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少年探偵と蒼空の密室 A編

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少年探偵と蒼空の密室 A編

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ANOTHER 心霊商売

 交霊会の会場の空き家には、まだ客は誰もいなかった。
「ヒャッハア〜。ボクが一番乗りじゃん。交霊乱交霊感グッズ販売なんでもありの、いかがわしさ満載のイベント会場はここじゃないんかのう。おー、そこの兄さん、スタッフの人か? ボクは客じゃけん、けんどあんたらみたいなイカサマ商売は大好きじゃ。いかさまオカルト大いに結構。元手ゼロで、どんどん騙して大儲けじゃあ」
「元気のいいお客さんですね。しかし、ウチのは本物の交霊ですよ。あまり、霊の機嫌を損ねるような言動は慎んだ方がよくありませんか」
 客のリンダ・ウッズ(りんだ・うっず)に、今日は霊能者ドナルド・ノックスを名乗っているベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)がさわやかな笑みを浮かべ、語りかけた。
 もちろん、ベファには霊能力などはない。すべては、まっかな嘘である。
「おおお。いかにもな感じじゃのう。あんた、インテリやくざじゃろ。スマートな悪党じゃ。ボクは、あんたみたいなやつは大好きじゃけんのう。最近のこの街じゃ、悪党がはびこってると聞いて、喜びいさんでやってきたんじゃ。最近、名を売っている悪党といえば犯罪王ノーマン・ゲイン。あんさんもノーマン一家のお仲間か。ノーマンばんざーい! メロンパンばんざーい! 悪と善が戦ったら、なんでもありの悪が勝つに決まってるじゃろ。な。そうじゃろ」
「ふふふ。素敵な信条をお持ちのようですね。あなたは、ノーマン・ゲインにあいたくて、マジェスティックにきた。と、いうわけですか」
「当たり前じゃ。あいたくてもツテがないけんのう。そんで、こうしてノーマンの手下がいそうな悪のにおいがする場所へ顔をだして、まわっとるんじゃ」
「それは、残念。ウチは悪ではなくて、スピリチュアルですよ」
「どうやら、ここへきたのは、大正解らしいのう。スピリチュアル、平気でその言葉を使って商売できるやつの面の皮は、象の皮膚より厚いっていうけん。他の客が集まるまで、待たせてもらうか。なんなら、ビラまきや呼び込みをしても、かまわんぞ。ボクは、きみらの理解者じゃけんのう」
「あなたみたいなタイプは、ご先祖の供養が足らないと思いますね。その生活を悔い改めるために、ここで奉仕していただくとしますか。このビラを配ってきていただけますか。全部、配っていただけたら、あなたに特製のパワーストーンを進呈いたしましょう」
「お次はパワーストーンか。そんなもんはいらんが、ビラは配ってくるとしよう。人を騙すのは、楽しいけん」
『特別大交霊会開催中! 連続殺人犯の正体は! 霊感探偵の体を借りて語る被害者の少女たち。霊能者ノックスの神秘の世界へようこそ』と、いかにもな文章が印刷されたビラの束を抱え、リンダは空き家をでていった。
 彼女が、ビラを配るよりも犯罪を犯した方が早くノーマンに会えると思いつき、丸めたビラに火をつけ、連続放火魔としてマジェスティックを駆けまわることになるとは、さすがのベファも予想していない。
「なあにいまの人、危ない感じよねぇ。私たち、善意の霊能力者コンビがマジェの事件を解決しようとわざわざやってきてあげたのに、ああいう誤解は、迷惑だわ。ふふふふ」
 奥の部屋で、リンダとベファのやりとりを聞いていた雷霆リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が顔をだした。
 今日の彼女は、裸体にマントを羽織っただけの格好である。
「リナ。その、少し、過激すぎませんか」
「なに言ってるのさ。これじゃ地味だから、金粉でも塗ろうかと思ってるのに、ベファに霊をおろしてもらって、金粉まみれの私がのたうちまわる。交霊会って、そんなもんでしょ」
「さあ、私はこんなものはしたことがありませんから、知りませんよ」
「私もはじめて。でもね、きっと客は集まるわよ。私の霊感がそう言ってるの。なーんてね。あー笑える。ゲラゲラ。せいぜい、客を興奮させて、暴動を大きく、派手にするお手伝いをしないとね。私がここにいるのを知れば、ダーリンは、きっと会いにきてくれるわ」
 二人が話していると、さっそく、客の一団が家に入ってきた。