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6.シャンバラマンガスタジオ『燃えよペン』

 
 
「じゃあ、時間になったら、またこのアーチの所に集合だ」
 時計を見て、緋桜 ケイ(ひおう・けい)が、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)と後で落ち合う約束をする。
「あい分かった。では、また後でな。ウィリリリィィィ!」
「はぁーっ!??????????????」(V)
 呆然とする緋桜ケイをその場に残して、石でできた仮面を頭にななめに被った悠久ノカナタが、ルンルンで歩き去る。
「少し休むか……」
 思わず、緋桜ケイはその場に座り込んだ。
 一方の悠久ノカナタは、スキップを踏みながらお目当てのブースを目指していった。
「うーん、ポンポンが痛いよー」
 パンパンにふくらんだお腹をさすりながら、セシリア・ライトが苦しそうに言った。
「あんなにプリンを無茶食いするからいけないんですぅ」
 困ったものだと、メイベル・ポーターが少し呆れる。
「近くのブースに入って休んでいくですかぁ?」
 そう言ってメイベル・ポーターたちが立ち止まったのは、シャンバラマンガスタジオ『燃えよペン』のブースの前であった。
「なんとあの新撰組副長の土方 歳三(ひじかた・としぞう)がなぜか描いた噂のマンガがタダで読めますよー」
 最後尾はこちらという看板を持ったベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)が、必死に呼び込みをしている。
「くんくん。ここはカレーの臭いがするから嫌だよー。もう食べられないよー」
「まだ食べる気だったんですぅ!?」
 ちっとも懲りてないなと、メイベル・ポーターがセシリア・ライトに言った。
「それは聞き捨てなりまセーン。カレーは、食べ過ぎにも効くのデース。さあ、カレーマンガを読みつつ、特製カレーをおたべなサーイ。なんなら、ついでに土方さんの胃薬をサービスしマース」
 背後に謎のカレー鍋を従えながら、アーサー・レイス(あーさー・れいす)が、がしっとセシリア・ライトの腕をつかんで言った。
「ここの胃薬はだめですわ。薬なら、わたくしが取って参りました」
 間一髪、そこへ薬を探しに行ったフィリッパ・アヴェーヌがやっと戻ってきた。
「助かったんだもん」
 もらった胃薬を、ペットボトルの水でセシリア・ライトが飲み込む。
「ふっかーつ!!」
「早すぎマース。ふっ、でも、これでカレーを……」
「ちょっとどくのだ。邪魔、邪魔!」
 すぐにブースの中に引きずり込もうとしたアーサー・レイスであったが、突然駆け込んできた悠久ノカナタに弾き飛ばされてセシリア・ライトたちを捕り逃がしてしまった。
「ううっ、カレー学科でブースを出せていればこんなことには……」
 それでも、土方歳三に逆らえなかったことを悔やむアーサー・レイスであった。
 
    ★    ★    ★
 
「ファンだったんです!!」
 スケッチブックを差し出しながら、悠久ノカナタが叫んだ。
「うむ。スケブには何を書けばいいのだ?」
「ぜひ、主人公が初めて山吹色の大判どら焼きを使うシーンを」
 問い返す土方歳三先生に、悠久ノカナタが目をキラキラさせてリクエストした。
「パウロオォオォオォ!!」
 ペン先からインクを生み出して飛ばす勢いで、土方歳三先生がものすごいスピードでスケブにイラストサインを描いていく。あまりの速さに、残像で腕が何本にも見えるくらいだ。
「できれば、この仮面にもサインを……」
 ズイと差し出す仮面にも、一瞬にしてサインが刻まれた。
「まさかこれほどとは……。家宝です♪」(V)
 悠久ノカナタが飛び跳ねて喜ぶ。
「まさか、本当にファンが居たとは……。はーい、みなさん、大人気土方先生のマンガが買えるのはこのブースだけですよー。今買わないと一生後悔しますよー。残部稀少です。さあ、買った買った!」
 チャイナドレス姿で売り子をしていた日堂 真宵(にちどう・まよい)が、ここぞとばかりに積みあげた漫画本をベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの本体でバンバンと叩きながら叫んだ。まさに叩き売りだ。とにかく、こんな本を持って帰りたくはないという一心らしい。
「さあ、持ってけ泥棒。今なら、土方先生の手垢……もとい、手形サインつきだ!!」
 日堂真宵が、漫画本の山の上にベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの本体を投げ出すと、メガホンを取って叫んだ。
「買ったあ!!」
 悠久ノカナタが、本の山を無作為にかかえ込んで叫んだ。それを見て、釣られた通行人たちが殺到する。
「はーい、お代はこちらね」
 適当に漫画本を手提げ紙袋に突っ込んで、日堂真宵が精算をしていく。
 ところで、悠久ノカナタに手渡した紙袋にベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの本体が混ざっていたような気もしたが、日堂真宵は当然のようにそれを無視したのだった。
 
 
7.自由無法者同盟

 
 
「……のように、自由無法者同盟は、裏社会の組織、秘密結社等の世間に顔向けできない地下組織ではありません。パラミタ自体が、まだ全体の法が定まっていない世界、すなわち、無法状態にあるのです。その世界で、私たち自由無法者同盟は、法に守られるのを待つことをせず、自分たちの力で道を切り開いているのです」
 熱くコミュニティの説明を語るガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)の話を、ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)はうんうんとうなずきながら聞いていた。
「それだけの組織であれば、コミュニティのパワーもかなりのものなんでしょう?」
「ええ、まあ、それなりに」
 ゴットリープ・フリンガーの問いに、ガートルード・ハーレックはちょっと曖昧に答えた。もちろん、公式コミュニティなみのパワーを持っていると自信をもって言えはするが、それらを超えたトップクラスであるとはまだまだ言い難い。
「もう基地とかはお持ちなのかのう?」
 今度は、ゴットリープ・フリンガーのパートナーである天津 幻舟(あまつ・げんしゅう)が訊ねる。
「それは未定です。現在、候補地を物色中と言ったところでしょうか」
 本拠地がほしいのはやまやまだが、結構な大所帯だと、場所の選定も慎重にせざるを得ない。さらに、無法者の本拠地とあっては、蛮族の格好の標的になるかもしれない。それはそれで、自分たちにとっては面白いがと思いつつ、ガートルード・ハーレックはコミュニティの説明を続けた。
「現在のメンバーは、有名どころが揃っています。こちらを御覧ください」
 ちょっと自慢げに、ガートルード・ハーレックはコミュニティのメンバー表を広げて見せた。
「それはそれは、凄いですじゃ」
 天津幻舟が調子を合わせる。ゴットリープ・フリンガーたちの本音は、他のコミュニティの動向を知って、自分たちのコミュニティの参考にしようというものであるから、興味はあっても、情報収拾以上の関心はない。
「よければ、あなたたちもぜひ入会を……」
「そうですね、考えておきます。まだ、いろいろと他のコミュニティも見たいものですから」
 ゴットリープ・フリンガーは、やんわりと話を保留にすると、次のブースに移動していった。