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リアクション
第一章 パラミタイルカふれあいツアー 4
「わぁい、いるかちゃんがたくさんです」
フリルがいっぱいついたセパレート水着に身を包み、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は目を輝かせてイルカの群れを目で追っていた。
「おにいちゃん、みてますか? きょうはイルカちゃんと思いっきりあそぶですよ」
ヴァーナーが隣にいる、黒崎 天音(くろさき・あまね)に呼びかける。
「あぁ、見てるよ。本当にたくさんいて、かわいいな」
微笑みながらヴァーナーの頭を撫でる天音。彼も黒地のサーフトランクスタイプの水着を着用しており、泳ぐ準備は万端だった。
「それにしても大丈夫か? ちゃんと泳げるか?」
「ライフジャケットっていうのきたら、しずまなくてだいじょうぶみたいです」
「お、そうだな。指導員さん、ライフジャケットってありますか? ついでに浮き輪があれば、それも」
天音が呼びかけると、指導員はすぐにオレンジ色のライフジャケットと水玉の浮き輪を持ってくる。
天音はそれをヴァーナーとパートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)に渡し、自らもきちんと着用した。
三人が海へと入ると、待ちわびたかのようにイルカたちがゆっくりと近づいてくる。
「イルカちゃん、おいでー」
ヴァーナーの呼びかけに、パラミタイルカがすぐそばまでやってくる。
ヴァーナーは目を輝かせてハグやちゅーをくりかえすと、イルカは喜んだようにヴァーナーを乗せたままゆっくりと泳ぎ始めた。
「お、楽しそうだな。僕にもできるかな」
天音が試しに近くのイルカの背ビレに捕まると、心得たとばかりにイルカはヴァーナーのイルカを追って泳ぎだす。
「おぉ、これは楽しい! おい、ブルーズもどうだ?」
「いや、我はいい。浮き輪というものが、これはこれでなかなか良くてな」
呼びかけられたブルーズは浮き輪に腰を下ろした状態でぷかぷかと漂っていた。
その隣を、篠宮 悠(しのみや・ゆう)と七瀬 歩(ななせ・あゆむ)がゆっくり泳いでいく。
「うーん、和むなぁ。えへへ、握手して握手ー♪」
すいと寄ってきたイルカに歩は手を伸ばし、イルカのひれをつかんだ。するとイルカは悠へと向き直り、きゅいと小さく鳴いてみせる。
「えへへ、可愛いね」
「あぁ、そうだな。ところでこんなのを持ってきたんだが、野生のイルカもこれで遊んだりするんだろうか?」
そう言って悠が取り出したのは、古びた感じのビーチボールだった。
「あ、ボール遊びですか、いいですね!」
「久しく物置で眠っていたやつなんだけど……」
「大丈夫ですよ。えっと、まずはどうやって遊ぶものかあたしたちでお手本を見せましょうか。悠さん、ちょっと向こうのほうまで行ってください」
歩の指示に従って、悠がちょっと離れていく。
「いきますよ、はーい!」
ぽ〜ん、とビーチボールが宙を舞い、悠の頭上に移動していく。
「おっけー」
悠がぼんと打ち返し、ボールは再び歩の元へ。
「お、いいですね。もう一度!」
ぽ〜ん。ボールは悠からちょっとずれた場所へ。
「っと!」
悠は飛び込むように身を乗り出して、右手を伸ばした。しかし、ボールに触ることはできたもののそれはあさっての方向に飛んでいってしまう。
そのボールが飛んでいった先では、咲夜 由宇(さくや・ゆう)が浮き輪につかまりながら、イルカ相手に川魚の刺身を与えているところだった。
しかし、イルカはなかなか口をつけようとしてくれない。
「きっと、普段食べなれていないのは嫌いなんだよ」
不満で口を尖らせている由宇に、ルンルン・サクナル(るんるん・さくなる)がやんわりとフォローを入れるが、それでも由宇は気に入らない。
「んー。食わず嫌いはいけないんですぅ きっとおいしいと思うのに……きゃっ」
ぼそりと愚痴をこぼしたときに、ちょうどビーチボールが落ちてきた。
「すいませーん」
歩が由宇たちに向かって手を振る。
「ボールとっていただけますかー?」
「いいよー」
ルンルンがボールを引き寄せて、ぽーんと放り上げた。
全然別のほうへと飛んでいった。
「……てへっ」
「かわいく笑ってごまかそうとしても、だめですぅ」
ぽこんと由宇がツッコミ。
すると、変なところに落ちたボールが突然跳ねた。
直下の海面から現れたのは、一匹のパラミタイルカ。
ボールをぽんぽんと突き上げたのちに、ぽーんと歩たちへと返してよこす。
「わぁ、すごいですぅ!」
イルカの行動に由宇は手を打って喜ぶ。
「イルカさん、私とも遊びましょう〜。おいで〜」
由宇が両手を開いて呼びかけると、ぴょこんとルンルンの横でイルカが顔を出した。
そして、ルンルンをぽ〜んと跳ね上げる。
「ってイルカさん、ルンルンはボールじゃないよう! 海に飛ばさないでよう! え、何? なんで一緒に泳いでもルンルンのこと追いかけてくるの!? あ……でも……もっとやって……」
*
そんなのどかな光景が海上で繰り広げられている一方で、船上からゆったりと過ごす人たちもいた。
「桃花、楽しいね!」
芦原 郁乃(あはら・いくの)がワンピースを翻しながら振り返ると、秋月 桃花(あきづき・とうか)は「そうですね」とにっこり笑ってみせた。
「ところで、今日のお洋服は下ろしたてなのですね。帽子とサンダルも」
「あ、気づいてくれた?」
「えぇ、郁乃様のことならなんでもわかりますとも」
桃花が胸を張ると、郁乃は明るい笑顔をつくって桃花に飛びついた。
桃花も郁乃を抱きとめると、エスコートするように船べりへと近づいていったのだった。
「さぁ、せっかくきたのですから、イルカと触れ合いましょうか」
「そうだね。それじゃあ、魚を……あっ」
エサの入ったバケツへと伸ばした郁乃の手が、ちょうど同じことを考えていた桃花の手と触れ合った。
「あ、すいません」
「ごめん、まずは桃花からどうぞ」
「いえ、いえ、郁乃様から」
「それじゃあ……」
郁乃がバケツの中の魚をつかみ、桃花の手を引いた。
「……一緒にやろうよ」
桃花は一瞬だけ驚いたようだったが、すぐに「はい」と笑って手を重ね、二人でイルカにエサを与えたのだった。
*
「あーん、かわいいですわ☆」
きゅんきゅんと胸を高鳴らせるラズィーヤ。
その隣で幻時 想(げんじ・そう)は深呼吸を繰り返し、やがて平静を装って話しかけた。
「イルカ、可愛らしいですね」
「もちろんですわ。海の生き物で、一番といっても過言ではありませんもの」
「なるほど。……そういえばラズィーヤ様。桜井校長も可愛らしい方ですが、百合園女学院はシャンバラ王国復興後の宮廷で働く女官は勿論……その、宦官の育成の為にも作られたとか」
「えぇ、そうですわ」
「ということは、つまり……ラズィーヤ様は桜井校長や百合園に在学するいわゆる男の娘達の可愛さを保つ為に宦官にしてしまうとか……そんな考えをお持ちなのでしょうか?」
そんな質問に、ラズィーヤは一度目をぱちくりとさせたが、すぐに含みのある笑顔を浮かべた。
「ふふふ、想さんは無粋ですのね。今はイルカを愛でるときですわ♪」
「す、すいません」
「沖になさらないで。もし機会があれば、いずれお話いたしますわ。それまでは、想さんのご想像にお任せいたしますわ☆ どうぞ、ご自由にお考えになられて♪」
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