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リアクション
「おっ? なんかあったのか?」
ロビーの受付に慌てて掛けてきたホイップを見て、大佐が呟いた。
「すみません、すみません」
「大丈夫ですぽん。今、手配しましたぽん。もうすぐ……」
輪廻がホイップを宥めていると誰かが到着した。
「お待たせしたのだ」
「待たせたの」
臨時ホテル探偵リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)とロゼ・『薔薇の封印書』断章(ろぜ・ばらのふういんしょだんしょう)だ。
「今回はホイップが逃がしてしまったお客さまのゆるスターを捕まえれば良いのだろう?」
「うん……ごめんね」
リリが確認すると、ホイップが頷いた。
「わらわ達に任せるのじゃ」
ロゼがそう言うと、2人はさっそく行動を開始した。
「私もお手伝い――」
「いや、大丈夫なのだよ。それよりもしなければいけない仕事があるのだろう?」
「うん……じゃあ、お願いします!」
リリに言われ、ホイップは自分の仕事に戻っていったのだった。
「ホイップの話しでは……1階にある温泉の方へと向かっていったようだが……」
リリは女性の脱衣所を、ロゼは男性の脱衣所を調べていく。
「いたっ!」
発見したのはロゼだ。
籠が積み重なっているところに震えていた。
「よしよし、こっちにくるのじゃ……それっ!」
飛びかかって、捕まえようとしたが、逃げられてしまった。
ゆるスターはそのまま脱衣所の外へ。
「今、外にいったぞえ」
「了解」
携帯で連絡をもらったリリが脱衣所の外で待ち構えるが……これも横をすり抜けられてしまった。
「待つのだーーーっ!」
走り出すリリ。
その後ろを追いかけ……ようとして断念したロゼ。
ロゼはそのまま、1階にあるバーへと向かって行ってしまった。
バーの中でオーシャンブルーのドレスを見に纏い、それに合わせた色の薄く細いフレームのサングラスを付けたテスラが、気分が盛り上がりそうなジャズを演奏しており、なかなかに盛況だ。
ロゼはカウンターに座り、マスターにギムレットを頼む。
ふと、隣に座っているグラン・リージュの姿が目に入る。
「そなたも来ておったのか。そんなウーロン茶なんぞ飲んでないでわらわに付き合え」
「いや、しかし……」
「えーい、美人の誘いを断るだなんて2000年早い!」
「はあ……」
ロゼに押され、グランは強めのカクテルを何杯か飲まされてしまった。
演奏がクラシックのしっとりとしたものに変わっている。
「のうグラン、そなたは本当に何とも思って居らぬのかの? あのような者にホイップを取られても構わぬのかのう? このままではホイップがあの部屋を出て行くのも時間の問題だろうぞ」
「そりゃ……気になりますよ? ですが……ですがね? ホイップちゃんが幸せだったらそれで……」
「何を言っておるのじゃ! それはそなたの気持ちを押し殺してのことではないかっ! 男だったらちゃんと自分の想いを告げるのじゃ!」
「想い……」
グランはグラスを軽く回し、思考を巡らせる。
「まずはそなたの想いを告げてから……何がホイップにとって幸せが考えても良いんじゃないのかえ?」
「…………。ふぅ……とりあえず、今日はこのまま寝ます。おやすみなさい」
グランが自分の財布を出して、勘定を済ませようとしたのをロゼが押しとどめる。
「よい、ここはわらわが」
「ですが――」
「よいと言っている」
「わかりました……ごちそうさまです」
ロゼはグランの後ろ姿を見届けると自分も席を立とうとして、財布が無い事に気がついた。
「……のう、マスター。ホテル探偵をやっているリリにツケで」
なんとか、ツケを了承してもらい、事なきを得たのだった。
一方、他の仕事をこなしているホイップの方は――。
504号室普通の部屋。
「すまんのう。オレは布団じゃないと良く眠れないけん……」
申し訳なさそうにしているのは赤城 長門(あかぎ・ながと)だ。
「いえ、また何かありましたら、いつでもおっしゃってください」
言われていた布団を敷き終えると、ホイップは退室しようとする。
「それにしても、さすが高級ホテル、本当に布団まであるとは流石じゃのう」
長門は部屋の扉までホイップを見送る。
「ありがとうございます」
「これはチップじゃ」
「いえ、チップをお客様から貰うことは――」
ホイップが言葉に詰まったのも無理はない。
差し出されたのは『ポテトチップス(プロテイン入り)』だったからだ。
一体、どこで販売されているのだろうか。
「遠慮しちゃいかん」
「いえ、ホテルの方針で受け取らないことになっているんです。お気持ちだけいただきますね」
ホイップはなんとか断ることができた。
「待つのだーーーーっ!」
リリの声が遠くから聞こえる。
何かが、ぴょこぴょこ跳ねながら、ホイップと長門の方へと近付いて来た。
追いかけられているゆるスターだ。
そのまま、跳ねていたらゆるスターはホイップの胸へと……ではなく長門の胸へと飛び込んでしまった。
ゆるスターもしまったと思っているかもしれない。
思わず抱きしめてしまったので、長門のぶっとい腕と筋肉質な硬い胸に挟まれる形となってしまった。
「助かったのだ……はぁ……はぁ……なかなか捕まえることが出来ずにいたのだ……ホイップが逃がしたゆるスターはそいつなのだ……はぁ、はぁ」
息がだいぶ上がっている。
「ありがとう……大丈夫?」
長門から(気持ち悪くて気絶している)ゆるスターを受け取るとホイップはリリを気遣った。
「だいじょう……ぶ」
リリは探偵の仕事に戻って行ったのだった。
■□■□■□■□■
真夜中。
従業員用の休憩室では休憩中のメンバーがゆるゆるとお茶を楽しんでいた。
「大変ね、あなたも……私も、人の事を慮る余裕はあまりないのだけれども――頑張っていればその内いいこともあるわ、多分、きっと」
ローザマリアはジンジャーティーを淹れて、ホイップにも渡す。
「ありがとう! うん、でも良い事いっぱいだよ。みんなに会えたことが一番嬉しい!」
満面の笑顔でホイップは言う。
「それはオレらも含まれてるんやろ?」
陣が水ようかんを取り分けながら言った。
その横ではリーズと真奈が緑茶をすすっている。
「もちろんっ!」
ホイップはえへへっと笑う。
そのまま時間いっぱいまでみんなで会話を楽しんだ。
「この仕事着、中々仕立てが善いわね。このホワイトブリムも可愛いし。ホイップもとても似合っているわよ?」
というローザマリアの言葉にホイップはだいぶ照れていたようだ。
こうして、夜は明けていく。
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