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第四章:ダンスダンスダンス!





 丸の暴走で被害の出たカフェでは、責任を取る形で丸とそのパートナーの悠がブツブツ言いながら、後片付けを慣れぬウェイター姿で行っていた。

「なんで……俺までが……」

「おぬしの気持ちもわかる、ウェイトレス姿のワタクシに惚れる者がいないか心配なのであろう?」

「そんなわけ、あるかぁぁぁーッ!!」

 二人の姿を見ながら元いたウェイターのレイスと和哉は、面倒なものが加わったなと会話している。

 そんなカフェでバトラーの笹野 朔夜(ささの・さくや)は、すっかりぬるくなったコーヒーを飲みながら、少々苛立った顔で周囲を見回していた。

 彼の携帯には「精々、楽しんで来い」とヴァルキリーでセイバーの笹野 冬月(ささの・ふゆつき)から送られてきたメールが開かれている。

「(所謂、ハメられた、というやつですね……迂闊でした。今日のイベントの事、知らなかったんですよ)」

 そもそも彼は、お茶をしようと冬月に誘われてカフェに来たのだが、約束した時間になっても来ない冬月に待ちぼうけを食らっていたのだ。

 どうしたのかなと思った朔夜は、周囲に聞き込みをしてみたが、その行方はさっぱりわからなかった。

 先ほどまでは冬月の特徴(何時も和服を着ている、甘党さん)から、スコーンやホットケーキミックスで作るクリスマスケーキ等の簡単なお菓子の作り方の話をして楽しんでしまっているかも、と思っていたが、どうも彼は本格的にイベントに参加してるのだな、という事が朔夜の苛立ちに拍車をかけていた。

「よう……待たせたな」

 待ちわびた冬月がフラリと現れたのは朔夜がコーヒーのおかわりを要求しようかなと思った矢先であった。

「冬月さん! あなた……一体!?」

 いつもは重力に逆らうような冬月の青いツンツン頭がひしゃげたように垂れている様に、朔夜が怒る事も忘れて驚いた顔をする。

「ご注文は?」

「……失恋コーヒーを一杯くれ」

「かしこまりました」

「オーダー通るんですか……って、何があったんです?」

「話すと長くなるし、涙無しじゃ語れないぜ?」

 そう言って、朔夜の隣に腰を降ろす冬月。

「聞きましょう……怒るのはその後です」

「俺は、朔夜が相手探しに専念出来るよう、何処かに隠れて様子を見るつもりだったんだ」

 そう遠い目をして語り始める冬月。
彼は朔夜が自分の実力を考えないで危ない場所にホイホイ行く癖がある事を危惧していた。
あの鈍感な朔夜が素直に恋人を作るとは思っていないが、そう言う相手が出来れば無謀な行動も
少しは減るんじゃないかと思い、仕向けてみたのであった。

 ……ところが、である。

ふとした隙に朔夜を見失った冬月が、彼を探して蒼空学園の廊下を走っていたときだ。

「冬月さん?」

「ん?」

 振り向いた冬月の前には魔法少女のコスプレをした明日香と、その傍に佇む謎の仮面の少女がいた。

「神代も参加していたんだ?」

「うん、蒼空学園に勝つためですぅ!」

「へぇ、まぁ俺もイルミンスール側だからな。お互い頑張ろうぜ、じゃ、ちょっと急いでるんで!」

「待つですぅ!」

「……何? エリザベート校長?」

「フフフ、今の私はマジカルエリザベート、略してマジカルベスなのですぅ!」

「ああ、エリザベートだからベスなのか。もっと略したらマジベスになるんじゃないか? 後、その仮面何だよ? バレバレじゃない?」

 冬月に指摘されたエリザベートがバッと明日香の方を見る。

「エリザベートちゃん、大丈夫だよ? 全然バレてないから!」

 そうエリザベートの肩を抱いてニコリと笑う明日香。

「いや、今……モロに正体言っただろう?」

「黙るですぅ、冬月さん? マジカルベスの正体を知った人間は只じゃおきませんよ? さぁジャンケンです!」

「何ィ!? 俺は神代の好みじゃないからか? にしても判断早すぎだろう!?」

「ふふふ、私の好みはですねぇ〜、エリザベートちゃん一択! それのみですから、誰であれ撃破してもいいんですぅ、それがルールですからぁ!!」

「おかしいぞ!」

「おかしいと思う冬月さんがおかしいと思いますぅ。だって、苦手なタイプのはずですよ? 至極当然ですからぁ」

「そうか……さっき噂で聞いた辻斬りってのは神代達の事だったんだな!」

「知らないままならば、良かったんですかねぇ……さぁ!」

 最早逃げ道無し! と考えた冬月は勝負をせざるを得なかった。

「「ジャンケン……」」

「「パー!」」

「引き分け!?」

「「グー!」」

「やりますねぇ……」

「くそ、今度は……」

 冬月は必死の形相でチョキを繰り出す。明日香が出したのはパー……。

「しまっ……!?」

 自分の手を見て絶句する明日香。

「やった! 勝った! 勝ったぞ!! 喰らえぇぇーッ!」

 ハリセンを明日香のヘルメット目がけて振り下ろす冬月。

ーースパアアァァンッ!!

 乾いた破裂音を立てて割れたのは、冬月の頭の紙風船であった。

「なっ……!?」

 冬月が横を見ると、ハリセンを持ったエリザベートが小さな拳を突き出している。

「私は、グーなのですぅぅーッ!!」

「ひ、卑怯な……」

 エリザベートの強烈な一撃を食らった冬月はその場に崩れ落ちる。





「……と、まぁこういうわけだ。敵は身内にもいた事を痛感したぜ」

 話を聴き終わった朔夜が頭を抱えている。

「朔夜、そう落ち込むなって!」

「違います……あまりの事に呆れているんです!!」

「あのなぁ? 俺が如何に朔夜の事に日頃から粉骨砕身していたかがわかるだろう?」

「僕だって心配しますよ!? 冬月さんは僕にとって家族同然なんですから!!」

 そう言った後、思わずズレたメガネを直しながら照れたようにそっぽを向く朔夜。

「さ、察しろ! ……お、俺だって朔夜を今更特別扱いには見れないし、面と向かって心配だなんて恥ずかしくて言えないしな……」

「そ、そうですか……じゃあ、お互い恋人を作るのはまだ早いかもしれませんね」

「ふん! 上手くまとめやがって」

 そう言うと、冬月は傍を通りかかったレイスに手を挙げる。

「ウェイター! さっきのオーダーは無しだ。失恋コーヒーじゃなくて、普通のコーヒーにしてくれ? それを二杯だ」

 冬月の注文に朔夜が不思議そうな顔をする。

「二杯? そんなにコーヒーが好きでしたっけ?」

「バカ、朔夜の分だよ。もうちょっと話そうぜ!」

「!! ……しょうがないですね」

 そう言う朔夜の顔から笑みが溢れる。

 レイスが二人の傍にやって来る。

「よう……コーヒーは持ってきてやるが、ちょっと時間かかるぜ?」

「え、どうして?」

「もうすぐ、このイベントはタイムアップだ。全参加者がこっちに集められるんだ。そのための準備があるらしくてな……ったく、面倒臭いぜ……」

 朔夜が空を見ると、太陽が既に遠くの山へと沈みかけていた。