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黒薔薇の森の奥で

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第三章 散る薔薇

 森に切なげな声が響いた。
 二人の少女が、触手になぶられている。秋葉 つかさ(あきば・つかさ)と、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)だ。
 アリアがこの森に来たのは、ウゲンやカミロといった人物とはなんの関係もない、別の依頼のためだった。目的は果たしたものの、すでに帰り道を見失い、疲労も重なっている。そのため、あっさりと隙をつかれてしまった。
 抜群のスタイルの身体を味わうように、ねばついて絡みついた触手。そして、彼女の楽しむように見やる吸血鬼たち。……だが、いずれは彼らに弄ばれてしまうのだろう。そう予想はつくが、すでに四肢の自由は奪われてしまっていた。
 そして、なにより。
「は、ぁ……」
 どこかうっとりとした声をあげる、きわどいメイド姿の少女……つかさの存在が、なおのことアリアの胸を痛ませる。
(彼女だけでも、助けたいのに……!)
 強い意志でもって、そう彼女は健気にも快楽に抗うが、それ故に意識を手放すこともできない。
「いや、ぁ……っ!」
 上着を破りとられ、あらわになった白い胸は、すでに絡みついた触手に穢されている。しかも、なお。つかさの方へとむかって両足を広げさせられ、アリアは息も絶え絶えに叫んだ。
 過去に受けた陵辱の記憶も彼女を苛んでいたが、それ以上に、同じ学園に通う少女の前でこんな姿をさらしていることが、なによりも恥ずかしくて仕方がない。だが、羞恥と苦悩に泣き叫ぶアリアの表情は、なおさらに吸血鬼たちを楽しませていた。
「ずいぶんと、お可愛らしいことですわ……ね」
 一方で、つかさはこの状況をどこかで楽しんでいるようにも見えた。ピンクのツインテールの髪を揺らし、這い回る触手が与える快楽を享受するかのように、その頬と唇は赤く染まり、微かに微笑んですらいる。
 アリアの肉体が陵辱される様を見ることも、同時に彼女に見られながらこうして嬲られるということも、つかさの一般人からはやや逸脱した性的価値基準からすれば、そうおかしなことではないのだ。
 黒薔薇の森に来たのは、つかさにとっては初めてではない。本来の目的は、付近で目撃されたというカミロに興味があったからだ。上手く出会うことができれば、ひとつ、襲ってみるのも一興かという意識だった。しかし。
(カミロ様にご奉仕することはできませんでしたけども、これはこれで、悪くはありませんわね)
 甘い声をあげながら、つかさはちらりとアリアを見やった。胸の大きさは自分のほうが大きいが、なかなかスタイルの良い子だ。
 吸血鬼は、そんなつかさの意思を汲んだのだろうか。やおら、二人の少女を戒める触手同士を近づける。
「え……? い、や、見ない、でぇ……っ!」
「……そんなこと、おっしゃらないでくださいませ?」
「? ……!」
 つかさの唇が、アリアのそれを塞ぐ。あまりの驚きに、アリアは目を見開き、呆然とつかさを見つめた。
『楽しんでしまいなさいな』
 そう、つかさの淫蕩な瞳が告げる。
 ……まるで、彼女自身が、もう一人の吸血鬼のように。
「ひ、ぁ、あ……っ!」
 アリアの絶望の声が、一際高く、霧深い森の中に響いた。
 宴は、彼女たちが意識を失うまで、終わることはなかった。
 
「ふぅん……ずいぶんと深い森ですのね」
 佐倉 留美(さくら・るみ)は、感心したように呟いた。
 イルミンスール魔法学校の生徒である彼女は、同じ東シャンバラの民として、一度くらいはタシガンを訪れておいた方が良いと思い、この地に訪れていた。そこで、この森を見つけ、探索のために入り込んだのだ。
 ザンスカールの森で、森歩きには慣れている。多少不気味な場所とは思ったが、それほど危険とは感じなかったのだ。むしろ、それ以上に、なにか秘密の匂いがする。ならば、それに向かって突き進むだけだ。
 だが。
(……気のせいでしょうか?)
 留美は足を止めた。霧が深くなるにつれ、なにやら気配を感じる。しかし、見渡してもそこには誰の姿もない。ただ、あえて言うならば……少しずつ、景色が違う気がするのだ。あたりに茂ったツタが、風とは違う、なんらかの意思をもって蠢いているような……。
「きゃ、ぁ!」
 やおら、留美の細い足首に、ツタ――いや、正体を現した触手が巻きついてきた。粘ついた汁をまとわせたそれが、ぞっとするような不快感とともに、彼女のすらりと伸びた白い足に絡みついてくる。
「な、なんですの!?」
 股下0センチというマイクロミニスカートの下は、なんの覆う布もない。やすやすとそこへとたどり着いた触手に、留美はたわわな胸を揺らし、びくんと肩を震わせた。
 その間にも、貪欲な触手はさらに四方からその指を伸ばしてくる。少女の豊かな胸が、触手によって、その形を変えて揺れた。
「おやめなさい! ……ぁ、あんっ」
 ぬる、と触手の先が留美の性感帯を撫で上げる。ぞっとするような不快感と、同時に突き上げる悦楽。……おそらくは、ただの粘液ではないのだろう。人の身体の奥に火をつける、そんな効力があるに違いなかった。なにより、すでに四肢が痺れ、触手の拘束から逃れることができない。
(わたくし……このまま、陵辱されてしまうのかしら……?)
 その予感は、留美の心の奥底で、微かな……しかし強烈に甘い疼きを誘った。
 可憐な唇から、あきらめと期待の混じった吐息をつき、留美はそのまま、快楽へと堕ちた。