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リアクション
6
「え? ここ……館の中だよな……?」
大総統の館5階。
フロアに出てみると、床には砂が敷き詰められ、特製の照明が太陽のように眩しく熱く輝く。
ヤシの木も数本植えられ、小さな海の家もある。
ギャラリーの一部が、ビーチバレーに興じている。
海がない以外は、5階が砂浜と化していた。
「お姉さま、これは……?」
「余りに暇でしたから、趣向を凝らしてみましたの。トマスさんの資料から傾向をまとめましたわ。今日のわたくしの階のテーマは『夏』。アサノファクトリーさんとジャスティン商会さんに発注しましたのよ」
「ずいぶんお金がかかったのでは?」
「これはわたくしの趣味の範囲内ですもの。組織に迷惑はかけませんわ」
ネネのポケットマネーの力量が気になる所だが、それは置いといて、ネネはいつもの真っ赤なドレスをバッと脱ぎ去り、ビキニ姿に早変わり。
「おおっ!」
「さあ、正義の戦士の皆さん、勝負ですわ。わたくしを楽しませてくださいましな!」
さすが5階を受け持つだけのことはある。水着姿に目をつぶれば、なかなかの貫録ある口上だ。
「さあ、モモさんも」
と、ネネはモモに水着をあてがう。
「え、私も?」
「もちろんですわ。4階での勝負は5階に持ち越し。モモさんも戦ってもらわなくては」
「わ、分かりました。お姉さまがおっしゃるなら」
モモは素早く、ネネに渡されたスポーツ水着に着替えてくる。
「さあ、改めてわたくしたちキャノン姉妹と、ガーディアンがお相手しますわ!」
「さすが女子部長・姉、ネネさん! 流れ分かってるッスねー!」
サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)は、もともとネネと勝負するためにやってきた。なので、示し合わせたようにすでにビキニ姿になっている。
「さっそく私サレン・シルフィーユは、正義の味方としてネネさんに挑ませてもらうッス! 常夏のビーチでビキニの女同士がやる勝負と言ったら、一つしかないッス! 『水着取り勝負』! 当然水着を奪った方の勝ち。その際肌を傷つけたら失格ッス!」
「な、何っ! やるのか、あの伝説のお約束を……」
ガーディアンに応募したのに何故かネネのそばに控えている壮太。これを聞いたら、いろんな意味でますます離れるわけにはいかない。
「さあ、いざ尋常に……」
と、サレンが勝負に出ようとすると、ネネがそれを手で制する。
「とても興味深い戦いですわ。でもそれ、このフロアの最後の決戦にした方が盛り上がると思いますの」
結局流れを気にするあたり、ネネもダイソウとよく似ている。
サレンは手を額に当て、
「なるほどー。さすがネネさんッス! 一本取られたッスー」
早く勝負をしたいが、「メインイベントに」と言われると、サレンも一旦引き下がらざるを得ない。
「よし。ではダークサイズ側からプレゼンをさせていただきたい」
淳二と白那は、勝負用の小道具を抱えてやってくる。
まず淳二がスポーツ竹刀を取り出し、
「けが人を出さず剣術を披露できる勝負。スポーツチャンバラ! さあ、俺の挑戦を受ける戦士はいるか?」
「なるほど。スポーツとはいえ、まともと言えばまともな勝負ですね」
厳密に言うと善悪の勝負にスポーツチャンバラは全然まともではないのだが、そこがダークサイズの恐ろしさ。
今日一日いろんな勝負を受けてきて、感覚がマヒしつつあるクライスが受けて立つ。
ぱん、ぽん、ばしっ……
二人にいくら実力があってもやはりスポーツチャンバラ。軽く楽しげな音が響く。
「よし、俺もやるぜ!」
4階での失敗を挽回したいエヴァルトも、スポーツ竹刀を持つ。
「ではここは私が」
剣の花嫁として、モモが受けてたつ。
そうなるとトライブも飛び出して、
「審判は任せてくれ」
となる。
エヴァルトはモモに竹刀を向け、
「まず先に言っておく……おまえの水着姿など、全っ然エロくない!」
「? はあ……」
と、あくまで普通に戦いたいので、前もってお色気を拒否するエヴァルトに、きょとんとするモモ。
「ガーディアンファイト。レディイイィィィ! ゴオォッホーーウ!!」
4階の時よりさらにテンションを上げるトライブ。
同時進行で白那がヘルメットとピコピコハンマーを持ってきて、
「あの、誰か叩いてかぶってじゃんけんぽんやらない?」
ガーディアンのプレゼンなのに、遊びに誘うように普通に声をかけてくる。
それには雅がタンタンを連れて来る。
「やるやるー。うちのタンタンが」
「ふわぇ、なんですかぁ?」
白那VSタンタン。
「叩いてかぶってじゃんけんぽん!」
ぴこん! ばひゅーん……
雅の目算通り、またきれいに飛んでいくタンタンの首。
「キャノン・ネネ! わたしたちも勝負だよ!」
向日葵はネネに挑戦する。
ニコリとして受けて立つネネ。
向日葵は、ネネの大人の余裕がある堂々とした態度が、どうも生理的に気に入らない。
二人の勝負もじゃんけんぽん。
「素敵なビキニが着れてうらやましいねー」
向日葵は皮肉たっぷりにネネの胸元を見る。
「あら。向日葵さんの魔女っ子衣裳。とてもお似合いですわよ?」
他意なく返事したネネだが、向日葵はイラッとしてしまう。
「じゃあ早速行くよ。叩いてかぶってぇー、じゃんけんぽんっ!」
じゃんけんは向日葵の勝ち。すぐさまハンマーを取って、
「うりゃー!!」
と思いっきり繰り出す。
バギイッ!
そのハンマーを食らったのは、無意識にネネの前に飛び出した壮太。
向日葵のマジ攻撃に、一発KOである。
「まあ、大丈夫ですの?」
「い、いいんです、ネネ姉さん。あなたが無事なら……ね、ネネ姉さん……最後に一度だけでいい。オレの名前を呼んでほしいな、なんて……」
壮太は意識が飛びそうな中、いつも「犬」としか呼んでくれないネネに、最後の願いを言う。
「何をおっしゃるのです。後で手当てして差し上げますわ。瀬島壮犬(そうけん)さん」
「ね、ネネ姉さん……違うっす……点の位置が違うっす……」
それが彼の最後の言葉となる。
(壮太じゃなくて壮犬で『犬』ね。あだ名のつもりだったのかぁ。なぁるほどねー……)
と、犬呼ばわりされる理由を知って、壮太は納得しながら安らかな気絶をした。
「ったく……ダークサイズもダークサイズだが、正義とやらも頼りねぇ。遊んでるだけじゃねえか……」
デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)は、表向きガーディアンの応募したのだが、真の目的は正義の戦士達に、本当の正義とは何かを気付かせることだ。
「さあっ! オレと本物の勇気の勝負をやるやつはいねえか!」
と、デゼルは声を張り上げるが、彼は何故か海の家の壁に、十字架状に磔にされている。壁にはダーツの的が描かれてあり、もちろん得点もある。
周りから見ると、イマイチ何が何やらわからない。
「チッ、仕方ねえ。一発デモンストレーションと行くか!」
「なげていーい? なげていーい?」
デゼルから10メートルほど離れた位置に、脚立に立ってナイフを持ち、目をキラキラさせるルー・ラウファーダ(るー・らうふぁーだ)。
デゼルがうなずくや否や、
「てーいっ!」
と、小さな体から豪速球でナイフを投げ放つ。
キュンッ、ダンッ!!
ナイフはデゼルの首のすぐ脇の壁に突き刺さる。
デゼルはニヤッと笑うが、それと裏腹に頬を冷や汗が伝う。
それを遠目に見て目を輝かせたミナギ。
それを察して玲は、
「メンドクサイことになる前に帰りますか……」
「待ちなさい。やるわよ、あの勝負! 当然あんたが的ね」
「ええ〜!」
「あったりまえでしょ! 主人公たるあたしが活躍しないでどうするのよ」
と、ミナギは玲を引きずっていく。
フランソワ・ラブレー ガルガンチュワ物語(ふらんそわらぶれー・がるがんちゅわものがたり)がミナギ達を迎え、
「ようこそ。この勝負は得点の低いか、的が死んだ方が負けとなりますわ。不正は一切認めません。発覚した場合は制裁がありますのでお忘れなく」
得点の記録と不正の監視のため、フランソワとささらが審判に立つ。
やはり玲が的をやらされ、ミナギは嬉々として立ち位置へ向かう。
「クッ、キュー」
クー・キューカー(くー・きゅーかー)がもふもふの尻尾を伸ばしてナイフをミナギに渡す。
「見てなさい! 主人公ミナギが、100点満点出してあげるわ!」
と、胸を張って見せたものの、10メートル離れて玲を見ると、予想以上に的が小さい。
(やば。無理かも……)
と彼女は自信を失うが、自称主人公たるもの、何が何でも勝ちたい。
「あーっ、あれなんだー?」
と、皆の目をそらし、その隙にローグの素早さで至近距離に近寄り、ナイフを100点に打ち込む。
「クックッ! キュゥゥゥーッ!」
と、難なくクーが不正を見破り、叫び出す。
フランソワもフフ、と笑い、
「あれだけ言ったのによくぞ不正を働いてくださいました。尊敬に値します。ここはキャノン・ネネさんの階。どのようなペナルティになるか、お分かりですね?」
と言うと、ミナギの背中に回り、フランソワは彼女の両胸を揉みしだく。
「ななな、何すんのよー!」
「さあ、この状態でナイフを投げるのです。ふふふふふ……」
「あーん! 早くダイソウトウぶっ倒したいのにー!」
ささらも、
「セクハラを受ける主人公……ぷぷーっ」
と笑う。
デゼルは、
「なんだかなあー……うちもゲームみたいになっちまってるぜ……」
と、ため息をつく。
戻って向日葵とネネは、相変わらずピコピコとゲームを続ける。
叩いたりかぶったりする間、ネネのたわわな胸がビキニと共にぷるぷると揺れる。
レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が、少し頬を膨らませながらやってくる。
「ねぇねぇネネさん。早くあちきとぷるぷる対決してよぉ」
レティシアもはじけんばかりのボディに蒼空学園の公式水着を着ている。
ネネがふとレティシアを見た瞬間、
ぴこん
と、向日葵がネネの頭を叩く。
「へっへーん、わたしの勝ち〜」
向日葵はネネに勝ったことに満足する。
ネネはネネで、向日葵に負けたのはあまり頓着しないらしく、
「ぷるぷる対決?」
とレティシアの勝負に興味を持つ。
「『ぷるぷるダンス対決』だよぉ。ぷるぷるダンスで、ぷるぷるしてた方が勝ちなんだよねぇ」
そこにミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)も寄って来て、
「ダークサイズと言うのは不思議な雰囲気ですね……あの、できればダイソウトウさんにも審査に加わってほしいんですが……」
と、ネネに注文するが、
「ダイソウちゃんは、こういうタイプの審査はてんで苦手なのですわ。それにしてもどこまで避難したのかしら」
と、一向に姿を見せないダイソウに、ネネは文句を言う。
それならばと、男性見学者達が大量に審査員を買って出る。
レティシアは由宇に頼んで、夏らしい軽快なリズムの音楽を注文。
ミュージックスタートと共に、
「へーい、へぇーい」
と踊り出す。
ネネもこういうのは嫌いではないらしく、艶めかしく腰をうねらせ、挑発的な目線を周りに配る。
泰輔と顕仁のカメラは、二人を完ぺきにとらえ、フランツは音楽にノリノリ。レイチェルはすでにため息をついている。
その盛り上がりを見たサレンは、いよいよ我も負けじと勝負の輪に紛れ込む。
「水着取り勝負ッスよー。水着がなければぷるぷる度もアップッスよー」
と、ネネのビキニを狙う。
ネネは律義にぷるぷる勝負と並行して、サレンとの勝負も受けて立つ。
「はっ、いけない!」
モモは、スポーツ竹刀を放り出し、最優先にネネの加勢に向かう。
しかし、勝負勝負と言いながら、レティシア辺りは楽しければ満足。
レティシアは、モモもぷるぷる勝負にやってきたのだと思い込む。
「ふふふ。その引き締まった体で、あちきのぷるぷるに勝てるかなぁ?」
「え? いえ私はお姉さまの」
「さあモモさん、あなたもぷるぷるなさいな」
「私はお姉さまの水着を守ろうと……」
「おっ、先にモモさんの水着いただきッスー」
「きゃあっ」
と、巨乳三人にモモ一人が防戦一方になるはめに。
結局水着は死守したものの、三人に囲まれたモモが一人負けというよく分からない結果に。
モモも、相手が全員女性なので、キレるにキレられず、どーんと沈んで四つん這いになった。
そしてギャラリーが喜んでいるのを見て、満足げな三人は健闘をたたえ合っている。
「うーむ。まさか5階がこういう流れとは。適当に5階を選んだのは失敗だったかもしれんのう……」
もはやリゾートと化しているフロアを見て、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)はオーディションプレゼンのために作ってきた、理科テストの束を持って頭をかく。
(我が作ったテストを我と一緒に受けさせ、点数勝負。当然我は満点だから、100パーセント我を倒すことはできぬ。完璧なガーディアンになれるはずなのだが……)
大佐のプランは、確かにかなりよい、というかあくどいもので、悪の秘密結社の守護者としてはよいアイデアだった。
しかし何となくで選んでしまった5階。ネネがいなくとも一人で守る自信はあったのだが、とにかくプレゼンをする隙がない。
「肝心のダイソウトウはどこにいってしまったのだ? これではプレゼンができんではないか。仕方がない。上に行って直接プレゼンをしよう……」
大佐は正当な評価を得るため、親衛隊の階へと向かった。
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