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リアクション
第4章 休む場所を与えない・・・生命を狙う死霊
-AM4:00-
「かなり視界が悪くなっちゃったから、これを灯かりの代わりにしましょう」
ダークビジョンで見えるルカルカたちには平気だが、そうでない者はまったく何も見えないフロアと化している。
天窓や外窓をダンボールで塞ぎ、ガムテープで目張りして隙間から見えないようにしているからだ。
「書類はボロボロどころか、粉々に崩れちゃって使えそうにないわ・・・」
引き出しを逆さにしてメモ帳をちぎりライターで火をつける。
「ちょっと寒くなってきたしちょうどいいわね」
パチパチと燃える火の上に手をかざして温まる。
「ルカの光条兵器は剣だけど、光はね闇に勝つことが出来るのよ」
「そう・・・なんですの?」
「(ドッペルゲンガーに会った恐怖がまだ消えてないのかしら・・・)」
あまり話しに乗らないオメガにルカルカは頬を掻き、別の話をしようと考える。
「クリスマスのイルミネって、キラキラ光ってキレイよね!」
「―・・・クリスマスは、誰かと過ごしたことがないから分かりませんわ・・・」
「あーっ、そっか。ハロウィンは一緒に過ごせたけど、そっちはルカたちとやってないもんね。(ミニミニたちがいても、ケースから出してあげられないんじゃ面白いことが何も出来なかったのかもね)」
何を話していいか分からず、ルカルカはうーんと唸る。
「そうだ!夏にお祭りに行ったんだけどね、そこでリバイアさんに会ったわよ」
「リヴァイアサンだな。もしくはレヴィアであろう?」
彼女のイントネーションに淵が突っ込みを入れる。
「い・・・言いにくんだもん」
恥ずかしさのあまりルカルカはかぁっと顔を赤らめて俯く。
「えっと・・・それでね。少し落ち着いたら何か楽しいお祭りでもやろうね!」
「何かってなんだ?」
「―・・・うっ、その時に考えるわよ」
思いつきだと見抜かれ、またもや突っ込みを入れられてしまう。
「(今、笑ったのかしら?)」
2人のやりとりが可笑しかったのか、オメガがちょっとだけ笑った気がした。
「ドキドキもこわごわもふるふるもこれでオイラたち一緒だね」
クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)はニコッと微笑みかけ、魔女の魂の手をそっと握る。
「おやつは・・・魂だから食べられないねぇ」
「気にしないでください・・・」
「そろそろ交代の時間かな」
壁に寄りかかっている紫音たちをエースが揺り起こす。
「ん・・・、交代か」
「クマラ、ちょっと眠っておいたらどうだ?」
「ううん、もうちょっと起きてるよ」
エースに仮眠を取るように言われるが、眠らないようにクマラはもしゃもしゃとチョコバーを食べて頑張る。
「ルカも寝ようかな」
「うむ、少しくらい寝ておかないともたないからな」
ルカルカと淵も仮眠を取る。
「ん・・・?今・・・何か通ったか?」
冷たい風がカイの傍をヒュッと通り抜ける。
「いえ・・・。何も見えませんでしたよ」
自分の視界にも映らなかったと、サーは首をふるふると振るう。
「下から吹き抜けてきたような感じじゃなかったが・・・」
「事務室の隙間はルカルカさんたちが塞いだはずですよ」
「だったらなぜ風が通ったんだ。まさか・・・鎌鼬か?」
「たしかその妖怪は歌菜さんたちとお話して、もう敵方ではないようです。姿を隠す必要はないかと」
「(何かあったのか?)」
コウはスナイパーライフルのスコープを覗き、サーたちの様子を見る。
「見えない何かが通った・・・?十天君に協力しているやつらが通ったとしても、床に足跡がつくからさすがに分かるよな」
侵入者がいないか目を凝らして室内を確認する。
「(灯かり?いや・・・違うな。まるで人のような・・・)」
気づかれないように声を出さず、デスクの方へ銃口を向ける。
「(ラジオが完全に消えたな)」
音が途切れてまともに聞こえないラジオに、ザッザザッとノイズが入りまったく聞こえなくなった。
「(悪霊か!?)」
命ある者の存在に害をなそうと悪霊がオメガたちの隠れている場所へ、ズルズルリと足を引きずるような音を立てながら近づいていく。
「何かいるのかな」
「人・・・じゃないアル?」
レキとチムチムはフロア内を見回し、必死に足音の主を探す。
「ちょっと眠くなってきたかも・・・」
その存在に気づかず、火の温かさでクマラがうとうとと眠り始める。
「何だこの音?」
足音に気づいた紫音が出入り口の隙間から覗き込む。
「生きている者の雰囲気じゃないようどすなぁ」
生肉を引きずるような不快な音に風花は思わず顔を顰める。
「大丈夫だから・・・怖がらないで」
北都は禁猟区を施したハンカチを魔女に渡し、ふるふると震える彼女の傍に寄る。
「(僕たちだけじゃなくって、生きている者の魂だから狙ってくるよね・・・)」
徐々に迫る悪霊の足音を警戒する。
死者にバリケードを通り抜けられ、簡単に侵入されてしまう。
ペタ・・・ペタペタッ。
警戒する彼らの様子を楽しむかのように歩き回る。
「―・・・何の音?・・・うわぁあ!?」
目を覚ましたクマラの目の前に、顔面から血を垂れ流している子供の霊が彼の前に姿を現す。
「ねぇ・・・あそぼぉ。あそぼーよぉ・・・」
がくがくと怯える少年に、その足音の主の霊はケタケタと笑う。
「うっ、うぅ・・・」
「泣くなクマラ」
エースは涙目になっているクマラの口を塞ぎ、泣かないように宥める。
「―・・・うん。もう大丈夫だよ。こらぁ、霊!死者はオイラたちと遊べないんだからあっち行ってよ!」
「やぁだ。あそぶー・・・あそぶのー・・・」
「ここに貴公と遊べる者なんておらぬ!」
とり憑こうとうろつく霊をアルスが光術で追い出す。
「ふぅ、いなくなったようじゃな。(身体のない霊じゃと、やっぱり厄介じゃのう・・・)」
ディテクトエビルに何も反応がなくなりほっと息をつく。
「霊の気配はなくなったからのう。もう心配いらないのじゃ」
怯えるオメガを安心させようと優しく声をかける。
-AM7:00-
「誰か来たみたいだな。また霊じゃなければいいが」
廊下の奥からだんだんと近づいてくる足音を警戒し、カイは光条兵器を収めている柄に手をかける。
「ここにいたんですか、結構探しましたよ」
「―・・・どっち側だ?」
リュースたちの姿を確認するが、柄から手を離さず問いかける。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。真に連絡をもらって来たんです」
「そうか、悪かったな。十天君に協力している生徒がいるようだから、もしかしたらと疑ってしまったんだ」
敵側ではないことが分かるとカイはようやく柄から手を離す。
「気にしなくていいですよ、こんな状況ですからね。敵方についているのは何人くらいいるんですか?」
「今のところ分かっているのはハツネたち3人だな。他にもいるかもしれないが・・・」
「他にも・・・ですか。まぁ邪魔するなら容赦しませんけどね」
それが男だろうと女だろうと、たとえ子供でも慈悲を与えない。
1度キレるとリュースはナマハゲの如く止まらないからだ。
「襲撃されたりしていませんか?」
攻め込まれた後がないか真っ暗な室内を見回す。
「深夜に悪霊が1匹、バリケードに侵入したくらいだ」
「そうですか。あいつらはしつこいみたいですからね、またいつ現れるか・・・」
「この中にそれなりの人数がいるから憑かれたりする心配はないとは思うけどな」
「異様に暗いですけど、明かりが点いてないせいですか?」
「窓やその辺りの隙間を塞いでしまっているんだ」
「(超感覚があったからよかったですけど、それすらない人には明かりがないときつい場所ですね)」
すんっと鼻をひくつかせ、どの辺りに生徒たちがいるか匂いで確認する。
「オルフェも匂いでやっと分かるくらいですね」
「うぅ、何も見えません。明かりになるものを持ってくればよかったです・・・」
オルフェリアはリュースと同じく超感覚で若干分かるが、イナにとっては完全に何も見えない空間と化している。
「あ、足が動かない・・・足元にありますか?」
荷物か何かが邪魔して進めないのかとイナがカイたちに聞く。
「じっとしていろ!」
彼女の足を掴む亡者の手首を斬り払い、毟りとるように投げ捨てる。
「また悪霊が出たようですね」
ズズッと涌き出るように現れたベックォンを、サーは睨むように見下ろす。
「ベディ、入り口を塞がれるぞ」
「こっちは私に任せて、カイさんは皆さんに早く知らせてください!」
カイの声に絡み合うように廊下への道を塞ごうとする亡者の手を薙ぎ払う。
「おい、早くここから出るんだ。死者に引きずりこまれてしまうぞ!」
「何ですって!?」
仮眠から目を覚ましたルカルカが飛び起き、オメガを抱えて走る。
「(やっぱり1箇所に長居は出来ないみたいだね!)」
生徒たちを捕まえようとする死者に向かってレキがスプレーショットを放ち、砕けた破片がベシャッと汚らしく床へ張りつく。
「昶、床にいるやつを凍結させてっ」
「分かったぜ北都」
「やっぱりこの世界は、時を過ぎるのを待たせてはくれないね」
ジャッジャギュァーッ。
エレキギターを弾き鳴らし、昶のアルティマトゥーレの冷気で凍結した手の群れを雷の気で破壊する。
「敵は十天君だけじゃないからな!」
紫音は二刀の刀を鞘から抜き、ナラカへ引き込もうとする亡者を斬り裂く。
「オメガさん安心しておくれやす、紫音が護ってくれますから。私を救ってくれたようにオメガさんもきっと救ってくれますぇ」
ルカルカが抱えているオメガの心を落ち着かせようと風花が話しかける。
「俺は後から出るから風花たちは先に行け!」
「すみまへんなぁ」
「粗方片付けておかなきゃ、どこへ逃げようとも追ってくるだろ」
「私たちは機材室へ行ってますぇ」
「あぁ、了解だ!」
仲間たちを先に逃がし、デスクに飛び乗る。
「そんなに俺をナラカへ引き込みたいのか?」
わらわらと彼の足を掴もうとする手から逃れるように、本棚を踏み台にしてシーリングファンの上へ飛び移る。
「我今ここに請い願う我が刀に邪を祓いし力が宿らんことを。我今ここに請い願う我が心に挫けぬ勇気を、我今ここに請い願う我が身に仲間を護りし守護の力を」
紫音は床へ飛び降り、風の如く鮮やかに斬り裂き、死者の群れを一掃する。
裂かれた断面からドロドロとした血が流れ出る。
「たしか機材室へ向かっているんだよな」
刃にべっとりとついた血糊を振り落とし、急ぎ風花たちの後を追う。
「紫音・・・遅いどすなぁ」
なかなか来ない彼を心配し、風花はドアから顔を覗かせて廊下を見回す。
「おー、風花!手のやつらは追ってこないぜ」
「それならとうぶん大丈夫そうやわぁ〜」
「どこにいても襲撃される可能性はあるからのう。気をつけよ主」
「まぁ見張りは交代でやればいいからな、もう少し頑張ろうぜ。相手がゴーストじゃなきゃ、先にここへ来た俺たちに分があるしな」
軽くアストレイアに頷き、紫音はこの場所を利用しようと、錆びついた機材をコンコンッと叩きニヤッと笑った。
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