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リアクション
第3章「地上からの進軍」
篁透矢達は街道で馬車を護衛するメンバーと別れた後、森の中を進んでいた。その途中、篠宮 悠(しのみや・ゆう)がパートナーのゼラ・バルディッシュから精神感応で受け取った情報を伝える。
「こっちの方に一輝達が向かってるってさ。もしあいつらが飛んでるのが見えたら俺に教えてくれ」
「了解、私に任せておいて!」
そう言って小型飛空艇に乗った芦原郁乃が再び高度を上げた。それを見送りながら、悠は首をかしげる。
(にしても……あの後聞こえた『誰がオッサン――』とか、『オレは18――』とかは何だったんだ? ゼラの奴、変な事に巻き込まれてなけりゃいいんだが)
高度を上げた郁乃と入れ違いに、紙飛行機が天黒龍の下へ飛んできた。上空で監視をしていた紫煙 葛葉(しえん・くずは)の物だ。彼は現在声を失ってしまっている為、こうして筆談用のメモを使って他人との意思疎通を図っていた。黒龍は紙飛行機を開いて中の文字を読む。
「……篁、敵が来る。10時」
「来たか……!」
その場にいた全員が身構える。次の瞬間、様々な武器を携えたならず者達が姿を現した。
「チッ、ガキどもじゃねぇのか……何だテメェら」
男達の中の一人が凄む。今まで花梨達を捜し回っていた事に加え、こちらが武装しているからだろう。見るからに殺気立っていた。そんな彼らに対し、織田信長が堂々と前に立つ。
「ふっ。私達はお前達のような下衆どもを誅しに来たのじゃ。大人しく縛につけぃ。抵抗するなら……容赦はせぬぞ?」
「あァ!? ふざけた事抜かしてっと、ブッ飛ばすぞ!」
信長の言葉に怒りを表し、武器を構えるならず者達。だが、信長はその怒りをそよ風のように受け流し、笑みを浮かべる。
「小物がよぅ吠えよる。こやつらには化天はおろか人間の五十年すら不要であろう。……皆の者! 一思いに蹴散らしてくれようぞ!」
「おう、まずは俺が行く! 援護を頼む!」」
戦端が開かれると同時に桜葉忍が片刃の大剣である光条兵器を手に敵へと突撃する。
「我が剣……閃空の如く!」
その見た目から鈍重な動きを予測していたならず者は、大剣の素早い一撃に吹き飛ばされる。
「くそっ、散れ! 木を利用して弱そうな奴から片付けるぞ!」
予想外の事態に慌てたならず者達が木々を利用しながらゲリラ戦を仕掛ける。最初に彼らが狙いを定めたのは御剣 紫音(みつるぎ・しおん)達だった。
「ふむ、どうやらわらわ達に狙いを定めたようじゃな」
「確かにここには猛者が揃っておるが……だからと言って、我らを狙うとは力量を測れぬ輩よ」
「弱いと思うておなごを狙いなはるとは、程度が知れますぇ」
アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)、アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)、綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)の三人は襲い掛かる敵の攻撃をはじき返していく。そしてその間を縫うようにして、紫音が魔銃モービッド・エンジェルで相手の足を撃ち抜いた。
「ぐぁっ!」
銃弾を喰らったならず者がその場にうずくまる。その男に背を向け、紫音が冷たく言い放った。
「俺は正義の味方という訳じゃないが、お前らみたいな奴らは大嫌いだ。正義の味方なら命は取らないだろうが……そこまでは知った事じゃない。ま、誰かに助けてもらうか、それともここで野たれ死ぬかは……お前の運次第だ」
「く……くそっ、このアマ……覚えていやがれ……!」
ならず者の言葉に紫音が足を止める。そして肩を震わせると、思い切り振り返った。
「お……俺は……俺は男だぁぁぁぁぁっ!!」
「ぎゃー!!」
容赦なく加えられる制裁で悲鳴が辺りに響き渡る。その姿をアルスとアストレイアは生暖かく見守っていた。
「主様もよくよく間違えられるのぅ」
「まぁあの容姿じゃからな。主もいい加減諦めればいいものを」
「ふふ、怒りに震える紫音も凛々しいどすなぁ」
そして、紫音に過剰なまでの愛を注ぐ風花なのだった。
別の場所では透矢と加夜が連携を取りながら戦っていた。
「加夜、頼む!」
「はいっ!」
透矢が正面から敵と戦い、それを加夜が魔道銃で援護する。そして相手が隙を見せた瞬間、加夜の氷術が相手の動きを止めた。
「透矢さん、今です!」
『おうっ!』
勢いをつけた蹴りが顔面に命中し、敵が大きく吹き飛ぶ。自分が与えた威力以上に飛んで行ったのを見て、透矢は自分と同時に声を発した主の方を見た。
「……む、呼ばれた気がしたから加勢したんだが、俺の事じゃ無かったか」
そこにいたのは端正な顔立ちをした青年だった。着崩してはいるが、服装を見る限り薔薇の学舎の学生らしい。
「そうか。お前が篁透矢だな。俺は冴弥 永夜(さえわたり・とおや)。これも何かの縁だ。よろしく頼む」
「ああ、そういう事か。確かにこれもちょっとした縁だな。永夜……って言うと変な感じがするから、冴弥って呼ばせてもらうよ」
「ふ、そうだな。『とーや』と呼ぶと、まるで自分の事かと思ってしまうよ」
そう言ってお互いが微笑を浮かべ、握手を交わす。その横では、加夜が同じように笑みを浮かべていた。もっとも、こちらは苦笑だが。
「えっと〜、一応戦闘中なんですけど……」
そんな心配をよそに、赤いポニーテールを元気に揺らした女の子が話に加わってくる。
「へぇ〜、二人とも『とーや』って言うんだ。ねぇねぇ、どういう字を書くの?」
「字? 俺は透明の『透』に弓矢の『矢』だけど」
「俺は永遠の夜と書いて『永夜』だな」
「わぉ! じゃあ透矢ちゃんは私と同じ字なんだね。私、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)。格闘家同士って事もあるし、何か他人って気がしないな」
女の子が目を輝かせながら構えを取る。
「まぁ、私はモンクじゃなくて、上級のグラップラーだけどね」
おまけにニヤリと微笑を一つ。チューブトップにミニスカートと露出の多い服装だが、その肌に目立った傷は見られなかった。どうやら相当腕に自信があり、実際に腕が立つらしい。透矢は素直に透乃を賞賛する。
「さすがだな。花梨達を無事に助け出せるように、頼りにしてるぜ」
「あらら、張り合いが無いなぁ。まぁいっか。その期待にはちゃんと応えさせてもらっちゃうよ」
今度は透矢と透乃がお互いに笑みを浮かべていた。相変わらず苦笑を浮かべている加夜に代わって永夜が言葉を挟む。
「さっき脱線してた本人が言う事では無いと思うが……二人とも、戦闘中だぞ」
「おっと。悪い」
気を取り直して透矢も再び身構える。だが、せっかく戻りかけた流れもまた脱線しようとしていた。
「あら?」
「ん? 陽子ちゃん、どうかした?」
「えぇ、今気付いたのですけど……透乃ちゃんと芽美ちゃんだけじゃなくて、透矢さんも構えが似ていると思って」
三人のやや後ろにいた緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が指摘する。細かい差はあれど、確かに三人とも似たスタイルを取っていた。
「もしかして、透矢ちゃんも左利き?」
「という事は……透乃、君も?」
「うん、私だけじゃなくて陽子ちゃんも芽美ちゃんも皆左利きなんだよ」
その言葉に透矢が目を丸くする。もう一つ、普通ならありえない偶然が重なったからだ。
「うちも家族全員が左利きなんだが……凄いな、こうまで同じになるものなのか」
「えぇっ!? 本当に?」
「凄いわね、透乃ちゃん。ここまで私達に似ている人ってそうそういないんじゃない?」
偶然の中の一人である月美 芽美(つきみ・めいみ)も驚きを隠せないでいる。とは言え、話を聞きながらも体はしっかりと襲い掛かる敵を返り討ちにしていた。骨を砕かれたのだろう、彼女にやられたならず者達が悶え苦しみながら辺りに転がっていた。それを見たならず者の一人が冷や汗を垂らしながら絶句する。
「な、何て野郎どもだ……舐め腐った奴らのくせに、力だけはありやがる……」
二十人近くいた仲間は既に半数が倒されていた。残りの者も戦意を失いかけるか、あるいは既にこの場から逃げ出していた。大勢が決し始めたのを見て郁乃が小型飛空艇の高度を下げ、その上にふんぞり返る。
「お前達の悪事は既に明白である! おとなしくお縄につけぃ!!」
時代劇か何かに影響されたのだろうか、効果音でも響きそうな雰囲気で言い放つと、ピシッとならず者に指を突きつけた。
「あァ!? いきがってんじゃネェぞ、チビが! ガキはすっこんでろ!」
「…………チビ? ……ガキ……?」
ならず者の言葉が聞こえた瞬間、郁乃が固まる。次の瞬間、彼女の周囲に禍々しいオーラが漂った気がした。
「誰がチビじゃコラァァァァァァァ!!」
そう叫ぶや否や、郁乃の小型飛空艇がならず者に向かって一直線に突っ込んでくる。ぶつかった後の事などお構いなしの強烈なタックルに、男は思い切り吹き飛ばされた。
「ほげぁっ!」
攻撃はそれだけに留まらず、ぶつかった衝撃でバランスを崩した小型飛空艇から器用に飛び降りると、そのままならず者に向かって体重をかけた踏み付けをお見舞いする。
――スパイクシューズで。
「いぎゃぁぁ!」
更に蹴り上げ、パンチ、パンチ、回し蹴り。おまけに刀でホームラン。
「……何だありゃあ」
あまりの迫力に、久多隆光が攻撃の手を止めて呆然とする。その横では蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)がため息をついていた。
「申し訳ありません。主は身長などを馬鹿にされると性格が変わってしまうのです」
「鬼だな、あれは……」
「ああなると主はしばらく放っておくしか無いのです。下手に近づくと巻き込まれる恐れがあります。時間が経って少し落ち着けばあたしが元に戻しますので、今は相手にしないで下さい」
「元にって、どうやるんだ?」
「これを使います」
差し出した手には、ホイッスルとレッドカードが握られていた。
かくして、郁乃の所業で戦意を失ったならず者達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。周囲を確認していた黄泉耶大姫と悠が戻ってくる。
「この辺りの敵はわらわが倒した者で最後のようじゃの」
「とりあえず先を急ごうぜ。もうちょっとしたら一輝達と合流出来るかもしれないし」
「うむ、そうじゃの。では皆の者、先へと参るぞ」
信長の言葉で再び森の奥へと歩き出す。その時、透乃が何かに気付いて足を止めた。そのまま辺りを見回す彼女に透矢が声をかける。
「透乃、どうかしたか?」
「ちょっとね…………うん、やっぱりそうだ」
透乃は一度頷くと、透矢へと向き直る。
「悪いけど先に行っててくれないかな。ちょっと気になる事があるから」
「気になる事? 透乃達だけで大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、私達三人いれば怖い物は無いからさ。ここは私達に任せて、子供達を助けに行ってあげて」
そう言って明るく微笑む。透矢は彼女の顔をじっと見た後、頷いた。
「分かった、くれぐれも無理はするなよ」
「心配ありがと。それじゃ、子供達によろしくね」
透矢達が先へと進んで行った後、透乃は陽子と芽美を連れて別方向へと歩き出していた。
「向こうの気配を追うのですね? 透乃ちゃん」
「やっぱり陽子ちゃんは分かってたか」
透乃は自分の意図を読み取っていた陽子に感心する。芽美だけがまだ理解出来ていないようだった。
「え? 二人とも、どういう事?」
「あれ、芽美ちゃんは感じ取れなかった?」
「仕方ないでしょうね、本当にごく僅かな気配でしたもの。私も透乃ちゃんがいなかったら分からなかったでしょうし、他の方々も気付いてないようでしたから」
そう言って陽子が後ろ――透矢達が歩いていった方向――を振り返る。透乃も先へと進みながらそれに同意した。
「そうだね。他に気付けるとしたら紫音ちゃんって娘――あれ? 男の子だっけ? まぁいいや。あの子くらいだったんじゃないかな。まぁ、結局気付いてなかったみたいだけど」
「透乃ちゃんと違って格闘家じゃないですからね」
「ねぇ、結局何なの? 気配って事は何かいるの?」
「そうよ……この先にね」
透乃の視線の先、森のやや開けた場所では、一人の男とならず者達の戦いが繰り広げられていた。
――いや、戦いと言うにはあまりにも一方的すぎるか。
「さて、ちゃっちゃと済ますかな!」
男の拳に光条兵器の光が宿り、ならず者を吹き飛ばす。複数人で囲んでいたにも関わらず、男の強さは圧倒的だった。
「おいおい、てめぇらの実力はこの程度か? こんなんじゃ修行どころか準備体操にもなりゃしねぇぞ」
その男、ラルク・クローディスが言いながら煙草に火をつける。これほどの余裕を見せ付けられながらも、ならず者達は彼を倒せる気がしなかった。
「な、何なんだよテメェは……なんでこんな奴がこんな所にいやがる……」
「てめぇらが馬車を襲った奴らだってのは分かってるんでな。俺個人としては恨みも義理も無いが……ちょっとした憂さ晴らしだ。覚悟してもらうぜ」
ラルクがゆっくりと一歩を踏み出す。それに合わせるように相手が一歩退く。
一歩。また一歩。開けた所から木々の生い茂った場所へと踏み込んだ瞬間、ならず者達は背を向けた。
「がはっ!」
「ぐっ!」
次の瞬間、彼らは『前から』の攻撃を喰らい、崩れ落ちた。その身体を踏み越えるようにして透乃達が姿を現す。
「ほらね、いたでしょ」
「うわっ、ほんとだ! くぅぅ、気配を読み取れないなんて、悔しい……」
「ほぅ、あいつらのとこにいた姉ちゃんか。気配は消してたつもりなんだが、よく分かったな」
「そこはほら、私だから」
自信満々に言う透乃に対し、笑みを浮かべるラルク。二人の格闘家はお互いの戦いを好む心を感じ取っていた。共に顔は笑顔だが、若干の闘気が辺りを渦巻く。
「さて、わざわざこんな所まで来て、どうするつもりだい? 姉ちゃん」
「そりゃあもちろんお前と戦う――と、言いたい所だけどね。まずは透矢ちゃんに義理を果たさないと、って思うわけよ」
「ほぅ?」
「こっそり戦ってたわけだし、どうせ透矢ちゃんが子供達を助け出したらいなくなるつもりだったんでしょ? だからそうなる前に、お前の名前を聞いておこうと思ったのさ」
しばしの間、二人が視線を交わしあう。やがて同時に闘気を消し去ると、ラルクが先に口を開いた。
「いいだろう。俺はラルク・クローディスだ」
「私は霧雨透乃」
二人は握手の代わりに拳を軽く打ち付け合う。そして森の奥、透矢達が向かっているであろう方向を見つめた。
「さて、それじゃまずは一仕事してきますか」
「オッケー。陽子ちゃん、芽美ちゃん。行くよ!」
「えぇ、行きましょう」
「了解。敵は全て倒すわ!」
四人が次々と森へと飛び込んで行く。目指すは森の奥へ――。
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