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想い出の花摘み

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第2章 戦いの理由 1

 山の中腹へと差し掛かる頃には、ガウルたちの足もそれなりの疲労が溜まっていた。
 だから、というわけだろうか。咲夜由宇の袖を引っ張って疲れたことを訴える咲夜瑠璃はその疲労した様子を一人ごちた。
「だれでもいいのでおぶってほしいのだわ……」
 もちろん和服でいることがその一端を担っているのは間違いない。
「確かに、嬢ちゃんだけじゃなくともそろそろ疲れやしたなあ」
「道も少しずつ険しくなってますからね……」
 元々の気だるさがより一層深まって、クドはあくびを噛みしめるようにつぶやいた。ルルーゼはそんな彼とは反対に、方向を間違えないよう集中して進んでいる。
 そんな仲間たちの中で、ガウルは何事もないように歩を進めていた。疲労を知らないその体力には、目を見張らんばかりだ。
「ガウル、お前……なんかすごいなぁ」
「……?」
 久途 侘助(くず・わびすけ)がそんなガウルを見て感嘆したが、ガウル自身は何のことか分かっていない顔だった。
「そういえば……なんかお前、俺とどこかで会ったか?」
「初対面だな。それがどうかしたのか?」
「あぁすまん……なんかちょっと前に雰囲気が似たやつに会った気がしたもんでな」
 侘助は自分の記憶違いかと頭を掻いた。そんな彼に、パートナーの香住 火藍(かすみ・からん)が声をかける。彼は少しだけ呆れたような顔をしていた。
「なに失礼なことを聞いてるんですか」
「いやだって、どっかで会ったと思うんだよなあ」
 ぼやけている記憶を思い返そうとしながら頭を悩ます侘助の横で、声には出さないものの、アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)も同じ気持ちだった。しかも、それは決して友好的な気分ではない。
 ガウルの側に寄った彼女は、思い切って聞いた。
「……ガウル、といったか…お前、私とは以前に会った事はないか?」
「……悪いが、初対面だと思う」
 同じ質問をされて、ガウルの眉はしかめられた。まして、アシャンテの目はどこか懐疑的な色を持っていたからだ。無論――それは間違いではないのだが。
 見知った雰囲気をまとう者が初対面、というのは気になる話だ。アシャンテはじっと彼の動向を窺った。
 そして、ガウルに対してそんな不思議な既視感を抱くのはアシャンテたちだけではなかった。紫月 唯斗(しづき・ゆいと)やそのパートナーであるエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)も、ガウルには訝しい目を向けている。そのほとんどに初対面だとガウルは答えるが、唯斗だけはどうやら彼の正体にどことなく気づき始めているようであった。
「ガウルさんは、どうして行き倒れなんかになってたんですか?」
「食べることを忘れていた」
「えー、なんですかー、その理由ー」
 自分とどことなく雰囲気の似ているガウルに懐いている紫月 睡蓮(しづき・すいれん)は、きゃっきゃとはしゃぐように彼と話している。その様子は感情の起伏が少ないものの優しげな青年にも見えるのだが、唯斗歯穏やかながら影に隠れているその暗い力に見覚えがあった。
(そう、あれは……)
 そう唯斗が考えはじめたとき、がさ……という草木を分ける音が聞こえた。
 気を引き締めたガウルたちは、緊張の糸を張って音の方角へと構える。獣か蛮族か。思考を巡らせた彼らの前に現れたのは、そのどちらでもなかった。
 人影が見えると瞬間――ガウルはそれの喉もとに手刀を突き当てていた。侘助が慌てて声を張り上げる。
「おいおいおいおい! ガウル!」
 茂みから出てきた気だるげな男は、ガウルの手刀に反応して銃を構えている。銃口はガウルの額まで、わずか数ミリだ。その横にいる女も同様に、装備の剣を構えていた。
「馬鹿、ガウル! 大丈夫だから手を降ろせ」
 獣のように容赦なく男を睨みつけていたガウルは、侘助の声で仕方なく手を下げた。これでは、どちらが敵か分かりもしない。
 ガウルの手刀が収められたのを見て、男も同じく銃を降ろす。どうやら、無抵抗な者に攻撃を企てるような人間ではないらしい。
 ガウルは男の顔を見据えて聞いた。
「何者だ?」
「そりゃこっちの台詞でもあるんだけどな……。俺は斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)だ」
ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)よ」
 二人は自分の学生証などを提示して、身分を証明した。なんでも、行政からの依頼で蛮族への対応のため見回りをしていたらしい。山に誰も入れないように監視しているようだが、対策を立てる時間稼ぎということだ。
 ガウルが邦彦に事情を説明すると、彼はわしゃわしゃと髪を掻いて頭を悩ませた。
「思い出の花……か。個人的には通らせてやりたい理由だが、悪いな。これも仕事なんだ。万が一でも犠牲者を出したくないんでな」
 そう言って邦彦は、ガウルたちを安全なルートで山から出て行くように促した。
 それに素直に従うことを良しとしないガウルが、力ずくでその場を切り抜けようなどという単純すぎると考えを抱き始める。
 そんなとき、背後を見張っていたネルが口を開いた。
「誰か……いる」
 その瞬間――山林の木から降り立ったのは、改造制服に身を包んだ大勢の蛮族たちだった。
「なんだ、こいつら……!」
「見たら分かるだろ、蛮族だ」
 蛮族に囲まれたガウルたちは、身動きがとれない。狂犬のように戦いを挑もうとするガウルを静止して、邦彦が彼らに声をかけた。
「まあ、待ってくれ。こっちは別にあんた達をどうかしようって気は――」
「邦彦! 危ない!」
 だが、そんな邦彦の努力もむなしく、蛮族たちは問答無用で襲い掛かってきた。振りかぶられた金属バットを避けて、邦彦がやむなく銃を向けた。それに怯むことのない蛮族たちが、一斉にガウルたちへと攻撃を仕掛けてくる。
「……交渉決裂だ」
 蛮族たちへと、ガウルたちは抗戦を開始した。