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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第35章 まだ気づかない思い

「宮殿や教会の方も輝いて見えますね」
 町灯りを受けて輝く様子を眺め、伊礼 悠(いらい・ゆう)は思わず見入ってしまう。
「あぁ、キレイだな」
 ディートハルト・ゾルガー(でぃーとはると・ぞるがー)もゴンドラの上から見上げる。
「(こうしてディートさんと2人でゆっくり過ごすのって久しぶりかもしれません)」
 いつも仲間や友人と一緒にいることが多かったが、クリスマスの今日くらいはと2人っきりで夜景を楽しんでいる。
「あることは知ってましたけど。森の中にこんな町があるなんて思いませんよね普通は」
「観光中心の町として知っていたとしても、実際に来てみないと分からないものだな」
「なんだか別世界に来たような感じがしますね」
 うっとりとした表情で悠が町を眺める。
「―・・・あっ!」
「悠、あまり身を乗り出すと危ないぞ。夜景を見るのもいいが、気をつけなければな」
 身を乗り出して落ちそうになる彼女の身体を支える。
「もう大丈夫ですから、離してください」
 冬の寒さのせいか彼の体温を感じた拍子にドキッとしてしまい、ほんのり頬を染める。
「ありがとうございますっ、ディートさん。(突然・・・熱くなった気がするんですけど、どうしてなんでしょうっ)」
 どうして赤くなってしまったのか分からず、悠は慌ててゴンドラに座り直す。
「落ちなくてなによりだ。―・・・なんだか2人だけで時間が進んでいる・・・そんな感じだな。―・・・っ!(今、悠と過ごせて嬉しい・・・と思ってしまったのか?)」
 ディートハルトは確かに悠と2人きりなのは久々だが、それに対している喜んでいる自分に驚いた。
「(私・・・今、とても落ち着く・・・と思ってしまいました?)」
 たった2人だけ存在するその空間が、とっても心地がよくリラックスしていることに悠の方も驚く。
「どーして別々のゴンドラなの!」
 悠たちとは別にもう1つのドンドラの方へ乗っているマリア・伊礼(まりあ・いらい)が頬を膨らませる。
「悠おねーちゃんとオッサンは相変わらずベッタリしてるしー・・・ツマンナイ!」
 何よりも2人が一緒なのが気に入らないようだ。
「あたし向こうに行くっ。あぁもー!ルアラ、邪魔すんな!」
「マリアさん、2人の邪魔をしてはいけませんよ?」
 飛び乗ろうとするマリアの身体を、著者不明 『或る争いの記録』(ちょしゃふめい・あるあらそいのきろく)が捕まえる。
「おねーちゃんのそばにいる、おねーちゃんのそばにいる、おねーちゃんのそばにいるっ!」
 じたばたと暴れるが、ルアラの手から逃れられない。
 一方、悠たちの方はそんな騒動に気づかず、ゆっくりとゴンドラの川くだりを楽しんでいる。
「ディートさん、向こうに遊園地の灯りが見えますよ」
「観覧車もライトアップされるのだな」
「あ、そこですね。わぁ〜凄い・・・」
 淡いクリーム色に輝く大きな観覧車に思わず見惚れる。
「このまま時が止まってしまったらいいですね」
「それはちょっと困るな」
「何でですか?」
 美しい場所にずっといられたら素敵なのに、というふうにディートへ顔を向ける。
「悠ともっといろんな場所を見て歩きたいからだ」
「―・・・私と・・・ですか?」
「あぁ、こうやって過ごすのも悪くは無いからな。他の場所も一緒に見てみよう。もちろん・・・2人じゃない時もあるだろうが」
 ゴンドラの上で暴れるマリアへディートハルトが視線を向ける。
「フフッそうですね。もうすぐ橋の下につくみたいですよ。(誓いの言葉かぁ。うーん・・・こんなのはちょっと変でしょうか)」
 そう思いつつも目を閉じて心の中で言う。
「(大切な人といつまでも一緒にいられますように)」
「(誓い・・・それは、いつまでも悠を、貴女を守り続けること・・・・・・。例えこの身がどうなろうと・・・ただ、貴女のその笑顔を守り抜く・・・。それが、私の誓いだ)」
「(私の誓いは、皆が幸せに暮らせるように、全力を尽くすこと・・・)」
 マリアの身体を捕まえながらルアラも心の中で言い誓う。
「悠はどんな言葉を心の中で言ったのだ?」
「私の誓いは、大切な人たちと出来る限りいつまでも、一緒にいたい・・・って。もちろん、ディートさんともですよ。・・・でもこれじゃあ、誓いというよりはお願いことですよね」
 ディートハルトに聞かれ、悠は苦笑いをして言う。
「あのー・・・その、ディートさんは?」
「私か?私は・・・秘密ということにしてはいけないか?」
「えーっ、どうしですか。私は教えたのに!」
「そ、そのうち言う!」
 気恥ずかしくなったのか、彼女には言わず心の中に隠した。