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リアクション
第四章 もみの木の下で
「雪が少し強くなって来た、中に入ろう」
子供達が菜織に促され『ホーム』に戻ったのは、捜索隊が出発して直ぐの事だった。
「でも、ルルナちゃんはこんな寒い中にいるんでしょ?」
「うむ、ルルナを心配するその気持ちは大切だよ。だから、先生達が頑張っているんだ。みんなに笑って欲しいから」
頬を腫らした少年と目線を合わせた菜織。
「君達は、そんな人達を笑顔にする為にクリスマスパーティの準備をしなくちゃいけないんじゃないかな?」
自分を信じる時、誰かを信じる時、不安を乗り越える時と同じ強さが必要だから。
優しく諭され抱きしめられた少年は、じっと考えてからコクンと頷き。
それから子供達はクリスマスパーティーの準備を再開した、のだが。
「子供達、元気ないよね。うん、一緒にクリスマスパーティの準備しよ。羽純くんも手伝ってね!」
遠野 歌菜(とおの・かな)に言われ、月崎 羽純(つきざき・はすみ)は苦笑交じりに頷いた。
子供達を励ましたい歌菜の気持ちが分かるから、異論はなかった。
「それに万が一、他の子供たちがルルナの後を追ったら危険だしな」
「……外、真っ白だね」
「あの子帰ってこないね」
窓の外の白い闇を見つめる子供たち、パーティの準備の手も止まりがちである。
「大丈夫、大丈夫、ルルナたちはすぐに戻ってくるよ」
そんな子供達にカラリと明るい声を掛けたのは、三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)だった。
「お姉ちゃんのお友達が助けに行ったんだから、もうあっという間だよ」
脳裏に浮かぶ、信頼する友達の顔。
彼らなら絶対大丈夫、そう信じられるから自然と笑みが浮かぶ。
「そうですよ、皆。ルルナちゃんが帰ってきたらパーティーを始めますからね、頑張りましょう」
「「「はぁ〜い」」」
歌菜達に頭を下げのミルカ先生に、声をそろえる子供達。
「じゃあ一緒にツリーを飾りつける人!」
「じゃあこれを付けて……可愛くしようね♪」
新川 涼(しんかわ・りょう)とユア・トリーティア(ゆあ・とりーてぃあ)はツリー飾りを子供達に手渡した。
「キレイに飾って、ルルナをビックリさせちゃおうね!」
ニコニコするユアに、ふと守護天使の女の子の手が止まった。
「でもあの子……何か怖い」
ポツリと落ちた小さな呟きは、けれど不思議と耳に届いた。
「アレはな、魔力が強すぎるのじゃ」
足元の声に、涼が見下ろした少女の瞳は老獪な光を湛えていた。
「しかもダダ漏れじゃ。普通、無意識にある程度の制御は出来るはずじゃが……あれでは魔力に敏感な者らは側に寄れぬよ」
「それは制御を覚えれば、他の子達とも上手くやれるという事ですか?」
「覚えられれば、の。アレは体質じゃで、難しいじゃろう……まぁ感情の制御が出来るようになれば多少はマシじゃろうが」
不安定に魔力を撒き散らすのでハタ迷惑だ、と告げる魔女の少女(?)。
「感情の制御……精神的に落ち着けば、って事ですか」
「ん〜…………、うん、そうだ!」
涼の呟きに暫し考え込んでいたユアは、パッと顔を輝かせると「はいは〜い!」と皆の気を引いた。
「あのね皆、ちょっと提案があるのだけど……」
……。
……。
……。
「うん、それはいいわね」
歌菜が顔を輝かせると、他の子供達も段々と乗り気になってきたようだ。
「ルルナちゃんが準備に参加できなくて残念がるくらい、綺麗に飾りつけようね」
そんな雰囲気を敏感に感じ取り、歌菜は楽しそうに笑い。
「うぅっ、みんな何て健気なのでしょう」
姫宮 みこと(ひめみや・みこと)はそっと目頭を押さえた。
「せめで一日、今日だけでも幸せな思い出をあげたいです」
親の愛を家族の温もりを知らず、それでも必死に生きている子供達の為に。
「じゃあ皆、この折り紙を使って部屋を飾りつけてしまいましょう」
準備そのものも楽しんで欲しい、みことは子供達の前に色とりどりの折り紙を広げた。
「うぁ、失敗した」
「ううん、これはこれでカワイイと思いますよ」
切って貼って作る、お星さまやトナカイ、サンタさんに鈴や鎖飾り。
多少ヨレててもヘタっぴでも、それはそれで味がある。
「これなんてすごく上手ですよ」
「本当に?」
「ボクもお姉ちゃんみたいにキレイに作れるかな……?」
「はい、よければ教えますよ…………そうですか、やはりお姉ちゃんですか」
やはりそう認識されるのか、ちょびっとホロリとしながら、みことは子供達と共に飾り付けに勤しむのであった。
「じゃあ飾り付けは任せていいか?」
「うんっ!」
大きく頷いた子供に目を細め、御剣 紫音(みつるぎ・しおん)とパートナーである綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)、アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)、アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)が向かったのは、『ホーム』のキッチンだった。
「ケーキはブッシュ・ド・ノエルと、子供が喜びそうなトナカイのキャラのチョコレートケーキを作ろう」
「それはきっと、お子らも喜びはりますな」
まだ真新しいキッチンで腕まくりした紫音と風花に、ミルカ先生とベアトリーチェも手伝いを申し出た。
「ルルナちゃんを探して下さっている方々の分も、ですね」
「あぁ、クリスマスチキンや、寒い外から帰ってくる人たちのために温かいスープを作っておくかな」
スープはみんなが選べるようにトマトと豆乳のスープとパンプキンスープとコーンポタージュとコンソメスープ。
「小さな子が喜ぶようなクッキーやゼリーも作らなくては」
「私は七面鳥の丸焼きとシュトーレン(ドイツのクリスマスケーキである)を予定しているのですが」
どちらも作るのはそれほど難しくないが、とはいえココにいる六人だけでは些か心もとなかった。
眼鏡越し、紫音を見つめると同じ事を考えているのが分かった。
「……うん、簡単な下ごしらえなんかは子供達に手伝ってもらおう。そういうのに興味がある子もいるだろうし」
「はい、私もそう思います」
「成る程、それは考えませんでした」
目からウロコな新米先生の肩を一つ叩いてやりながら、紫音は子供達を誘ったのだった。
「うん、子供達楽しそう」
のぞみは安堵しながら、窓の外へと視線を向け。
「こんなびっくりする出来事がおきちゃったけど、みんなで素敵なクリスマスを過ごせますように……」
また勢いを増した雪に、のぞみはそう祈らずにはいられなかった。
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