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少年探偵と蒼空の密室 A編

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少年探偵と蒼空の密室 A編

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ANSWER 18&13 ・・・ 探求&招待の問題 黒崎 天音(くろさき・あまね)藍澤 黎(あいざわ・れい)

 ドラゴニュートのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は、いつもパートナーの黒崎天音の心配をしている。
 知的好奇心が旺盛で、危険をかえりみないところのある天音は、几帳面で堅実なブルーズからすると危なっかしくてしかたないのだ。
「水晶の髑髏やドイツ語の石版だの、あの部屋の調度品は、とてもではないが、よい趣味には見えんな。どう見ても、怪しいとしか言えんぞ。メロン・ブラックについてゆくのか?」
「イコンはロストテクノロジーの産物と言うけれど、厳密には、オーパーツテクノロジーかもしれないね。さっき、見せてもらった博士の部屋には、少なくとも、五つはオーパーツがあったように見えたよ。それに、緑の髪の少女も気になるし。わざわざ迎えにきてくれるなんて、いい人じゃない」
 朗らかに笑う天音の横で、ブルーズがうなる。
「マジェスティックのロンドン塔か。最近、物騒な事件の起きている場所だな。我はどうも気がすすまん」
「せっかくのご招待だし、受けない手はないでしょ。理由はよくわからないけど、僕のこともよく調べてくれているみたいだし」
「ふむ」

「へぇ。今日、天御柱学院を辞められたの。それは急な話だね。昼食会の時には、まだ教員をされていたと思ったけど」
「自分の目的はイコンを知ることでした。それは、はたされたので未練はありません。自分がマジェスティテックに住むのも、あの地に眠る力に興味があるからなのですよ」
 ロンドン塔にむかう車中で博士は天音に、マジェスティック地区の地下にあると伝えられている、宝の正体について自説を述べだした。
「どんな力が眠っているの。ロストテクノロジーといってもいろいろあるよね」
「一言でいえば、あの地にふさわしいものを古代シャンバラ人がつくり、遺した、というところです。風水などでよく語られるように、土地にはそれぞれ固有の性質があるのです。かってのシャンバラは、パラミタの風土、この神秘の力を生みだす土地にふさわしいものであふれていた。それが、いまでは。地球の環境破壊の比ではなく、地球人、現代のパラミタの住人たちは、この大陸の元来持っている力をむげにしすぎている」
「博士は、マジェスティックの土地にある、本来の力を解放でもするつもりなの」
「ええ。今夜にでも。きみはおもしろいものが、見られそうですね」
「期待しておくよ」
 博士と楽しげに話すの天音をブルーズは、また危ないことに首をつっこみはしないかと、やきもきしながら、眺めている。

 ロンドン塔にはついたものの、急用ができたと言って、メロン・ブラックは姿を消し、天音とブルーズは応接間に残された。
「失礼な男だ。茶の一杯もださずに、どこへ消えたのだ。いなくなって、もう、ずいぶん経つぞ」
「いいじゃない。本でも読んで待つとしようよ。書架にちゃんと彼の自著がある。案外、かわいい人だね」
「やつのどこがかわいいのだ。自著とは、メロン・ブラックは本をだすほどの学者なのか」
「メロン・ブラックは手の込んだアナグラムだよ。彼は、獣の数字666」
 二人が話しているとドアが開き、入ってきたのは、天音と同じ、薔薇の学舎のイェニチェリ、藍澤黎だった。
「やあ、藍澤。こんなところで会うとは、奇遇だね。きみも博士に招待されたのかい」
「黒崎天音殿。貴殿の様子からすると、この塔の人質ではなく、客人としてもてなされているようだな」
「客人扱い? とてもそうは思えぬぞ。ここの主人の失礼なことといったら、我は天音と一緒でなければ、とっくに帰っているところだ」
 ブルーズに、黎は頷く。
「同感だ。ここは、用がすんだら、素早く退散したほうがよい場所だと我も思う」

「ふうん。藍澤は博士に雇われるフリをしてここまできて、それから逃げだしたわけだね。それで、いまは、街でさらわれた人たちを探している、と」
「一連の事件の情報を収集した結果、我がたどりついた結論なのだが、メロン・ブラック博士の正体は、十九世紀の大魔術師、アレイスター・クロウリーであろう。名前のアナグラムはもちろん、マジェスティックの各所で見つかっている、一筆書きの六芒星の印は、クロウリーが発案した彼自身の魔術のための記号だ」
「そして、彼は、このマジェスティックの地に眠るなにかを起こそうとしている」
 薔薇の学舎を代表する、白と黒、二人のイェニチェリは手短に情報を交換した。
「さすが黒崎殿、彼の正体に気づいていたようだな。さらにつけ加えるのなら、クロウリーの六芒星は、あのNorman Geinの最初と最後の二つのNを組み合わせた形にも見える。
連続少女惨殺事件がパラミタミステリクロニクルの一環だとすると、クロウリーとノーマンがつながっている可能性もあろう」
「僕は、昼間に、博士に友人を名乗る、それらしき人と会ったけれどね。でも、なにか違う気がしたな。彼は熱狂的ファンの多い人だから、自分を彼だと思い込んでいるような、そっくりさんもたくさんいるだろうしね」
「ほう。貴殿がそう言うのなら、そうかもしれぬな。悪いが我には我の目的がある。それでは、いずれ、また」
「ちょっと待って」
 部屋を出て行こうとした黎を天音が呼び止めた。
「教えて欲しいんだけど、ここに捕らわれているかもしれない人の中に、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)がいるかわかるかい。ほら、百合園女学院の、かわいいは正義! の緑の髪のツインテールの子なんだけど」
「すまぬ。それはわからぬ。が、ただ、我が得た情報に、今夜、ここで婚礼の儀が行われるという噂がある。この塔に捕らわれている少女たちが、花嫁として、意にそわぬ相手にもらわれていく、まるで人身売買のような儀式らしい。もし、ヴァーナー殿が捕らわれているのなら、その儀式にだされるやもしれぬな」
「婚礼の儀、か。藍澤。ありがとう。じゃ、気をつけてね」
 黎が行ってしまうと、天音もまた応接間をでようとドアノブに手をのばした。
「どこへ行くのだ」
「博士を待っていてもいつくるかわからないしね。ここでイベントが行われるなら、僕も参加してみようかな」
「婚礼の儀とやらにでるつもりか。さっきの話からするとかなり、いかがわしげなものに、思えるが」
「ロンドン塔で深夜の結婚式なんて、一生の思い出に残るよね。さて、僕は、どんな格好で出席しよう」
 少し、はしゃいでいる感じのする天音を眺め、ブルーズはまたため息をつく。