな。 ひょっとしたら罠かもしれないぜ?」
周は少し警戒を強める。
「大丈夫ですよ。ちゃんと調べてきましたから」
彼らはスキルで危険を察知出来るが、特にその本からは感じなかった。そのため、周もすぐに警戒を解く。
「確かに、何も感じないな。良かったぜ……なんだよレミ、その意外そうな顔は?」
「ん、周くんのことだからあんまり気にも留めないかなって思ってたからね、意外だなって」
「俺だってちゃんとするところはするんだよ! こんな何があるか分からない遺跡なんだ、用心に越した事はないだろ」
レミは普段よりしっかりした様子のパートナーにわずかに感心しているようだ。
「そのくらいの気概でちょうどいいくらいですよ。こういう場所では特に……おや、誰か来ますね」
三人の正面から歩いてくる人物が見えた。光術や光精の指輪のおかげで、早いうちに気づく事が出来たのである。
「面白そうなものを持ってんなァ。なんだ、魔道書か?」
現れた道化師姿の人物、ナガンが尋ねてくる。
「かもしれません。図書館にはこういうものが他にも何冊かありましたよ」
「おお、そうか。んじゃあちっとは調べてみるとすっかね」
そのまま去っていこうとする。
「待て、この先って何かあったか?」
周が質問する。
「いーや、何もない。行くだけ無駄かもよォ」
振り返ることなく答えるナガン。そしてそのまま行ってしまった。
「どう思う?」
「本当かもしれませんが……あの態度だと真意は分かりませんね。危険を教えてくれたのか、あるいは嘘をついているのか。何かがあったけど、それを既に持ち去っている可能性もありますからね。まあ、何かを隠し持ってるようには見えませんでしたけど」
冷静に分析するウイング。飄々とした態度というのは捉えどころが無いものである。
「でも向こうからきたって事は、他にも先に行ってる人がいるかもしれないって事だよね? あたし達の前にも同じようにすれ違った人がいるんじゃないかな?」
レミは予想する。
「だな。もしかしたら俺達の知らない事を先に掴んでるかもしれないぜ? 例え何もなかったとしても行くだけ行ってみる価値はあるな」
「情報は多い方がいいですからね。この規模の遺跡なら、おそらく調べる場所によって掴んでる情報は異なるでしょう」
二人とは違い、レミはなぜか冷めた目で周を見てる。
「な、なんだよレミ?」
「……どうせそこにカワイイ子がいないかなとか考えてるんでしょ?」
「まさか……まあ、いたらいいなって。いや、冗談、冗談だって!」
周が弁解するが、レミは信じてはいないようだ。
「さっきも図書館の中で本を読んでる女の子達をナンパして回ってたし。まったく、恥ずかしいじゃない」
ここに来る前にも、周は女の子をナンパして回っていたようだ。ただ、この場に三人しかいないということは失敗したということらしい。
「それはそれだ。とりあえずじっとしてたって始まらない。行こうぜ!」
納得いかない、という表情をした彼女だったが、彼の後ろについて歩き出した。
***
鈴木 周達よりわずかに先行して歩く者達がいる。
「今の話ってほんとか?」
先程すれ違った道化師姿、ナガンの弁を訝しみ、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)が口を開く。
「どうでしょうね。今のところ、あの人以外に僕達より前にはいないみたいですし。自分の目で見るまでは何とも言えませんよ」
クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)が答える。
「ここまで来たら進むのみ、ですね。図書館フロアを出てから結構歩いている気もしますが……行き止まりにしても、まだここより先がある事に変わりはありませんから」
御堂 緋音(みどう・あかね)は先へ進むよう提案する。
「こんなに広い遺跡なんですから、きっとまだ誰も見つけてない何かがあると思うのですっ」
桐生 ひな(きりゅう・ひな)が同意する。
「ここまで罠も隠し通路のようなものも特になし、でもそれじゃ納得出来ない感じがするんですよねー。あ、サフィさん、今僕達がどの辺まで来たか分かりますか?」
クライスはパートナーのサフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)に確認を取る。
「んー、地図で見るとちょうど図書館フロアの北側みたいだよ。外周をずっと歩いてるみたなんだけど、まだ半周したってところかな? このまま進むと元の場所に戻りそうな気がするけど……」
そこまで言ってところで何かが引っかかった。
「ん、おかしくないか? 図書館の二階や三階の外周は途中で反対から回って来た人ともたくさんすれ違っただろ。なんでこの階だけ一人なんだ?」
レイディスが違和感に気づいたようだ。図書館フロアの上階や入口のある階層は外周が繋がっていた。その証拠に、すれ違う人も多かったのである。
「もしかして、この階だけ構造が違うのかな? 小部屋の数も、極端に少ないもの」
「この階にはやはり何かがありそうですね」
「そうですね。違和感のある部分も多いですし。行きましょう」
クライスが全員を促す。その傍らにはレイディスのパートナーのシュレイド・フリーウィンド(しゅれいど・ふりーうぃんど)がいる。彼は明かりを灯し、仲間を先導するクライスに従っているようだ。一方彼のもう一人のパートナーであるローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)は、明かりを持ちながら最後尾に控えている。
「はは、この先に何かあるかもってだけでわくわくしてきたぜ!」
レイディスは逸る気持ちを抑えられないようだ。今にも駆け出しそうにしている。
「レイちゃん、注意を怠ると、ケガしちゃいますよっ」
ひなが冗談っぽく言う。
「にひひ、面白くなりそうじゃー」
ひなのパートナーのナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)はにやつきながらその様子を見ている。
一行はそのまま歩き出した。
数十分後、
「やっぱりね。地図を見比べたら分かったわ」
サフィが何かを掴んだようだった。
「もし上の階と同じだったら、ここの数十メートル手前で左に曲がってたはずだよ。でも、あたし達ずっとまっすぐ歩いて来たよね?」
「ええ、途中に分岐もありませんでした」
と、緋音。
「隠し通路も仕掛けもなかったな。ん、何だこれ?」
レイディスは壁に描かれているものに気づいた。
「これはシャンバラの地図、ですかっ? 今とは少し違うみたいですが……」
何やらシャンバラ地方の地形が描かれているようだった。ただ、古代のものなので今とは異なる部分も多いようだ。
「何か書いてある。なぁ、緋音。これ……分かんねぇかナ?何か気になっちまって……」
」
地図上にはいくつかの点があり、近くに文字が書いてあった。
「これは……この点の場所を示す言葉みたいです。でも、意味までは分かりませんね」
「よし、俺様に任せるッスよ!」
シュレイドが駆け寄って来る。
「おお、これは……」
「まさか、分かったのか?」
レイディス達が答えを期待する。
「……さっぱり分かんねッス」
「ったく、期待させんなよ」
残念だったのか、彼は肩を落とした。
「それにしても、これは何を示してるんでしょう? 五ヶ所、いずれもこの遺跡とは異なる場所です。この遺跡に関わりのある場所なんでしょうか?」
だが、どれだけ考えても結論は出てこない。
「もしかしたらこの先にヒントがあるかもしれないですっ」
ひなはまだ希望を失っていないようである。
「いえ、それがそう簡単にいかなさそうです……来て下さい」
先を歩いていたクライスの声が聞こえてくる。他の者達が駆け寄っていく。
「……行き止まり?」
「そのようです。ただ、何かの仕掛けで道が開けるかもしれません」
彼はそれでもこの場所が怪しいと踏んでいた。
「さっきの方はこれを見たから何もないと言っていたのでしょうか? それとも、調べるだけ調べたんでしょうか?」
緋音が推測する。ただ、その現場を見ていない以上、なんともいえない。しかし、先刻すれ違ったナガンがここまで辿り着いたのは確かなようである。
「調べてみましょうっ。ダメなようならこの壁を壊すまでですっ!」
ひなは最終的には実力行使に出るつもりだ。
「それは最終手段といこうぜ。まずは壁とか調べるか」
レイディスは周囲を調べ始める。続いて、他の面々もそれぞれのやり方で探索を進める。
「どう見たって怪しいんだ。俺のトレジャーセンスがそう感じてるぜ」
「ここが下に通じる道の入口ならいいんですけどねー」
罠があるかも調べつつ、クライスが呟く。
だが、どれだけ調べようとも進展がない。壁を押してみても、反応はない。
「こうなった最終手段しかありませんかっ」
ひなが行き止まりになっている壁をヘキサハンマーで勢いよく叩く。だが、びくともしない。
「うう、痛いですっ。壊れません」
「お手上げ……ですね」
ただ、このまま戻るのも癪だった。しかもずっと意識を集中していた、それでいてここまで休みなく歩いてきたせいで疲れが溜まっていた。
「もしかしたら疲れてるせいかもしれませんね。ここらで一旦休憩しましょう。緋音さん、禁猟区お願いできますか?」
「はい」
緋音が禁猟区を展開する。そして一行は壁の前に腰を下ろした。
「もしかしたらこれからここに来る人がいるかもしれません。その時、協力するのもいいでしょう」
最深部を目指す人間が他にもいたら、きっとここを通るだろう。クライスはそう考えている。
「そうですね。どんな人が来るかまでは分かりませんが……今のうちに息抜きはしておきましょう。私、水筒持ってきました。皆さん、暖かいお茶ですからこれを飲んで少しでも疲れを癒してくださいね」
「こっちには料理もあるのじゃ。おむすび、たまごやき、からあげ、おかずは串に刺してあるからすぐにでも摘めるのじゃ」
ナリュキが弁当箱のようなものを取り出した。
「明かりは俺様に任せな! 御嬢様方、危険が危ないので私めの傍に御寄りなせぇ」
輪の中心にシュレイドが割って入る。ちょうどその明かりを囲うようにして、全員が腰を下ろしている。
「ローレンスも、今くらい休みなよ」
その中でローレンスは通路の方をずっと監視している。
「これでもそれなりにリラックスしているのでお気になさらずに。一応、明かり持ちですから、こうしておけば誰か来てもすぐに気づけるんですよ」
万が一危険な相手だった場合、すぐに反応出来た方がいいと考えているようだった。
そしてしばらく後、ここに何名かの人間がやって来る事になる。
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