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『運命の書』
 
 
「いろいろな魔道書が集まっているですぅねぇ〜」
 『不明』の所から戻ってきた神代 明日香(かみしろ・あすか)が、まだ周囲を見回して興味深そうに言った。その制服の袖を、ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)がちょっと不安そうにぎゅっと握りしめる。
「はいはい。大丈夫ですぅ。もう私はずっとここにいますからぁ。他の魔道書は面白そうだけど、きっと、ノルンちゃんより面白くないはずですぅ」
 ノルニル『運命の書』を安心させるように、神代明日香は言った。
 とはいえ、誰も『運命の書』を読みに来てくれないというのも少し不満だ。
「ふむ、さすがに我が校のエントリーは多いようだな。どれ、君の本も読ませてもらうとしよう」
 ふらりと現れたアルツール・ライヘンベルガーが、木の皮を束ねた『運命の書』をひょいと手に取って言った。
 はらはらするようにノルニル『運命の書』がそれを見守った。
「あの、ノルンちゃんの本は予言書なんです。ルーンで書かれてるんで……」
「大丈夫。ルーンなど造作もない。ふむ、予言書か……。これは、読み手を選ぶと言うよりは、本当に必要な者にだけ見せるべきかもしれんな。ありがとう」
 そう言うと、アルツール・ライヘンベルガーは丁寧に『運命の書』をノルニル『運命の書』に手渡して返した。
「とりあえず、明日は晴れだということは分かった。充分な予言だ」
 アルツール・ライヘンベルガーはそう言って微笑んだ。
「よかったね」
 神代明日香が頭を撫でると、ノルニル『運命の書』はちょっとはにかむように彼女にしがみついた。
 
 
『禁書写本 河馬吸虎』
 
 
「なんだか、今日の図書室は騒がしいわよねえ」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は閲覧許可証のいる魔道書の特別書庫の中で小首をかしげた。
「まあいいわ」
 何か素敵な魔道書との出会いがないかとかと書架を物色しているのだが、どうにも気に入った物がない。
 たいていの魔道書は封印が施されているので、開くことすらままならないという物が多い。また、せっかく開いても、文字が読めないようになっているだとか、偽の内容が浮かびあがるという罠まで仕掛けられている物もあるという始末だ。
 いずれにしろ、本来は所有者しか読むことはできない魔道書であるから、それはそれでいいのかもしれないが。
 とはいえ、昨今は封印が解かれて巷に魔道書があふれだした副作用からか、それまで市井にあった本までもが契約者の影響を受けて魔道書化することもあるという。
 そのパターンの方が愛着がでるかもしれないが、やはり基本は魔法の本ということなので、リカイン・フェルマータはセオリー通りイルミンスール魔法学校の大図書館にやってきたわけなのだが。
「こんな物まで本扱いされているの?」
 書架におかれた石でできた本を見て、リカイン・フェルマータは唖然とした。
 石板とは違って、ちゃんとページのある本の形にはなっているのだが、素材はれっきとした石である。なんとも、珍妙な本だ。興味半分にその本を閲覧台に運ぶと、リカイン・フェルマータはそれを開いてみた。
「梵字? とりあえず、一応は読めるみたいだけれど……」
『ほほう、俺様を読めるとはな』
「な、何!?」
 突然聞こえてきた声に、リカイン・フェルマータは誰もいないはずの部屋の中を見回した。
『俺様の声が聞こえるのか? ならば素質は充分だ、さあ共に神秘の扉を開こうではないか』
 声が続けた。
「まさか、この本?」
 リカイン・フェルマータは、あわてて魔道書のページを閉じた。
『あっ、こら、一ページ目でいきなり閉じるんじゃない! まるで、俺様がつまらない物みたいではないか!』
「返却!」
 魔道書の言葉を少しも否定することなく、リカイン・フェルマータは叫んだ。そのまま魔道書をつかむと、あわてて書架にむかって走りだした。当然、あわてていたので転ぶ。
『うわ、よせ、落ちたら割れる! ぎゃーっ!』
 魔道書の悲鳴に、ほとんど反射的にリカイン・フェルマータは身を捻った。危機一髪で、リカイン・フェルマータの顔の上に魔道書が落ちて、破損だけはまぬがれる。
「ふふふふ、契約かんりょー。気持ちいいは正義!」
 なんだか突然身体の上に重みを感じて、リカイン・フェルマータは顔の上の魔道書をどけた。
「初めましてだな。俺様が禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)だ、パートナーよ」
「ななななななな……」
 自分の上に馬乗りになった、素っ裸の中性的な人間体の魔道書を見て、リカイン・フェルマータがわなわなと身体を震わせた。さすがに、まじまじと性別を確かめる度胸はない。
「誰か騒いでる? もしかして赫映?」
 そんな声がして、三笠のぞみが現れた。ばったりと、裸の少年に馬乗りにされたリカイン・フェルマータと三笠のぞみの目が合う。
「ご、ごめんなさい。お邪魔しちゃったんだもん」
 あわててそう言うと、三笠のぞみは顔を真っ赤にしてその場から逃げだしていった。
「うわ、あわわわわわ……」
 誤解だと叫ぶこともできずに、リカイン・フェルマータが唸った。
「まあ、いいじゃないか。よろしく頼むぞ、パートナーよ」
「よくない!」
「……初めてだったのにぃ」
 リカイン・フェルマータに馬乗りになったまま、禁書写本河馬吸虎がわざとらしく科を作った。
「なら忘れさせてあげるわ!」
「ははははは……」
 がばっと起きあがって超感覚全開で攻撃してくるリカイン・フェルマータを尻目に、禁書写本河馬吸虎は勝手に部屋のカーテンを引き剥がして身体に巻きつけると、自分の本体をかかえて楽しそうに逃げだした。
 当然のことながら、すぐに司書さんによって図書館の外にポイされることとなる。
「どうしてこんなことに……」
 ニコニコしながら後をついてくる禁書写本河馬吸虎をしかたなく連れて、リカイン・フェルマータはとぼとぼと家路を辿っていった。