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リアクション
・地図を作る者達
『こちら、リヴァルト・ノーツ。遺跡内部の入口のある階層にて魔法陣のような模様を発見しました。現在のところ、これに害はないようです。もしこの連絡を聞いてる人がいましたら、何らかの報告があると助かります』
リヴァルトからの連絡を耳にする事が出来た者は、存在した。
「魔法陣のような模様……ってのはこれのことですかね? イーヴィちゃん、そっちはどうですか?」
この遺跡に入る前にトランシーバーを受け取っていた藤原 すいか(ふじわら・すいか)は、その知らせを聞いて周囲を注視した。すると、模様らしきものは近くに見つかった。パートナーのイーヴィ・ブラウン(いーびー・ぶらうん)がいる側にもあるかもしれないと考えたため、連絡を取る。二人はそれぞれ右壁沿い、左壁沿いを歩いている。
「こっちにもあるわ。それにしても、これは何を示してるの?」
二人はそれの正体には気付けない。同じように周囲を探索している者達も、怪しみはするが、深入りしようとはしなかった。
彼女達はリヴァルトと同じ階層にこそいるが、まったく異なる位置にいるようだ。それほどに遺跡が広いということだろう。そのため、多くの者は足場固めをしつつ、慎重に探索をしているようだ。
「みなさん、それぞれ慎重に行動していきたのは分かります。でも、まずここは協力して攻略した方がいいと思うのですが、どうでしょう?」
近くの者達に問いかける。
「そうですね、こういう場だからこそ、なるべく多くの人で協力した方が、全体像も早く掴めそうですね」
即座に応えたのは今井 卓也(いまい・たくや)だ。彼もまた、すいかと同じ考えだったらしく、ちょうど声をかけようとするタイミングのようだった。隣にはパートナーのフェリックス・ルーメイ(ふぇりっくす・るーめい)もいる。
「危険な場所は早く見つけた方がいいだろうしな。それに、何人かでまとまってた方が、万が一の時に安心だ」
後藤 日和(ごとう・ひより)とパートナーのゆる族、マール・ダンウッディ(まーる・だんうっでぃ)も同意のようだ。
(早めに安全が確保出来れば、うまくサボる事だって出来るだろうしな)
他にも地図を作製しようという意図の者はいる。
「これだけ広いと、階ごとの地図を作るだけでも一苦労ですね。きっと時間もかかるでしょう。やはりここは、協力した方が良さそうです」
ファレナ・アルツバーン(ふぁれな・あるつばーん)とシオン・ニューゲート(しおん・にゅーげーと)であった。未だに全容の掴めないこの巨大な遺跡を把握したいということだ。
「これだけの広さだ、一人で調べるには限界があるだろう」
ちょうどこの場を通りかかった月白 悠姫(つきしろ・ゆき)もまた、全体を知る事を最優先と考えているようだった。
「結構集まりましたね。それでは行きましょう」
そして彼女達は探索を開始した。
「この遺跡、こんなに広いのに分かれ道が少ないわね。もっと迷路みたいになってるかと思ったんだけど……」
一ノ瀬月実は入口のある階層を歩いていた。手には作成中の遺跡の地図があり、辿って来た通路沿いの小部屋などが書かれている。
「でも、ここまで一切の罠がないのは不思議よね」
パートナーのリズリットが疑問を口にする。
「いくつか書斎みたいな小部屋はあったけど、図書館に通じる道やこの遺跡の全体図は見つかってないのよ。どうにもおかしいわね」
真面目に考え込みながら、自分の作成する地図を眺める月実。
「……真面目に考えるのはいいけど、そんなバランスフードかじりながら地図描くのはやめて」
「ちょっと小腹がすいたのよ……ん、あの人達は」
ちょうどその時、全体像を掴もうとするすいか達の一団がやってきた。
「あれ、地図を作ってるんですか?」
すいかが尋ねる。
そこでお互いの情報交換が始まる。
「なるほど、建物自体は広いがそれほど複雑な作りではないようだ。今のところは」
悠姫が言う。
「これでもまだほんの一部なんですよね。もし隠し通路とかがあったら、別ですけどね」
と、ファレナ。
それまでの地図を全員で見比べてみたが、一部を除いて似たような感じになっていた。分岐点が少ないせいもあるだろう。彼女達は皆最初の入口から見て右側へと進んでいた。反対方向であれば、結果は異なっていても不思議ではない。
「随分歩いたとは思いますが……ルーメイ、どうしたの?」
「いや、今一瞬何か気配を感じたのだが……気のせいのようだ。魔法陣ようなものも機能はしていない」
卓也とルーメイの会話で、一同に不安が過る。が、そこに集まっている者以外の気配はこの場にはない。
「もしかして、モンスターでもいるのだろうか?」
「扉も開いてないからそれはないですよ」
日和とマールもまた口を開く。いくつかの扉こそあれど、隠れるスペースなど存在しない。
「とにかく、先へ進みましょう。もしかしたら何かあるかもしれません」
すいかが全員を促す。道中、部屋を分担しれ一つ一つ調べながら、通路の奥へと進んでいく。
「分かれ道、だな。どうする?」
悠姫がその場の者に問う。
「二手に分かれましょう。この人数なら、うまい具合に人数を割けられます」
話し合った末、それぞれどちらに進むかが決まった。
左側へ行くのは日和、マール、ファレナ、すいか、イーヴィ。
右側へ行くのは卓也、ルーメイ、悠姫、シオン、月実、リズリットだ。
「それじゃあ、出来たら後で合流しましょう。誰か私以外にこれを持っていれば助かるんですが……」
そう言ってすいかが示したのはトランシーバーだ。だが、不運なことにこの場で持っているのは彼女だけのようだ。
「僕はファレナとなら連絡取れるから。何か分かったら、知らせるよ。これなら合流出来るよね?」
この中で、パートナーと後で合流する事を前提に分かれたファレナとシオン。彼らが上手く橋渡しとして機能すれば、行動もスムーズに行える。
「分かりました。それでは、また後ほど」
***
分かれ道を右へと進んだ組。こちらはそれまでの場所に比べてやたらと砂が多かった。通路の幅は分岐の前に比べ、若干ではあるが狭まっているように感じた。
「砂こそあるが……遺跡そのものはやたらと綺麗だな」
悠姫は不審に感じていた。五千年間砂に埋もれていた割には原型をあまりに留め過ぎている。それでも地図を作っていく。
「そうですね。他の遺跡は良くて半壊でしたが……ここまで状態がいいと不気味にさえ思えますよ。あ、ここにも扉があります」
卓也は扉を照らし、慎重に調べていく。
「罠はないようです。開けますよ」
その中は殺風景な部屋だった。机と何も入っていない本棚があるくらいだった。
「卓也、ここでもやるのか」
ルーメイが彼に聞く。
「ええ。これまでの部屋はみんな同じ広さだったけど、今度も同じとは限らりませんからね」
「私は机を調べるとしよう。何かあるかもしれないからな」
と、悠姫は机を動かしながら念入りに調べていく。
他の三人は通路の先を調べに行っている。こちらの三人はその間に手掛かりを探して部屋の中を調べているのだ。
「これは……本? いや、手帳のようなものか」
悠姫は机の中から何かを見つけた。ただ、どういうわけか一部が風化しており、表面に書いてある字は読めない。
「こんなところに入っていて、なぜこんなにも傷んでいるのだ?」
疑問に感じつつも、本を開いてみる。
「それは、本ですか?」
卓也が問う。
「そのようだ。でも妙だな。机の中に入っていたのに、状態が悪すぎる。それに……」
部屋には窓もない。ガラスのような窓は通路の、それも入口付近の一部だけだ。陽が差し込む事も砂が流れ込むこともこの部屋ではないのだから、保存状態はもっといいはずだ。
「壁も、通路に比べて傷んでますね。何か引っかかります」
「話してるところ悪いが、その本少し見せてもらえないだろうか?」
ルーメイは本が気になったようである。悠姫は自分が持ったままではあるものの、それを彼に見せた。
「これは解読は無理だな……ただ、漠然とだが、何かの記録のように見える」
「記録だと?」
「蔵書、もしくはこの遺跡に封印されてる何かに関するものでしょうか?」
二人はそれが気になったようだ。
「それは分からない。まるで読ませたくないかのように重要な箇所と思しき所が抜け落ちている」
ルーメイにも古代の文書は完全に解読が出来なかった。その本のようなものは、悠姫が預かる事になった。
その時、
「この先は行き止まりだったよ」
と、シオン達が扉の前に現れた。手には彼が作成したらしき地図が握られている。
「ただ、少し気になることがあってね」
彼はメモを室内の三人に見せた。その内容を確認する。
「天井から砂が漏れ出していた、ということですか?」
「そう。ここが最上層で、天井から漏れてるっていうのも分かるんだけど……最初の入口思い出してみてよ」
その場の者達はある事に気づいた。
「入口はかなり深くにあったな。それに、壁はそれよりもかなり高くまで続いているように見えた。掘り返してないから分からないがな」
「もしかして、この上にも何かあるってことですか?」
入口があったのは確かにこの階層だが、だからといってここが最上階であるという事にはならない。遺跡のある深さも考えれば、さらに上があってもおかしくない。
「でも不思議なのは入口が見当たらないんだよ。隠し階段があるかもしれないけど、さすがにそこまで調べてる時間もないからね」
彼らの目的はあくまでも全体を把握することだ、そこまで詳細に調べてはいられなかった。
「……気になるな。見て来るとするか」
悠姫はその場所へ向かって駆け出した。続いて、卓也もあとを追う。
「ここか。怪しいが、仕掛けの類は無さそうだ」
「あの天井の模様、何でしょう? それと、やはり上はありそうです」
行き止まりではあるが、卓也の超感覚は何かの物音を捉えた。その音は天井から聞こえてくることから、やはり上階はありそうだ。
「入る術がありません。ここは後回しにしましょう」
「やむをえない、か」
解決策が見つからないため、戻る事にした二人。彼らは来た道を戻っていく。
「そうですか。分かりました」
ファレンはシオンの連絡を受け、その内容をグループの人で共有した。
「なるほど、この上にも何かがあるってことか」
日和が言う。
「ただ、行き止まりだったみたいです。なのでこちらに合流すると」
「とはいえ、こっちはさほど掴めてないんですよね。あれ、イーヴィちゃん、どうしました?」
すいかは少し離れたパートナーを見遣る。
「階段よ。下に通じてるみたい。私達の前に結構な数の人が通ったみたいだけどね」
イーヴィは銃型HCでその位置を正確に記録していく。階段はあるが、通路はまだ続いているようだ。
「とりあえずここで待ちましょう。向こうが戻ってきたら、降りる組と進む組に分かれましょう」
この場で、別動隊を待つ事にする。
「おっと、それと一応この事を他の人にも知らせないといけませんね」
トランシーバーを手に取り、先程得た情報を電波に乗せて流した。
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