百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

リアクション公開中!

【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

リアクション



●豊美ちゃんの歴史チェック! そのいち

「はーい、平安時代末期まで見てきましたー。ここで一度、歴史を振り返ってみたいと思いますー」
「それはいいんですけど、豊美先生、一つ質問があるのですが」
 神和 瀬織(かんなぎ・せお)が手を挙げて質問するのに、豊美ちゃんがはい、なんでしょう、と答える。瀬織が何を質問するつもりなのか何となく察したユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)が顔をしかめ、神和 綺人(かんなぎ・あやと)クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)は瀬織の言葉を待つ。
「豊美先生、『萌え』って何ですか?」
「う……改めて聞かれるとひじょーに答えにくい質問ですねー。人が萌えを感じる時は、私たちが魔法を使う時と似た作用が起きるらしいのですがー」
 前に、魔力を電圧に例えたことがあったのを覚えている人がどれだけいるかは定かではないが、萌えもその電圧と似たようなものではないかと思うのだ。人間は残念ながら仕事として外界に放出することが出来ないのだが、もし進化を遂げた人間が、萌えを仕事として外界に放出することが出来たなら、どのような現象として現れるのだろうか、興味深いところである。
「へー、そうなんだー。そういえば豊美先生の持っているその『萌え萌え語呂合わせ日本の歴史』って教科書、どこで手に入れたの? 『萌え』ってことは、普通の語呂合わせと違うの?」
 綺人の質問に、豊美ちゃんが教科書をめくりながら答える。
「この本は、私が奈良にいた頃に知り合った方から送ってもらいましたー。その方は『今これが秋葉原の最新トレンドなんだよ』と言ってましたよー」
 その発言に、大体を察したらしいユーリが頭を抱えたが、今更何も言うまいと口を閉じる。豊美ちゃんの口からは、これまで辿ってきた歴史の中で、教科書に載っている語呂合わせの一部が紹介されていった。

『蒸れた身(603)セクシー 12階』
 ……603年、冠位十二階の制定

『老師(604)に習った17の拳法』
 ……604年、憲法十七条の制定

『蒸れな(607)いの? 懸垂してる妹は』
 ……607年、小野妹子が遣隋使で派遣

『富士の原 今日見たのはきっとムックよ(694)』
 ……694年、藤原京へ遷都
 
『なんと(710)見事な平常心!』
 ……710年、平城京へ遷都
 
『まさかドリアン食う巫女(935)か』
 ……935年 平将門の乱

『ひび割れ(1180)ナシ より勝る子のもち肌は』
 ……1180年 以仁王・頼政が挙兵

「この他にもたくさんありますけど、ここで紹介するにはスペースが足りないので省略しますねー。またしばらく歴史が進んだ時に紹介したいと思いますー」
「ふぅん、こういう言い回しと、何か女の子がいっぱい載ってるのが『萌え』って言うの?」
 豊美ちゃんから教科書を見せてもらった綺人が、本に書かれたキワドイ格好の女の子に目を配らせながら尋ねる。
「そうですねー、魔法を使える人が限られているように、萌えを感じられる人も限られているのかもしれませんよー。萌えが感じられる人はその感覚を大切にしてくださいねー。それはあなたの才能ですからー」
「うーん、僕にはまだその才能がないみたいだね。ありがとうございます、豊美先生」
 豊美ちゃんに礼を言って、綺人が本を返す。
「あの、アヤ……」
 すると、それまで豊美ちゃんの講義を黙って聞いていたクリスが、頬を赤く染めながら綺人に尋ねる。
「私、豊美先生の講義を感心しながら聞いていたのですが、何故かユーリさんが『後でアヤにちゃんとした歴史を教えてもらえ』と言うのです。この世界の歴史はちゃんとしていないのですか?」
「ああ、うん。今まで見てきただけでも結構変わってるところがあるね。クリスがよければ教えてあげようか?」
 綺人の問いに、クリスの顔がさらに赤くなる。
「お、お願いします……! ……アヤと二人きりで講義……
 クリスの呟きは、綺人には聞こえなかったようである。
「ユーリ、あのまま行かせてしまってよろしかったのですか?」
「まあ、良いだろ。後のことは二人に任せて、俺たちはもう少しこの世界を楽しむとしよう」
「……ユーリがそう言うのでしたら。確かに、これはこれで面白いですし」
 ユーリと瀬織が頷き合い、そして豊美ちゃんの講義は次の時代へと進んでいく――。

●鎌倉時代〜安土桃山時代編

「1192年、鎌倉幕府成立の年ですー。本には『いい国(1192)いい風鎌倉爆風』……? 風なんて吹いてませんけど――」
 
「豊美ちゃん! 私と一緒にいい国作ろっ!!」
「ふぇ? 美羽さん――きゃーーー!」
 
 辺りをきょろきょろと見回していた豊美ちゃんが、爆風の如く駆け寄ってきた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)に手を取られ、いつの間にか用意された野外ステージに立たされてしまう。
「みんなー! 一緒にいい国作ろうね!!」
 【魔法少女マジカル美羽】コスチュームに身を包んだ美羽が、ステージ上を飛んだり跳ねたりしながら、現代でいうアイドルの如く『魔法少女による新たな時代の幕開け』をアピールする。
「おい、何だありゃ」「確かに新しい時代って感じがするな」「クッ、何故ぱんつが見えない……!」「おい、しゃがめば見える――」「バカっ、紳士に反するような真似をするな!」「おい、お前の持ってるそれ何だ」「これか? これは『四条』の最新モデルで、服の中が透けて見えるそうなんだ」「ちょ、おま、それ俺に寄越せ!」「俺にだ!」「いいや俺だ!」
 平家と源氏の長年に渡る争いに心身共に疲弊していた人々は、美羽の一挙手一投足を食い入るように見つめ、これからの先行きとスカートの中を見通そうと躍起になっていた。
「豊美ちゃんも、もっとアピールアピールだよっ!!」
「わっ、私こういうの全然やったことないんで――きゃーーー!」
 運動神経がよくない豊美ちゃんは、運動神経抜群の美羽に完全に翻弄される形で、飛ばされたり跳ねさせられたり回されたりという目に遭っていた。
「最後は一緒に、決めのポーズっ!!」
 曲が終わると同時に、美羽と豊美ちゃんが対称の決めポーズを取り、惜しみ無い拍手と歓声がもたらされる。
「みんな、ありがとー! これからも私たち、魔法少女として頑張りまーす!!」
 すっかり目を回してふらふらの豊美ちゃんを置いて、美羽が観客に手を振る。ステージ脇に設けられたファンクラブ加入申し込み所には、目の色を変えた者たちが大挙して押し寄せる結果となった。
 
「大成功だね、豊美ちゃん――」
「ま、魔法少女を曲解して教えないでくださーい!」
 
 豊美ちゃんに振り返った美羽へ、『陽乃光一貫』が浴びせられ、美羽は空にまたたく星となった。
「あれがノリツッコミというヤツか、為になった」「いや、違うだろ……多分」
 ともかく、色々な意味で影響を与えたようであった――。

「『カマクラ壊れて冬眠散々(1333)』。鎌倉幕府は1333年に滅亡して、その後室町幕府が成立しましたー。その室町幕府も『いじるな(1467)鬼のランジェリー』、1467年の応仁の乱で権威は失墜し、ここから戦国時代の幕開けですー。平安時代が380年余り続いたのに比べると、変動が激しくなってますねー。ではまず、戦国時代の生活を見てみましょー」
 豊美ちゃんの『ヒノ』が光り、一行は戦国時代の農村へ案内される。全国で戦が行われていた時代とはいえ、四六時中戦に明け暮れていたわけもなく、守護・地頭制度の中、民は作物を作り、日々の生活を営んでいた。
「このように、戦のない時は男性は男性の、女性は女性の仕事を受け持っていましたー。ですが、やっぱり戦国時代なので、戦は頻繁に起きます。すると、守護や守護代、国人の招集に応じて民のうち男性は戦へと駆り出され、女性は男性が受け持っていた仕事もこなさなくてはならなくなりましたー。大変だったとは思いますが、今皆さんがこうしていられるのも、当時の女性の頑張りがあったからかもしれませんねー」
 農作業に明け暮れる女性たちに、豊美ちゃんがぺこり、と頭を下げる。
「では次は、実際の戦の様子を見てみましょー。離れているのでそんなに危なくないと思いますけど、注意はしておいてくださいねー」
 再び『ヒノ』が光り、一行の視界には風景の中に蠢く人間の塊が映し出される。あちこちで塊と塊がぶつかり合い、塊が解けて小さくなっていくのが見えた。
「エストゥペンド! いやー、こうしてリアルに合戦を目の当たりに出来るのはえーなぁ。確か地元の住民もこうして合戦を見学とかしてたんちゃう?」
 ミゲル・アルバレス(みげる・あるばれす)の質問に、豊美ちゃんが答える。
「戦の規模が小さい場合は、あったかもしれませんねー。あまり規模が大きいものは、見えるところまで近付いたら巻き込まれちゃいますから。そもそも、家を守る女性や子供の皆さんは家事に夢中で、それどころではなかったかもしれませんけど」
「なるほどなー。……お、あっちでもどんぱち始まったで」
 ミゲルが指した先で、馬に乗った武士が放たれる弓の雨を抜けて、兵士の群れに突撃をかける。
「ファンタスティコ! やはり馬の機動力と突破力は目を見張るものがあるな。兵士の主な武器は……槍か。鎧は随分脆く見えるな、あんなので敵の攻撃を受け止められるのか?」
 ジョヴァンニ・デッレ・バンデネーレ(じょばんに・でっればんでねーれ)の問いには、これは私の推測ですけど、と前置きして豊美ちゃんが答える。
「『陣取り』という要素が強いのも一因ではないでしょうかー。西洋と比べて日本は平らな土地が少ないので、たくさんの兵士を並べて一斉にぶつけ合うよりは、兵士を有利に動かして、相手の兵士を自由に動けなくさせる……というのをお互いに狙っているんだと思いますよー。だから徴用された兵士さんのことを『足軽』という……のかもしれませんね」
 私はスタンドプレーが主なので、詳しいことは分かりませんけど、と豊美ちゃんが続ける。
「国が違えば取る戦術も異なるということか。何とも興味深いな」
「ジョヴァンニ、いつにも増して饒舌やな」
「そりゃミケーレ、俺は元傭兵隊長だから、だな。先に言っておくが、ナンパが目的じゃないぞ」
「わあってるって、そんなんやったらオレ、師匠のこと通報せなあかんわ」
 何とも陽気な二人が見守る戦は、双方が適度な損害を出したところで引き上げ、引き分けに終わったようである。
「では、次行ってみましょー」
 豊美ちゃんが一行を次の場面へ案内する。……だが、流石は戦国時代というべきか、一部の者たちはその輪から外れ、己の野望? を満たすために独自の行動を取り始めたのであった――。