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リアクション
第7章 挑戦者の姿・2 環七東/21時頃
「空協ストア 環七東店」は、その名の通り、“環七“東部にあるスーパーマーケットだ。
店舗は“環七“に面し、大きな看板で周囲にアピールし、広い駐車場を構えて集客力も高い。
が、それは週末の各“暴走族(チーム)“が集まる場所でもある。
分かりやすくて、広くて、すぐに“環七“に入れるこのロケーションは、ツルんで走る仲間との待ち合わせにうってつけだったのだ。
今夜もそろそろ、様々な“暴走族(チーム)“が集まり、ちょっとした“合同集会“の体を為してきた。奇抜かつ暴力的な意匠が入り乱れたバイクやファッションが集い、異様な空気が満ちつつあるその中にあって尚、ひときわ異質な集まりがあった。
彼らが駐車場に乗り入れてきたのは、バイクではなく“自転車(チャリンコ)“。しかもドロップハンドル等のロードレース仕様ではなく、どこの自転車屋でも売っているような“ママチャリ“の数々だ。
──あれ見ろよ。“自転車(チャリ)“だぜ?
──おいおい。週末の“環七“を“サイクリング“するつもりか?
──“ギャグ“のセンスあるぜあいつら。
──“子供“はお家帰る時間でちゅよー。
向けられる揶揄や嘲笑の数々。だが、その“自転車(チャリンコ)“の一団は全く動じる気配がない。
一団の中では、“尋問“が行われていた。
「……で、その乗り物についての釈明を聞きましょうか、日比谷 皐月(ひびや・さつき)さん?」
そう訊ねるクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、口や眼は笑っていても、声があまり笑っていない。
「我々“銀輪騎士団(シルバーナイツ)“は、“自転車“での“環七一周“を目指す……そう申し上げていたはずですよね?」
「申し訳ないっ!」
皐月は、乗ってきた小型飛空艇アルバトロスの横で頭を下げた。
「ギリギリまで、どうしても確かめたい事があって……だから……」
「それは何ですか?」
「“ギター“だ」
皐月は手を振ると、その中にエレキギターの形をした光条兵器を出現させた。
「こいつはオレの相棒、オレの分身。オレはどうしても、“リバースVシェイプギター型光条兵器(こいつ)“で“環七“を走りたかったんだ!」
「その……失礼ですが、どうやって?」
「“ギター型光条兵器(こいつ)“を『サイコキネシス』で浮かし、オレは『ちぎのたくらみ』で体を小さくしてその上に載る! そして、やっぱり『サイコキネシス』を推力として“宙(ソラ)“を自由に“滑空(ハシ)“るのさ! その時、オレと“ギター型光条兵器(こいつ)“は“疾風(かぜ)“に……!」
「できるわけない、って、何度も止めたんです」
翌桧 卯月(あすなろ・うづき)はゲンナリした口調で口を挟んだ。
「で、さっさと自転車調達して、クロセルさん達に合流しようって……でも、諦めた時には、近所の自転車屋さんがもうみんな閉まっていて……」
「さすが皐月さん。見事な“傾奇“っぷりですな」
ルイ・フリード(るい・ふりーど)は含み笑いをした。
「光条兵器がギターというだけでも相当奇抜というのに、それを駆って“天翔け(ソラをかけ)“ようとは……私ごときでは思いつきません」
「皐月以外絶対誰も思いつきません」
「……ふむ。“光条兵器“の、しかもギターに乗ろうと粘った為に、自転車を準備できなかった……というわけですか」
クロセルは腕を組み、小首を傾げた。いざ他人に口に出されると、バカさ加減がつくづく思い知らされる――
「それなら仕方ありませんね」
(ちょっと待ってくださいそれはおかしいどこが仕方ないんですかってかそもそも自転車で“環七“を回ろうとする発想がしかもよりによってママチャリ縛りって一体何事)
クロセルの台詞に入れるツッコミが分からず、卯月は絶句した。
「……ですが、結束を乱した者には何らかのペナルティがなければ、“組織“としての示しがつきません」
(自転車での“環七“周る集団って、結束をどうこう言うような“組織“が必要なんでしょうか)
「皐月さんは乗機のアルバトロスをホバリングして下さい。それをフリードさんに牽引してもらうようにしましょう」
「了解しました。不肖フリード、大任確かに引き受けました」
「そして、アルバトロス上の皐月さんには“歌“ってもらいます」
「……“歌“?」
「そう……我々“銀輪騎士団(シルバーナイツ)“の“歌“です」
卯月は思い出した。
クロセルはやたらと顔が広い。
“自転車暴走族“なんていう自分の立ち上げた団体の為に手を回し、誰かに作詞作曲を頼んでテーマソングぐらいは作っていてもおかしくはない。
(どんな恥ずかしい歌詞になってるんだろう……)
最終確認。
クロセルは牽引用ロープで自分の自転車と、魔鎧 リトルスノー(まがい・りとるすのー)が乗る補助輪付自転車とを結び、結索を確かめた。
ルイ・フリードも同様に、自分の自転車と浮かんでいるアルバトロスとの結索を確かめる。
(問題なし)
ルイが親指を立てると、クロセルは頷き、自分の“自転車(マシン)“にまたがった。
「“銀輪騎士団(シルバーナイツ)“、“出っ発(デッパツ)“!」
アルバトロスに乗っている皐月は、大きく息を吸い込んだ。
(ここまで来たら、ジタバタしても仕方ありません)
魔鎧の姿で皐月に着装されている卯月は、覚悟を決める。
(せいぜい楽しませて貰いましょうか。電波ソングだろうと、ネタに走ったヒーローソングだろうと、こういう事にクロセルさんが上げる熱は大したものですから、以外と聞けるかも――)
「ぶぅおぉおおおおおおおおおん! ばっばっばっばっばっばっばっばっ
ぱらりらぱらりらぱらりらぱらりらぱらりらぱらりら!
ぼすっぼすっぼすっぼすっぼすっぼすっぼすっ
ふぁああああああああああああん」
(――ああ
今夜は満月ですねぇ――)
皐月の口からあふれ出した口真似効果音を、卯月は意図的に聴覚から遮断した。
駐輪場の暴走族達は、“環七“に乗り入れていく“銀輪騎士団(シルバーナイツ)“を揶揄交じりの歓声で送り出した。
「すげぇ……なんて“ロック“なヤツらなんだ」
「色々なヤツがいるもんだぜ」
「まさか、“自転車(チャリ)“で環七一周狙うなんてなぁ」
「“自転車(チャリ)“部門じゃぁ間違いなくあいつらが“環七一番“だろうぜ」
「“排気音(エキゾーストノート)“を口で鳴らすなんざ、誰もできやしねぇぜ」
「……つーか、“歌“まだ聞こえて来てねぇ?」
「あのまま“マジ“で“環七一周“ぶっこく気か?」
「……もしもし。俺だ。いいか、口で“排気音(エキゾーストノート)“と“クラクション(パッパラ)“鳴らしている“自転車(チャリ)“見つけても、手ェ出すんじゃねぇぞ? “嘲える“からな。
……そうだ、ヤツらは“口“で鳴らしてるんだ……うるせぇ、俺だって自分で言ってて少しアホらしいんだ! 文句言ってると“躾(シメ)“るぞオラァ!」
駐輪場に残り、仲間との合流を沫“暴走族(チーム)“達は口々に感想を言い合った。
「まぁ、あれより色モノなヤツなんざそうそういねぇだろうけどよぅ」
「……いや、そうでもねぇぜ?」
暴走族のひとりが、唖然とした顔で“環七“を指さした。
「何だよ、あいつらよりもイカれてる連中なんざそうそう……」
──!?
指さされる先に凝る闇。
満月と街灯に照らされて、浮かび上がるは“冥府(やみ)“の“葬列(れつ)“。
ゾンビ馬に乗ったエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が、闇よりもなお黒き異形の魔鎧ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)を着装し、従者のゾンビを引き連れて駐車場の前を通り過ぎていった。
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