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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第33章 会いたい友人へこの思いを誓う

「お久しぶりッス、レヴィアさん!」
 町中にいるレヴィアを見つけた七枷 陣(ななかせ・じん)は、ぶんぶんと大きく手を振るい走り寄る。
 彼と会うのは孤島に救助へ行った時以来だ。
「その様子だと、もう具合はよくなったみたいやね?」
「陣か・・・。あの時はおぬしたちの世話になったな。我が油断したばかりに苦労をかけさせてしまった、すまない・・・」
「いやいいッスよ、ドッペルゲンガーの森で怪我を負っていたようやし。えーっと、この話はとりあえず終わりにして、オレたちと散歩でもどうッスか」
「行こうよ、美味しそうな出店とかあるみたいだし♪」
 リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)はクリスマスマーケットがある道を指指して誘う。
「早く行かないとなくなっちゃうかもしれないよ」
「そろそろ混んできそうやからね」
 レヴィアの腕を掴み2人は半ば強引に引っ張り、彼を連れて行く。
「いっぱいお店があるね!」
 青色の双眸をキラキラと輝かせ、リーズはクリスマス一色に飾りつけられた店をきょろきょろと見回す。
 深々と雪が降り積もった屋根を飾るサンタやツリーがライトアップされ、その暖かな輝きがマーケット内を明るく照らしている。
「どれも美味しそうだねぇ、魚の揚げ物スタンドもあるよ。にはは、レヴィアさんも遠慮無く頼んでね、支払いはぜーんぶ陣くん持ちだから♪」
「そういうわけには・・・」
「んもぅ〜、遠慮しなくていいってば。おばちゃーん3人分ちょうだい!」
 遠慮がちに言う彼のためにリーズが注文する。
「わぁい、揚げなおしてもらえるんだね。あったかぁ〜い。はい、どうぞ。パンかポメスと一緒に食べるんだって」
「あぁ・・・いただく」
 ニコニコと微笑む少女の手から、熱々の揚げ物を受け取る。
「タルタルソースとよく合うね」
 リーズはさくさくの衣にソースをつけて美味しそうに揚げ物を頬張る。
「ポメスってなんや?」
 見たことあるような食べ物を摘んだ陣が首を傾げる。
「ポテトフライじゃないの?」
「ほへぇ〜、見たままなんやね」
 見れば分かるじゃんというふうに、リーズに教えてもらう。
「定番のやつも食べてみようかな」
 ハンバーグを挟んだブラートブルストを、はむっとリーズがかぶりつく。
「ねぇ、レヴィアさんはこういうの食べたことあるの?」
「あるにはあるが。祭りへ出かけていた時くらいだな」
「お祭りが好きなんだね!」
「そうだな・・・、どこかであれば行くこともある」
「あ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいッスか?」
 2人の会話が途切れる頃合を見計らっていた陣がレヴィアに話しかける。
「レヴィアさんにとってアウラさんの印象って、どんな感じだったんスッか。特にパラミタ内海にいた頃の彼女って、どんな感じだったんかなぁと」
「たしかあの頃のアウラネルクはよく笑う喋り好きな性格だったな。いつも愉快な話をして海にいる者たちを楽しませていた・・・」
「どんな話をしてくれてたの」
 妖精の意外な一面を聞き、リーズも聞きたそうに目を丸くする。
「いったいどこで仕入れたのか分からないような、日常であった面白い話を見つけては我たちに話して聞かせていたな」
「まさか陣くんみたいにネタな会話とかあったわけ?」
「―・・・・・・・・・たしかそうだったな」
「(何や、今の間は?)」
 何か言いたげな表情をするレヴィアにじっと見つめられ、妙な間を空ける彼から離れるように一歩退く。
「はぁ・・・・・・」
「た、ため息なんかついてどうしたんッスか!?」
「―・・・おぬしのような者などが特に、アウラネルクの話の的にされそうな感じが・・・・・・。いや、何でもない・・・」
「まっ的ぉおお!?」
 顔を背けて言う彼の言葉に驚愕の声を上げる。
「そうだね、陣くんの周りにいっぱいネタが落ちてそうだし。むしろ陣くん自身がネタのような?よかったじゃん、陣くん美味しいポジションで」
 シナモンや砂糖をアーモンドにまぶしたマンデルンをぽりぽりと食べながら、リーズはさらりと強烈な言葉を言い放つ。
「ちょ、ふざけ・・・。ここまで来てそれを言うかぁあっ」
「あ、いったた!」
 ムッとした陣にもみあげをぐいっとひっぱられ、逃れようと手足をばたつかせる。
「いないやつは欠席裁判だとか言って、話題に出されることがあったな。―・・・おぬしのような感じの者がよく・・・な」
「(森の守護者になる前のン年前のアウラさんと会ったとしたら、間違えなくそうなるってことか!)」
 まさかの過去を聞き陣は顔から冷や汗を流す。
「うーんでも、孤島の施設の中で一緒に行動してる時さ。面白い話にくいつきがよかったよね?ボクは笑顔のアウラさんの方がいいから、昔のような感じに戻ったとしたらそれはそれでいいかもね」
 陣を見上げたリーズがニヤリと黒い笑みを浮かべる。
「そりゃ・・・悲しんだりしている時とかの顔の方がいいからな。は・・・、ははは!」
 毎度餌食になっている頃を思い出し、もうなるようになれというふうに心に涙を浮かべて大笑いする。
「そういえば、いつ頃アウラさんと何年来の友人なんスッか?」
「あっ、逃げた」
 ネタにされるフラグを回避しようとする彼の言葉に対して、リーズがぼそっとつぶやく。
「ふむ・・・だいたいだが、1900年くらいだろうか」
「へぇ〜、やっぱり妖精って長寿なんスッね。どこで会ったんや?」
「珊瑚がある海の中だったな」
「あの海にそんなところがあるんだね。キレイなところなんだろうなぁ、ボクも行ってみたいよ」
 リーズは2人の話を聞きながら美しい珊瑚の海を思い浮かべる。
「マンドラゴラが野生する森の守護についた後のことは分からないが・・・」
「そうなんか・・・。森を守るために冷たい性格にならなきゃいけないからとはいえ、寂しかっただろうなアウラさん」
 その言葉に陣は、海の仲間に囲まれた暖かい場所から暗い森の中で、独り孤独に暮らしていた頃の妖精の姿を思い出す。
「孤島から戻った後、アウラネルクからおぬしたち宛てに預かったものがあるのだが」
「オレたちに?これは・・・ブレスレットやね」
「海にある珊瑚を使ったやつのようだな。いつも世話になっている礼らしい。狙われるかもしれないと思ったのか、自分の身の危険を察知して我に渡したのだろう」
「アウラさん・・・あの後、十天君に狙われると思ったんやな」
 助けられなかったことを悔やみ、陣は珊瑚のブレスレットを握り締める。
「もう少しオレが強引にでも突っ走って助け出していれば・・・、あんなに魔力を奪われずに済んだかもしれない。封神台へ送られることもなかったはずやっ」
 捕らわれている妖精を目の前にしながらもあの悪女たちに阻まれ、助けるのが遅れてしまったのだ。
 どうしてもっと早く傍へ行ってやれなかったんだと、自分をまるで責め立てるかのように言い顔を俯かせる。
「すんません・・・本当に・・・っ」
「そう自らを責めるな。おぬしが悪いわけではない」
「―・・・そうやけど、あの時ああしていれば助けられたんじゃないかって。頭の中でずっとそればかり考えてるとオレ・・・、めちゃくちゃ悔しくて・・・。―・・・・・・っ」
 2人に背を向けた陣は涙を見せないように袖でごしごしと拭う。
「だけど嘆いてばかりいても過去は絶対に変えられない・・・。だからせめて、いつか封神台から出てくる彼女に、この町にあるシュヴールの橋で誓おうと思うんや。会えるか分からんけど、それでもオレたち・・・アウラさんとずっと友人でいたいスッから」
「ゴンドラに乗せてもらえるように頼んだよーっ」
 漕ぎ手に頼んできたリーズが石造りの階段の下から大声で2人を呼ぶ。
 3人はぷかぷかと浮かぶゴンドラに乗り込み、グリュック川畔の上をゆっくりと流れる。
 半円に空いた大きな橋の下までくると、陣とリーズの2人はぎゅっと目を閉じて心の中で呟き始める。
「(遭いたいッスよアウラさん・・・。もしかしたら貴女は復活したらオレらのことを忘れてるかも知れない。それでも、オレらはずっとアウラさんの友達でいるから)」
「(アウラさん・・・また逢えるよね。ボクたち、待ってるからね。この祈りを込めて、彼女に届きますように)」
 もう1度アウラネルクに逢いたい。
 たとえ妖精が記憶を失い忘れられてしまったとしても、ずっと友であり続けたいと封神台にいる彼女へ届くように祈り願う。
 その思いを届けるためなら、町の人が作ったただの迷信かもしれなくても縋りたいのだ。
『(エス イスト シュヴール イン リューゲ・・・・・・ニヒト)』
 ゴンドラが橋の下を通り過ぎるまで、2人は両手をぎゅっと合わせて祈る。
『(お願い届けて・・・)』
 やがて通り過ぎ、町のネオンに照らさる川の上で瞑っている目を開ける。
「―・・・レヴィアさん、1つ頼んでもいいッスか?」
「ふむ、何だ?」
「オレらが亡くなった後、彼女が蘇ってまた逢うことがあったら。ちっこいヴァルキリーにいつも無能って弄られたり、炎をよく水に打ち消されて凹んだりしてる魔術士がずっと心配してたよって」
「アウラさんが出られるのが10年後・・・50年・・・それよりもっとかかるかもしれないから。それまでボクたちがこの世界にいられるか分からないからね」
「―・・・・・・。それは・・・おぬしたち次第だ」
 2人の言葉にレヴィアはしばらく考え、首を左右に振る。
「その存在が必要に思うように、強く願うことだな」
「オレらが・・・アウラさんのことを?」
 その言葉を伝えるよりも、もっと大切なことがあると教えられ、それが何なのか陣が考え込む。
「必要だと思うこと・・・。―・・・オレらにとってアウラさんの存在は・・・」
 今まで出された謎よりも難解な謎を出されてしまい、うーんと唸りながら解こうとする。
 自分たちにとって友人以外にどんな存在なのか。
 それが解ればきっと彼女にまた遭え、今度こそ救えるのだろうと・・・。