First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
Next Last
リアクション
第3章:イベント会場・昼
今日は屋上のあちこちに芦原 郁乃(あはら・いくの)が作成したウルトラニャンコショーのポスターと、宣伝用に縮小されたチラシを目にすることができるだろう。これらは急に作られたものではあるが、心のこもった味のあるデザインになっていた。友人の霧島 春美(きりしま・はるみ)から連絡を受けた彼女は得意の美術を生かして裏方周りを担当していたのだった。そんな彼女を補佐する秋月 桃花(あきづき・とうか)は、以前『ショーをやるならこういう服はどうか』と盛り上がった時に作った衣装を、今日の出演者のためにサイズ直しをしている。どうもスタッフが食中毒で倒れてしまったらしく、超 娘子(うるとら・にゃんこ)が春美に頼んで知人を集めているようだ……。はたして即席ともいえるチームでショーを成功させることはできるのだろうか?
「メンテに出してた騎士兜を受け取った直後だったのは、ラッキーだったわね」
「ブリジットの被ってる騎士兜って、前半分しかないんですよね」
ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)と橘 舞(たちばな・まい)は急遽出演が決まったものの、お嬢様特有ののんびりした雰囲気……いや、ブリジットが聞いたらそれは舞だけだと怒られるかもしれない……でさほど緊張はしていないように見えた。別の場所で舞台経験もあるからだろうか。ナレーションの相沢 美魅(あいざわ・みみ)と音響担当の金 仙姫(きむ・そに)は今日の打ち合わせをしていた。
「ふむ。わらわの役目は、場に相応しい曲を選曲して歌って場を盛り上げることじゃな」
「仙姫……ヒーローショーに合う曲とか知ってるんでしょうか。私は普段そういうのは見ないので、どんな曲なのか聴いたことないですけど」
心配な部分もあるようだが落ち着いた性格の美魅がうまくフォローしてくれるだろう。悪役としてピンチヒッターを引き受けた姫宮 和希(ひめみや・かずき)は、ピクシコラ・ドロセラ(ぴくしこら・どろせら)とディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)から本日の説明を受けてあんぐりと口をあけていた。
「ヒーロー役は埋まってるので、悪の女幹部役だと!?」
いや、正確にはその衣装が問題だったのだ。手品コーナーの宣伝をしたかったピクシコラの趣味だろうか?
「衣装が黒いバニーガール衣装にアイマスク……。セクシーで恥ずかしいな……」
「ボクたちもメイクしなきゃ。いそいでいそいでっ!」
「引き受けたもんはしゃーねぇな。衣装の上に漢気の源、魂の学ランを羽織って根性で頑張るぜ!」
美魅がショーがまもなく始まるとアナウンスをする声が聞こえる。さあ、各自が持ち場に急がなくては。
「空京百貨店に来てくれたお友達。こんにちは〜!」
「こんにちは〜!!」
美魅のアナウンスとともにイベント会場の幕が上がり、一緒に大きな声で挨拶をしたミミ・マリー(みみ・まりー)は、これからどんなショーが始まるのかをわくわくとした目で見ていた。
「あら? かわいいうさぎさんがお茶会を開く様ですね」
「こんにちは、皆さん。ボクのお茶会にお客さんを招待したいんだけど、遊びに来てくれる人はいないかな?」
ステージにはお茶会のセットが準備されており、白いつば広帽で顔が見えないディオネアが優雅にお茶を飲んでいた。ゴスロリの白いカラードレスを着ており、どこかの貴族のようだ。テーブルには2人分のお茶とお菓子が余っている。ディオが呼びかけると会場の子供たちが何人か元気に手を挙げた。その中から郁乃とミミを呼び寄せる。郁乃は美術も担当しているが今回は招待された他のゲストに、今回の行動の流れをこっそり教えてあげる役目も受けていた。
「こんにちは、お名前は?」
「郁乃です」
「ミミだよ!」
2人はすすめられたお茶とお菓子を食べながらディオネアの質問にニコニコと答えている。
「今日はおうちの人と来たのかな?」
「えっと、パートナーの壮太と来てます。壮太〜!」
「おー、がんばれー」
瀬島 壮太(せじま・そうた)はぼへーっと足を崩した体制で、コーヒーをちびちびと飲んでいるところだった。ステージ上で手を振られて、やる気なさそうに手を振り返している。あー、こりゃ。楽でいいわ。
壮太はヒーローショーが見たいというミミのために前のほうの席を取ってやったあとは、後方のベンチで日曜日のお父さんのごとくぼんやりしているようだった。
「キミは料理が苦手なんだって?」
「それはいうなぁ! てか誰が教えたっ!?」
和やかに談笑していたが、BGMが緊迫したものに変わると突然ディオネアの様子が変わり『ふっふっふ』とあやしい笑い声を出し始める。なんだか様子がおかしいぞ!?
「君たちは素質があるブラック・ラビット団のメンバーにしてあげるよ☆」
帽子を脱ぎすてるとその中から金色の角が見え、顔には悪役らしい隈取りが施されている!
「「キャーッ♪」」
ミミが右、郁乃が左からディオネアの服を引っ張ると、ディオネアの服が左右にさける。その中から先ほどの白い服とは違う黒い悪役らしい衣装が現れた。
「この2人を捕まえるんだよー!」
「「「サー、イエッサー!」」」
さらに春美、ピクシコラ、桃花、蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)、十束 千種(とくさ・ちぐさ)、が女幹部の和希とともに舞台袖の量は時から登場するではないか!! 全員が黒いバニー衣装と仮面、ニーソックスをみにつけており、ボスの和希はオプションで鞭を持っていた。ミミと郁乃はブラック・ラビット団の団員にお茶の席に戻されるが、郁乃がミミにこっそり今回の流れを説明していたのでニコニコとした様子だった。楽しそうな声で助けを呼んでいる。
「こんな時は正義の味方、ウルトラニャンコを呼びましょう! ウルトラニャンコー!」
「助けてー! ウルトラニャンコー♪」
「ん〜。声が小さいかな? もう一度、さんはいっ」
「「助けてーー!! ウルトラニャンコー!!」」
「ウルトラニャンコがいる限り、この世の悪事は許さない! 百貨店の平和は私が引き受けたニャッ。とうっ!」
客席から娘子が登場すると、彼女はそのまま舞台まで突っ走っていき高くジャンプした。そのまま舞台に飛び乗ると、悪の団員と勇敢に戦っていく。
「正義のヒロイン☆ウルトラニャンコ、ここに参上!」
「はーっはっは!! 正義など数の前では無力なものだ。ゆけっ、我が手下どもよ!!」
「「イエーイ!!」」
羽織った学ランをマントのようになびかせた和希がパチィン! と指をはじくと、ピコピコハンマーを持った桃花とおもちゃの剣を持った千草が立ちはだかった! 春美とマビノギオンの演出用の魔法の爆炎の中で派手に立ち回る3人。
「うなれニャンコの拳と肉球!」
娘子は2人軽々と倒してしまう。負けた団員は書割の向こう側に姿を消した。しかし、魔法が使える相手に苦戦してじりじりと後退している……ピンチ到来、どうするウルトラニャンコ!!
「ファンタスティック☆ ボスに手出しはさせないわ!」
ピクシコラはウルトラニャンコに戦いを挑む前に、ウサギやハトを出す手品ショーを挟んだ。捕まっているミミや観客席のメイベルやミルディアが拍手を送っている。
「必殺、ブラック・トライアングル・マジックッ☆」
ピクシコラはトランプ手裏剣でウルトラニャンコを舞台袖まで追いつめると、春美・マビノギオンと連携して派手な演出の魔法攻撃を仕掛けようとしている!!
「ニャンコのピンチです! みんなで応援しましょう!」
美魅が呼びかけると、市井や郁乃たちも子供たちと一緒に『がんばれーっ』と応援し、会場は正義の逆転を願う声援でいっぱいになった。
「は、はんっ。そんなに応援したって、悪の力に勝てるものか!!」
応援にたじたじとしながらも強気な態度を崩さない和希。そんな時、逆光の中から現れる人物がいた。前半分しかない鉄の仮面をつけた金髪の騎士が、らっぱを吹いている従者の舞を連れてイベント会場の屋根から飛び降りた。舞はラッパを吹きながら横にある階段を使ってのんびり到着している。
ぱぱっぱー ぱっぱぱー ぱぷーん〜♪
「ニャンコのピンチに謎の仮面騎士登場です。敵なの? 味方なの?」
ナレーションがさりげなく場を盛り上げる。
緊張感のない、ラッパ演奏だった。舞はこういった状況にあう音楽が分からなかったらしい。裏で頭を抱えた仙姫はゲーム音楽のバトルを連想させるような、軽快で心が熱くなるような音楽を大音量で流すことにする。
「通りすがりの仮面騎士でっかめん、華麗に参上ってね。ウルトラニャンコ、助けに来たわよ!!!」
「助かったニャ!!」
でっかめん……というかブリジットなのだが、本人が隠したいようなので観客は黙ってあげることにした。ブリジットはチェインスマイトで3人をバッタバッタと倒し、舞が娘子にヒールをかけてやる。こうしてディオネアと和希と2対2の戦いになった。
「必殺、クローバーアタック!!」
「ドラゴンアーツ、この攻撃、受けれるか!?」
ディオネアが投げたクローバーにあたって大げさにのたうちまわる娘子。ブリジットは和希の軽身功と怪力ののったドラゴンアーツに苦戦していた。
「ウルトラニャンコ、あれ、行くわよ!!」
ブリジットと目が合うと、2人は高く跳びあがり、左右対称にポーズを決める!! これぞ必殺技、とくと見さらせ友情パワー!!
「「砕くぞ悪の心と野望! 必殺・双超蹴(ツインウルトラキック)!」」
「「ギャアアアア!!!!」」
2人同時の飛び蹴りがあたる瞬間、春美が光術をかけて観客の目をくらませた。光がおさまった後には目の部分にあざをつけた悪の団員たちが、ぐで〜っとのびている。
「も、もう悪いことはしないぜ〜……」
白旗を振って和希が降参し、ディオネアも悪いことしてごめんなさい。とぺこりと謝った。
「ありがとう、でっかめん。そして応援してくれた皆のおかげで百貨店の平和は守られたわ!!」
娘子はブリジットと握手をすると、ミミと郁乃に参加賞のウルトラニャンコのヌイグルミを渡した。
「みなさんの夢がつまった素敵な玩具箱。空京百貨店をこれからもよろしくニャ☆」
こうしてウルトラニャンコショーは大きな拍手の中無事に成功し、最後はカーテンコールでキャスト全員が再登場して一緒にお辞儀をしていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
控え室の和希のもとにメイベルたちが挨拶に来た後、市井もミルディアを連れて知り合いをからかいにやってきたようだ。
「はは、幹部役ハマってたぞー! まあ、バニー衣装ってのは意外だったけどな」
「汗で髪の毛や服が肌に張り付いて気持ち悪いぜ……。体形が女幹部にしては貧しいってか? ははっ、こまけーことは気にするな!」
市井たちが出ていくのと入れ違いに、娘子が春美たちと一緒におごりのソフトクリームを持ってくる。
「いちごが舞さんニャ。バニラが美魅さん、和希さん、郁乃さん、桃花さん、マビノギオンさん、千草さん、でっかめんさん。バニラ人気だニャ。はい、仙姫さんのチョコ。娘子たちとミミちゃんはミックスニャ☆」
「……それにしてもウルトラニャンコさんの運動神経、並みじゃありません。きっととても腕の立つ方なのでしょう」
千草はソフトクリームを受け取りながら、娘子の身のこなしをさりげなくチェックしている。今回、魔法効果やおもちゃの銃で演出のサポートをしていたマビノギオンは衣裳が最初、ちょっと恥ずかしいと思っていたが最後ではノリノリで演じることができたようだ。
「仕事の後のアイスは美味い!」
郁乃もおなじさらわれ役のミミと満足そうにソフトクリームにぱくついている。
「えへへ甘いね、おいしーね♪ うさぎちゃん達のデートはうまくいってるかなー?」
「みんなでハッピーエンドになるといいね☆」
春美とディオネアはふふっと笑いあった。
「フルフェイスの騎士兜は髪が痛むし、夏場は蒸れるからって、それって兜の意味ないんじゃ……どちらかという仮面。あ、だから仮面の騎士なんだ」
「い、いまさらね……舞」
「皆で頑張ってショーが成功して、本当に良かったですね」
ぽわわん、と舞が感想を述べると仙姫も機材の片づけをサボりながらうむうむと頷いた。
「まぁ、舞にも釘をさされていたしのぉ。今回は舞台端で我慢してやったわ」
「無茶しないか少し心配でしたよ」
「しかし、アホブリにも恥ずかしいという感情があったとは、驚きじゃったわ」
ブリジットは飛び蹴りのシーンがうまく決まったことと、舞が劇中で自分の名前を呼ばなかったことに安堵していた。
「ま、楽勝よね。通りすがりのヒーローに名前は必要ないわ」
くすくすと笑う仙姫と舞の声は聞こえない、聞こえない。
「あー、ここにいたのかミミ。今日はお世話になりました。ほら、ちゃんとお礼言ったか?」
「壮太! えっと、ありがとうございましたっ」
迎えが来たため、ミミはもらったヌイグルミの手をつかんでバイバ〜イと手を振り帰っていった。その2人の背中を見つめる娘子の胸には、ショーの成功による喜びがじわじわと湧いてくる。にやにやが抑えきれなくなって、思わずガッツポーズを作った。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
Next Last