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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第1章 必然に出会った大切な人と過ごす時間

「なんだか人がいっぱいね。でも、24日だから仕方ないわよね」
 遠野 歌菜(とおの・かな)はメリーゴーランドの順番待ちをしながら、キョロキョロと園内を見回す。
「この様子だとどれも並んでいるんだろうな」
 並んでいる人々を見た月崎 羽純(つきざき・はすみ)が深いため息をつく。
「やっと順番が来たわ!えぇ〜と。私はあの馬車にしようかな」
「俺は適当でいいな」
「えーっ!適当なんてつまらないよ。じゃあね、私が乗る馬車のちょっと後ろにある白馬に乗って♪」
「何で後ろなんだ?」
「なんか王子様が迎えに来てくれる感じがするじゃない」
「まるで子供だな・・・」
「子供でいいわよっ。羽純くんが白馬に乗ってくれるならね」
「はぁ、仕方ないな」
 ため息をつきながらも、頬を膨らませて言う彼女のわがままに付き合ってやることにした。
「動き出したわ!羽純くーん、私に追いつけるかしらー?」
「(追いつけるはずないだろ・・・)」
 きゃっきゃとはしゃぐ彼女に向かって、仕方なしに手を振ってやる。
「フッフフ♪ここまでおいで〜」
「(楽しんでいるならまぁいいけどな)」
「止まっちゃった!あんなに待ったのにもう終わりなんて・・・。ねぇ、もう1回乗ろうよ!お願い、ねっ♪」
「1時間以上待つんだぞ?少しくらい休んだ方がいいだろ」
「むぅー・・・そうね。パスを使ってゴンドラの時間予約を取った後、お昼にしようか?それだけは絶対に乗りたいもん」
 何としてでも乗ろうと歌菜は1日パスを使って予約を取る。
「うわぁ〜。19時からだって・・・やっぱり混んでるからかな。でも、お祝いしたいから待っていよう♪」
 この日を選んだのは、2人でお互いの1日遅れの誕生日祝いのデートするためだったのだ。
 今日のために歌菜はピンクのワンピースと、ふかふかのファーがついた白いコートを着て、ぼんぼんのついた毛糸の手袋をはめてめいっぱいお洒落をしてきたのだ。
「さて、お弁当食べよう。朝、早起きして作ったのよ」
 ベンチに座ってパカッと蓋を開けるとうずらの卵で作ったスノーマンや、小さな雪うさぎの形をしたおにぎりなどが入っている。
「下に敷いてあるしその葉を巻くように食べると、ご飯粒が手にくっつかないわよ。食べさせてあげるね、羽純くん口開けて」
「なっ、何言ってるんだ。人前で出来るわけないじゃないか」
 食べさせようとする彼女に対して、顔を真っ赤にした羽純は思わず仰け反る。
「もぉ〜ちゃんと口を開けてくれないと、食べさせてあげられないでしょ!」
「だからこんな人が大勢いる前じゃ・・・」
「えぇー、何で?オープンカフェにいるカップル・・・食べさせあってるじゃないの。そんなふうに、私も・・・私もやりたいのっ」
「あぁもう。そんなことくらいで泣くなよ。わっ、分かった・・・食べればいいんだろ?食べれば・・・」
 俯いてぐすぐすと涙声になる彼女に、仕方なくいうことをきてやることにした。
 だがしかし・・・。
「本当に!?やったぁ♪」
 それは食べてもらうためにうそ鳴きした歌菜の演技だった。
 俯いていた彼女は上目遣いにちらりと見上げ、青色の双眸には涙1つ浮かべていない。
「騙したなっ」
「てへ♪ばれちゃった?」
 ムッとした顔をする彼に歌菜はウィンクをしてちょこっと舌を出す。
「まったくてへじゃないだろ、てへじゃ」
 彼女の頭をこんっとこづく。
「でも食べてくれるって言ったよね?はい〜、どーぞ」
「あぁまったくもう。こうなったら食べてやるよ」
 しぶしぶいうことをきいた彼は、眉を吊り上げてんぁっと口を開ける。
「美味しい?」
「―・・・歌菜にしてはまぁまぁだな」
 騙された仕返しにちょっと意地悪そうにしてやろうと、素直に美味いと言ってやらない。
「よかった〜。中の鮭はバターでソテーして、香りづけにクレソンをちょっと加えたのよ」
 いつものことだと分かっている彼女は気にせず、ニコニコと微笑む。
「洋風のおにぎりも悪くないな」
「でしょー?頑張って作ったんだから!」
 ポットのお茶をカップに注ぎ、羽純に渡しながら得意げに言う。
「ふぅ・・・、かなり食べたな。ごちそさま、歌菜」
「うん!全部食べてくれて嬉しいよ♪」
「ゴンドラの他に、どこか行きたいところはないか?」
「そうねぇ、園内をお散歩してみようかな」
 お弁当を食べ終わり、ベンチから離れた2人は園内を見て歩く。



 ミニスカサンタの格好をしている小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が売り子をして、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の方はせっせとキャンディーを作っている。
 コスプレをするのは気恥ずかしいからと、ベアトリーチェは普段着でアルバイトをしている。
「鎌鼬、久しぶりね。元気だった?」
「うん、黄色いリボンのお姉ちゃん」
「いい子にはクリスマスプレゼントをあげるわ」
「なんだろぉ。―・・・ちっちゃくってかわぃい」
 小さな箱を開けてみると、スノーマンの飴が出てきた。
「ありがとぅ。ねぇ、そのおリボン可愛いね」
「これ?」
「そー、ぼっくんも欲しいなぁ」
「バイト中だからこれなくなっちゃうと困るのよ」
「この髪飾りと交換して欲しいのー」
「そうね・・・もう悪いことしないっていうならいいわよ」
「しないよー」
「うん、よし!じゃあ・・・交換してあげるね」
 ねだる少女を見下ろしてちょっと考え、ライトグリーンの髪飾りと交換してやり、ポニーテールを結ってやる。
「ありがとう〜」
「じゃあね♪」
 ぱたぱたと走っていく鎌鼬に手を振る。
「あそこ何を売っているのかな?結構列が出来てるけど。あ、美羽ちゃんたちだ!」
 行列を見つけた歌菜が近づいて覗くと、見知った顔が見えた。
「出来ましたよ、美羽さん!」
「ありがとうベア」
 ベアトリーチェから受け取り、チョコレートやイチゴの飴を使って作った飴を子供に渡してやる。
「トナカイの飴が箱に入ってる!美味しい〜、ありがとうお姉ちゃん」
 子供は嬉しそうにはしゃぎ、母親の方へ駆け寄って行く。
「よく遊園地で風船を使って動物を作るところは見るけど、美羽ちゃんたちはそれを飴で表現してるのね」
「歌菜ちゃん!ねぇ、ベアに頼んで作ってあげようか?」
 彼女の声音に気づいた美羽が駆け寄り、飴を作ろうか声をかける。
「えぇ!?でも、いっぱい並んじゃっているし・・・」
「そうなのよねぇ。うーん・・・じゃあこっそりベアに頼んできてあげる」
「で、でも美羽ちゃん。皆待っているし、順番守らないと悪いわよ」
「私ね、歌菜ちゃんにとっても感謝してるの。最初は悪い子だった鎌鼬をいい子にしてくれたからね」
「ううん、私だけの力じゃないわ。由宇ちゃんたちも頑張ってくれたもの」
 自分だけの力で改心させたんじゃないと歌菜は首を左右に振る。
「それでも何かお礼をしてあげたいのよ」
「うーん、じゃあお言葉に甘えようかな。ベアトリーチェちゃんにお任せでもいい?」
「いいわよ、ちょっと待っててね。―・・・ねぇ、ベア。ちょっと急ぎなんだけどね、飴で作って欲しいのがあるんだけどいいかしら」
 美羽は急いでベアトリーチェのところへ戻り、こそこそとミミウチをする。
「えっ?あ、歌菜さんにですか。いいですよ」
「それでね・・・ごにょごにょ・・・」
「ちょっとそれはっ。彼氏の方には見せられないんじゃないですか・・・」
「いいじゃない、冬のロマンスって感じで♪」
「み、美羽さんがそう言うなら・・・。はたから見たら普通ですからね」
 ベアトリーチェは美羽の注文通りに飴を作ってやる。
「出来ましたよ。ただ、本当に恥ずかしいですよこれは」
「大丈夫よ、大丈夫♪」
 飴を受け取ると箱に詰めてキレイに包装する。
「お待たせ、歌菜ちゃん」
「ありがとう!包んであるけど、中は飴よね?」
「そうよ、後でゆーっくり見てね♪」
「う、うん。(あの笑顔、どんな飴が入っているのか気になるわね)」
 意味ありげにニッコリと微笑む彼女をじっと見る。
「作ってもらったのか?よかったな、歌菜」
「今見ちゃうのもったいないから、後で見ようっと」
 歌菜は嬉しそうに飴の入った箱を大切そうにカバンへしまう。
「もっと他の場所を見てみるか?」
「うーん。このまま夜まで羽純くんと歩いていたいかな。さむぃ〜っ!寒いから・・・くっついちゃおうかな?」
「―・・・なっ、歩きづらいじゃないか」
「だって寒いんだもん。いいでしょ」
「ま、まぁ。風邪引かれても困るしな」
「これなら風邪なんて引かないね。暖かい・・・えへへ♪」
 彼の腕を両手で掴み、ぴったりと寄り添って歩く。
 園内の大時計の針が19時を指した頃、2人はゴンドラ乗り場へやって来た。
 ゴンドラに乗ると歌菜はキョロキョロと橋を探す。
「(素敵な言い伝えを聞いたんだ♪)」
 イルミネーションのようにキラキラと輝くライトアップされたアトラクションを見ながら、橋のところへ近づくのを待つ。
「そうだ、さっきもらった飴を見ようっと。―・・・きゃぁあ!こ、これって・・・」
「どうしたんだ?」
「うっ、ううん。何でもないよ!あは、あははっ。(可愛いけど恥ずかしいよぉ〜)」
 歌菜が隠すのもそのはず、その飴の形は・・・。
 雪のお姫様の格好をした彼女が、白いスーツを着て王子様っぽい姿をした羽純にお姫様抱っこされているのだ。
 その彼女は彼に抱きつくように頬へ口付けている。
「俺にも見せてくれよ」
「やっ、これは・・・まだ見ないで!後で・・・帰ったら見せてあげるかも・・・っ」
「いいじゃないか、開けたらな今見せてくれたって」
「あぁあーっ橋ってあれかしら?」
 わざとらしく声を上げる彼女を見て、ごまかしたな・・・と呟いた。
「でも、何だか話しに聞いたのと違うような・・・。まぁいいわ♪羽純くん。一生、貴方を幸せにします。エス イスト シュヴール イン リューゲ ニヒト」
「(歌菜、俺がお前を幸せにする。エス イスト シュヴール イン リューゲ ニヒト)」
 声に出して言う歌菜の一方、羽純の方は心の中で呟いた。
「歌菜、そのまじないは心の中で唱えるものだぞ」
「え?これは心で唱えるものなの?間違っちゃった!?」
「大丈夫。俺が唱えておいた。問題ない」
 顔を真っ赤にして焦る歌菜に、落ち着いた口調で言う。
「そっか、羽純くんが唱えてくれたなら・・・安心だね。だって一生傍に居るって・・・決めたもん」
「・・・一生とは大きく出たな。・・・ありがとう」
「私も・・・ありがとう。同じ気持ちで・・・嬉しい。来年も・・・こうして一緒に居ようね」
 しかし、ゴンドラで通った橋はシュヴール橋ではなく、それは遊園地の外・・・つまり町の方にあるのだ。
 幸せそうな2人にとっては知らぬが花といったところだろう。