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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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9-03 信徒兵(1)

 黒羊郷に関わる地下を、延々探索し続けるはめに陥っていた、アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)の一行であるが……
「あのシルエット……まるで(戦車名」
「ちょっと、アクィラ?」
「へっ?」
 あまりに、長く暗い地下を歩いていたため、アクィラには、戦車の幻が見え始めていた。
 そして、彼らには、幻聴も……
 いや、それは幻聴ではなく。かつて、クレーメック・ジーベックがこの地下を行き、黒羊郷に出るまでに、邪念のような声を聴いたり、広い空間が覗けたこともあった。この、黒羊郷に至る地下通路(洞窟)のどこかに、地下神殿の方面や関連施設につながる道がおそらくあると……考えることができた。アクィラたちは、幻聴とも思える、ときに呪文のようであり、ただの呟きのようでもあるかすかな音を頼りに、くまなく、探ってみた。
 すると、やはり、洞窟から、何かの通路であるらしい道に通じている箇所が見つかり、一行はそこを進んだ。
「こう見えて芯は強い方なんですよぉ」
 クリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)は、気丈だ。
 少しやばいのは、
「あのシルエット……」
 アクィラであったが。
 アクィラたちは、地下湖に近いところまで移動してきたことになる。地下湖の脇にあるとある建物、そこには……
「別に尋問施設でもなし、拷問の様子もないし、反対派の軟禁収容所にしてはやけに警備も薄そうだ」
 信者? 薄暗いその中に、幾人もの、黒羊教のものかと思われる衣を着せられた人たちが、並べて寝かされている。
 アクィラはそこから、一人捕虜をとってみることに成功した。
「……あれ、反応がおかしいぞ。こいつマトモじゃない」
 死んでいるでもなし、ただ眠っているというのでもなし。
 一行は、皆で相談。
「心身を弱らせ、抵抗力を失わせ、時間感覚を喪失させ……するとやがて自我も喪失してしまうわね」
 アカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)は言う。
「そこから考えると、あれは心理学的に見て、一種の洗脳施設じゃないのかしら」
 そう……ここは、意識をなくした信者たちが信徒兵に仕立てられるための場所であった。
 パオラ・ロッタ(ぱおら・ろった)は、(アクィラの例もある?)なるほどね。地上の種族ってあの程度で、時間感覚を失っちゃうのね。意外に脆いのね。などと思いつつ、
「それにしても、自我を持たない集団っていうのは恐れを知らないから、万が一これを兵士にされたら、文字通り死兵の群れね。生きながらアンデッドの兵団……ジョークにもならないわね」
 と言った。
 その、まさかなわけだが。
「適当なところで切り上げて、とっとと地上に情報を持ち帰った方がいいんじゃない?」
 アクィラも納得する。
「そうか、洗脳施設だったか! なるほど。
 よし、可能な限り情報を取って、地上のヴェーゼルさんのところへ情報を持ち帰るんだ!」
 さて、と帰途に着こうとしたとき、
「そうはいかんよ」
「だ、だよね……」
 地下施設を管轄する司祭らしい。「教導のスパイ? ぬふふ。何れにせよ、ここを見た者は生きては帰れんよ。
 おまえも我らの忠実な信徒兵にしてやろうか!」
 万一捕まったら……アカリは思考した。心理学的な先方の手の内はある程度わかってるんだから、そうやすやすとは洗脳されないわよ? 必死に自我を保ってみせるわ。
 万一捕まったら……パオラは思考した。あたしは平気だけど。古王国時代の封印に比べたら原始的だもの。地上の種族って脆いのね。
「きゃー」
「アクィラ伏せて!」
 クリスティーナのチョコバルカンがシャープシューターで炸裂した。司祭は倒れた。
 また、クリスティーナはしっかりとマッピングを続けたことで、更に地下湖に至るまでの道も地図として完成させることに成功した。彼らは、同じ頃地下湖にて起こっていた事件については知ることはなかったが……
「ク、クリス。えらいねぇ。それにさっきはありがとう……」
「そ、そうですかぁ。えへへ。い、いえ。どういたしましてっ」
「……」「……」アカリ、パオラ。
「何だか平和な二人ね」「アクィラ……このままの方向性でいいのかしら? あたしたちの責任? GM(マスター)の責任?」
 ともあれ、こうしてアクィラ一行は久々の地上に帰ったのである。
「ああっ。地上に、地上に出たね」
「ああっ、光が、光が……」
 久々すぎて少し目が痛んだ。「やはり、地上の種族は脆いわね……」
 彼らは情報を共有すべく、ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)のもとを訪れる。
「あれ? 居酒屋をやるって聞いてたけど……まさかあれがそうなのかな?」
「えっ。でもアクィラあのお店って……」
「あ、ああ……」
「……」
 いかにも80年代風のびかびかネオンに照らされ、看板には「わるきゅーれ」とでかでかと書いてある。中から歌謡曲が流れてくる。(実際にはこんな目立つものを建てないだろうが、GM(マスター)の趣味です。すみません)
「何戸惑ってるの? お二人」「行くわよ」
 アカリとパオラがさっさと店に入っていく。
「アクィラ? 行くの。あんなお店に……」
「ク、クリス。お俺は、、行かないよ? だって、俺……」
 任務にならなかった。
 さて、アクィラとクリスを置いて、店を覗いてみよう。
「マダム」
「お久しぶりね。元気にしてた?」
 クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)が出迎えた(「案外、自分にはこういう業界も向いているのかもしれない」ヴァリアはすでに、マダムにクラスチェンジしている)。
 ヴァリアは、キャバクラにやって来る派遣兵たちに話をしていたところだ。
「幹部連中は、その内、兵皆を信徒兵に仕立てあげるつもりのようね」
「ぞ」「ぞっ」「今の内にくにへ帰ろうか……」
「それが賢明よ。でも、また「わるきゅーれ」には寄ってね♪」
「早速、関係ありそうな話が出てるわね」「マダム、ヴェーゼルさんは……?」
「ヴェーゼル? 誰かしら」
 アカリとパオラは、いかがわしいキャバクラの中を見て回る。店の奥では……
「おぬしもワルよのぉ」
「お代官様こそ」
「ウワッーハッハッハッハッ」
 ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)のような男が、軍の幹部かと思われる恰幅のいい男らと悪巧みをしているようであった。
「こういう商売柄、色々な国の御方とお付き合いがあります。お客様にはいつもご贔屓にして貰っていますから、お役に立ちそうな情報があればお知らせしましょう。その代わり、黒羊軍の宴会は是非私共にご用命を」
「ウハハハ」
「亜衣」
「……」
 露出度100パーセントの天津 亜衣(あまつ・あい)が、酒に酔った幹部の相手をする。自己嫌悪に陥りそうなのを必死に堪え(しかしここ最近とみに上達した接客術で)男らを虜にすると、ハインリヒに言われたよう、彼らに話を吹き込んだ。
「ブトレバは本心では自国だけでも教導団を防げると思っているけど、兵を失いたくないので窮状を装っているだけなのよ」
「ドストーワは腹の底では何を考えているか分からない。気を許さない方が良いわ」
「ハヴジャが本気で救援を出さなかったのは、教導団に内通しているためよ」
 同盟国など必要ないと思わせる方向へ誘導するためのハインリヒの策であった。
「アカリ」「ん?」
 空いている席で飲んでいる、アカリとパオラ。
「あたしたちも、ここで働こうか」「……そうね。いいかもね」

 アクィラとクリスは……
「……」「……」
 店先にいた。
「何。アクィラが来た。そうか」
 ハインリヒは真面目な表情になり、ノイエの仲間アクィラを迎えに、店の外へ出る。
「アクィラ。……長い旅から、よく帰ってきたな」
「ヴェーゼルさん……ぐすん」
「そして、ようこそ「わるきゅーれ」へ。さあ、入って入って」
 中には、露出度100パーセントの天津亜衣や、同じく100パーセントなアカリやパオラがアクィラを魔っていた。
「はわわわわ、いけませんっ!」
「ああ。夢の世界が広がっていく……」