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葦原明倫館の休日~丹羽匡壱篇

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葦原明倫館の休日~丹羽匡壱篇

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第1章 巳の刻〜てぃふぁにーとげいるのてつだいはたいそうなちからしごとでした。


*09時*


「いいところに来たネ、匡壱!
 ゲイルと一緒に、これを校門まで運んではくれぬカ?」

 購買から飛び出してきたのは、ティファニー・ジーン(てぃふぁにー・じーん)だった。
 完全無防備だった匡壱は、抱きつかれちゃってわたわた。

「っちょおまえ、ティファニー、離れろよ!」
「ささ、恥ずかしがらなくてもいいから、とにかく手伝うネ!」
(正夢になってしまったでござる……)

 そのまま匡壱は、ティファニーにずるずると引きずられていく。
 放っておくわけにもいかず、佐保もついて行くことに。

「ゲイル、こりゃいったいなにごとだ!?」
「匡壱……すまない」

 ゲイル・フォード(げいる・ふぉーど)、ティファニーのパートナー、の言うことには。
 ティファニーの取り寄せた商品を受け取りに来たのだが、あまりにも重たくて2人では持ち運べなかった。
 そこで誰かに手伝いを頼もうとしたところ、匡壱がとおりかかってしまったのだとか。
 ちなみにゲイルですら、包みの中身は知らないのだという。

「頼む、このとおりダヨ!
 運が悪かったと思って、おとなしく手伝うネ!」
「迷惑だろうが……私からもお願いしたい」
「なんと、ゲイルが膝を折ったでござる!」
「わっ、分かったから!」

 言葉とは裏腹、ぱんっと顔の前で両手を合わせ、必死に頭を下げるティファニー。
 ゲイルには土下座までされてしまい、匡壱はしぶしぶ頭を縦に振ったのである。
 ちなみに佐保は、ゲイルの心意気に瞳をきらめかせていたり。

「ねえねえ、ティファニーちゃんとゲイルちゃん……なにしてるの?」
「え、あぁ、実はな……」

 低い姿勢の2人の背中に、秋月 葵(あきづき・あおい)が声をかけた。
 立ち上がり、振り返ってことの次第を説明するゲイル。
 匡壱と佐保に続き、これで2度目……もういいわけはおてのものだ。

「へぇー、そんなに重たいものなら、私も一緒に持ってあげるよ」
「かたじけない」
「おんにきるネ!」
「いいってそんな〜正義の魔法少女としては、困ってる人をほっとけないからね〜♪」
(んー、でもティファニーちゃんはいったいなにをとりよせたんだろう?)

 静かに感謝を述べるゲイルと、ティファニーは両手をつかんで上下にぶんぶん。
 お礼を言われて恥ずかしかったり、対照的な行為が面白かったりで、葵はくすくすと笑いをもらした。

「失礼ながら、お話は伺いましたよ。
 可愛い【アメリカンサムライガール】が困っていると聞けば、可愛い人や美人の味方として見過ごすことはできません!」

 5人の前に現れたのは、イルミンスール魔法学校のエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)だ。
 今日は、世界樹『イルミンスール』より上位の世界樹である、マホロバの世界樹『扶桑』の調査に来ていた。
 息抜きがてら庭を散歩していたところ、この状況に出くわしたらしい。

「重たいモノとはいえ、魔術師ながら体育99の私なら持ち運べるはず!」

 自信満々で、荷物に挑んだエッツェルだったのだが。
 わずかに浮いただけで、動かすことは到底不可能。

「私でもキツイとは……一緒に持ち運びましょう、匡壱さん」
「あ、あぁ……」
(相当だな、こりゃ)

 荷物から手を離すと、爽やかな笑顔でそう言い放った。
 困惑しながら、匡壱もエッツェルへ返事をする。

「こういうときは正義の魔法少女にお任せよ〜☆」
「「おぉ〜!」」
「「可愛い〜♪」」

 スキル『変身!』を発動すると、華麗に魔法少女へと変身。
 にっこり決めポーズの葵に、男性陣は驚きの声をあげ、女性陣は拍手を贈る……ゲイルは表面上無反応で。
 反応は正直、期待していなかったし、むしろ悪いだろうと予想していた葵。
 しかし思いのほか好印象な様子に、ちょっとテンションが上がる。

「私、力ないけど『サイコキネシス』で荷物を浮かしてみるね。
 少しは軽くなると思うよ〜」

 えいっと振り上げた右手に合わせて、荷物もふわっと宙に浮いた。
 またも5人の歓声が上がる、のだが。

「あ、でも長時間は無理だけどね〜♪」

 残念な告白を受け、匡壱とゲイルにエッツェルは急いで荷物に手をまわす。
 ティファニーと佐保を前後の誘導役に、荷物は廊下を進み始めたのであった。


*09時30分*


(前に学校見学に来たときはじっくりと購買を見れなかったけど、聞いた話じゃすごく品揃えいいらしいな)

 内心わくわくした気分で、購買へとやってきた如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)
 そろそろ刀を新調しなければ……と思い、休日を利用して葦原明倫館を訪れていたのだ。

(うわっ、なんだろう、あの荷物)

 と、佑也の視界を埋めたのは、向こうの角を曲がってきた巨大な荷物。
 浮いていたのに……どすん、と音を立てて廊下へ落ちる。

「ごめんね、疲れちゃった……」

 魔法少女の謝っている声が聴こえて、なんとなく状況を推測してみる佑也。

(荷物の側にいる人達、困ってるみたいだけど……もしかして重すぎて運べないとか?
 俺も手伝ったほうがよさそうかな?)

 良心の赴くままに、次の瞬間には1歩を踏み出していた。
 また1人、重量とのたたかいへと巻き込まれていく。

「あの、よかったら運ぶの手伝おうか?」
「本当か、助かるぜ!」
「これは私のパートナーの荷物なのだが、どうにも重たくてな。
 申し出、たいへんうれしく思う」

 匡壱とゲイルの謝辞を受けて、ますますやる気になった佑也だった。
 軽い気持ちで、荷物に手を伸ばして。

「重っ!?
 な、なんなんだ?
 この荷物……」
「エッツェルと同じことしてるのネ」
「ここまでは葵ちゃんが浮かせててくれたのでござるよ」

 ティファニーと佐保の言葉に、ようやくことの重大さを、首を突っ込んでしまった現状と荷物の2つの意味で、理解する。
 だがしかし、佑也には秘策があったのだ。

「じゃあ俺が『サイコキネシス』で浮かせれば、どうにか動かせるってことだよな!
 腕にかかる負担も減るだろうし」

 2人目のサイコキネシス使い登場により、またなんとか運搬が進んでいく。

「そういえば……えっと、丹羽くんとティファニーさんだっけ?
 あのさ、2人はやっぱり剣や槍術の腕は立つのかな?」

 ともに荷物を先導するティファニーと、前方を抱える匡壱へ、佑也は眼鏡の下で笑んだ。
 実は刀を愛用する者として、匡壱とティファニーとは仲よくなっておきたかったのである。

「うん、ミーの槍はテキサス州いちの実力ネ!」
「俺も……毎日、鍛練はかかしていないぜ!」

 ティファニーは、胸に手をあてて自身の大会歴を自慢した。
 匡壱も、息は切れ切れながら自信を持って答えてみせる。

「や、俺も剣の腕にはそれなりに自信はあるんだけど、ほとんど我流だからどこまで通用するのか分からなくて。
 それで、よかったら暇があるときに、2人の手ほどきを受けてみたいと思ったんだ……急な申し出だけどいいかな?」
「構わないヨ、来週の日曜日でどうカナ?」
「お、俺も、その日なら、空いてるぜ!」

 ということで首尾よくことが運び、あとは眼前のものを運ぶだけ。
 ますます、精神を集中させる佑也である。

「ずいぶんと重そうな荷物だな?
 手伝おうか、1人でも多い方が早く終わるだろう」

 次の角を曲がると、真っ黒な普段着に身を包んだ棗 絃弥(なつめ・げんや)が声をかけてきた。
 せっかくの休日だというのに、パートナーに、掃除をするから邪魔だと家から追い出されていたのだ。
 転校してきたばかりで土地勘もなく、しょうがないので学校へ出向いていたというわけ。

「お、おう、ありがとうな!」
「まぁ、ちょうどいい暇つぶしになるだろう」

 礼を言ってきた匡壱の隣に割り込み、下から荷物を持ち上げる。
 もともと、特にやることもなかったのだ。
 時間をつぶせるうえにそれが人助けとくれば、絃弥にとっては一石二鳥だったのである。

(……暇だ)

 ぶらぶらと、廊下を歩いてきた如月 正悟(きさらぎ・しょうご)
 葦原明倫館の見学がてら、転校した知り合いをからかいに来たのだが。
 いかんせん朝に弱い友人ゆえ、出てくるのにもう少し時間がかかるらしい。

(お、あれは匡壱さん。
 向こうも暇なら一手申し込みたかったんだが……あの状況で話しかけて時間をとらせるのも、補まって手伝わされるのも嫌だな)

 学内の散策でも……と考えていたところ、巨大な荷物を運搬する集団に遭遇。
 侍についていろいろ興味もわくのだが、匡壱には訊ねられそうにない。
 ここは、ティファニーに相手をしてもらうのが妥当だろうか。

「ツレに会いに来たんだけど、見つからなくて暇してるんだよね。
 もしよかったら試合を受けてくれないかな?」
「別に構わないヨ、どうせミーも暇してたところだしネ!」
「ありがとう。
 俺、一度自分の力量を見ておきたかったんだ」
「さぁ、両者とも構えるござる!」

 庭に降り立つと、背に負っていた薙刀を握るティファニー。
 対して正悟も小太刀ぐらいの竹刀を右手に……審判は佐保、真剣勝負の火蓋が切って落とされようとして。

「あ、そうだ。
 せっかくだし、なにかかけます?」
「面白い……では、勝った方が負けた方に昼食をおごるというのでどうネ?
 食堂のメニューならなにを頼んでも構わないヨ!」
「いいですね、のりましょう!」
「条件は整ったでござるね、はじめっ!」

 気をとり直して、今度こそ佐保が勝負の開始を告げた。
 正悟は、スキル『神速』を使い、高速で移動しつつフェイントを入れていく。
 ティファニーも負けじと食らいつくも、やや押され気味か。
 他の者達はというと……運搬の手を休め、皆でわいわい盛り上がっている。

「はぁっ!」
「うわっ、くそっ……ミーの負けネ」
「それまで、正悟の勝利でござる!」

 十数分の激闘の結果、軍配は正悟に上がった。
 武器だけに頼ることなく、徒手空拳を織り交ぜたことにより行動パターンが常に変化。
 狙いをしぼらせず、始終ペースは正悟のものとなった。
 悔しがりながら薙刀を片付けるティファニーと、審判を務めてくれた佐保に、礼もかねて冷たい缶のお茶を渡す。

「昼食ゲットだね〜じゃ、俺もついていくとするよ」

 やはり、手伝う気なんてさらさらない正悟は、ティファニーと佐保のあとをゆるりとついていくのであった。


*10時35分*


(ん?
 匡壱だ。
 なにしてんだろ……ああ、いつもどおりか。
 アイツも大変だよなぁ……ちょいと助けるか、仲間だしね)

 ふと、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は階段を降りる足を止めた。
 対岸の廊下に、なにやら難儀している匡壱の姿を認めたからである。
 実は、唯斗と匡壱は仲間、それもお互いいろいろなことに巻き込まれる苦労仲間なのだ。

「でさ〜、ん、唯斗?
 聴いてるのか……あぁ」
(いつもどおりなんだろうよ……ハァ)
「エクス姉さん、いかがいたしましたか?」

 だが唯斗の気持ちをよそに、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)はため息をもらした。
 唯斗の優しさも嫌いではないのだが、エクスより匡壱をとられると残念、というか迷惑。
 こういうときは、いつも紫月 睡蓮(しづき・すいれん)だけがエクスを気にかける。
 エクスの、唯斗に対する淡い恋心を、知ってか知らずか。

「匡壱さん、ゲイルさん、こんにちは。
 今日も元気ですねー」
「よ、匡壱。
 相変わらず大変そうだね、手伝うよ」
(まぁ、なにか共感するとこがあるんだよね……頼まれると無下に断れないトコとか)

 元気に手を振り、睡蓮は一行の前へ1番のりする。
 ちょうど、荷物の浮遊がとけたところ。
 あとを追ってきた唯斗も、匡壱の肩へと腕をまわした。

「桃侍、また巻き込まれておるのか?
 こりん奴だのう……うちの馬鹿と一緒だな」

 唯斗の行為にちょっとすねて、軽く悪態をつくエクス。
 悪気はないのだが、なんていうか……乙女心は複雑なのだ。

「うるさいっ、俺だって好きでやってるわけじゃないんだぜ!
 でもすまないな、今回も助けてもらって」
「ま、気にすんなって。
 いつものことだろ?」

 深くは知らずとも、本心でないことは匡壱にも分かっている。
 エクスの言葉を笑いとばして、唯斗へ謝辞を述べた。
 くしゃくしゃっと、匡壱の頭をなでる唯斗……友情は素晴らしきかな。

「ん、ゲイルもいたんか!
 もーちょい喋んねぇ?
 なんとなく言いたいことは解るようになったけどさ」
「ぬぁ!
 無口忍者もおったのか!
 おぬし、もう少し自己主張せんと危ないぞ?」
「ん〜最初からいましたけどねぇ」

 他のメンバーとも挨拶しておこうと、唯斗は視線をめぐらせる。
 おっと、とおりすぎた人物はゲイルではないか。
 唯斗同様、エクスもびっくり。
 けれども睡蓮は、最初からゲイルの存在に気づいていた。
 エクスのことといい、おっとりしているように見えるが、実は1番しっかりしているのかも知れない。

「じゃあいきますよ〜」

 本日3人目、サイコキネシスで運搬をサポートする睡蓮。
 そのぶん佑也も持ち手にまわり、ますます効率は上がったはず。

「つーかさ、ウチの女性陣って総奉行様を筆頭に結構ふりまわしてくれるよな。
 まぁ、お互いその辺は嫌じゃないんだろうけどさ」

 絃弥とは反対側の隣に入ると早速、匡壱に話しかける唯斗。
 前を歩くのは睡蓮のみだから大丈夫だし、後方までは聴こえまいと踏んでいたのだが。

「唯斗、変なこと言ってないでちゃんと運ぶのだ!」
「うぉっと聴こえましたか、すみません」

 エクスに叱られうなだれる姿は、皆から笑いを誘ったのだった。

「ふん、まったく唯斗は……これだから0点なのだよ」
「なかなか厳しいでござるね、エクスちゃん」
「そういう佐保は、匡壱に何点つけるネ?」
「ティファニーちゃんも、ゲイルさんの評価はどうなの?」

 唯斗をふがいないと嘆くエクス、本日の評価は正でも負でもないただの円。
 佐保やティファニーに葵も、男性陣の点数づけに興じていた。
 女性同士、きっと感覚として解り合えるものがあるのだろう。

「次の実技では負けねぇ、負けた奴はぱしりな!」
「臨むところだぜ!」
「あ、唯斗兄さん、危ないです」

 な〜んて雑談しながら作業をしていたもんだから、後ろ向きで歩いているにもかかわらず注意不足。
 睡蓮の呼びかけむなしく、匡壱ともども唯斗は派手にすっ転んだのである。
 荷物はなんとか、他の男性陣と睡蓮のがんばりにより無事だったが。

「なにやら悪戦苦闘している様子だな……人助けくらい、やっておいて損はないか。
 見返りは特に求めない、困っている人を助けるくらいどうということはないからな」
「困っている人を見つけてしまいました……助けないと、ですよね」

 いまだ転げている2人に代わって、そっと手を差し入れたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)
 やばい、登場がかっこよすぎる。
 そして可愛すぎる少女、ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)も顔を覗かせた。

「ミュリエル、離れていろ」
「はいです〜♪」
「……ティールセッター!」

 かけ声とともに光に包まれ、エヴァルトは堂々変身。

「『蒼空の騎士パラミティール・ネクサー』参上!」

 改造パワードスーツを着込んだ姿で、はりきって叫び名乗る。
 スキル『ドラゴンアーツ』の力もつけば、きっとのりきれるはずだ。

「私はそんなに力がないので、パワーブレスで手伝うしかありませんが……」
「ありがとな、ミュリエル」

 ミュリエルはエヴァルトに、スキル『パワーブレス』の能力を付与する。
 心強い助力を受け、さらにがんばれる気がしてきたぞ。

「しかしこりゃいったいなんなんだ、巨大な仏像とかじゃないだろうな?」
「はっ……違うヨ、断じてそんなものではないのネ!」
「じゃあ、なんなのでしょうね?」

 これまであえて誰も口にしなかった最大の疑問を、エヴァルトったらいとも簡単に。
 ふいっと顔をそむけるティファニーに、図星だな……と誰もが思う。
 ただ1人、ミュリエルを除いて。

「っていうか、自分みたいな怖い顔の人が人助けとは、意外なのネ!」
「なに、顔に似合わない?
 悪かったな、どうせ俺は悪人面だよ……」
(本当の悪人と誤解されてボコられたこともあるし……)
「っちょ、冗談ヨ!
 そんな落ち込まないで欲しいネ!」

 恥ずかしさを誤魔化そうとして発した一言に、場の空気が1トーン重たくなった。
 沈むエヴァルトに、ティファニーはこれ以上ないほどの謝罪の言葉を並べたのである。

「あぁ〜ほんとになんかやってるね〜」

 どこからか、噂を聞きつけたミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)がやってきた。
 面白半分で見に来たのかと思いきや。

「ミーナも手伝うんだよ!」

 がしっと、荷物の下に手を入れたではないか。
 身体の大小や力の有無なんて、ミーナはハンデだと思わない。
 とにかく一所懸命、自分の力を絞り出して皆を手伝うのであった。


*11時45分*


 結局、校門へたどりついたのはお昼前のこと。
 時間にして2時間45分、総勢15名での大がかりな作業となったのである。
 門外で控えていた巨大トラックに載せられて、荷物はティファニーの家へと運ばれていった。

「皆さん、甘いものでもどうぞです」
「はい、ジュースで乾杯しようよ!」

 荷物のなかから和菓子とジュースを取り出したのは、ミュリエルとミーナのご両名。
 ちなみに拡げた物達は、葦原明倫館の購買にて購入してきた品だったりする。
 校門を入ってすぐ右側にある休憩スペースで、しばしご歓談を。

「……ちょっと、ゲイルさんの素顔も気になります。
 隠されると、どうしても……食べるときくらいは覆面を外しますよね?」
「ゲイルの素顔か……俺もちょっと興味あるな」

 ミュリエルが甘味を渡したのには、れっきとした目的があったのだ。
 エヴァルトと2人してささやきあい、わくわくどきどきゲイルをみつめる。

「そんな特別なものはありませぬぞ?」

 注目をあびつつ、ためらうことなく覆面を外したゲイル。
 駄目だ、まぶしい。
 なんやねん、めっちゃかっこええやん!

「おまえ、なんでそんな綺麗な顔なのに隠してんだ?」
「え、あぁ、忍として目立ちすぎるのも問題だからな」
「はへ〜難しいですね」
「ふむ、忍者は影を生きる者でござるからな」

 エヴァルトの問いかけに、ゲイルは淡々と答える。
 感想を述べるミュリエルには、腕組み佐保が首を縦に振った。
 葦原明倫館の面々の大半はゲイルの素顔を知っていたようで、あまり動揺もしていないのだが。

(ティファニーさんはなにを取り寄せたのでしょうか……仏像らしいことは分かりましたが、気になります。
 ……まぁ、あまり聴かないでおきましょう、レディに対して失礼ですからね)

 会話を楽しむティファニーを見つめ、エッツェルは微笑んだ。
 なんの目的でどのような仏像を購入したのか、興味はあるがあえて口にしないところが紳士である。

「ところでティファニーさん、お茶でもご一緒しませんか?」
「おぉ、それは名案ネ!
 わざわざイルミンスールから来たというに手伝いをさせてしまったし、ちょうどお腹も空いてきたよヨ。
 どこかよいお店を……ゲイルなら知ってるネ、案内してヨ!」
「はっ……そうですな、ではご一緒に」
「俺も行くよ、お昼はおごってもらう約束だしね」
「そうだったヨ……ゲイル、あんまり高くない店でよろしくネ!
 じゃあみんな、今日はありがとう。
 また明日ネ〜」

 おもむろに立ち上がると、ティファニーの背後へまわりこむエッツェル。
 そっと肩へ手を置き、いわゆるデートのお誘いを。
 するとティファニー、隣で甘味をほおばっていたゲイルに声をかけた。
 もちろんのこと、昼食をかけた真剣勝負の勝者、正悟も加わり。
 なりゆき、4人でどこかへ美味しいお昼ご飯を食べにいくことになったとさ。

「さて、皆聞いてくれ。
 実は今日、下町の甘味処で秋の新作フェアをやっているんだが……一緒にどうかな?」
「せっかくですから皆さんで行きましょう!
 そのほうがきっと楽しいですよ!」

 ティファニー達の姿が見えなくなったタイミングで、机に身を乗り出す唯斗。
 つられて睡蓮も、拳を握りしめて訴える。

「もともとわらわ達は行くところだったのだ、唯斗が寄り道するからこうなっているがな。
 うぉっ、なにをするのだ!?
 まっ、まぁいい、どうせなら皆で行くぞ……桃侍も一緒に来い」

 頬をふくらませるエクスの頭を、唯斗がなだめるようになでた。
 なんともない行為だが、それだけでもエクスにとっては感極まるほど嬉しい。
 機嫌の悪かったことも忘れたうえ、敵対視していた匡壱をも誘うなんて……恋って素敵。

「あっ、あのな、唯斗。
 ……アレ、やってくれぬか?」
「え、あぁ、構わないが……帰ってからでも構わないか?
 人前だと恥ずかしいから、な」

 匡壱と佐保のとある行動が、たいへん羨ましかったエクス。
 ついっと唯斗の耳をひっぱり、恥じらいながらも小声でお願いしてみた。
 唯斗はまんざらでもないが、いまこの場でするのにはちょっと抵抗感。
 ということで、家に帰るまでおあずけとなったのである。

「ねぇいっち〜、ついでにここらを案内してもらえないか?」
「あぁ、構わないぜ!
 ってえ、なんだよ、俺なにか変なこと言ったか?」
「ふふ、匡壱だから『いっち〜』か……いいでござるね♪」
「だろう、今日からおまえは『いっち〜』だ!」

 いま適当につけたあだ名にもかかわらず、呼ばれた匡壱ったら普通に応対しちゃった。
 これはもう本人が認めた名だと、佐保もにっこり。
 命名・棗絃弥ということで、今日このときから葦原明倫館中に広めていくことが決定したのであった。