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【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

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【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

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「ふむ、平安の陰陽道は現代の魔術に通じるものがある……非常に興味深い。……だが、この時代には眼鏡が存在していないではないか」
 陰陽師の世界に溶け込もうとした四条 輪廻(しじょう・りんね)だが、眼鏡なしには行動もままならない上、もし付けられたとしても違和感を抱かれてしまう。そう考えた輪廻がしばらく逡巡した後に出した答えは。
「……決めたぞ。どうせやるなら徹底的に、だ」
 輪廻の眼鏡がキラリ、と光を放った――。

「ミーミルさん、京の街並みはどうですかー?」
「道が真っ直ぐしてて、新鮮です。イルミンスールはあちこちに枝があって、くねくねしているので」
「そうですねー、私も最初はどこに何があるのか分かりませんでしたー」
 豊美ちゃんとミーミルが手を繋いで京の町を散策していると、一軒の水晶細工を扱っている店が二人の目に止まった。
「わぁ、綺麗です。色がついているのもあるんですね」
「人の手で丁寧に作られたものは心を惹きますよねー。……あれ? これってどこかで見たことありますねー」
 言って豊美ちゃんが、見慣れているけれども平安時代では見慣れないはずの道具を手に取る。一対の水晶を枠で固定し、棒の伸びたそれは、どう見ても眼鏡のようであった。
「わぁ、くらくらしますー」
 試しにかけてみた豊美ちゃんが、ボヤける視界にふらつき、ミーミルに支えられる。
「それはつい最近、四条家お抱えの職人が開発したらしいんだ。遠くのものがよく見えるって評判だよ。うちでもようやく一つ仕入れられたんだ」
「そうなんですか。眼鏡ってこの時代からあったんですね」
「ち、違いますー。眼鏡が最初に日本に伝わったのは16世紀ですー。うーん、誰かが手を出しちゃいましたねー。これからどんな影響があるのか――」
「ミーミル!」
「ちびねーさん!」
 豊美ちゃんが腕を組んで唸っているところに、ミーミルを呼ぶ声が聞こえてくる。振り向けば、ミーミルの『姉』と『妹』、ヴィオラネラの姿があった。
「姉さま、ネラちゃん! 二人とも来てたんですね」
「ああ、私とネラは菫に誘われて一緒に来たのだが……少々厄介な事になってな。豊美さんに伝えてもらおうと思って来たのだが、その必要はないみたいだな」
「はい、私が豊美ちゃんですよー。それで、菫さんがどうしました?」
「話すより見てもらった方がいいだろう。済まない、付いてきてくれるか」
 ヴィオラとネラが、豊美ちゃんとミーミルを茅野 菫(ちの・すみれ)のところへ案内する。道をいくつか曲がった先、人だかりの出来た先で轟雷が落ち、音と衝撃を生んだ。
「うわー、タタリだぁー!」
 人々が祟りなどと口走りながら逃げ惑う。中心にいた菅原 道真(すがわらの・みちざね)が上げた掌を振り下ろせば、逃げる人々の前方に雷が落ち、錯乱に陥れる。
「ど、どうしてこんなことをしてるんですかっ!?」
 声を上げた豊美ちゃんへ、姿を認めたアナタリアが駆け寄って事情を説明する。
「この時代に来た途端、『天変地異を起こしたのは私じゃないって知らしめておかないと』などと言い出して急に……」
「気持ちは分かりますけど、今では天皇を恨みずひたすら謹慎の誠を尽くしたことが評価されてるじゃないですかー。これじゃ逆効果ですよー」
 その間にも、町のあちこちに雷が落とされていく。このままではマズイと止めに入ろうとした豊美ちゃんの前に、菫が魔法少女チックなデザインのステッキを持って現れる。
「あたしも魔法少女になるわ! 一緒にこの騒動を解決しましょっ。マジカルちぇんじっ!
 掛け声と共にステッキが光を……放つことなく、その場で菫が一生懸命着替え始める――視聴者からは、ミーミルの羽が着替えシーンを隠していた――。やがて、『イルミンスール魔法戦闘航空団の制服がベースで、袖がセパレートタイプになり、スカートではなく白スクと合わさったデザイン』の、【魔法少女 ぶらっどスミレ】が爆誕する。
「ま、魔法少女になるのはいいんですけどー、そもそも発端は菫さんのパートナーさんが……」
「細かいことはいいのよっ! 今は困っている人たちを助けるのがあたしたち魔法少女の役目でしょ!?」
「そ、それを言われてしまうと確かにそうですね! 分かりました菫さん、行きますよー!」
 それぞれ矛と杖を構えた二人の魔法少女が飛び出そうとしたところへ、天から『コスプレの時に使うような更衣室』が衝撃と音と共に落ちてくる。
「ま、まさか新たな魔法少女……?」
 菫の声に応えるように扉が開き、中から『平安時代の武者鎧風』の、【魔法少女 エターナルタタリン】が姿を表す。
「わ、小次郎さんまで魔法少女なんですかー!? いいですけど、もう何がなんだか分からなくなってきましたー」
「フッ……人の思うことなど当人にも分からぬものだ。故にわしはかつて朝敵と扱われ、やがて崇敬され、逆賊視扱いかと思えば英雄化よ。詳しく知りたければググってもらうとして……やはり、持つものと持たざるものとでは漂う風格が違うものよな」
 そう言って相馬 小次郎(そうま・こじろう)が視線を豊美ちゃんの胸に向け、ふっ、と冷笑する。まさに『何を思ってしたのか分からない行動』だが、この時の小次郎の行動は浅はかであったと言わざるを得ない。かつて一つの浅はかな行動から身の破滅を招いたように――。
 
「……お仕置きです!!」

 容赦の欠片もなく放たれた『陽乃光一貫』が、京の町に新しい道を作った。
「わ、豊美さん凄いです。私もあれくらい出来るように頑張りたいです」
「いや、なったら困るやろー。つーかええんか? こないなことしてー」
「……魔法少女……何だ、この胸の高鳴りは……」
「ちょ、ねーさん!? うちらまだ種族も決まっとらんやで、魔法少女なろうったって無理やから!」
「終わったわ……でも、魔法少女の戦いは、これからも続くのよ……」
「菫……私、何を言えばいいのか分からないわ……」
 こうして、一つの騒動は幕を閉じた。
 しかし、これはほんのきっかけに過ぎなかったのである――。

 華やかな装飾に彩られた宮殿の中、色鮮やかな十二単に身を包んだ女性たちが、そこかしこでひそひそと噂話に興じていた。
「ねえ、『源氏物語』の最新刊、読みました?」
「ええ、もちろんですわ。マジカル☆カナの正体が、羽純様にバレてしまいましたわね」
「これからどう続くのかしら、楽しみですわ」
「どうしたらあのような心惹かれる読み物をお書きになれるのでしょう。一度でもいいですから書かれた御方にお会いしてみたいですわ」
「そうですわね――皆さん、香子様がお見えになられましたわ」
 女性たちが一様に頭を垂れ、その横をやはり十二単に身を包んだ女性が、微笑みを湛えながら通り過ぎていく。そのまま女性は角をいくつか曲がり、自らに与えられた部屋に入り戸を閉め、簾の奥でふふふ、と声を上げる。
(私の思った以上に『萌え萌え源氏物語』好評みたいですねっ♪ 最初は予想していたのと違って驚きましたけど、これはこれで楽しいかもっ♪)
 腰掛けた遠野 歌菜(とおの・かな)の目の前には、書きかけの『源氏物語』の続きが積まれていた。確か物語の主人公は光源氏であったはずだが、今や主人公は歌菜自身、【魔法少女 マジカル☆カナ】を中心とした恋と冒険の物語と化していた。
「……まさか、ここまで大ウケするとは思いもしなかったぞ……ああ、頭痛くなってきた……」
 傍らで歌菜の様子を見守ってきた月崎 羽純(つきざき・はすみ)が、どうしてこうなったとばかりに頭を抱えつつ、歌菜の留守中にもたらされた書簡を歌菜へ手渡す。
「……え〜、『あと5日で8万字書いてね♪』!? ムリ、こんなの絶対ムリだよ〜! はぁ、肩も腰も目も痛いし、ちょっとは休みくれないかな〜」
 書簡を投げ捨て、歌菜が机に突っ伏す。現代まで脈々と受け継がれている、『作家のうち3割は身体を病み、7割は精神を病む』法則は、既にこの時より適用されていたようである。
「泣き言を言うな。休んでいる暇があったら書くべきではないのか? 締め切り当日になって泣きつかれるのは御免だぞ」
「う〜、羽純くん優しくない〜。はぁ、この中の羽純くんはとっても優しいのになぁ〜」
 呟いて歌菜が、原稿の一枚に目を通す。そこには、駆け去ろうとするマジカル☆カナを引き止める羽純が書かれていた。
「……バカ」
「いたっ」
 こつん、と羽純の拳が歌菜の頭を打つ。ジト目を向けてきた歌菜へ、ため息をつきつつ羽純が告げる。
「俺はいつでもお前には優しいだろーが。……お疲れ、歌菜」
 羽純の手が、歌菜の肩に触れる。適度な力で揉み解されるその心地よさに、歌菜が気持ちよさそうに目を細める。
「ふふ……羽純くんの優しさは、私だけの独り占めーっ」
「これが終わったら執筆を始めろよ。今日は2万字を目標にな」
「……羽純くん、さっきの言葉は嘘だったの? あの優しかった羽純くんはどこに行っちゃったの!?」
「……ハァ、頭痛い……」
 これが夢なら早く覚めてくれと、羽純は思うのであった――。