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【十二の星の華】黒の月姫(第1回/全3回)

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【十二の星の華】黒の月姫(第1回/全3回)

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第1章 【手合わせ願い】



 転校生がやってきた当日の午後。ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が、藤野姉妹に声をかけてきた。
藤野 赫夜(かぐや)さんですね。私は魔法剣術部のウィング・ヴォルフリートと申します。初めまして。ウィングと呼んで下さい」
「初めまして。藤野 赫夜だ。こちらは妹の藤野 真珠(まこと)ウィング、何か私たちにご用だろうか?」
 赫夜の制服の裾をしっかりと真珠が握っている。
「赫夜さんが、魔法剣術部にご興味があるようでしたので、是非、手合わせをと思いまして。いかがでしょうか」
 ウィングの言葉に考え込む赫夜。すると、赫夜と真珠のまわりをあっという間にひとだかりができてしまう。その隙を縫って、ファティ・クラーヴィス(ふぁてぃ・くらーう゛ぃす)が真珠に声をかけた。
「はじめまして、ファティ・クラーヴィスっていうの! 真珠ちゃん、まこちゃんって呼んで良い?」
「あ、はい、いいですけど?」
 警戒心を見せる真珠にファティはさりげなく笑顔を作って
「素敵な髪ね〜ねえ、私は剣の花嫁なんだけれど、まこちゃんは?」
「私、種族はなくて、【地球人】なんです」
「へえ〜! じゃあお姉ちゃんと、契約を交わしているとか?」
「はい、そうなんです…」
「じゃあ、お姉ちゃんの種族は…?」
 更に突っ込んだ質問をしようとしたファティだったが、生徒達に押されて真珠とバラバラになってしまう。
「藤野さんだっけ? もう部活とか決めたの?」
 葛葉 翔が興味津々と言ったていで、赫夜に声をかけてくる。
「いや、まだ、なのだが…実際に見て回りたいと思っているところだ」
「剣をたしなんでいるって話だけど、どこかで習ってたの? 出来ればでいいけれど、一度剣で勝負してくれないか? 自分がどれくらいの強さなのか知りたいんだ」
 赫夜はしばし翔の顔を見つめたが
「自分の実力を知りたい気持ちは、剣士として、私にもよく分かる」
「まてまて、みんな、赫夜さんが困っています」
「ウィングずるいぞ。赫夜さん、真珠さん、僕たちの部活にも来てみませんか?」
 転校生の噂を聞きつけた生徒達が群れをなして、勧誘にやってきたのだ。
「僕も手合わせを」
「私も是非、赫夜さんとお手合わせさせてください」
 金髪のレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)も、赫夜の腕に興味を持っていた。
「レイナ、やる気だね。じゃあ俺は真珠さんのボディガードでもしようか。この調子だと、周りが収まりそうにないしな。こんな可愛くて華奢なお嬢さんだ。人混みでぺしゃんこになっちまうかもしれないしな」
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)がにこっと真珠に笑いかける。顔を一気に赤らめる真珠。
「すまんな、この子は男性にそれほど免疫がないのだ。ぼんやりしたところがあるから、守ってやってくれ」
 赫夜が静麻に礼儀正しく頼むと、顔を上げて、口を開いた。
「…私のような若輩ものに、これほどの生徒の方がお相手頂けるとは感服の極み…。藤野赫夜、感謝致す。しかし、お時間も無い上、私もロボットではないので、お一人3分、一本勝負でお願いできないだろうか。ウィング殿、魔法剣術部の場所をお借りできるだろうか?」
「勿論です」

 魔法剣術部には、赫夜と手合わせしたい生徒達と、観客でひしめきあっていた。
 赫夜は木刀を貸して貰い、すっと構えを取る。一瞬、その冷ややかなオーラに剣の達人たちはひやりとするが、普通の生徒は気がついていない。
「みなさんも、それぞれのご自慢の得物があると思う。しかし、ここは学園内。私も転校初日だ。おおごとは起こしたくないゆえ、木刀での仕合いをお願いする」
「では、最初は私がお相手します」
 ウィングがまず、名乗り出た。
 数人の生徒たちがジャッジにつき、タイムを計る準備をしている。
「それでは試合開始!」
 ジャッジの生徒がぱっと腕をあげる。
 先に斬りかかったのは、ウィングであった。殺気看破と超感覚を使い、相手の剣筋を見極めながら、ぎりぎりこちらが上位に立ち、相手の力を引き出していく。しかし、一方の赫夜も太刀筋がぶれず、ウィングの攻撃を受け止めると、その力を応用して、くるり、と剣を一度まわし、踏み込んで木刀を振り下ろしてくる。それをウィングは二刀流を利用した爆炎波とトゥーレの温度差攻撃で赫夜の武器を破壊するが、素早い動きで、赫夜はウィングの攻撃をかわすと、目に止まらぬ早さで一旦退き、そしてウィングに突進して、剣を切り結んだ。その時、ウィングと赫夜の視線がぶつかったが、赫夜の瞳の赤さは尋常ではなかった。
「試合終了です!」
 その瞬間、ジャッジの生徒の声があがった。ウィングと赫夜は互いに礼をする。
「じゃあ、次は俺かな」
 翔が次に赫夜の相手として立候補する。
 自分の実力が知りたい、その言葉通り、翔は戦術としては自分の防御関係なしに攻め続けてくる。木刀とは言え、切り結ぶ音は凄まじい物があり、観客として見ている生徒達も、息をのむほどだった。
「勝っても負けても自分の実力はわかる…」
 翔は赫夜と剣を交えがら、そう考えていた。

 模擬戦を見つめている生徒の中でも、呑気なものはいた。
 アニムス・ポルタ(あにむす・ぽるた)はお茶を用意して、いきなり実況を始めたのだ。
「葛葉 翔、藤野 赫夜と切り結んでいます! 体格の差はそれほどないようですが、藤野 赫夜の迫力、木刀のみでの戦いにしては、かなりの達人かと思われます! あっと! 葛葉 翔、藤野 赫夜に自分の木刀をなぎ払われてしまいました! この勝負、藤野 赫夜の勝利! しかし、二人とも爽やかに握手を交わしています!」


 次の葉月 ショウ(はづき・しょう)は実戦形式のスキル無しを提案してきた。
「怪我なんかしたら、アクが悲しむからな。それにせっかくやるなら実戦に近いほうがいい」
木刀を二本、手にし、二刀流の構えで行う。赫夜が打ち込むと左手側で防御し、右手側で攻撃する。赫夜の打ち込みはかなり激しく強いものだった。ショウは両刀でガードし、足払いで相手の体勢を崩しに行くが、赫夜はそれをぱっと飛び上がり、再度ショウに打ち込みをかける。
 葉月 アクア(はづき・あくあ)はパートナーの葉月 ショウが模擬戦をやっている際、真珠に話かけていた。
「真珠さん、私、葉月 アクアです。…銀細工が得意なんですってね。良かったら教えてもらえないでしょうか。そのかわり、私、お菓子作りを教えてあげられると思います」
「銀細工といっても、それほど上手くないんです…それでも良かったら」
 歓談する二人に、燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)もパートナーの神野 永太(じんの・えいた)の試合を見ながら、真珠に対して話かけてきた。
「銀細工や手芸が得意だそうですが、いったいどのようなものをつくられるのですか?」
「パワーストーンなどの石を銀のワイヤーで巻いて、ネックレスにしたり、彫金をしたり、です」
 照れる真珠の姿に、ザイエンデは母性的な気持ちがもやもやと沸き上がってくる。
「私は歌うことが好きなのですが、真珠様は歌はお好きですか?」
「鼻歌程度なら…人前で歌うのは苦手なんです」
「では料理は得意ですか?」
「そうですね。普通のものならつくれます」
 鯨飲馬食、カレーは飲み物のザイエンデはそれでは今後、いずれは真珠にお弁当でも作ってもらおうと考えていた。そして最後に、
「真珠様は私のことを、どうお思いですか?」
「…はい?」
「私は、真珠様が好きですが」
「…は、はい、それはどういう」
「おっとっと、ザイエンデ、そこまでだぜ。真珠ちゃんが明日から不登校になったらどうする」
 静麻がさりげなく、ザイエンデをセーブする。
「愛が人を苦しめるのですね、よく分かります」
「いや、そうじゃないと思うぜ、ザイエンデ」
 さて道場の赫夜はと言うと、既に二人を相手にしているのに、息が上がることもなく、冷静な顔をしている。
「転校生の藤野赫夜は剣を嗜むそうだの。ふむ、調べてみる価値はあるかもしれんな」と赫夜がテロリストの可能性もあるかと踏んで、試合見学をしていた蘭堂 一媛(らんどう・いちひめ)は、赫夜の体の使い方とともに、力の使い方が上手いことを看破していた。それほど体が大きくなくとも、剣術相手の力を上手く利用しているのだ。

 ショウとの仕合いは互角に終わった。