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クロネコ通りでショッピング

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クロネコ通りでショッピング
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リアクション

 
 
 
 クロネコさんを追いかけて、クロネコ通りにやってきた。
 クロネコ通りには、クロネコさんが連れてきたお客さんがいっぱい。
 クロネコ通りは今日も大繁盛。
 でも……クロネコさんは何処に?
 クロネコ、クロネコ、クロネコネコ。

 
 
 
 
 クロネコさん捜し……のはずが
 
 
「トラップ・トリック・トリップ、えいっ!」
 じゃんぷ、とばかりに茂みに飛び込んだ久世 沙幸(くぜ・さゆき)は勢い余って尻餅をついた。
「あいたたた……」
 無事にクロネコ通りにはついたけれど、ぶつけたお尻が痛い。ぽんぽんと汚れを払いながら立ち上がると、沙幸は一緒に茂みに飛び込んだはずのクロネコさんを探した。
 クロネコ通りのことをもっとよく知りたい。その為には道先案内人であるクロネコさんに聞くのが一番だと思ったのだ。けれど、どこを見回してもクロネコゆる族のぷくぷくした身体は見つからなかった。
「おっかしいなぁ……」
 ほとんど時間差なく飛び込んだはずなのに。尻餅ついている間に、どこかに行ってしまったのだろうか。
「こうなったら絶対捜し出すんだもんね」
 といっても、クロネコさんは右に行ったのか左に行ったのか、はたまたどこかの店に入ってしまったのか。1人で捜すには店でごちゃごちゃしているこの通りは厄介だ。どうしようかと見回した沙幸だったけれど、その目が知り合いの姿を捉えた。
「あそこにいるの、刀真たち? こっちに来てたんだ」
 そうだ、と沙幸は樹月 刀真(きづき・とうま)の所へと走っていくと、クロネコさん捜しに協力して欲しいと要請した。
「クロネコさんか……確かに気になるな。俺たちがこちらに来た時にも、クロネコさん自身の姿は無かったし」
「ねこさん捜し? 刀真協力しようよ」
 猫と聞いて途端に漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が乗り気になる。
「そうだな。まあ運が良ければ会えるかな? という感じだな。3時間後にあそこにある喫茶店に集合しよう」
「うん、よろしくねっ。あたしはこっちから捜していくから……あ、向こうにいるのは牙竜じゃない? 牙竜にもクロネコさん捜しに協力してくれないか頼んでみようっと」
 じゃあ3時間後に、と沙幸は手を振って武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)のいる方向へと走っていった。
 それを見送ると、刀真たちは買い物がてらクロネコさんの捜索を開始した。
「猫捜しも良いが、我の買い物も忘れるでないぞ」
 赤い着物に扇子を持った玉藻 前(たまもの・まえ)が念を押す。いつもは1人でふらふらしていることの多い玉藻が買い物についてきたのは、長く使ってきた扇子が傷んできたのでこの機会に新調しようという目的あってのことだ。
「分かってる。けど今月も厳しいので手加減してくれ」
 万年金欠状態に陥っている刀真はそう頼んだけれど、その言葉が聞こえているのかいないのか、玉藻は目についた店にさっさと入ってゆき。
「店主、杖代わりになる扇はあるか? できればこれと似たようなものが欲しいのだが」
 と、扇を見せた。
「御座いますとも。それも先日入荷したばかりの特級品に御座います」
「ほう、見せてみろ」
 店主に品物を出させている玉藻に、刀真はめまいを覚えた。
「特級品……」
 どうやら手加減してくれる気配はなさそうだ。けれど特級品と店主が言うだけあって、出してきた扇の出来は素晴らしかった。
「良いじゃないか似合うよ」
「ではこれを貰おう」
 刀真の言葉に玉藻も満足そうに頷いた。
「あの……刀真さん、私、買い物するのやめましょうか?」
 茶葉を買うつもりだったのだけれど今回は諦めようかと、封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)が言い出す。
「いや大丈夫。茶葉ならその店で売ってるんじゃないかな」
「本当に大丈夫です?」
 白花は刀真にもう一度確認してから、店に入っていった。
「すいません、ここではお茶の葉っぱを取り扱っていますか?」
「ああ、たくさん扱ってるよ。どんな茶葉が欲しいのかな?」
「疲れの取れるようなお茶が欲しいです」
 刀真と月夜が夜遅くまで仕事をしているので、少しでもその疲れを和らげてあげたい。疲れの取れるお茶があれば、一息入れてもらうのに良さそうだ。
「良く効くのがあるけど、ただこれ、かなり苦いんだよ。それでも良い?」
「えーと……はい、苦くても良いです。『良薬は口に苦し』ですよね」
 ちょっと迷った後、白花はそのお茶を購入した。
「ねこねこ〜、ほんほん」
 月夜はスキップを踏みかねない上機嫌さで、魔法に関する本とクロネコさんを捜して店回り。
「おやいらっしゃい」
 入った店は、杖や本等の魔法関係の品物を扱っていて、ネコの使い魔を従えたいかにも魔女、というおばあちゃんが1人で忙しそうに切り盛りしていた。
「こんにちは、チェックを着たクロネコさん何処にいるか知らない? あっそねネコ可愛いね〜」
 月夜に言われ、おばあちゃんは灰色の猫の背を撫でる。
「ありがとよ。この子もあたしと同じでもうおばあちゃんさ」
「あと魔法の本を探しているの。技術形態関係なんだけどある?」
「あるともさ。入荷したてでちっとばかし金額はいっちまうが良い本がたんとある」
 おばあちゃんが出してきた本の中身を食い入るように月夜は確認していった。
「なるほど……そういう発想もあるのか……これも面白い……欲しい」
 高価そうな本を読んでは呟く月夜の様子に、ぞくっと刀真の背筋に嫌な予感が走る。1冊だけなら……いや、1冊でも随分高そうだ、と本を値踏みした後、腰を叩いて品出しをしているおばあちゃんに、刀真は申し出る。
「えーと、男手要りませんか?」
「そりゃ、欲しいわえ」
「でしたら手伝いますから、少しその……負けていただけないかと」
 ふぉっふぉっふぉっ、とおばあちゃんは皺深い口を開けて笑った。
 
 
「俺たちの受け持ちはこっちか。クロネコか……見つかるかな」
 沙幸からクロネコさん捜しを頼まれた牙竜は、店を覗いてはクロネコゆる族を捜していった。誰に聞いてもクロネコさんはここにはいない、見てもいないと首を振る。
 さて次の店、と入ろうとした牙竜は扉の前で逡巡した。
 なんだろう、この感覚は。誰かに呼ばれたような、心がざわざわするような……。
「どうしたの? 入らないの?」
 立ち止まった牙竜にぶつかりそうになって、リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)が聞く。
「なんだか……いや、何でもない」
 気のせいだろうと首を振って、牙竜は『ムカシヤ』というプレートのかけられた店に入っていった。
 クロネコさんのことを尋ねる為に来店したのだが、店に入るなりそんなことは牙竜の頭から抜け、ただ目の前にある1つの箱のことだけが気にかかった。
「この箱……店主、見せてもらっていいか?」
 数ミリ単位の動きで店主が頷いたので、牙竜はその箱を開けてみた。
 中に入っていたのは……ヒーローの人形。
 それを見た瞬間、牙竜の脳裏に過去の景色が蘇った。
 
 ――その景色は、牙竜が育った孤児院のようだった。
 顔づけが見えない女性がいるけれど、愛情を注いでいる風ではない。
「あなたがいなければ、私は好きに生きられるの。だからここに捨てていくわ。……何よ、その物欲しそうな卑しい目は。これでもあげるから、大人しくそこにいなさい!」
 それは牙竜が孤児院に連れてこられ……否、捨てられた日の出来事だった。
(俺もバカだな。子供だから無償に母親の愛情とやらが受けられると盲信してたのか)
 孤児院前に放置された牙竜は、この後雪の中で凍死寸前に陥った。その時手を差し伸べてくれたのはきっと施設の人なのだろう。けれど、牙竜が見たのは特撮番組のヒーローだった。それはもうろうとした意識が見せた幻覚だったのか――

 
「結局、俺がヒーローやってるのは、自分が助けて欲しかった時に差し伸べてくれた手の温かさが忘れられなくて、今度は自分が手を差し伸べようとしてるのか……」
 現実に引き戻されて自嘲するように息をついた牙竜に、龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)は謝った。
「すみません。見えてしまいました……」
 灯は牙竜と知り合ってから、公式ストーカーとまであだ名されるほど情報を把握していたつもりだったけれど、このことまでは知らなかった。
「ほへぇー、私も牙竜の過去、見えちゃった。契約してると時たまにこういうことがあるのよね」
 リリィはそう言うと、箱の中にあった人形をのぞき込んだ。
「ところで、これって何てヒーロー? ずいぶん古い作品のおもちゃみたいだけど」
「名前は……ケンリュウガーだ。変身前の名前は『武神牙竜』……」
「ケンリュウガー? そう言えば、灯お姉さまの魔鎧の姿によく似てる。でも変身前の名前と牙竜がどうして同じ名前なの?」
「俺は身元不明で名前すら覚えてなかったから、そのヒーローの名前をつけてもらったんだ……」
「ええっ、そうなの? ってことは、やっぱり本名は『田中太郎』? あ、怒らないでよ。冗談よ、冗談」
 辛気くささを吹き飛ばすように、リリィは笑った。
 じっとその様子を見守っていた灯は、まっすぐに牙竜に視線を向ける。
「1つ聞きますが、過去を思い出しても生き方を変えませんか? ……私が知る限り、貴方は十分なほど手を差し伸べてきています。そろそろ、その手はあなた自身の幸せのために使うべきではないでしょうか?」
「変わりはしない。手が差し伸べられるのなら掴み、差し伸べられなくても助けになれると判断したら助けることが、俺の生き方だ」
 牙竜の答えに、よし、と灯は自分の心で頷いた。
(出会えて良かった。未来が悲しみなら、意地でも変えて見せようとする最愛の大馬鹿で)
 そんな気持ちで、馬鹿で安心しましたと灯は微笑む。
「クロネコも見つからないようだし、沙幸たちのところへ戻るか」
 そう言って店を出た時、牙竜は自分が締め忘れた褌を買うつもりだったことを思い出した。けれど……こんな雰囲気の中で褌を買いに行くとは言い辛く。まあいいかと牙竜は褌を買うのを諦めて、待ち合わせ場所になっているカフェに向かった。
 
 
 途中会ったリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)にもクロネコさん捜しを頼むと、沙幸はどんどん店を調べていった。
「すみませーん。クロネコさんを見かけませんでしたか?」
 最初はきちんとそう尋ねていたのだけれど、次々に覗く店の品物はどれも魅力的で、ついつい目的を忘れて見入ってしまう。
「ここはおもちゃ屋さんかな。わぁ、なんだか古めかしいな」
 どこかで見たことあるようなないような、そんなおもちゃが並ぶ店。
 可愛い着せ替え人形。けれど着せ替えしようにもその人形はお気に入りの服しか着てくれない。
 水飲み鳥は水がないのに細い首を振り続け、腕に巻き付ける黒いビニール人形は、巻き付けてもすぐに腕をふりほどいてしまう。
「うふふ、面白いな」
 人形がどの服なら着てくれるのか試してみたり、水飲み鳥の動きを指で邪魔してみたり。
「わあ、このサングラスをかけたヒマワリの置物……あれ、これは静かな時だけダンスするんだ。普通は逆だよね」
 部屋に人がいない時は踊りっぱなし? と沙幸はその様子を想像して可笑しくなった。
「よーし、面白いから買っていっちゃうんだもん」
 買った後で、読書中にうるさいって怒られてしまうかもと思い当たったけれど、それもまた楽しいかと買い物包みを抱え直す。その時、携帯のアラームが鳴った。もうすぐ待ち合わせの時間だ。
「あ、そういえばクロネコさんを捜してるんだった……」
 すっかり忘れていた。けれど、クロネコさんを見つけられなくてもとても面白い時間を過ごせたから、これで良いのかも知れない。
 誰かクロネコさんを見つけた人はいるかなと楽しみに、沙幸は待ち合わせのカフェ目指して走っていった。
 
 
「クロネコさんどこかなぁ?」
 沙幸にクロネコさん捜しを頼まれたリースは、自分の買い物をしがてら周囲をきょろきょろと見回した。乳鉢、薬草、触媒……魔法実験に必要なものを切らしていたから、何でも揃うクロネコ通りで買い物ができるのは丁度良い。
「クロにゃん、まだ材料は揃わないのか?」
 アリス・レティーシア(ありす・れてぃーしあ)は何故か、クロード・レジェッタ(くろーど・れじぇった)の買い物を急かしている。
「クロにゃんと呼ぶのはやめてくれと何度言ったら。珍しいものを作るには材料もそれなりの物が必要になるんだよ。後足りないのは人魚の鱗とドラゴンの牙か……まあ、お金は全部リース君持ちだから問題ない!」
「問題あるよっ!」
「痛い痛い、何も殴らなくても……」
 リースに叩かれて、クロードは慌てて逃げた。それをアリスが引っ張ってゆく。
「ほらクロにゃん、そんなこといいから早く材料を揃えてよ。あれが完成すれば、可愛い子たちが恥ずかしがってる姿がもっといっぱい見られる……ふふふったまらないわ〜」
 アリスがクロードに作らせようとしているのは、服が透ける魔法のメガネだった。妄想ふくらむ魔法の品だ。
「材料さえ揃えば、後ちょっとだよ。でもほんとに売ってるのか?」
「ないものはないって有名な魔法のお店だもの。探せばあるかも知れないわ。って、あったわよ」
「普通においてあるんだな。ここで探せばもっと良い実験材料が……」
「そんなのはいいからあたしの欲しい物をさっさと作ってよ」
 リースには聞こえないように2人はこそこそと相談する。何を目的にここに来たのかを知らないリースは、
「アリスねーさんとクロード君は仲がいいね〜。こういうのって悪友って言うのかな」
 なんて、微笑ましく見守ってくれていたりする。
 結局、買い物は出来たけれどクロネコさんは見つからず。待ち合わせの場所になっているカフェに一番乗りで到着した後も、クロードはテーブルの片隅で黙々とメガネの仕上げにかかっていた。
 そして遂に。
「よし完成! ほら、アリス君、大切に使いたまえ」
「おおー、クロにゃん天才だよ! よし早速……」
 アリスはメガネをかけると、目の前にいるリースを透視した。ゆっくりと服が透けてゆき、リースの下着が見えてくる。
(色は白、普通だ〜。まぁ、リースらしいかわいらしい下着だな)
 うんうんと頷いている所に、買い物の荷物を持った刀真たちがやってきた。早速アリスは目をこらしてみる。
 黒いシャツに黒のジーンズ、という格好の刀真の服の下にはまだ痛々しく包帯が巻かれていた。下着はトランクス。視線を動かして月夜は白花を見れば、白いブラウスに青いリボン、紺色のロングスカートを着た月夜の方は黒のレースの上下にガーターベルトで黒のストッキングを吊っていた。白のワンピースにストールを羽織った白花の方は、月夜と色違いのお揃いで、白のレースの上下に白のストッキングをガーターベルトで吊っている。
「はいこれ。ネコさん印のアミュレット」
「皆さんの分買ってきましたのでどうぞ」
 アリスに透視されているとも知らず、月夜と白花はアミュレットをプレゼントして回っている。
(あは。眼福ね。これをさりげなく教えれば……ふふっ)
 そして視線を玉藻へと。
(はいてない……だと!)
 ついまじまじと見直してしまうアリスに、玉藻が眉を寄せた。
「ん? 何の用だ? ……ふむ、面白いものを持っているな」
 ばれたか、と焦るアリスに玉藻は手を払うように動かす。
「月夜たちには黙っててやるからそのまま仕舞え。お前も余計な怪我を負いたくはないだろう?」
 しぶしぶアリスがメガネを取ると、玉藻はリースに微笑みかけた。
「そこの……リースだったか? お前のパートナーは面白いものを持っているな」
「え? ねーさん、何そのメガネ?」
「これはクロにゃんの発明品さ」
 堂々と答えるアリスに、クロードがあーと声をあげる。
「アリス君、こっちに責任を押しつけないでくれるかな。服が透けるメガネを作れと言ったのはそっちだろう」
「……没収!」
 こんなくだらないものを、とリースはメガネを取り上げた。けれど……。
(でもちょっと面白そうだなー。廃棄する前に少しだけかけてみようかな……)
 興味を抑えきれずにリースがメガネをかけた所に、牙竜たちがやってきた。
 こっそりと見てみれば、灯は大胆な紫の下着、リリィはゴスロリ風の白い下着。
(みんな下着には凝ってるんだなぁ。私もたまにはああいうのとか……)
 そんなことを思いながら、なんとなく視線を牙竜にやると……つけてない、というより、締めてない。
「いや〜!!」
 見てはいけないものを見てしまい、メガネを床に叩きつけた。
「リース君! せっかく作ったのに壊さないでよ!」
「こんなものっ、こんなものっ!」
「ああああー」
 げしげしげし、っとリースの靴に踏んづけられて、メガネは粉砕されていった。
「もうみんな集まってたんだ。あれ、どうかしたの?」
 最後に待ち合わせ場所にやってきた沙幸は、床にかがみ込んで何かの破片を呆然と手に載せているクロードに気づいて不思議そうな顔をする。
「……世紀の発明は往々にして弾圧されるものだと実感してるだけだよ」
 苦労して作ったのに、と残念がるクロードに、自分が見てしまったものを追い出そうと頭を振りながらリースは通告する。
「クロード君、アリスねーさんも今日の晩ご飯は抜き!」
 
 で……クロネコさんは何処に?