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パラミタイルカがやってきた!

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パラミタイルカがやってきた!

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第二章 VSゲドー密漁団 2

「リア、ワタシが囮になります。その間に、足場は不安定でしょうが、レールガンによる敵船の狙撃を頼みます」

 狙撃がやんだのを見計らって、ルイは再び軽身功を発動して海上に立った。

「了解。ルイ、思いっきり暴れてくるのだ」

 パートナーのリア・リム(りあ・りむ)が機晶姫用レールガンを構え、狙撃体勢になる

 その隣で、シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)が「ルイ、私は?」自分自身を指差した。

「セラはリアが狙っている間無防備になりかねませんので、近づいてきた敵を魔法でやっちゃいなさい」
「はぁい。ルイ、囮頑張ってね〜」

 片手を上げて返事をし、ルイは密漁団へと走り近づく。

「さぁゲドー密漁団の方々、お仕置きの時間ですよ?」

 密漁団の船が小回りが聞くといっても、それは大型船と比べての話だ。海の上を自由自在に走り回るルイを振り切ることなど出来るはずがない。
 ルイは雷電を纏った拳と脚で牽制を繰り返し、団員たちの気をそらしていた。
 その隙を利用して、リアはレールガンの狙いを定めていた。

「させるかよ! サっちゃん、やれ!」
 彼らの狙いに気づいた団員の一人が指示を飛ばすと、大口を開けた鮫がリアの背後から飛び出した。

「サンダーブラスト!」

 しかし、セラの雷撃によって、すぐに海中へと沈んでいく。

「集中してるリアに近づかせないよ!」
「照準誤差修正完了……発射!」

 発射された電磁砲が敵の推進部を貫く。
 団員は黒煙を上げ始めた船を乗り捨て、海中へと飛び込んだ。
 直後、ボンッ!と船が爆発・炎上したのだった。

       *

「かわいいイルカを殺すだなんて!許せない!」

 別サイドからは、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が密漁団への船へと近づいていた。
 フラメンコを踊りながら。

「な、なんだこいつら!?」

 リアトリスだけでなく、ベアトリス・ウィリアムズ(べあとりす・うぃりあむず)までもが、フラメンコを踊っている。
 密漁団が、驚いて機関銃を発射したが、なぜかフラメンコの踊りを邪魔するのをためらうかのように、弾丸はリアトリスたちの脇を通り過ぎていった。
 その隙を縫って、スプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)がすばやい動きで相手を撹乱していく。

「リアトリス! 今です!」
「わかった」

 言うと同時に、リアトリスが轟雷閃を放つ。
 不意を突かれた密漁団が、痺れてその場に倒れこむ。

       *

「ほら、タンタン! 私たちも負けてられないわよ!」
 一時様子を見ていた氷見 雅(ひみ・みやび)も、ルイチームの活躍を見て再び空飛ぶ箒へとまたがった。
 機晶姫のパートナータンタン・カスタネット(たんたん・かすたねっと)を無理やり載せて、空を舞う。
「ふわぁ、ずっとお休みしてるんじゃなかったんですか?」
「そんなわけないでしょ。なんかわかんないところから狙撃されるから、ちょっと待機してただけよ!」
「でもでも、関節から潮風が入ってくるのです。このままですと、絶対中身に悪影響を及ぼすと思うのです。
「グダグダ言わない! いいからさっさと真面目に狙撃しなさい」
「うぅ……雅はタンタン使いが荒いのです」

 指示に従って、タンタンが銃撃を放っていく。
 雅も遠当てを団員たちに喰らわせていたのだが、不意にその動きを止めた。

「面倒くさい」
「え? どうしたのですか?」
「こんなのちまちまやってられないわ! そろそろ乗り込むわよ、タンタン!」
「乗り込むって……ふわぁ!」

 雅はタンタンの首を取りはずすと、敵へ向かって放り投げた。

「おっとぉ!」

 団員はとっさに向かってきたタンタンの頭を避けた。
 的が外れて、ゴーンと甲板が小気味良く鳴る。

「けっ、そんな攻撃に当たると思ったら……」

 団員の目の前に、続けてタンタンの身体が振ってきた。
 ゴーン。大当たり。

「おい、お前! のびてんじゃねぇよ! くそっ!」

 仲間の身体を揺する団員は気づかなかった。
 彼の後方に、一匹のイルカが近づいてきたことを。

 しかしそれは、彼らが狩ろうとしていたパラミタイルカではない。

「おっと、そこまでです」
 それは、イルカ化したアリシア・クリケット(ありしあ・くりけっと)。そして、アリシアに掴まってやってきた浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)だった。
 海中から飛び出した翡翠は団員の背後を取り、そのまま海へと蹴落とす。

「せっかくだから、これはいただいときますね」

 団員が落とした機関銃を拾う翡翠。そして、そのまま別の敵へと射撃を開始する。

「ほらほらサメさん、こっちへおいで」

 その間、アリシアは水中でサメを撹乱していた。
 挑発してサメたちを惹きつけた後、氷術を発動。サメたちは急に出来た氷壁にぶつかり、動きを鈍らせていく。

「ふぅ、こんな感じかな?」
「アリシア、お疲れ様。大丈夫でしたか」
「あぅ、翡翠君、お腹減ったんだよ……」

       *

「むおぉ! お前ら、邪魔だおぉ!」

 団員が憤りながら機関銃を乱射する。
 しかし、それはザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が氷術でつくった氷の壁によって、防がれていった。

「海で作れる壁ですからね、機関銃程度では壊せませんよ」

 ザカコは涼しげに言って、鉤つきロープをなげて敵の船を引き寄せた。間髪いれずに、バーストダッシュで飛び移る。

「くそっ、簡単にはやられないぜぃ!」

 密漁団が武器をダガーに持ち替えてザカコへと迫る。

「そんなダガーでカタールに立ち向かうとは」

 ザカコは不適に笑い、カタールを一閃した。
 団員は慌ててダガーで防御したが、カタールに纏われていたのは雷術。ダガーを通して電撃を浴びてしまい、団員はその場で倒れてしまった。

「さてと。それではちょっと失礼しましょうかね」

 敵をロープでぐるぐるまきにしたあとで、ザカコは光学迷彩を纏う。
 これから船が沈むまでの数分間。金目の物がないかと船室に入っていった。

       *

「ゲドー姐さん。だぁいぶマズイ戦況なんですけど、いかがいたします?」
「よし、逃げましょう!」
「決断、早っ」
「賢いものは、迷ったりはしないものよ。サメたちをしんがりにして、何とか時間を稼ぐのよ! 半分は攻撃があたらないように水中からイルカを狙いなさい! もう半分は、やつらの邪魔を!」
「アイアイサー!」

 ゲドーの指示通りに、数体のサメが海中にもぐってイルカを追い始めた。
 水の中ゆえ攻撃は届かず、むしろ下手に攻撃してはいるかにまで被害が及んでしまう。
 そのとき、シャチ獣人の逆戟 カオル(さかまた・かおる)が、パラミタイルカをかばうようにサメたちの前に立ちふさがった。

「お前ら!このままやられっぱなしでいいのか?」

 逃げ惑うだけのパラミタイルカたちに対して、カオルは背中で檄を飛ばす。

「歯鯨の種族として、イルカ族として、狩猟種族としての誇りを忘れたのかッ!!」
「そうだよ、イルカさん。逃げてばかりじゃ、また危険に曝されるよ」

 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)も船の上から呼びかける。
 しかし、イルカたちから感じられる雰囲気は、弱々しいまま変わらない。サメの相手をかおるに任せて、散り散りに逃げていく。

「ちっ。そうやって嫌なことがあるたびに逃げていりゃいいさ。……もっとも、その間にオレはイルカ族最強の誇りを守るために下等生物のサメどもと戦ってくるがなッ!」

 吐き捨てて、カオルはサメたちと戦う。
 だが、その姿を見たからだろうか。一匹のイルカが、サメに向かって攻撃を仕掛けたのだ。
 それを皮切りにして、数体のイルカが群れとなってサメに攻撃しだす。

「おめぇら!」
「元々イルカさんたちはチームで狩りをする生き物ですからね。チームワークは抜群なはずです☆」
「よし、いいぞお前ら! 逆戟イルカ海賊団の結成だ! キャプテンはオレ!」
「やったね、オルカちゃん☆」
「うぜぇ、女みたいな本名で呼ぶな!!」

       *

「ゲドー姐さんのために、なんとか時間を稼ぐっス!」

 団員の一人がサメを率いて、ラズィーヤが乗っている船へと突撃してくる。

「やらせません!」

 そこに割って入ったのは、橘 舞(たちばな・まい)が操舵する小型船だった。

「まったく、ツインドリルは世話が焼けるわね」

 悪態をつきながらラズィーヤの船へと移り渡ったのは、ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)。そこへ、舞が慌てて頭を下げる。

「すいません、ラズィーヤさん。ブリジットは本当は心配していて……痛いっ」
「あのね、舞。何度も言うけど、私はツインドリルの心配なんてしてないわよ。胸がきゅんきゅんとか言ってるドリルとかキモいし、猫かぶるにも程があるでしょ」

 一気に言い切ると、ブリジットはラズィーヤの前に立ち、持ってきた鉄扇を手渡す。

「ほら、忘れ物よ。これでアンタも自分の身くらい守れるでしょ」
「ブリジットさん、ありがとうございますわ☆」
「な、なにお礼なんか言ってるのよ! 私らだけ汗を流すなんて馬鹿らしいから持ってきただけじゃない!」

 なぜかちょっと怒り気味のブリジットを横目にして、金 仙姫(きむ・そに)はやれやれと首を横に振るのだった。

「はぁ、アホブリは素直じゃないのぉ。……さて、ひとまずは密漁団の奴らを落ち着かせるとするか。わらわの歌を聴き、己の犯した罪の深さを知り、悔い改めるがよいわ」

       *

「ゲドーさん! 昔BBQとカラオケでご一緒したゲドーさんでしょう?」

 逃げようとするゲドーの船へと、レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)が近づいていった。

「だ、誰?」

 と首をかしげたゲドーに向けて、レロシャンはさらに呼びかける。

「私ですレロシャンです! あの頃の貴方はこんな事する人じゃなかったはずです! もうやめましょうよ!」

 不審そうに眉根を寄せていたゲドーだったが、やがて「おぉ」と手を打った。

「あのとき、私がじっくり焼いていた牛カルビを根こそぎ取っていったレロシャンか!? あのとき、私と同じ曲をかぶって入れて、しかも私よりうまかったレロシャンか!」
「あれ、そうでしたっけ? そこらへんはよく覚えていません」
「こっちはちゃんと思い出したわっ! くぅっ、牛カルビの恨みは今こそ果たすべきなのに、リーダーとして逃亡を支持しなければいけない我が身がつらい!」
「逃がしません!」

 レロシャンは船から飛び出し、軽身功で水面をダッシュする。
 遠当てを放ちって水しぶきを上げ、機関銃の照準を乱しつつゲドーとの距離をつめる。
 そこへ、団員の別の船が割り込んだ。

「ゲドー姐さん。ここはおいらに任せて逃げてください。なぁに、心配しなくても、すぐに追いつき……」
「邪魔です!」

 セリフを全部言い終えるまもなく、団員は乗り込んできたレロシャンにぼこぼこに殴られるのであった。

「団員F、アンタの墓は毎朝綺麗に掃除してやるからね……」

 ゲドーは涙を流しつつ、囮となった団員の船を見送った。

「それにしても、収穫ゼロどころかマイナスってどうなのよ! こんなことになるなんて、聞いてないわよ!」
「あぁ、それなら団員Hのやつが、収穫を得たみたいですよ」

 そういって示した先には、金貨の詰まった宝箱を持ち、綺麗に着飾った真口 悠希(まぐち・ゆき)がいた。

「白旗をあげて、やってきたそうで。」
「あの、どうかこのお金で……イルカさんや皆さんを傷つけるのをやめてください。もし足りなければ私を捧げてでも」
「ふぅん、あなたなかなか可愛いじゃない。よし、気に入った!」

 ゲドーが悠希と握手しようと手を伸ばしたとき、悠希はすばやくゲドーの背後に回り、後ろから羽交い絞めにした。

「くっ、私たちを甘く見ないでよ! いくら私を捕まえたところで……」

 悠希はスカート下の脚に付け隠していたさざれ石の短刀を首筋に当て、ゲドーの首筋に当てる。

「あ、暴れないで下さい…この短刀は石化する能力もあります」
「きゃー、だめー! みんな動かないでー!」
「こんな事してごめんなさい! でもボク、誰にも……貴方達にも傷ついて欲しくない……罪を重ねて欲しくないです。今ならアナタや部下様達の刑も軽いと思います。貴方達程の力があれば更生して真面目にやっていける筈です」

 もう一度、首筋に刃を当てて、悠希がすごんでみせる。
 緊迫した空気に周囲の動きが止まったかと思われた、が。

 にゅるり

 突如、ゲドーの船にパラミタイルカの身体ほどもある図太い触手が巻きついた。

「きゃぁ!」

 触手がぎゅっと力を入れるだけで、ゲドーの船はたちまち壊れ、乗っていた人たちは皆海へと投げ出されてしまった。

「パ、パラミタオオダコだ……」

 その光景に、指導員が愕然としながら叫ぶ。

「パラミタオオダコが出た!」