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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第34章 聖なる夜の微笑み

「キレイねぇ・・・ねえルーツ?」
 ゴンドラの上から見えるモーントナハト・タウンの夜景を眺め、師王 アスカ(しおう・あすか)は傍にいるルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)へ視線を移す。
「―・・・これがアスカが思う美しさなのか」
 町の様子を楽しんでいる彼女とは異なり、ルーツはライトアップされた町を見ても何も感じない。
「(うぅ、これじゃ無理みたいね)」
 以前、ルーツは同族からの攻撃をくらってしまい重症だったが、身体の傷はなんとか回復することが出来た。
 しかしその傷は癒えても、心の傷はずっと消えないままなのだ。
 彼の心に浮かぶのはその同胞の蔑まれた瞳と言葉だけ・・・。
「アスカ・・・我はどうしたらいい?」
 自分は生まれてよかったのではないかと、たまらずアスカに聞いてしまう。
「え・・・?」
「弟のためにも生きようと思った・・・だが、分からなくなった存在すら否定され、一族が滅んだ原因も・・・」
 聞き返す彼女にルーツは言葉をつなげる。
「―・・・・・・。(無理やり連れ出しちゃったし、なにしろこの空気・・・重いわぁ〜。なんとかしなきゃ・・・)」
 アスカたちにすら笑ってくれなくなった彼に、なんと言葉をかけたらいいのか返事に困ってしまう。
「(そうねぇ、あの時のこと思い出しててくれたら・・・笑ってくれるかしら)」
 生きる気力を失ってしまいそうになってる彼を見据える。
「ねえ、初めて会った日を覚えてる?」
「アスカと・・・我が会った日あのか?」
「えぇそうよぉ。ルーツを見た時、天使に会ったのかと思ったわぁ」
「我が・・・天使?」
「吸血鬼と聞いた時驚いたのよ〜?」
 眉を潜めてまさか冗談だろうという彼に、首を左右に振り本当にそう思ったのと言う。
「・・・私は、ルーツに会えて感謝してる。私たちが出会えたことには何か意味があると思うの」
「出会った意味か・・・」
「今日ルーツの誕生日なのよ、忘れてたでしょ〜。ハッピーバースディ」
 クリスマスの25日、お祝いの言葉と共にルーツに誕生日プレゼントを渡した。
「これは?」
「開けてみて」
「ふむ・・・」
 箱を開けてみると中には懐中時計が入っている。
「生まれてきてくれてありがとう。・・・だから、自分を卑下しないであなたは私の大切な家族なんだから〜」
 両親にすら疎外されていた彼にとっては、無縁ともいえる言葉だ。
「なんだろうな、アスカがぼんやりとして見えるぞ・・・」
 彼女がくれた家族という言葉に、ルーツは金色の瞳に涙を浮かべる。
「一緒に生きよう、ルーツ・・・」
「アスカ・・・我は・・・生きたいっ・・・。不幸の象徴でもいい・・・、生きたいんだ・・・」
 温かい言葉にルーツは涙を零してしまった。
 2人を乗せたゴンドラがシュヴール橋へだんだんと近づき、アスカがルーツの傍へ寄る。
「ねえ、一緒に誓いを立てましょ〜。私たちだけの、私たちは家族っていう誓いを!あ、でもルーツは弟だからね?」
「ははっ我が弟で、アスカが姉か」
 受けた傷はきっと無くなりはしない。
 これからもっと辛いことが、自分の身に起きるかもしれない。
 それでも彼女たちと共に生きていたいと、涙で視界を滲ませながら笑顔を浮かべる。
「(やっと笑ってくれたわね)」
 ルーツの笑顔を見たアスカが彼の手をそっと握る。
「・・・笑った」
 アスカはそう言い、ニコッと彼に微笑み返す。
『(エス イスト シュヴール イン リュ−ゲ ニヒト)』
 2人は瞳を閉じ、互いに相手を想いながら心の中で呟く。
「キレイよね・・・、・・・ね?」
「我にはまだ分からないが・・・アスカが言うならそうなんだろうな」
 橋を通り過ぎると同時に、目を開けて宝石のように輝くキレイな夜景を見つめた。
 懐中時計が2人を家族とした過ごす時間を刻む。
「やっと笑顔を取り戻したみたいだな・・・」
 ゴンドラで橋から通り過ぎた2人が楽しげに笑っている姿を、蒼灯 鴉(そうひ・からす)が暗い路地から眺める。
 ルーツの様子を見てほっと安堵の息をつく。
「アスカー!(なんとか笑ってくれたみたいでよかったわね)」
 ゴンドラに乗るアスカに向かってオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)は手を振る。
 オルベールに気づいた彼女が手を振り返す。
「で?いつまで隠れてるつもり、バカラス。ねぇ、アスカとクリスマス過ごせなくて悔しい?」
 睨むように薄暗い路地へ視線を移す。
 彼がわざと気配を消していなかったため、すぐにそこにいると分かった。
「悔しいだと?ルーツの誕生日だから当たり前だ」
 悪魔を監視してた鴉が姿を現し、冷静に言葉を返した。
 嫉妬のしの字もしない彼に、つまらなそうにオルベールが舌打ちをする。
「―・・・お前は何を企んでいる」
 はぐらかされるがのオチだと思っているものの、それでも問わずにいられない。
 アスカたちと違ってまだ鴉は悪魔のことを警戒しているからだ。
 彼にとっては謎が多すぎる存在なのだ。
「聞こえないか?もう1度言う、お前は何を企んでいる?」
「企む?何もないわよ」
 フンッと笑い鴉に即答する。
「・・・まあいい。だが、忘れんな・・・俺はお前を信用していない。もし、アスカに何かあった時は・・・お前を殺す」
「はいはい、わかってるわよ。(何もないのにまったく・・・、このバカラスはっ)」
「―・・・。(今、ここでことを起こせば・・・アスカたちの雰囲気が台無しになるか・・・)」
 適当にあしらおうとするオルベールに目を細め、ただの脅しではないことを分からせようかと思ったがやめた。
「それより、もう少し夜景を楽しみなさいよ。せっかくの聖夜で眉間に皺寄せんのはもったいないわよ?」
 ふぅとため息をついてアスカは町の方へ顔を向け、2人はライトアップされ美しく輝く夜景を眺めた。