リアクション
第2章 戦地へ 三日月湖に滞在した騎狼部隊の一人、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)。消息を絶った捜索隊の後任を任されると、メイベルには東の谷へ、との指示が下された。手がかりのまるでない三日月湖周辺での行方不明者の捜索は、戦が近付き、一旦打ち切られた。 東の谷底に落下してしまったという李少尉の捜索にあてられることとなったのである。 とは言え、騎狼は貴重な戦力、三日月湖に残る大部は、林田が戦闘部隊として率いる。メイベルはユハラとその部下ら数騎のみを率いて、捜索に赴くことになる。騎狼の性質をもってすれば、数騎とて、こういった明確に場所のわかる捜索には打ってつけであると思われる。 こうして、三日月湖から、各々の戦地へ移動していく者達…… 2-01 鷹の苦悩 「なんだおまえじゃないか。来たのか、タカムラ」 「くけけっ。よう、一緒に略奪やろうぜい」 バンダロハム傭兵の首領格であったギズム・ジャト。元同僚の傭兵が集めたという盗賊団のところへ、やはり来ていた。 そこを訪れた、教導団の鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)。 「ギーちゃん。……真一郎?」 松本 可奈(まつもと・かな)も、もちろん、一緒である。 「……」 盗賊団の巣窟の入口。鷹村は、無言で立ち尽くしている。――冗談だったか知らないが、誘ってもらって俺がまさか山賊になる訳にもいかず……。ギズムに刃を向けることはできないし、このギズムの同僚と戦うこともできる訳もない。 「くけけっ。何しに来たぁ? 俺達が盗賊やってるってギズムに聞いて、教導の部隊を率いるでもなく二人だけで来たとこみると、俺達を討伐に来たわけでもないんだろ? 仲間になりに来たんじゃねえのかい」 「アンタは、黙ってなよ!」 「くけっ」 「ああ。そうだ。俺は、あなたらに刃を向けるつもりはない。 ギズム。……東の谷で、鋼鉄の獅子がピンチなんだ」 「……」 「くけっ。鋼鉄の獅子だと?」 「俺の婚約者がいる。ギズム、俺の婚約者護るのに手を貸してくれないか?」 「婚約者だぁ? おいギズム」 「……つくづく、不思議な野郎だな。タカムラ、おまえは。 教導団に尽くす忠誠心が根底にありながらも、己の個人的な意志で動く部分も持っている」 「ギズム」 鷹村と向き合う、ギズム。そこへ、歩み出てくる可奈。 「アンタも私も! 真一郎も馬鹿なんだから感情のまま行動すればいい! 難しいこと言ってないで……」 ギズムの耳を引っ張って、鷹村の耳も引っ張った。 「どうすんの? 行くよ! 真一郎、ルカっちのとこへ早く、行きたいんでしょ。 もう、こんなやつら、放っておけばいい。アンタらも悪いこと続けるなら、そのうち、本当に教導団に討伐されるからね」 「くけっ。何しに来た、おまえら。勝手にしろや。 っておい、ジャト。行くのか?」 教導団への所属意識も強い鷹村。三日月湖の付近で害をなす盗賊団は、教導団にとって討伐されねばならない存在であろう。しかし、そこにはすでに関わり合い友人となったギズムとのことがある。ここに鷹村の苦悩があった。自分がどうにかせねばならない。 「くけけっ。ギズムおまえ、変わったな? いいだろう、おまえは出て行け。しかしここは俺様の立ち上げた盗賊団だ。力は貸さんぞ。おまえら三人で、せいぜい婚約者助けに行くがいいよ? まだ生きてたらだがなっくけけ!」 「ギズム。東の谷には、駐屯している敵の食糧や物資もある筈なんだ。 それを狙う方が、俺達と、彼らの目的も一致する。それで、何とか説得ができないだろうか」 「……。わかった。 俺が動くのは、あくまでおまえがルカっちのために、俺にわざわざ手助けしてくれんかと言いにきてくれたからだ。 あいつらの方は、奪える物資があるなら、それで動くだろう。おまえは、おまえら教導の敵であるあいつらのことも考えてくれたわけだな。あいつらは、俺が説得して連れて行く。時間はかかるかも知れん。皆、馬鹿ばかりだ。……そうか、俺も、おまえも、それにカナもだったな。ハハハ、じゃあ、先に行っててくれや。東の谷だな。約束は守る。恋人を死なせるな」 「ギズム……!」 |
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