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ぶーとれぐ 愚者の花嫁

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ぶーとれぐ 愚者の花嫁
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リアクション


第十四章 七つの犯罪

あの、あなたがもし良ければステージの出し物も見ていきませんか?
これから推理研の発表があるんです。私は読書が好きなので、これから見てみようと思っていて…… クロス・クロノス(どきどきっ、オータムパーティ!)


承前

式は間もなく始まろうとしている。
花嫁用、控えテント。
周囲の制止をふりきり、そこへ駆け込む者がいた。
茅野菫率いるスコット商会に護衛された、花嫁テレーズの車椅子の前に、一人の少年が立ちふさがる。

「はあはあはあはあ。待つんだぜ。
この結婚は、俺が認めないんだぜ。
テレーズ。正気に戻るんだぜ」

ソフトモヒカンの彼は、春夏秋冬真都里。
昼間のダメージから回復した真都里は、結婚を阻止するため、ここまできたのだ。

「君に会えないときの俺は、死んでいるといってもいいんだぜ…とどめはテレーズの笑顔なんだぜ!
テレーズ。俺と一緒にこい」

車椅子のテレーズを真都里が抱きかかえようとした瞬間、閃光がはしった。
パシャパシャ。

「くしししし。決定的場面だね。しかも」

いつの間にか真都里のあとを尾けてきていた、パートナーの小豆沢もなかがデジカメを真都里にむけていた。

「もなか。撮るな。
これは、おまえには関係ないんだぜ。
俺は大事なことをしてるんだぜ」

「そんなに大事なら、邪魔しちゃ悪いんだぞ。
関係ないんなら、もう、真都里は、もなかともロレッタとも関係ないんだぞ。
さよならだぞ」

重く、冷ややかな幼女の声だった。
もなかについてここまできた真都里の想い人、ロレッタ・グラフトンは、にこやかに微笑むと、背中をみせた。

「まつりん終了のお知らせだね。
くししししし。もなちゃんは、ロリッタちゃんと帰るから、まつりんは、ずっとここにいればいいよ」

もなかもまたテントをでてゆく。
テレーズを抱えたまま、かちこちに凍りつき、一瞬にして総白髪になった真都里を、テント内のスコット商会のメンバーも手をださず、ただ眺めている。

1・四条輪廻失踪事件

ミレイユ・グリシャムとシェイド・クレインは、エアカーでロンドン塔へむかっていた。

「男爵が姿を消したと思ったら、結婚式の準備がされていたなんて、驚いちゃうよね」

「推理研の人たちが行う以上、普通の式ではないと思いますよ」

「うーん。どうなるのかなあ。
男爵もだし、それに先に真都里くんに会いに行ったロレッタも心配だよね。
ワタシはどっちのカップルも幸せになって欲しいな」

「男爵がどんな方なのか、いまいち見極められなかったのが、残念ですね。
単純な犯罪者などでないのは、わかりましたが」
 
ミレイユの携帯が鳴った。

「ファタさん。
どうしたの。ワタシは移動中だよ。
うん。ほー。はあはあ、ふうん。悪いけど、手がかりはあげられそうにないなあ。
ちょっと、待って、シェイドにも聞いてみるよ。
あのね、ファタさんから電話で、いま、男娼館にいるんだって。
ヒルダさんは、ドラゴニュートの人と喧嘩しながら暴れまくって、施設を壊しちゃって大変らしいよ。
そんでね、ファタさんが男爵の手帳を探してて、秘密の書斎にまでたどりついたんだけど、そこで困ってるんだって。なにか、役に立つ情報はないかな」

「そうですね。もし、本当にそこが男爵の秘密の部屋なら、その部屋の存在を知っている男爵以外の人物は、全員信用しない方がよいでしょう。
アンベール男爵というのは、誰にも気を許さずに生きてこれれた人物にみえましたから。
彼の秘密を知っているのは、彼の仲間ではなく、彼の敵だと思いますよ」

「だって。
ワタシはよくわかんないよ。ごめんね」
 
電話を切って、またすぐに着信が。

「あれれ。
これ、今日、男爵の屋敷であった四条輪廻さんだ。
どうしたんだろ。はい。ミレイユだよ。
えええ。ねえ、ねえ、ちょっと。
四条さあーん」

「どうしたのです」

「大変。車をお屋敷に戻して、四条さんが殺されちゃうよ」

「落ち着いて、いまの電話の内容を教えてください」

「う、うん。あのね、お屋敷に潜りこんで調べていたら、すごいものを見つけたって、なんか隠し財産らしいよ。
それも、男爵に内緒で、部下の人達が勝手にネコババしてつくったものらしいって。
そこまで話してたら、悲鳴がして、電話が、切れちゃった」

「彼は、男爵の屋敷にいるのですね」

「うん。隠し金庫の部屋にいるって言ってた」

電話はリダイヤルしても、もちろん、つながらない。
二人が屋敷に急行すると、使用人たちはまったく普通に生活していた。

「さあ、四条様なら、あなたがたのすぐ後に帰られましたので、私どもはいまどこにいるのか存じません」
中を調べさせてくれと頼んで、二人は屋敷内に入ったが、やはり、どこにも四条の姿はなく、新しい血のにおいもしなかった。

「ミレイユとシェイドだな。
奇遇だ。リリは、この屋敷に秘密のにおいを嗅ぎとったのだよ。
きさまらは、なにをしておるのだ」

リリ・スノーウォーカーと迦陵、マリーウェザー・ジブリールの三人は、男爵不在を承知のうえで屋敷に忍び込み、探索していたのだという。

「情報整理するとみえてくるのは、男爵本人よりも、アンベール男爵は悪であるという世間のイメージの下でうごめいているたくさんの小さな悪ね。
私は、ここがその小さな悪たちの拠点だと思うの」

マリーウェザー・ジブリールは、一般にとって害悪なのは、男爵よりもむしろ、そちらの小悪だと語る。

「私はさっきここで銃声と悲鳴を聞きました。
リリもマリーウェザーも聞こえなかったと言いましたが、たしかに耳にしました。
間違いありません」
目が不自由な分、聴覚が発達している迦陵の言葉を手がかりに、ミレイユたちは敷地内にある養蜂ハウスにむかった。

「こっちの方向で銃声がしたんだよね?」

「そうですね。
おや。蜂の世話をしておられる方が、そこの小屋にいるようです。
話をきいてみましょう」
 
ハウスの横の小屋にいた年配の男は無愛想で、二人があいさつをしても目を合わそうともしなかった。
それでも、シェイドがいきなりの訪問の無礼を何度も詫びて、ていねいに質問を繰り返すと、自分は男爵が地球にいた頃からずっと仕えていて、ハチミツ好きの男爵のために養蜂を専門にしているとのこと。今日は、ここには誰もこなかったが、ここ数日、男爵への来客が多かったため、毎晩、蜂が暴れ、ついさっきもハウスから抜けだした蜂が自分を襲ってきたので、それを追い払う時に、銃を暴発させてしまったこと等を聞き取りにくい小声で話した。

「蜂が暴れるんだ。帰ってくれ。オレのところに、近寄らないでくれ」

たしかに男は養蜂のベテランらしく、小屋の壁には、英国の養蜂協会から送られた優秀養蜂者への表彰状が飾られている。 
男に礼を言い二人は、養蜂ハウスを離れた。

「どうする。あの人、怪しい感じがするけど。証拠がないよね」

「いいえ。証拠もありますよ。
リリ、迦陵、マリーウェザーの三人と合流して、彼が逃げる前に小屋に戻りましょう」

自信に満ちたシェイドの態度に、ミレイユは目を丸くする。

「なんで、そう言いきれるの。
疑わしきは罰しちゃ、メっなんだよ」

「彼は、間違いなくウソをついています。
なぜ、私が気づいたかといえば、菓子作りが趣味のものは、その原料についても多少は知識を持っているものですよ」


シェイド・クレインは、なぜ、小屋の男のウソを見破れたのでしょう?


2・秘密の書斎事件

「壁はすべて天井まで届く書架。
すごい量の本ね。
ここが本命の気がするわ」

霧島春美とディオネア・マスキプラが、カリギュラ・ネベ(ぺ)ンテスの地図を頼りに、男爵の秘密の書斎を発見し、その部屋を調べていると、やがて、そこに、ファタ・オルガナとガートルード・ハーレックが手土産を持ってやってきた。

「先客がいて誰かと思えば、マジカルホームズか。
くわしい話は抜きじゃ。
仲間たちに時間を稼いでもらっておるのでな。
貴重な一分一秒じゃ。
どうせ、目的は、わしらと同じじゃろ」

「私たちは、ここにくる途中で彼を捕まえました。
男爵がこの部屋の整理を任していた司書だそうです。
この部屋の場所も、入り方も彼に聞いたんですよ」

ファタとガートルードが連れてきたぶ厚いレンズのメガネをかけた小男は、怯えきっていた。

「わ、私も、もう知っていることは、すべて話しました。
ここで毎日、本の整理をしているのです。
私は、それくらいしか能のない平凡な司書なんです」

それでも、なにかの役に立つかもしれないという理由で、男は椅子に縛りつけられた。

「これだけの量の蔵書がきちんと分類されて書架におさまっているのが、驚きよ。
公共の図書館だって、もっと乱雑よ」

「でも、町の図書館にはある絵本や童話。伝記マンガは、ここはおいてないよね」

「サラ・ウォーターズ。
S・Sヴァン・ダイン。
スタンリイ・エリン。
スタンリイ・ハイランド。
スーザン・ギルラス。
サイモン・ブレット。
推理小説もかなり揃ってるわ」

春美とディオが、アルファベット順で分類された英米の作家の推理小説の棚をみている反対側では、ファタが、

「赤星香一郎。
秋月涼介。
浅暮三文。
石黒耀。
乾くるみ。
その作家のメフィスト賞受賞作だけ、受賞順ではなく、作家名の五十音順で並べておる。
なんともマニアックな分類法じゃ。
男爵は、日本語も読めるのか」

「スチームパンクのコーナーもあるわ。
フィクション、ノンフィクション、ジャンルを問わずにこんなに本を読んでいるなんて、まるで博物学者ね。
ジェイムズ・P・ブレイロック。
K・W・ジーター。
ティム・パワーズ。
ここも作家名のアルファベット順だわ」

ガートルードも感心している。

「司書よ。
この部屋に出入りできるのは、おぬしと男爵だけなのか」

「はい。ですが、最近は男爵様はお忙しくて、こられず、私一人で毎日、整理分類しております。
昨日も今日もここに入ったのは、私だけでございましょう」

「ふむ。それでいったいなにをしておるのじゃ」

「整理でございます。
具体的には、下の方に、男爵様がよく手に取られる本が入れてありますので、下から上にむかって整理しております。
それに、いま、皆様がごらんになられた部分などは、ちょうど男爵様の目の位置になりますので、毎日、必ず、朝、昼、夕ときちんとなっているか確認しております。
例え、私しかここに入らない日々が続こうともそれは変わりません。
今日も、夕の確認をすませ、自室に帰りかけたところを」

「私に捕まったんですね」

「はい」

ガートルードがこわいのか、男は顔を下にむけた。

「質問があります」

春美が手をあげる。

「確認なんですが、今日は、ここにあなたしか入っておらず、棚のここの部分は、朝昼夕の確認をすませた、整理された状態である。それでいいんですね」

「は、はい」

男は頷く。
春美はため息を一つ、ついた。

「彼はウソをついているわ。
私はそう思う理由は、みんなわかるわよね」

「そうじゃな」

「本好きが三人揃ったのが、よくなかったですね」

「ボクは関係ないよ。童話はないの」

他の三人が男をかこむ中、ディオだけが、なにかおもしろそうな本はないかとまだ書棚を眺めている。


霧島春美は、なぜ、男がウソをついたと気づいたのでしょうか?


3・ルドルフ神父殺人未遂事件

「地球の古い絵画だね。
ルネッサンス初期のものだと言っていたよね」

黒崎天音は、画商が残していった写真を眺めていた。
教会には、天音の他に、ブルーズ・アッシュワーズ、ヴァーナー・ヴォネガット、リカイン・フェルマータ、サンドラ・キャッアイ、アレックス・キャッアイ、禁書写本河馬吸虎、レイナ・ミルトリア、アルマンデル・グリモワール、リリ・ケーラメリスがいる。
ルドルフ・グルジエフ神父ことルディは、先ほど救いを求めてきた画商を個室に呼び、二人はそこで話しあっているらしい。
画商がここにいるみなの前でした話は、アンベール男爵から絵画を買いたいと言われ、前金をもらって、それらの絵を納品したが、男爵はそれきり支払いをしてくれず、このままでは、財産を奪われた形になる自分は、破産するとの内容だった。
男が見せた絵画の写真には、楽園に遊ぶ男女の裸体や、天使の姿、他にも聖者や神々が美しく、そして眉毛、ヘソ、唇の皺までリアルに描かれていた。

「あの神父に解決できる問題とは思えぬが」

「いいえ。
ルディおにいちゃんは、なんとかしてくれるです」

天音の横では、ブルーズとヴァーナーが言い合っている。

「男爵のところへ殴りこみに行く展開にならないかな。
神父くん、早く戻ってきて、エクソシストしてよね」

「ルネッサンス期の絵は宗教的なものも多いので、私も見慣れています。
これらは、あまり有名な作品ではないのではないでしょうか。
ルドルフさんは、神父というよりもよろず相談所。なんでも屋さんですね」

ちょうど並んで座っているリカインとレイナは、互いにまったく関係のないつぶやきをこぼしていた。

「失礼。
スコッランドヤードのマイト・レストレイド警部だ。
黒崎天音さんはいるかな」

「ワウン。ワウ。ワウ。
(そのあいさつはいい加減にやめたらどうだ。マジェでは特に誤解をまねくぞ)」

一同がルディと画商の話がすむのを待っていたところに、マイトとパートナーの犬型機晶妃ロウ・ブラックハウンドがやってきた。

「僕になにか用かい」

「実は、きみの名前が書かれた、この手帳を入手したのだが、その場所が問題で。
ある犯罪の現場で発見したのだ」

「となると、僕ではなくてそれを拾った人が、そこに行ったということだね。
僕は、その手帳を落としたんだ。テレーズ嬢とぶっかってね」

「なに、ということは」

「ワウ、ワウワウ。ワウン。ワウワウワウ。
(男爵とテレーズは犯罪者同士ではないのか、それも組織の上の者同士。そうなると、結婚を妨害する意味も違ってくるぞ)」

天音とマイトたちが話していると、突然、ガラスの割れる音が響き、個室から悲鳴がきこえた。
そして、なにやら争っている物音。
リカインはすぐにドアに駆けつけ、

「鍵がかかってるのね。
開けなさい。
開けるわよ」

ほとんど猶予を与えずに、ドアを蹴り破る。
そこには、意識を失って、うつぶせに倒れているルディと、腹部を押さえうずくまっている画商がいた。

「ルディおにいちゃん! 
しっかりするです。
ボクが治してあげるです」

治療魔法が得意なヴァーナーがルディを介抱する。

「誰かが、そこの窓からガラスを割って侵入してきて、神父を襲ったんです。
神父は、背後から、頭を叩かれてました。
私は、腹を蹴られ、みなさんの声がしたら、犯人は逃げていきました。
黒装束に覆面で、年齢も性別もはっきりとはわかりません。
男爵の手のものでしょう。きっと、行動を起こした私が邪魔になって」

画商は途切れ途切れに、苦しそうに語った。

「みんな、なにもさわるな。
現場の状況を保存する。ヤードに連絡だ」

「それはそれでいいんだけど、画商に一つきいていいかな」

騒然とする室内で天音だけは、飄々としている。

「苦しんでいるところ悪いけれど、あなたは、ベテランの画商でずっとこの道で生きてこられた方、それで間違いないんだよね」

「はい。私は美大をでて、美術館に勤務していたこともあります。
大学の講師もしていますよ。美術以外で金を稼いだことは一度もありません。
それがどうかしましたか」

「レストレイド。彼を逮捕すべきだよ。
きみには、そういう権限はあるのかな? 
ジャスティシアなの。
それは、よかったね」

天音は、画商が逃げないように警戒してか、彼の前に立ちました。


黒崎天音は、なぜ、画商の逮捕を要求したのでしょうか?

4・令嬢自殺事件

七尾蒼也は、彼女がいつまでも戻ってこないので、部屋まで様子を見に行った。
高級アパートメントの部屋の鍵は開いていた。
そして、数時間まで元気だった彼女は、ソファーにぐったりと横倒しになり、事切れていた。

「ペルディータ。
マリーが、亡くなった。
そこにいて、アパートメントからでてくるものがいないか、チェックしていてくれ。
俺はヤードを呼ぶ」

外にいるパートナーのペルディータ・マイナとヤードに連絡して、蒼也はヤードの到着を待った。
整頓され、きれいに片づいた部屋だ。
食器棚の中も同じ模様の皿や食器が並んでいるし、コルクボードには、正しいつづりできちんと書かれた細かなメモ用紙が、これまた整然と列になってはられていた。
短い時間しか接していないが、マリーは几帳面な性格の女性だったと蒼也は思う。

「自殺なんですか?」

「ああ。おそらく、そうだろう。
きみを外で待たせておいて死んだのも、死体をすぐに発見させるためだろう。
最期までご丁寧な女だったな」

ヤードの刑事の判断が蒼也は納得できなかった。

「彼女は、マリーは、俺たちと一緒に、アンベール男爵の結婚式に出席してくれるって言って、その仕度のために一時、部屋に戻ったんです。
死ぬと決めていたなら彼女は、そんなことはしませんよ。
つも飲んでいるミネラルウォーターに毒物が混入されていたんでしょ。
彼女にうらみを持つ誰かが」

「マリーは伯爵令嬢とはいっても、裏では犯罪組織の幹部だったんだぞ。
うらみなどいくらでも買っとるわ。
それにこの女は、一時はアンベールにぞっこんだったんだ。
そんなやつがのこのこ結婚式にでるものか。
しかもな。遺言書があるんだよ。
こんなものをポケットに入れて歩くなんておかしいだろ。
これから正確な筆跡鑑定にもかけるが、他の遺留品の文字、文章とくらべても、たぶん、本人のものの確率が高い」
「遺言書?
それをみせてください。お願いです。
みるだけでいいんです」

うんざりした顔で刑事が持ってきた、封筒入りの遺言書を蒼也は、真剣に読んだ。

私事、マリー・スレンダイルは、本日以前に私が署名したすべての遺言書を無効にすることを宣言する。
さらに私の死に際し、本遺言書が読まれ、私の遺産が次のごとく分配されること要求する。
権利の分配、穣渡にかかる緒費用はすべて〜


そして、

「これはおかしいですよ」

蒼也は首を横に振った。

「男爵について知りすぎていたからか、組織内の闘争かはわからない。でも、彼女は殺されたんじゃないですか」

「なにを根拠にきみは」

「いま、説明しますよ」


七尾蒼也は、なぜ、マリーの遺言状に疑いを持ったのでしょうか?

5・機密爆発事件

ヴェッセル・ハーミットフィールド(通称ベス)がその屋敷に着いた時、すでに屋敷の内外では激しい銃撃戦が行われていた。

「テレの一族が抱える秘密。
かなりのもんらしいな。
一族の本家の旧家屋。いまは誰も住んでないこの家には、やはりなんかあるってことだな。
拝ませてもらうぜ。
TALLYHOOOOOOOOOOOO!!」

弾にはあたっても致命傷はもらわない自分の悪運の強さを信じて、魔法、銃弾飛び交う中をベスは屋敷に突入した。
屋敷内にはすでに、それぞれの入手した情報を元に、シャンバラ教導団の三船敬一と白河淋、戦部小次郎とリース・バーロット、クレア・シュミットとエイミー・サンダース。それに、水橋エリスとリッシュ・アークも侵入し、交戦中だ。

「こういった単純なドンパチも、たまには、楽しいものですよ」

戦部が口元だけに笑みを浮かべ、冷静に狙い撃つ。

「相手の火力がだいぶ弱まわってきたようですわ」

「了解」

戦部のパートナーのリースにこたえたのは、すぐ隣で、銃撃戦を行っている三船と白河だ。

「いまなら、奥まで行けますよ。
こちらで援護します。早く中へ」

「俺が守ってやってんだ。
あんた、運がいいな。絶対、生き残るぜ」

白河とリッシュの言葉に頷き、クレア、エイミー、エリスの三人はついに、テレーズの一族と巨大な悪とのつながりを示す、機密の置かれた部屋に入ろうとし、真鍮のドアノブにクレアの手がかかった。

「危ない」

とっさのエリスの叫びで、クレアとエイミーは飛びずさる。
三人が入ろうとした部屋のドアが吹き飛び、部屋の入り口からは業火がふきだす。

「一族の機密が」

「ボス。ムリだよ。敵も撤退してる。この屋敷からでよう。
誰かが火をつけたんだ」

クレアはいつもの静かな表情で、わずかな間、燃えさかる業火を眺めると、踵を返した。

「退却だ」

火もおさまり、先ほどまでの騒々しさが嘘のように消えた、屋敷の焼け跡前で、ベスは、一人の男をみんなの前に連れてきた。

「俺な、なんでか知らねぇけど、とにかく叫んで走ってたら、爆発寸前にあの部屋の中にいたんだよ。
そしたら死体と、こいつがいて、俺はこいつと窓から飛び降りて間一髪ってわけ。
みんな、こいつに聞きたいことがあるんじゃねぇの」

地面に座り込んだ男はすすで汚れた顔をみなにむけた。
クレアが質問する。

「あなたがあの部屋を爆破したのか?
 あそこには、アンベール男爵が、いや、私たちがこのところ戦っている巨悪とこの一族つながりを示すなにかがあったはずだ。
それについて教えてもらいたい」

「知らん。
俺は、男爵の側の人間だ。
あそこに入ったら、待ち伏せしてるやつらがいて、なんとか倒したが、こっちも生き残ったのは、俺一人だ。
部屋が爆発した理由は、俺たちの銃撃戦の流れ弾が部屋の中のものに当たって、散った火花が絨毯やらカーテンやらに引火したのさ。
火がついたら後は、死体が持ってた爆弾でも誘爆したんだろ。
俺は、弾が当たってドアノブから火花がでたのをみた。
あれが、絨毯に引火したんだ。あれしか原因はない」

クレアは男から目線を外し、仲間たちに顔をむけた。

「お気づきであろう。
彼に素直に事実を話してもらうには、どうしたらよいかな。
私は手荒なマネはしたくないのだがな」


クレア・シュミットは、なぜ、男が事実を話していないと気づいたのでしょうか?

6・義足事件

「なんで死んでるの?」

レキ・フォートアウフ は自分の目が信じられなかった。
車椅子の女は、胸を打ちぬかれ、死んでいた。

「犯人はあっちへ逃げたわ。
早く、追って」

誰かの声におうじて、何人かが路地へ飛びだしていく。

「虐げら続けた人生」

そっとささやきながら、クロス・クロノスは死体のまぶたを閉じた。

「安らかな眠りを」

「アンベール男爵に騙されて不幸になって、そのうえ、これからみんなで男爵と交渉行こうって相談する、集会の会場で殺されるなんて」

レキは、首を横に振り続けている。

「姉妹で続けて男爵にもてあそばれ、一人は流産、一人は、その後、事故で片足が義足になって、それからは姉妹で助けあってやってきたんでしたね」

死者の妹は、なんで、などとつぶやきながら床に崩れ、泣き伏していた。
ほんの一瞬、この部屋に被害者以外がいなくなった時に、誰かが彼女を。
レキのパートナーのミア・マハは死体の様子を観察していた。
車椅子に座った死体。胸から流れた血は服、スカートを汚し、靴の皺にまで入り込んでいる。

「男爵の被害者の集会所はここか」

銀髪にサングラス、赤いコートの冒険屋、レン・オズワルドがやってきたのは、ヤードの到着前だった。

「どうした。トラブルか」


「まず、俺は犯罪の取り引き現場で、男爵の部下二人の身柄を確保して、いまはそれをヤードに届ける途中だ。連中は、俺の車にいる。拘束服を着せられてな。
俺がここへきたのは、みなさんに伝えたい事実があってね。
俺が身柄を確保した男爵の部下、それから、男爵の過去の婚約者の証言、医師の証言も集めてきたんだが、アンベール男爵は、子供をつくれない体だ。
先天的なものらしい。
この言葉の意味はわかるな。
ここにいる者にも、本物の被害者とそうでないもがいるんじゃないか。
俺は、若いのに悪とはなにか聞かれて、久しぶりに柄でもなく考えたよ。
事実を見つめないのは悪だろ」

レンの発言に場内が静まりかえった。
レキとクロスは、互いの顔を見合わせている。

「大きな嘘や虚言のあるところには、殺意も生まれやすい」

「そうじゃな。ヤードがくる前に言っておくぞ。
わらわには、この事件が見えた気がする。なにもかも告白するなら、いましかないぞ」

ミアは、被害者の妹にたずねた。

「すまぬが、スカートをあげて、そなたの足を見せてくれぬか」


ミア・マハは、なぜ、被害者の妹が本当は、殺されたいるはずの姉である、と推理したのでしょうか?

7・新郎新婦心中

ニセ司祭、P・ブラックとして結婚式に参加したピクシコラ・ドロセラは事前に心配していた式の段取りよりも、開始直前に、式場に乱入してきたテレーズの一族、男爵それぞれの勢力とシオン・エヴァンジェリウス、ウォーデン・オーディルーロキが引き連れてきた男爵の被害者の女性軍団、絶刀戦士パラフラガ、ヨハン・メンディリバルらから、新郎新婦を守る戦いで、奮闘していた。

「パートナーがこれだと、あんたも大変だな」

「お互い様ね」

スコット商会ボス、茅野菫のパートナー、菅原道真と時に背中を預けあい、襲いくる暴漢をしのいで、とにかく、形だけでも新郎新婦に式をあげさせるために、魔剣士として処刑剣を振るう。

「すいません。シオンさんやロキさんを止められなくて」

推理研の関係者であり、シオンとロキのパートナーである月詠司から、インカムに謝罪のメッセージが届く。

「あなた自身がやられてしまわないように、せいぜい気をつけるのね」

何百人単位の乱戦の中、ピクシコラは、斎藤邦彦、ネル・マイヤーズ、らと連携を取り、新郎新婦を一箇所にとどめることのないよう、常に二人をガードしながら廃墟を移動した。

「どこでもいい。適当なとこで、そろそろ式をあげてくれ。
おじさんは、疲れたよ」

「邦彦。バカじゃないの。任務中よ」

「はいよ」

斎藤とネルのインカムでやりとりに、ピクシコラも思わず頬がゆるむ。

「ブリジット・パウエル会長。
どうする。どこか塔のような、みなに見える場所で、形だけでも式をあげさせられないか?」

「私は代表よ。
もう、なんで戦争みたいになってんのよ。
ロキは推理研の裏切り者だわ。
春美もペルディータも警部も、それぞれトラブってて動けないみたい。
そうね、あの、傾いてる時計塔で落ち合いましょう。あそこで式をあげるわよ」

「了解した。
みんな、いまの聞いたわね。
時計塔にむかう。スコット商会、斎藤邦彦、ネル・マイヤーズ。P・ブラックと新郎新婦移動開始するわ」


いつの間に入れ替わった?
時計塔についたピクシコラは、自分が連れていた二人が新郎新婦のニセ者になっていたのに気づいた。

「男爵とテレーズ様に頼まれまして」

「二人だけで逃げるから、手伝って欲しいと」

「一生、逃げられれば、それでもよいかもね」

ピクシコラは、奥歯をかみしめた。

「ピクシコラ。こちら、ブリジットよ。男爵とテレーズを見つけたわ。
二人は、心中をはかったの。これは、事実よ。この情報を流して、争いをとめて」


ロンドン塔の地下スペース。
そこに二人が乗った車は、あった。

「私たちの力が足りなかったから、お二人は」

橘舞は、泣きじゃくっている。金仙姫が舞の肩を抱く。

「本人の選択じゃ。
これは、わらわたちには、とめようがないのじゃ」

「バッカじゃないの。起きなさいよ。テレーズ」

ブリジットは、運転席のドアと枠の隙間に貼ってあるテープをはがした。
車中で服毒自殺をはかったらしい二人は、いまわの際に逃げださないためにか、窓、ドアの隙間にはくまなくテープを貼っていた。

「早く車からだして介抱してあげないと、この二人、本当に死ぬわよ」

車を囲む一団に、一人の少女が近づいてきた。
占い師、シェリル・マジェスティック。

「蘇生するわ。二人は、まだ生きるはず。
選択は、もう少しだけ先よ」

「そうですね。
ブリジット・パウエル、どうしたのです。
お仲間がいないと、推理も冴えませんか? 
これは、殺人でしょう」

ハッカパイプを手にしたコートの少女、シャーロット・モリアーティがブリジットの前に歩みでた。

「そんなの言われなくても、とっくに気づいてたわ。
ええ。これは、心中にみせかけた殺人、未遂事件よ。
シャル。あんた、いま頃、顔だして遅いんじゃない」

「いいえ。
今日は、パートナーのライブを観にマジェスティックにきたのです。
くるまで、こんな騒ぎになっているとは、思いませんでした。
もっと早く、私と会いたかったですか」

「いまはそれより、二人の治療が先よ。
本当に、大丈夫そうなの? 
よかった。
こんなところで死んだら、ダメよ」

「あなたは、誰?」

シェリルがシャーロットにたずねた。

「シャーロット・モリアーティ。
私立探偵とでも名乗るのがいいのでしょうか。
では、聞き返します。あなたは誰ですか?」

「私は…」


ブリジット・パウエル、シャーロット・モリアーティは、なぜ、心中ではないと判断したのでしょう?