First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
Next Last
リアクション
2
「な、長かった……」
距離としては全然大したことのない道程をやたら長く感じ、大総統の館の前に着くころには、すでにちょっとした達成感すら感じている一同。
「よーしお前ら。さっき書いてもらった書類を出してくれ。くらえ! 『俺チェッーーク』!」
大総統の館に入るための最後の難関。テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)の書類チェック。
何のことはない、書類の記入漏れがないかの確認である。
寺子屋魯粛の指導があるので、必要なさそうな最終チェックだが、ちらほらテノーリオに書き直しを指導される者もいる。
師王 アスカ(しおう・あすか)もその一人。
テノーリオはアスカに書類を突き返す。
「書き直し」
「ええ〜、なんでぇ?」
「何でってお前、小論文に絵描いてどうすんだよ」
「だってさ〜、私の気持ちは言葉じゃ表わせないんだもん」
「いや、つーかこれ、ただの女の子の絵じゃねえか」
「ただの女の子じゃないよぉ。向日葵ちゃん肖像画の下書きだもん〜」
「下書きじゃダメだろ! せめて本気のやつ描いて出せよ。とにかくやり直し!」
「ええ〜……」
こんな具合に、館の入口を目前に足止めを食らう者もありつつ、テノーリオは応募者と挑戦者を二組に分け、まずは応募者たちを館の中へ入れていく。
ここまで来て館突入のお預けを食らい、当然不満ぷんぷんの挑戦者たち。
このクレームを書類をまとめたリアトリスとテノーリオで処理する。
「いいかげんにしろ! いつまでまたせんだよ!」
「もうちょっと待って! 今準備中だから」
「意味分かんねえよ! 準備しとけよ」
「うっせえな! 演出の都合上、いろいろあんだよ!」
「テノーリオくん、内情ばらしちゃダメだよ……」
「はいは〜い、みなさんこっちだにゃ!」
と、そこに一般人をぞろぞろ連れてやってきた、ニコとナイン。
二人とも相変わらず猫の着ぐるみ、ゴスロリドレスをまとったまま、ダークサイズの旗をふりふり、挑戦者たちの目の前を通過する。
彼らは何だかんだで、100人ほどの観覧者・見学者獲得に成功していた。
「今日のダークサイズは、こんな戦士たちと戦いを繰り広げるんだにゃ。みんなの声援で盛り上げるのにゃ!」
観客がいるなど知る由もない挑戦者たち。
「な、ギャラリーがいるのか……!」
「そうだにゃ! 正義の戦士たちにも、ここで人気者になるチャンスだにゃ!」
ニコはオーディションを盛り上げようと、挑戦者たちも焚きつける。
二人の引率で、一般観覧者が館の中へ消えていく。
お客さんがいることを知り、残った挑戦者たちは、にわかに緊張し始める。
そして中からOKが出たらしく、リアトリスが渡されたカンペを読み上げる。
「ようこそ、大総統の館へ! 君はダークサイズを倒すべく、ついにラスボスの塔へやってきた! ダイソウトウと対決するには、君は5人のガーディアンを倒すか、打ち負かしてスタンプをもらわなければならない! 真の勇気のある者は、この扉を開くがよい!」
との言葉を残し、リアトリスとテノーリオは館に入り、扉を閉じる。
改めて緊張の走る一同。
意外にちゃんとした導入の台詞があり、心地よい緊張感の向日葵は、ふんっと気合いを入れ、
「よーし、じゃあみんな、いくよー!」
ぎぎぎぎぎぎ……
ついに大総統の館の扉が開かれる。
向日葵たちが足を踏み入れると、中は真っ暗である。
扉の外からの光で、どうにか人の気配がする程度。
「……?」
挑戦者が戸惑っていると、突如フロアの真ん中にスポットライトが照らされ、その中にはギターを構える咲夜 由宇(さくや・ゆう)、タンバリンを持ったルンルン・サクナル(るんるん・さくなる)、ピアノに向かうフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)の姿が。
「???」
さらに一同戸惑っていると、マイクを通した男の声が響く。
「よくぞ来た! 大総統の館へ!!」
ダダダンダン! ダダダンダン!
その声をきっかけに、三人がイベントのオープニングのような激しい曲を描き鳴らし始める。
ズダラズダラダーン! ダダラスダンダランダンダランズダン!!
曲名は分からないが、とにかく激しいテンションをあおる音楽。その曲が終わると同時に、
バン!!
フロアの照明が一気に点灯する。
そこにはダイソウトウを中心に、キャノン ネネ(きゃのん・ねね)、キャノン モモ(きゃのん・もも)、ハッチャン、クマチャン、そしてオーディション応募者であるダークサイズ幹部。
さらに中二階にはニコが連れてきた一般観覧者たち。
その全員が、コーヒーカップやティーカップを片手に、椅子に座ってくつろいでいる。
「お茶してるー!!」
悪の秘密結社と対峙して、第一声にツッコミを言わされる。
なんという屈辱。
「さあー! そういったわけで、ついに始まりました大総統の館ガーディアンオーディション!」
由宇たちがはけるのと入れ替わりでフロアの真ん中に躍り出る大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)。
泰輔はレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)が構える結構立派なテレビカメラに向かって、
「カリペロニアからお送りする今回のオーディション! こちらはガーディアンとなるべく集ったオーディション応募者の皆さん。そしてそれに対峙するのはダークサイズを倒すべくやってきた、正義の戦士の皆さんです!」
わあああっ!
強引に連れてこられたわりには、音楽とレポーターにあおられて盛り上がっている一般観覧者たち。
「ご覧下さい。今日はこのイベントを聞きつけて、多くのギャラリーが集まっています」
泰輔が中二階を見上げると、それに合わせてレイチェルがカメラを振る。
「開催直前から非常に盛り上がっております! では選手へのインタビューいきましょう。まずは挑戦者サイドのエメさん!」
「放送室、放送室。エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)です。こちらには大勢の正義の味方が来てくれています。」
と、すでに向日葵たちのそばでスタンバイしたいたエメと、小型カメラを構える讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)。
エメは早速向日葵にマイクを向け、
「挑戦者の皆さんにすれば、こんな演出で驚かれたと思いますが、今のお気持ちは?」
向日葵たちも何とかしてこの展開に混乱しないよう、頭をフル回転させているが、
「わ、訳が分からないわ……」
「なるほど。訳が分からないとのことですー」
「そうですか。エメさんありがとうございます!」
「し、しまったー!」
エメの質問に素直に返事してしまい、全然カッコイイことが言えなかった向日葵。
一方で、ノリと流れに任せて戦おうと決め込んでいた雅や巽などは、タンタンを巻き込んで、顕仁のカメラにピースしたりして、楽しみ始めている。
「では今度は、ダークサイズ側をお願いします!」
「はーい!」
エメと顕仁はフロアの反対側にダッシュして、ダークサイズ幹部たちにインタビュー
「今のお気持ちは?」
「予想以上に盛り上がってて緊張するぜ!」
「5階ガーディアンの座は僕のものだよ……」
「他の階などどうでもいい。4階さえ守れれば」
心の準備ができていたダークサイズ幹部たちは、エメのインタビューに順調に答える。
エメは最後にダイソウにマイクを向ける。
「オーディション主催者として一言!」
「このオーディションで大総統の館は完成すると言ってよい。ダークサイズ幹部と正義の戦士たちの熾烈な戦いを期待している。私はダークサイズの大総統ダイソ……」
「はーい、ありがとうございます」
「……」
と、時計を見ながら泰輔はダイソウの言葉を遮る。
泰輔は最後にカメラに向かい、
「それではオーディションの開始です。まずは、すでに決定している一階ガーディアンVS正義の戦士! CMの後、いよいよゴングです! この番組は空京放送局と空京たからくじの提供でお送りいたします。最後まで生放送でお楽しみください」
「し、CM? 提供??」
「な、生放送だとー!」
由宇による、CM入りのアイキャッチの音楽が流れ、向日葵たちの驚きの表情が移った直後、番組はCMに入る。
「はい、オッケーですよ」
音響関連のスタッフも兼ねているフランツがOKサインを出す。
「よし、CM明けまで約2分や。レイチェル、フランツ、顕仁! メインのカメラはもう上に行くで。一階は顕仁のサブカメラと音声でカバーや」
泰輔が指示を出してきびきびと動きだす。
そんな彼を見て、レイチェルは嬉しそうに、
「泰輔さん、今日は輪をかけて楽しそうですね」
「当たり前や。空京たからくじがバックアップしてくれたさかいな。今日はしっかり予算かけて僕もダークサイズも大儲けや!」
「やっぱり……お金とダークサイズなのですか……」
少し悲しそうな顔をしつつ、レイチェルは泰輔についていく。
「さて、CMはちゃんと流れてるかな」
オーディションのスポンサーを買って出た空京たからくじ。その首謀者は、たからくじ外部監視委員の茅野 菫(ちの・すみれ)である。
彼女はモニターでCMを確認しつつ、
「さすが東田トシユキ。いい演技してくれるじゃん。今年の『年末チョンボたからくじ』は期待できそう。さてと……」
と、続いてダイソウのもとへ向かう。
「ねえダイソウトウ。スポンサーとして注文があるんだけど」
「何だ」
「今回うちはずいぶんバックアップしてるから、今日はたからくじの広告塔になってもらうよ」
「うむ、そうだな。かまわん」
「じゃあこれ」
と、菫はぴょんとジャンプして、ダイソウの軍帽に、「空京たからくじステッカー」を貼り付ける。
「こんな所に張るのか」
「当たり前じゃん。一番目立つ所に名前載せてもらわないと。そうそう、あんたたちも」
菫はさらに、ネネの胸元の素肌、モモの左胸のあたりにステッカーを貼る。
「まあ。素肌に貼るんですの?」
「大丈夫よ。ヒアルロン酸入りの糊を使ってるから」
「そう。でしたらいいですわ」
「お姉さま、いいんですか? ちょっとカッコ悪いような……」
「ふふ、モモさん。こういうのもたまには一興ですわ」
「お姉さまがよいのでしたら、私は構いませんが……」
そこにハッチャンとクマチャンもやってくる。
「俺たちも貼ろうか?」
「あんたらはいいわ。目立たないから」
「うわーん!」
そんなやり取りを遠目で見ながら、
「だ、ダークサイズのバックには、空京たからくじがついているのか?」
「このオーディション、一体いくらの金が動いてるんだ!?」
さらに混乱する挑戦者たち。
何より驚いているのは向日葵。
「ちょ、ちょっとダイソウトウ! 空京放送局の提供ってどういうこと? そんなの聞いてないよ!」
「何を言う。私は空京放送局のオーナーの一人。その権限はある」
「な、何だって……」
「あんたもだよ」
と、菫は向日葵の左胸にもステッカーを貼る。
「ちょっと! あたしは関係ないでしょ!」
「何言ってんの。あんた今回ギャラ出てんのよ」
「は、はあ!? どういうこと!?」
「『空京たからくじ』は常に中立。ダークサイズの提供をするなら、あんたにも何か恩恵がないとダメなんだよ」
「そんなの頼んでないよ!」
「あんたの意思は関係ないんだってば。空京たからくじが中立であるには、そうするしかないの。来月口座確認しといてね」
開いた口がふさがらない向日葵。
(み、みんなにばれたら大変……)
ダークサイズのスポンサーからボーナスが出るなど、不可抗力とは言えみんなにばれれば、確かに大変なことになる。
そんな向日葵を見て、ダイソウが、
「言っておくが、ギャラが出るからと言って手を抜いてもらっては困る。お前たちには全力で我々を倒しに来てもらうぞ。でなければオーディションの意味がない」
「言われなくても分かってるよ! ダークサイズ倒して、ギャラ突き返してやるっ」
「善戦を期待しているぞ。魔女っ子サンフラワーちゃん!」
「その名前で呼ぶな!」
頬を膨らませて帰ってゆく向日葵。
入れ替わりにエメがダイソウのところへ来る。
「そうそう、ダイソウトウ。こないだのバイト代です。水浴びのやつ」
エメは1000Gの入った封筒をダイソウへ差し出す。
「ん? おお。助かったぞ。給料日までの一週間をどう生きようか悩んでいたところだ」
「君個人の生活って、一体どうなってるんですか……」
これだけ大きなイベントを催す力がありながら、自分の生活がままならないダイソウ。謎の金銭感覚に、エメもついつっこみを入れる。
エメはさらに可愛い猫柄のポチ袋を詰め、いかにもオンナノコなリボンをあしらえたケーキ箱を差し出す。
「ダイソウ、差し入れにカップケーキが」
もちろんエメの手作りなのだが、こういう女の子趣味なプレゼントにダイソウがどんな反応をするのか見てみたかったエメ。
ダイソウはそれを受け取り、
「おお、お茶うけにちょうど良い。遠慮なくいただこう」
と、すんなりネネ達に渡す。
(うーん。こういうのには鈍いみたいですねぇ。ちょっとつまんない……)
無駄に照れるダイソウを見て楽しもうと思ったのに、期待はずれな気持ちになるエメであった。
☆★☆★☆
「さて、俺様達にとっての問題はここだぜ……」
オーディションのオープニングが放送されている間、その巨体のせいで外に取り残されているランザーとレイオール。
ランザーの身長は4.6メートル。レイオールに至っては6メートルを超える。
館の扉は大きな構えとはいえ、せいぜい3メートル。とても二人が通れるサイズではない。
しかしレイオールは胸を張る。
「フッ、ランザー。この程度の困難など覚悟の上であろう? ワタシは機晶勇者レイオール。この程度の障害で屈するなど思わないことだ! うおおおおっ!」
レイオールは館の扉に手をかけ、
ばきばきばきばきっ!!
と、強引に扉を壊して押し広げようとする。
それを見てフッ笑みを浮かべるランザー。
「ハッ、レイオール! お前の言うとおりだぜ。そうだ。俺様は魔道機晶ランザー! 正義のハートにシビれんなよおおおおおっ!!」
ランザーも同じく扉に手をかけ、二人して館の入口を自分のサイズに合わせにかかる。
「うおおおおおおっ!!」
悪の陰謀に挫けることなく、自分の道を切り開く戦士の姿は美しい。
しかし、残念ながら今回ばかりは話が違った。
「こらーーーーーっ!!」
そこに走ってきた朝野 未沙(あさの・みさ)。
大総統の館建設に多大な貢献をし、今回も館の補強にやって来ていた。
「そこの二人、何してるの!」
「あ、朝野未沙団長!?」
と、アサノファクトリーの構成員でもあるレイオールは、未沙の登場に驚く。
「もう! ずるい方法で館に侵入する人がいないか、監視カメラを仕掛けて正解だったよ。扉を壊しちゃダメでしょ!」
「い、いや、ずるいと言われてもだな。ワタシたちのサイズでは……」
「じゃあちっちゃくなりなさい!」
「無茶言うなよ!」
「うるさい! お座り!」
「は、はい……」
と、158センチの未沙に正座させられ、こんこんと叱られるランザーとレイオールの巨漢二人。
「この館にはね、ダークサイズだけじゃなくて、たくさんに人の想いが詰まってるんだよ。それを自分の都合で壊していいなんて、それが正義の味方のすること?」
「いや、あの……」
「正義の味方なら、正々堂々! ガーディアンとダイソウトウを倒しなさい!」
「だ、だからそのためにはこの扉を……」
「そもそも今日は一般人もいるんだよ。けが人が出たらどうするつもり?」
「は、はい……すみません……」
「あ〜あ。扉がめっちゃくちゃ……あたし館の補強工事で忙しいから、二人で元通りにしといてね。あたしが戻ってくるまでに」
「ええっ!」
「何か文句あるの?」
「いえ……」
ランザーとレイオールはしぶしぶ扉の修理に取り掛かる。大総統の館攻略チームで、足止めを食らう第一号の不名誉を被ってしまった。
☆★☆★☆
「ひえ〜。軽い気持ちでメンドクサイ仕事引き受けちまったなぁ……」
椿 椎名(つばき・しいな)は、すっかり満員となった館の一階「椿屋珈琲店」を見渡して、頭をかく。
演出の都合で大量の珈琲や紅茶を提供し、さっそく大わらわになっている。
「さあ、空いている席にお座りください。注文はアインかソーマにどうぞ」
ただでさえ忙しいのに、ナギ・ラザフォード(なぎ・らざふぉーど)が向日葵たち挑戦者にも席を勧め、椿 アイン(つばき・あいん)とソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)も、ウェイトレスとして提供と食器の下げによく働く。
そんな中、テレビのCMが空けてしまったらしく、
「オーディションとはいえ、挑戦者が2階に進むには、まずは決定済みの1階ガーディアンを突破してもらわねばなりません。謎の闇の悪の秘密の椿屋珈琲店との戦いです!」
とのアナウンスが流れる。
大忙しの椎名は慌てて、
「えっ、もう始まるの! 準備がまだ、誰か手伝って……」
と、椎名がダークサイズ幹部にヘルプを求めようとすると、
「1階ガーディアン『椿屋珈琲店』よ。ダークサイズの恐ろしさを奴らに見せてやるがよい!」
ダイソウを筆頭に、応募者たちは自分の受け持ちの階へと去っていく。
椎名はダイソウの元へ走り寄ろうとするが、
「え、ちょ、待ってよ!」
「仕方あるまい。トマスに渡された書類の整理とか応募者の割り振りとか、裏も以外に忙しいのだ」
と、階段への扉を閉じられてしまった。
「しょうがないなぁ……」
椎名は、着席している向日葵たちに向き直る。
「オレが大総統の館1階のガーディアン『謎の闇の悪の秘密の椿屋珈琲店』だ。まー、めんどくさいけどオレの挑戦を受けてもらうよ」
「お! きたきたー!」
「よっしゃあ! どんな勝負も受けて立つぜ」
「僕がんばります!」
まずは雅、悠あたりが、ようやく出番だとテンションが上がる。
椎名はポケットから一枚のカードを取り出す。
「これは、このために特別に用意してもらったカードキー。今日のオーディション用だから、一度しか使えない。2階に進むために、あんたたちはこのカードを手に入れないといけない」
「なるほど! そのカードキーを奪えばいいわけですね。ニャークDSのくせに、珍しくまともな勝負じゃないですか!」
巽も立ち上がる。
しかしそこにナギが両手を広げて立ちふさがる。
「でも、ルールは守ってね」
「?」
ナギが指さす方向には看板があり、そこには
『椿屋珈琲店。誰でも歓迎! ルール:人種・性別・善悪まで区別ない。挑戦者の方は従業員に従ってください』
とある。
「ど、どういうことだ?」
ざわめく挑戦者たち。
椎名は胸を張り、
「大総統の館1階は椿屋珈琲店。つまり喫茶店! 『店』という制限でいかにカードキーを手に入れるか勝負だ!」
と、勝負方法を提示するが、挑戦者たちはいまいちピンとこない。
「……何をすればいいんだ?」
「だーかーらー。あんたらは客ってことだよ。飲食店では暴力厳禁。みんなにはここでくつろいでもらうよ。はい、注文は『木春(こはる)』と『木隹(きすい)』にでも言って」
椎名は自分の武官を指さす。
「なんだその勝負!」
「しかもまた金取るのかよ!」
まともな勝負をさせてもらえず、さらに不満な挑戦者たち。
バンッ!
そこにアインがテーブルを叩く。
「……店内はお静かに」
「……さっき散々大騒ぎしてたじゃねえかよ……」
とはいえ、くつろぎ勝負など聞いたことがない。思いのほかの難題に皆思案していると、スッと向日葵が手を挙げる。
「……ご注文は?」
木春が向日葵の元へ寄る。
向日葵はキラリと目を光らせ、
「……カードキーください!」
と、カードキーを注文する。
雅が驚いた顔で汗をぬぐう。
「な、なるほど! ドリンクで小銭を巻き上げられる前にカードキーを買ってしまおうってわけだね」
「たしかに、カードキーを注文してはいけないなんてルールはないです。も、盲点だったですぅ……」
と、早くも解説役に回る雅と明日香。
椎名もフッと笑みを浮かべ、
「50000Gです」
「高えーー!」
「あの小娘もさることながら、ガーディアンも一歩も引かず法外な金額を要求するとは……序盤から目が離せぬ戦いだな……どう出る? 秋野向日葵!」
顕仁は小型カメラを片手に解説も忘れない。
「買った!」
と、秋野向日葵は立ち上がる。
「か、買うのか……? 値切ったりせずに買うとは……」
一同ごくりと息をのむ。
(貯金はないけど、ギャラで何とかなるはず……)
向日葵は瞬時に自分の生活費の計算をし、結局空京たからくじのギャラをあてにして、50000Gを財布から取り出した。
「まいどあり!」
お金の受け渡しで両者手を取り合い、がっしと握手したような形になる。
「うおおおおおっ! 買った! 50000Gの買い物をあっさりと!」
「さすが向日葵! 俺たちにできないことを平然とやってのける!」
向日葵は椎名からカードキーを受け取り、高く掲げる。
「買ったどーー!!」
「おおおおおおっ!」
椎名はダイソウから渡されていた紙を取り出し、台詞を読み上げる。
「ぐはあっ。おのれ……だが私を倒しても無駄だ。いいことを教えてやる。2階のガーディアンは、私より強い! お前たちは次のステージで血の海に沈むことになるのだ……」
がんばって慣れない台詞を読み、ホッと一息ついてテーブルに座る椎名。
向日葵は意気揚々とフロア奥のドアへ向かい、カードキーを通す。
静かにドアがスライドし、奥には2階への階段が現れた。
そして、次のフロアからようやくオーディションの開始となるのである。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
Next Last