リアクション
第8章 戻る者・・・戻れない者
「くぅうっ、どこに行ったのあいつら」
「いないねぇ」
芽美と透乃はまだグレンたちをゴーストタウンの中を探し回っている。
「そっち側につくなら容赦しないわ!」
秦天君を連れて行かれたことに怒り狂い、苛立ち紛れに芽美はドラム缶を蹴り飛ばす。
「何かすげぇ怒ってるぞ?」
怒鳴り散らしながらトンネルに入り、出て行く彼女たちの様子を鍬次郎が物陰から見る。
「はっ、まさか十天君を助けるやつがいるなんてな。敵側へ落ちたように見られたんじゃないか?戻ろうと思っても無理だぜ」
簡単には戻れないぞと鼻で笑い飛ばす。
「オメガ1人のために犠牲に、するわけにはいかないからな・・・」
目を覚ました秦天君をグレンたちが、逃がしてしまったのだ。
「―・・・犠牲か。まぁやりたいようにやればいいんじゃねぇか?」
それだけ言うと鍬次郎たちも町の外へ出て行く。
「ヒールを使っても・・・、あの酸性雨から出るのは無理だったが・・・。まぁ・・・助けることは出来たな」
「それにしても出口に行ったら柏天君がいませんでしたね。それだけ魂を奪うのに必死だったんでしょうか」
「あぁ・・・、そうだな。―・・・しかし、深追いしすぎて封神されてしまったようだが・・・」
「どうしますか、これから。4人も封神されてしまって、他の十天君が黙っていないでしょうし」
「なるようになるしかないだろ・・・」
心の闇を映すような漆黒の空を眺めた後、ソニアへ顔を向ける。
「俺たちも帰るとしよう・・・」
「はい・・・」
「(誰も泣かない方法があればいいんだけどな。まぁそれが難しいからこうなったんだろうけど)」
グレンたちもゴーストタウンから出て行く。
「ねぇ、ケレス。その・・・聞きたいことがあるんだけどいい?」
ぺたんとコンクリートに座り、美羽は憔悴したような顔でケレスを見上げる。
「答えられる範囲でしたら・・・」
「去年亡くなったヘルドのことなんだけど」
「えっと・・・去年ですか?」
「最後に私たちが見えたのはトンネルの前なの。お願い、来て・・・」
泣かないように堪え、冥府の案内人に頼みついてきてもらう。
「ヘルドについて、その何か心当たりないかしら」
「はい・・・?」
質問の意図が見えず、ケレスは首を傾げる。
「ごめんね、こんな聞き方じゃ分からないわよね。えっとね、どの辺りで・・・死んだとか」
「病棟の近くですわね」
「そう・・・あの場所なの、やっぱり。それでちょっと聞きにくいことなんだけど、死体は・・・」
「ごめんなさい、私は魂の管理だけですから・・・」
「分からないのね」
亡骸の場所は分からないと言われ、美羽はしょんぼりと顔を俯かせる。
「―・・・あの。こういうこと伝えていいか分からないんですけど・・・」
「何?教えて!」
「誰かが持っていったのを見ましたわ」
「それってもしかして女だった!?」
「いいえ、違います」
「そう、よかった・・・」
十天君に連れて行かれなかったと分かりほっと息をつく。
「最初に封神した女と関係ありそうな感じだった?」
「どうなんでしょうね、そこまでは分かりません。でも・・・なんとなくその医者に似た雰囲気の方でしたわ。一応申し上げますけどその方は、亡くなってしまった医者の魂ではありませんし、ましてや本人ではありませんわ」
「ありがとうね、いろいろ教えてくれて。ベアは十天君から聞けなかったから、ケレスから聞けてよかったわ」
敵らしき存在の手に落ちていないことが分かり、美羽とベアトリーチェは学園へ戻った。
館へ戻ると寝室の黒い霧が、後かたなく消え去る。
「きゃ、きゃぁああっ。何ですかこれ!?」
ヴァーナーたちが戻ると館の中が血まみれになっている。
ゴーストに襲撃されてカガチと五条が亡者の血を撒き散らしたのだ。
その兵器たちの身体はすでに灰と化し、跡形もの残っていない。
血も徐々に消えてはいるが生徒たちが戻る間に消えず、拭き取らなければならない状況となっている。
「おかえり、皆!オメガさんたちはリビングにいるよ」
真が玄関や廊下をたった1人で、モップを使い館内を掃除をしている。
「ごめんね。まだ掃除が終わっていないんだ。ほらカガチ、五条さん。そこ邪魔だから退いて」
ぐでっと倒れている2人をモップで転がし無理やり退かす。
「カガチィ、俺は200くらいは倒したぜ・・・」
「あぁ、201匹と踊ったから俺の勝ちだねぇ」
「悪いな、今思い出した・・・。250匹だったな」
「ごめん。300匹だよ」
対抗するように呟き合うが、倒した本当の数は本人たちも分からなくなっていた。
「ぐだぐだ言っていないで手伝ってよ!大変なんだからね」
まだ起き上がれないカガチを真がぐりぐりとモップで起こそうとする。
「うわぁんやめて椎名くん。傷が痛いのにーっ」
「どうしたらこんなに傷つくんですか」
見かねたサーはヒールでカガチの傷を治してやる。
「ちょっと朝まで踊ってたらこんなになっちゃってね」
「は、踊り?もう大丈夫そうですね」
何の意味か分からなかった彼は冗談を言う元気があるなら自然治療でいいかと、ペシッとカガチの傷を叩きオメガがいるリビングへ行く。
「いったぁい!酷いよぉ。誰か治してーっ」
「仕方ないですね、ちょっと痛いですけど我慢してください」
イナは台所で熱湯消毒した針を手に、ぱっくり開いている彼の傷口を縫合しようとする。
「ちょっとそれなら病院に・・・っ」
「ここからどれだけかかると思っているんですか」
「人間、諦めが肝心だな」
リュースとロイに抑えられ、ちくちくと縫合される。
「何だか騒いでるみたいですけど、大丈夫なんしょうか」
悲鳴を上げるカガチの方とオルフェリアがちらりと見る。
「生きてるみたいだから大丈夫じゃないの〜」
興味なさそうに言い、アスカはすとんとソファーに座る。
「オメガちゃん、元の身体に戻ろう?」
「皆、笑顔を見たがっていますよ」
ルカルカと恵那は本物の方の身体へ戻るように言う。
魂は身体の傍に寄り添い、ルビーのようなキラキラとした結晶の光が降り注ぐように身体へ戻る。
「起きられますか」
「えぇ・・・」
「気分は・・・どうですか。何か嫌な感じがしたりしません?」
魔女の身体を恵那はそっと抱き起こす。
「大丈夫ですわ」
「よかったです、本当に・・・っ。(マンションの時は不安でしたけど、闇の部分の影響は受けていないようですね)」
ドッペルゲンガーの影響を受けていない様子を見て、恵那はほっと息をつく。
「オメガちゃん、向こうで食べられなかったから一緒にお菓子食べよう!」
魂だったから食べられなかったねっと、クマラがクッキーを渡す。
「ありがとうございます」
「何かあったら1人で悩まないで言ってね」
またどこかへ消えてしまわないように北都が声をかける。
「そうね、楽しいお祭りもしたいし!」
「いい案でもあるの?」
「これから考えるのよっ」
首を傾げる彼にルカルカはまたもや思いつきのこと言う。
「そればっかりだな、本当に」
やれやれと昶がため息をつく。
「今、笑ったね!」
僅かな笑みを見せるオメガにつられて、思わず北都も笑顔になる。
「(やっぱり、本当の笑顔を取り戻さなきゃな・・・)」
陣は皆から離れた壁際で様子を眺め、どうやったらドッペルゲンガーから魂を取り戻せるか考え込む。
「どうしたのぉ?難しそうな顔をして」
素直に喜ぼうとしない陣にアスカが声をかける。
「魂はまだ全部取り戻せてないし、奪ったドッペルゲンガーは鏡から出られるようになっているみたいだからな」
「そうねぇ。魂を全部取り戻さなきゃ、また現れるかもしれないわぁ〜。でも1つ言えるのは、返して欲しいという願いの・・・友情・・・・・・かしら」
お菓子をつまみながらアスカは、沢山の笑顔に囲まれている様子を眺める。
有でも無でも変わりのない存在。
それは1つしかない存在であり、消えてしまったら永遠に取り戻せないのだから。
おはようございます、皆様お疲れ様でした。
魂は無事に本物の身体へ戻りましたね。
柏天君は封神されましたが、もう1人は十天君は逃げてしまったようです。
しかし彼女はオメガを館から出す気はまったくないようです。
ドッペルゲンガーの本質を変えようというのは、かなり大変のようですね。
さてはてこれからどうなるやら。
一部の方に称号をお送りさせていただきました。
それではまた次回、別のシナリオでお会いできる日を楽しみにお待ちしております。