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第二章 諸人こぞりて
「まだ子供っつっても、女の子のピンチとあっちゃあ黙っていられねえぜ! ちゃっちゃと探してつれて帰るぜ!」
「え、ちょ、ちょっと周くん!?」
 元気よく飛び出して行った鈴木 周(すずき・しゅう)に、レミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)は思わず溜め息を吐いてしまった。
「走っていっちゃった……あたしはコートとか着てきたからまだいいけど、周くん完全にいつもの格好なんじゃ……はぁ、追いかけないとダメだよね」
 周と出会ってからこっち、世話焼きスキルがぐんぐんと確実に上がっているのを実感しつつ、レミは上着を手にその後を追うのだった。
「はい、周くん。ちなみに見つけてもナンパとかダメだからね!」
「いや、さすがの俺もルルナくらい子供だと守備範囲外だけど、将来どんなナイスバディーになるかもしれねーし」
 一応念を押したレミは周の言葉の後半部に反射的に拳を握りしめ。
「だいたい、子供ってのは元気に笑ってなきゃいけねぇよな」
 だけど、続けられた言葉にやはりはぁ、と溜め息をついた。
 ナチュラルにこんな事を言えてしまう周は、やはりカッコいいのである。
 それを素直に認めるには、問題発言が多すぎるのだけれども。
「あーもー、世話焼けるんだから! 二重遭難とかしちゃダメなんだからねー!?」
 レミは上着を押しつけながら、心配を隠すようにちょっと声を荒げて言い含めた。
「私もルルナを探してくる……ベアトリーチェ」
「はい、いってらっしゃい」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)もまたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)に見送られ、ルルナ探索に向かった。
「俺はな、フィー、働いたら負けかなと思ってる」
「……」
 唐突な上條 優夏(かみじょう・ゆうか)の言葉に、フィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)は無言でパートナーを見やった。
 確かに優夏はあまり活動的ではない自称・ダメ人間である。
 それがこうして積極的(優夏基準☆)に雪の中出ているのは、確かに珍しい。
「なので、応援や。俺はやる気満々の陽達を、後ろから応援するで」
 微妙に後ろ向きなんだが前向きなんだか分からない決意に、フィリーネは気付かれぬようそっと笑みをもらした。
 それでも帰る気はない、一人の寂しさを知っている優夏を見つめて。
「私はホームにて子供達を守ろう。不安なままでは子供達にも伝播しようし」
 周やヴァル達に請け負い送りだしたのは、綺雲 菜織(あやくも・なおり)とパートナーたる有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)だった。
 入れ違いに『ホーム』にやってきた菜織と美幸は、事情を聞きに来た者達に説明したり見送ったり。
 その中で菜織が気になったのは、クロードの悄然とした姿だった。
「それでクロードはどうするのだ?」
「僕は……」
 菜織に尋ねられ、クロードは口ごもった。
 動機はどうあれ、この事態を招いたのが自分だと彼自身悔いている、と案じた菜織は。
「君にしか出来ない事をすれば良いと思うよ」
 そう笑顔で、励ました。
「……僕も行きます、連れて行って下さい」
 足手まといになるかもしれませんが、続けたクロードに答えたのは本郷 翔(ほんごう・かける)だった。
「ならば私がクロード様をお連れしましょう」


「家族のためにケーキ買ってたら遅くなっちまったな」
 夕暮れ時。
 家路を急いでいた鬼崎 洋兵(きざき・ようへい)が足を止めたのは、見慣れた制服姿を見かけたからだった。
 保護している鬼崎朔と同じ蒼空学園の生徒が切羽詰まった表情をしているのを、見過ごす事は出来なかった。
「どうかしたのか、随分と慌ててるみたいだけど」
「うん、女の子が一人行方不明になっちゃってるの。で、この変な天気とも関わりがあるっぽくて心配で……」
「……って、何? 女の子が遭難? よし、おじさんも手伝うぜ」
 美羽から事情を聞いた洋兵は躊躇なく、請け負った。
 家族は待っているだろう。
 それでも今、この寒さの中で独り震えている少女を放っておく事は出来なかった。
「まったく……クリスマスは恋人と一緒に過ごす日だなんて決めたのは何処のどいつだよ。街中はどこもかしこもカップルだらけ。キリストも雲の上で『リア充爆発しろ』って悪態ついてるだろうよ」
 イチャイチャうふふ☆、なカップル達を剣呑な目で眺めていた比賀 一(ひが・はじめ)は、自分の隣を見て盛大に溜め息を吐いた。
「一方その頃、一君はムサいヒゲ天使と買い出しに出かけているのでした。何これ、格差社会かよ」
「けっ、悪かったな 相手がムサいおっさんでよ」
 答えたのはムサいヒゲ天使ことハーヴェイン・アウグスト(はーべいん・あうぐすと)だ。
 とはいえ、ハーヴェインも言われっぱなしではない。
「悔しいんなら彼女の一つでも作ればいいものを……無理な話か。女性とはロクに話したこともない。そのうえ甲斐性無し」
 わざとらしく肩をすくめてみせるハーヴェイン。
 さすがはパートナーだけあって、一の事はよく知っている。
 一が女性と手をつないだ事すらない事を。
 顔面を踏みつけられたことはあるが……それは普通、女性経験とは言わないしね☆
「こんな奴に彼女が出来るなんざ十数年早いってこったな」
 と、爽やかな笑顔を浮かべたハーヴェインの顔が次の瞬間、引きつった。
 そう、ピタリと銃口をこちらに向けた一を目にして。
「……オーケー一、落ち着こう。先ずはその銃を下ろすんだ。まぁ待て! 話せばわか……ギャーッ」
 聖夜に響く野太い悲鳴。
 そんな酷く殺伐とした気分の一がルルナ捜索隊と出会ったのは幸運なのかどうか。
「つまり、その機械をぶッ壊せばいいんだよな?」
 話を聞いた一は「ちょうどいいや」と物騒な笑みを浮かべた。
「カップルに爆弾投げ込むわけにもいかねぇし」
 そんな呟きは、吹雪にかき消されたのだけれども。
「事情は判った。そのルルナという子を探さなければならないこと。そしてこの吹雪を止めなければならないということ、だな」
 対照的に、ごく真面目に確認したのは、レン・オズワルド(れん・おずわるど)だ。
 レンと共にパーティーの買い出しに街に来ていたノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)は、パートナーに当たり前のように首肯すると。
「行きましょう」
 助けたいと思うから助けに行く……シンプルでだからこそ揺るぎないレンの思いに応えるべく、アイスプロテクトを唱えたのだった。
「この先……吹雪の中じゃどんなに大きな声を上げても、きっと吹雪に掻き消されちゃいます。ルルナさんを探し出す為にも雪精霊の暴走を食い止めなきゃいけません」
 ノアはキュッと唇を引き結ぶと、願いを込めて呟いた。
「そしてルルナさんに一刻も早く教えてあげたいです。彼女の住む世界にはまだまだ救いがあるということを。気が付けばそこに幸せがあることを……」

「手は多い方が良いですから」
 同じく事情を聞いた沢渡 真言(さわたり・まこと)もまた、協力を申し出た。
 ケーキ売りのアルバイトの帰宅途中だったが、疲れたとか言ってられなかった。
「遭難しているのであれば危険です。はやく先生の元に返してあげなければ……それに、一人は寂しいから」
 それがこんな夜ならば尚更に、真言は決意を込めて顔を上げた。
「どこにも居場所がないっていうのは、辛いよね」
 吐く息の冷たさにドキリとしつつ、皆川 陽(みなかわ・よう)はルルナという少女に思いを馳せた。
 それは寄って立つ所が、心安らかに居られる場所が、どこにもないという事だ。
 それはどんなに心細いだろう……そう、自分と同じように。
「ん? 何か言ったか?」
「ううん、別に……」
 気弱な笑みを浮かべた陽に、テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)は何かを考え込んでから、ポンと手を打ち。
「あぁそっかそっか、悪い気付かなかった」
 アイスプロテクトを掛けた後、タワーシールドを掲げ陽の前に立った。
「そうだよな、寒いよな。大丈夫、ヨメを守るは男の甲斐性だ。俺、超☆頑張る!」
「て、テディ……?」
 何やら勘違いしたらしいテディの、決意に満ちた背中。
 それでも、吹雪から陽を守ろうとするその背中は頼もしげに、温かく見えた。
「ルルナちゃんをさがそう。6歳くらいて……自我も発達してきて難しいよな。自分で自分をどうしようもなかったりもするだろうし、そこまでホームの大人の目も行きとどかんやろし」
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)がついた溜め息は真っ白だった。
 というか、大人がどうみてもペーペーなミルカ先生だけという時点で、かなり無理がある、と泰輔は思うわけだが。
「仕方ないですよ、といっても子供達にはそういう大人の事情は関係ないですけど」
 レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)の憂いを帯びた瞳に、泰輔は「まぁ、な」ともう一つ溜め息を吐く。
 真新しい『ホーム』はけれど、建てられてから暫く放置されていたという。
 ツァンダ家と蒼空学園前理事長の(ポケットマネーな)共同出資で作られた『ホーム』。
 しかし、御神楽環菜の死と、ツァンダ家当主の娘ミルザム・ツァンダの地球行き等により、引き継ぎが上手くいかず……『ホーム』も子供達も暫く宙に浮いていた、らしい。
「受け入れられる場所に中々迎えられなかった子供達は、さぞかし不安だったでしょうね」
「色々な孤児院でも持て余されていたであろうし、な」
 『ホーム』の子供達を思い出し、フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)は眉根を寄せた。
 幼い守護天使、動かない機晶姫、ミニマムなドラゴニュート、ちびっこい獣人、どういう経緯で身を寄せる事になったのか判別はしないものの、ツァンダなどの街では生きにくいだろう事は、想像に難くなかった。
「せやな。けどだからこそ、ルルナちゃんを『ホーム』に帰してやらな、あかん」
「はい……ケンカした友達ともちゃんと仲直りさせてあげたいですね」
 泰輔はレイチェルに一つ笑むと、ブルリと身体を震わせた。
「寒なってきたな。あんまり寒さがひどくならんうちに、ルルナちゃんを探し出さんと、な」
「とにかく、機械装置の設置場所を目指して進む。途中、子供達の隠れそうな所をツブしていく……これが基本方針だな」
 そして、泰輔らと森へと向かいながら夜月 鴉(やづき・からす)アグリ・アイフェス(あぐり・あいふぇす)や他の面々に声を上げた。
「超感覚やアグリのセンサー……使えるものは使うとして、ルルナが見つかったら合図するって事でいいか?」
 反論はない。
 二次遭難を防ぐ為にも、互いの位置を把握し連絡を取り合う事も必要となるだろう。
「だからさ、アグリ……焦って先走るなよ」
「っ!? 別にワタシは焦ってなどいません!」
「そっか? 何かそんな気がしたんだが……まぁいつも通りならそれでいい」
 鴉は軽さを装い、真剣すぎるアグリの頭にポンと手をおいたのだった。