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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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炎と踊る男

 ハルモニアから山伝いに西へ移動したところにある、ハヴジァ。
 ここは、黒羊郷と信仰を同じにする、同盟国の一つでもあり、位置的に近いハルモニアと交戦になる可能性もあった……
 だが、すでにハヴジァに兵を出す気配はなかった。
 黒羊郷までの砦もハルモニアからの軍に落とされ、分断されている。もともと、ブトレバやドストーワという同じく同盟国に比べると黒羊郷からは山を越えて離れた位置にあり、ハヴジァが主に戦闘に加わったのは、黒羊郷の撲殺寺院攻めのときくらいであった。
 この国はまた、元来哲学者や占星術師などが好んで訪れ、仕事に没頭できる辺境の穏やかな国家であった。
 彼らが没頭する仕事か……ここもまた、夢に近い場所なのかも知れない。
「僕たちが"現"と思い込んでいるものも、大きな存在が見ている"夢"に過ぎない。という説を聞いたことがあるね」
 ハヴジァの邸宅の一室で、大きな書物を読みながら、黒崎 天音(くろさき・あまね)
 もしかしたら、この『南部戦記』自体もまた……?
「その存在が目を覚まし、拡がり続ける夢が淡いシャボン玉のように弾けないことを願うよ。
 とは言え、僕が今在る場所も……本当に現なのか、夢なのか……」
 ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は傍の椅子で目を閉じて静かにしている。眠っている?
 僕も……少し。
 天音は本を置き、麒麟の鬣を掛け布代わりに、長椅子で目を閉じる。……ブルーズも、寒くないかい?
「……」
 ブルーズはただ静かに、目を閉じている。すぐに、眠気が来る。
 天音には、回収しておきたいことが一つあった。
 夢の中に消えた男……パルボン(ぱるぼん)
 惨めな最期だったが、不思議と憎めない、という気がした。
 とくに哀れとも、滑稽とも思えなかった。権力や肉体への欲望を露にし、そういったものや自身のプライドとかも、隠そうとはしなかった。傲慢で自信家であったが、そこに行き着くまでに、汚い道も血に塗れた道も歩んできたことは窺える男。
 天音には、あのままでもそんなパルボンだからこそ彼が綺麗だ、と思えないこともなかったが、ただあの男ももう少し違っていれば、いや、あるいはもう少し若い頃ならば実際に、綺麗な男だったのかもしれない、と思う。あの男の歪みが、年を経て今ああさせたのだろうが……
 それは、もう天音のただ直観であった。
 天音が彼をそのまま忘れれば、皆、そのような男などいなかったかのように本当に夢の世界の男になっていたかも知れない。
「夢の入口はやはり……」
 天音が、火の機晶石を手にとると、夢の続きで、燃え盛る炎の中にもだえる男の姿を捉えた。
 夢の入口には、共にブルーズも立っている。
「……何だ。妙に、その……いや、何でもないぞ」
 時折、不意に伏目がちに息を詰める天音に、困惑顔のブルーズ。
 夢の中に漂う薔薇の香り。手のひらや指が、身体に触れるような幻触に天音は、眉を寄せる。
 炎の中では、相変わらず男が身悶えている。
 天音は幻触にさらされながら、引き寄せられるように、夢の中へ中へと流されていく。
 ブルーズはまた大きな龍になり、上空を飛んでいた。
 悶えが、喘ぎになる。それに吐息。こんなにも炎が燃えているのに、甘美だ。炎のゆらめきの中に天音も手を伸ばす。炎が舌のようにチラチラと天音に触れる感触。ブルーズも龍として気持ちよさそうに空を回転していた。
 炎の中で、男の姿が子どもになったり、少年になったり、少し青年の姿に変わったりする。老人になったり、骸骨になったりもしながら、踊る男。
 熱とリズムに、汗が伝う。