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リアクション
洞窟の入り口では赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)がならず者のリーダーと向き合っていた。
「兄ちゃんよぉ。命が惜しけりゃそこをどきな。ガキどもとてめぇの命、どっちを取りゃいいかなんて簡単な話だろ?」
「確かに簡単な話ですね……。もちろん、両方取らせてもらいますよ」
「へっ、優男がほざいてんじゃねぇぞ!」
男が斧を構え、霜月へと振りかぶる。その攻撃を霜月は居合いで迎撃した。
「オラオラ! とっととやられちまいな!!」
「くっ……」
男の攻撃は重く、つばぜり合いを続ける二人の体勢は徐々に霜月が圧される形となる。
「やらせるものか……! 子供達を、絶対に……家族の所へ、帰して……見せるっ!」
霜月の身体に犬の部位が現れ、超感覚が発動する。そして強化された感覚で巧みに相手の力を受け流し、斧を押し返していく。最終的に二人のつばぜり合いは五分の状態にまで持ち込まれた。
その時、森の方から沢渡隆寛の声が聞こえた。
「こちらでございます!」
隆寛のヘリファルテが姿を現し、着陸する。続いて篁透矢達が草むらを掻き分けて姿を見せた。
「皆、大丈夫か!?」
「透矢さん!」
「悪い、待たせたな、花梨。皆、行くぞ!」
透矢と一緒に来たメンバーが洞窟前のメンバーの援護に回る。それを受け、ならず者達は透矢達を洞窟の方へ行かせないように固め始めた。
「くっ、どけっ!」
透矢が立ちふさがるならず者を倒して行く。だが、次々と立ちふさがる為に中々洞窟へと向かう事が出来ない。
「透矢、ここは任せろ! 風花、アルス、アストレイア! 透矢を援護するぞ!」
「えぇ、救助の邪魔はさせませんぇ」
「こやつらにはしっかりお仕置きせんといかんからの」
「うむ。だが主よ。あまり無茶はせぬようにな」
御剣紫音がパートナー達と共に立ちふさがる敵へと狙いを定め、優先的に排除して行く。更に冴弥永夜がそれを援護した。
「篁、俺もお前の援護に回ろう。子供達の所へ行って安心させてやれ」
「ああ、助かる。あと少し、あと少し穴が空けば――」
透矢が前を見据えた時、横の森から突然バイクが飛び出してきた。バイクは近くにいたならず者を弾き飛ばして停止する。
「ごはっ!」
「おや、何かに当たったような……まぁいいでしょう。さて、マスターはどこに……」
バイクに乗った人物は、辺りを見回す。声からして女性だろうか。
「……いませんね。私の方が早く着いてしまったという事でしょうか。……おや」
その人物が透矢に目を留める。そしてバイクをこちらへと走らせ、ヘルメットを脱いだ。
「あなたが篁透矢ですね。私はプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)。マスターの指示であなたを助けに来ました。……まぁ、マスターはまだ来ていないようですが」
「味方って事でいいんだな? ならすまない、早速頼みたい事があるんだが――」
透矢が作戦を伝える。もっとも、作戦というほどの物でもないのだが。
「なるほど、了解しました」
「よろしく頼む。皆も頼んだぞ」
「では、参ります」
プラチナムがバイクのスロットルをふかす。そして洞窟へ向かって一直線、ならず者達を跳ね飛ばす勢いでバイクをスタートさせた。突然の事に慌てたならず者達は横へと避ける。避けそこなった者や無謀にも立ち向かおうとしていた者達は容赦無く跳ね飛ばされていった。
「どけどけ! 邪魔する奴はこの俺が斬り払う!」
「退いた方が賢明ですよ!」
更に桜葉忍が大剣を振るって道を広げ、蒼天の書マビノギオンがサンダーブラストで道を護る。透矢と何人かのメンバーはその雷の壁を駆け抜け、洞窟へと向かった。
「ちっ、やらせるかよ!」
透矢達の動きに気付いたならず者のリーダーが霜月に蹴りを入れ、つばぜり合いから引き剥がす。そして透矢の進路を塞ぐように立ちふさがろうとした――が、それを一発の銃弾に阻まれる。銃弾は持っていた斧の柄に命中し、思わず取り落とす。
「ぐぁっ! な、何!? 一体どこから!?」
衝撃で痺れた手を振りながらリーダーの男が銃弾の飛んで来た方向を見る。すると、遠く離れた上空に小型飛空艇が見えた。
「バカな! あんな所からだと!?」
予想外の一撃に驚くリーダー。その一瞬の隙が命取りとなった。
(行け、霜月!)
小型飛空艇から援護射撃を行った天城一輝が心の中で叫ぶ。それに応えるかのように霜月が動き出した。
「もらった!」
「な、しまっ――ぐはぁ!!」
男が霜月の一撃をまともに受け、崩れ落ちる。霜月はそれを見届けてから納刀した。二人の戦いが終わったのを確認してから、洞窟からアレクサンダー・ブレイロックが出てくる。
「霜月、大丈夫!? 怪我は無い?」
既に泣きそうになりながらすがり付いてくる。そんなアレクサンダーの頭を撫でながら、霜月が優しく微笑んだ。
「大丈夫ですよ。自分は家族を悲しませるような事はしません。安心して下さい」
「うん……」
「さ、まだ戦いは終わっていません。中に戻って、子供達を護っていて上げて下さい」
アレクサンダーが洞窟の中へと戻っていったのを確認し、残っているならず者達を見据える。
「家族を護る為に……。この刀、今一度振るわせてもらいます……!」
プラチナムの先導で戦場を走り抜けた透矢達は、無事に洞窟の前へと辿り着いた。プラチナムは後輪を横滑りさせて華麗に停車させる。
「こんな感じでしょうか」
「ああ、助かった」
透矢の到着に子供達が喜びの声をあげる。その姿を見て、一緒に駆け抜けてきた黄泉耶大姫が仮面に隠した素顔を綻ばせる。
(おお、子供達が笑顔でおる。蛮族に襲われ、心細かったであろうに……強い子達じゃ)
実は大姫は普段の高飛車な振る舞いに反して、子供好きという一面を持っていた。信長の呼びかけを聞いて黒龍に参加を促したのもその為である。だが――
(可愛い子らじゃ。よしよ――)
「ひっ!」
大姫が近くの子供の頭を撫でようとした途端、仮面に怯えた子供が透矢の足へとすがり付いた。その目は僅かに潤んでいる。
――そう、大姫の受難、それは顔にある痣と傷を隠す為に仮面をつけているので、その雰囲気に子供達が怖がってしまう事だった。
「だ、大丈夫だぞ。この人はお兄ちゃんと一緒に皆を助けに来てくれた優しい人なんだからな」
透矢が子供をなだめるが、足から離れずにしがみ付くままだった。他の子供達も外見が怖いのか、大姫から微妙な距離を取っている。
(くっ、やはりわらわでは怖がらせてしまうのか……)
悔しさのあまりに背を向ける。その時、洞窟のそばの木から光が見えた。あれは――
「! 下がれ!」
大姫が子供の一人をかばい、扇をかざす。その扇には短剣が突き刺さっていた。
「そなた、怪我は無いか!?」
かばわれた女の子が頷く。大姫はそれに安堵すると、背中にかばったまま子供達に告げた。
「ここはまだ危険じゃ。中へと入っておれ。……すぐに片付けてくれよう」
「……あっ」
女の子が見つめる中、大姫が外へと飛び出す。その視線の先には刹那がいた。
「先ほどの短剣、そなたの物か。そなたも子供のようじゃが……敵対するのであれば、容赦はせぬぞ」
「ふふ……先ほどの女といい、中々に勘の良い者がいるものよ。依頼人は既にやられてしまったようじゃが……報酬分は働かせてもらうとするかの」
刹那が身軽な動きで木から飛び降り、素早く戦場を駆ける。だが、大姫に肉薄する直前で思わぬ所から邪魔が入った。
「エクス!」
「うむ」
男女の声と共に雷が降り注ぐ。そして、刹那の頭上に一つの影が舞い降りてきた。刹那は素早く下がり、それを回避する。
「ようやくご到着ですか、マスター」
プラチナムが降りてきた影に声をかける。そこには紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が立っていた。
「すまない、遅くなった。……ま、真打ちは最後にやってくる、ってね」
「間に合ってよかったですね、マスター。もう少しで永遠の秘密兵器になる所でしたよ」
「それは御免こうむりたいな……。そんな訳で、ここからは俺達が相手だ」
光条兵器のガントレットを輝かせながら唯斗が構える。プラチナムもその隣で龍骨の剣を抜き、更に先ほど雷を放ったエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が小型飛空艇から飛び降りる。
「ふむ、見た所残るはこの辺りにいる者達だけであるな」
「そうかい? それじゃエクスは周りの牽制を頼むわ」
「牽制、な。だが、それで倒してしまっても構わんのだろう?」
「そいつはご自由に。それじゃ、行くぜ」
唯斗の合図で三人が動く。それに合わせ、刹那が刀を抜いて唯斗へと向かった。
「はっ!」
刹那の攻撃を唯斗が鉄甲で受け流す。そのままカウンターへと移るが、それは刹那が素早く身をかわし、回避した。その隙を突くようにしてプラチナムが剣を振る。
「……甘い」
跳ぶようにしてプラチナムの攻撃を回避した刹那は、お返しに短刀を投げつける。だが――
「……消えた?」
「そう見えるかもな」
「!」
刹那の動きを読んでいた唯斗が眼前まで跳び上がっていた。そして空中で必死に身をひねる刹那に一撃を叩き込む。
「くっ!」
なんとか着地姿勢はとれたものの、ダメージを受けた刹那は唯斗達から距離をとった。そして唯斗の装着している白金のブーツが姿を変え、プラチナムの姿が現れる。
「そうか、魔鎧……」
「ご名答。俺達にはこういう戦い方もあるって事さ」
「なるほど、どうやらおぬし達の戦い方では不利なようじゃな。では……わらわのやり方で戦わせてもらおうか……!」
そう言って刹那が木の上に跳び上がると、森の中へと姿を消した。
「……何だ? あいつのやり方って言っても――」
「マスター、来ます」
プラチナムが唯斗の死角をカバーするように動く。丁度その死角を突くように刹那が斬りかかって来た。プラチナムと剣を交錯させると、その勢いのまま前方の森へと再び姿を消す。
「助かった、プラチナ。なるほど、これがあいつのやり方って事か」
「唯斗よ、大丈夫であろうな?」
他のならず者達をあらかた片付けたエクスが声をかける。それに対し、唯斗が不敵な笑みで応えた。
「大丈夫だ。こう素早いと厄介だが、『あの手』を使わせてもらう」
「そうであるか。わらわももうすぐで片が付くゆえ、おぬしも油断するでないぞ」
再びエクスが戦闘へと戻る。死角をカバーしながら戦う唯斗とプラチナムに対し、刹那は僅かな隙を突くように狡猾に攻撃を繰り広げてきた。
「ふふ、どうしたのじゃ。耐えるばかりではわらわは倒せぬぞ」
刹那の声がどこからか聞こえる。だが、森を俊敏に動き回る刹那の居場所を特定する事は難しかった。唯斗達は少しずつ動き回りながら攻撃を回避し続ける。
「マスター、そろそろです」
「了解。それじゃ、仕掛けますか」
プラチナムの言葉に従い、二人が動きを止める。
「もう逃げるのは仕舞いか? なら、そろそろ片を付けさせてもらうぞ」
刹那が森から飛び出す。それを待っていたとばかりにプラチナムが限界まで明るくした光術を放った。
「くっ!」
突然の光に怯んだ刹那に唯斗が跳びかかる。だが、その気配を察知した刹那は唯斗の攻撃を防いで見せた。
「クク、その程度でわらわを倒せると思うたか?」
「いや、別に?」
「何じゃと……?」
唯斗の目的、それは目くらましに乗じて刹那を倒す事では無かった。無論、それで倒せればそれまでの話だったが、防がれる前提として更なる手を打っていた。それは――
「合いましたぁ!」
先ほどエクスが飛ばしっぱなしにしていた小型飛空艇の上で、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が弓矢の照準を合わせていた。そして唯斗が刹那に肉薄したタイミングに合わせて矢を放つ。
睡蓮の放った矢は、サイコキネシスで軌道を微調整されながら木々の僅かな隙間を抜けて行く。そしてそのまま一直線に刹那へと迫ろうとしていた。
「ちっ……!」
矢の存在を察知し、回避を試みる。だが――
「甘いね」
唯斗がそれを許さない。先ほどの攻撃は刹那をこの場に留める為の物だったのだ。隠し持っていた短刀で唯斗に斬りつけるが、それを回避された時には既に矢が服に突き刺さっていた。裾の長い服が災いし、地面に縫い付けられた形になってしまう。
「次、行きます!」
更に睡蓮の射撃が続き、完全に動きを封じられる。こうなっては自慢の素早さも意味を成さなくなっていた。
「くっ、こんな事が……!」
「悪いねぇ。ま、あんたは一人で良くやったよ。だが、これまでだ」
唯斗が深く踏み込む。そして強烈な一撃を刹那へとお見舞いした。
「ぐうっ!?」
刹那の身体が大きく吹き飛ぶ。矢が抜けたり裾が破けるなどして動けるようにはなったものの、今の一撃で完全に勝負はついていた。刹那はふらつく身体で必死に木の枝へと飛び乗る。
「その身体じゃもう相手にはならんだろう。今回は大人しく退くんだな」
「く……。覚えているがよいぞ。この借り、必ず返してくれよう」
そういい残し、刹那が森へと消える。それを見送りながら、唯斗がつぶやいた。
「そうかい。だがな、何度来たって護ってみせるさ。この手が届く限り何度でも、な」
風天、朔と激戦を繰り広げていた竜造は、リーダーの敗北と刹那の撤退を見てここが退き際と判断した。二人と距離が離れたタイミングで封印解凍の効果を解除する。
「やれやれ、どうやらこっちの奴らは皆やられちまったみてぇだな。ま、十分楽しめたし、ここいらが潮時か」
「貴様、逃げる気か?」
朔が槍を向ける。だが、竜造はこれ以上やり合おうとはしなかった。
「俺は別にあいつらに義理はねぇからな。ただ戦いを楽しめりゃそれでいいってこった。……ま、楽しかったぜ。てめぇら『悪』との戦いもよ。あばよ!」
言うが早いか、竜造の姿が消える。風天達はしばらく奇襲を警戒していたが、それもなさそうと判断し、戦闘態勢を解除した。
「どうやら、本当に退いたようですね」
風天が刀を納めながら言う。朔も槍をしまいながらそれに答えた。
「えぇ。それにしても、『外道』ですか。まったく厄介な相手です……」
「そうですね。ですが、ボクはたとえ『正義』から外れようとも、信じる者を護る為なら戦ってみせますよ」
「それは私も同じ。進むべき道があるなら、『悪』としてでも進んでみせる」
正義を語らぬ二人の行く末、それがどういったものになるのかはまだ分からなかった――
風天達の前から消え、森を進む竜造の先に一人の男が待っていた。その男、橘恭司は竜造の姿を見つけると、革手袋をはめ直しながらこちらへと歩いてくる。
「どうやらお前が最後の一人みたいだな」
「ほぅ、待ち伏せかい。ご苦労な事だなぁ」
「何、耳には自信があるんでね。さて……分かってるよな? 他人を襲い、奪おうとする者は逆に何かを奪われても仕方ないって。例えそれが自由や命であってもだ。……その覚悟、当然出来てるんだろうな?」
「けっ、そんなもんに興味はねぇな。俺はただ、俺の好きなように戦い続けるだけだ」
「そうかい、なら……相手になってやるよ!」
恭司が竜造へと殴りかかる。その攻撃に対して竜造が短刀を合わせようとするが、先ほどの封印解凍で負荷のかかっていた身体は一定以上の動きについて来れずに恭司の攻撃をまともに喰らってしまう。
「ぐあっ!?」
「どうやら限界まで戦ってきたらしいな。……そうだよなぁ。あれだけのメンツが揃っていたんだ。戦って五体満足な訳はないよな」
「……ちっ」
「まぁ安心しな。命までは取らないさ。ただ……しばらくの自由は奪わせてもらうがね」
そう言って恭司が竜造に追い討ちをかける。既に勝負はついているのだが、恭司はなおも竜造に攻撃を加えていた。
「ぐっ! ……くそっ、てめぇ……」
「言っただろ? 奪おうとする者は逆に奪われても仕方ないって。ま、これに懲りたら悪党に加担するような真似はよすんだな」
恭司が竜造から手を離す。竜造は地面に倒れこみながらも、なおも恭司を睨みつけていた。
「……けっ、てめぇが何て言おうが……俺は……俺の為に、戦って……やるさ……」
「……なるほど、大した信念だ。いや……生きる為の希望か」
竜造に背を向け、歩き出す。その去り際、振り返る事はしないまま、竜造に問いかけた。
「知ってるか? 希望ってのは薬にも毒にもなるんだ。お前さんのは一体……どっちかね」
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