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新春ペットレース

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新春ペットレース

リアクション

 
 

開会

 
 
「さあ、再びペットたちの競演がやって参りました」
 シャンバラ宮殿前の公園広場に作られた大会本部の放送ブースで、シャレード・ムーンが目の前のマイクにむかってしゃべった。
「今回もイルミンスール魔法学校のエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)校長協賛の下で行われます。コースは、空京神社をスタートし、緩やかな下り坂である参道を走り抜け、その後、空京銀座商店街のメインストリートを走り抜け、ここ、シャンバラ宮殿前公園広場がゴールとなります」
 シャレード・ムーンの説明で、公園広場に作られた巨大モニタにコースのマップが映し出された。
「飼い主の皆さんは、ゴールにて縛られて人質となっており、ペットのゴールと共に開放されます。なお、日没までにペットがゴールできない場合は、お正月名物、顔に墨の悪戯書きという罰ゲームが待っています。さあ、じきにスタートです。今しばらくお待ちください」
 アナウンスが終わると、シャレード・ムーンの所にスタッフが集まってきた。
「それじゃ、大谷さんは神戸さんの飛空艇で先頭グループのレポート、最終グループはレテリアさん担当でお願いね」
 シャレード・ムーンが、バイトの大谷文美神戸紗千レテリア・エクスシアイ(れてりあ・えくすしあい)に言い渡す。
「それから、中央グループの撮影はメイベルさんたちに許可しますから、適当に絵を送ってちょうだい。会場の警備は、緋桜さんにお願いするわね」
「分かった。ペットたちの安全は任せておけ」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)が明言する。
 今回は都心のレースなので、前回のような森の中とは違った危険があるだろう。
「邪魔にならないように走りますですぅ」
 中継も行うということで、ペットの関係者外であるにもかかわらずコース内の飛空艇の走行を許可されたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がお礼を言った。セシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)ヘリシャ・ヴォルテール(へりしゃ・う゛ぉるてーる)も同行して撮影にあたるようだ。
 
 
エントリー

 
 
「むう、また縛られるのはちょっとだけどねぇ。まあ、スライムがいないだけでもぉ……。あれっ? マティエ、どうかしたのぉ?」
 会場の椅子に縛られた曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)が、隣にいるマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)に訊ねた。
「墨……墨って、聞いてないですよお。墨だけは絶対に嫌なんです。だって、落ちないんですよお」
 白猫の着ぐるみのおっきな頭をふるふるさせて、マティエ・エニュールが叫んだ。
「ああ、そうだねぇ。その着ぐるみって、素は布地だったよねえ。負けたら、黒猫かなぁ」
「だから、それは嫌なんですって! 白はステイタスなんですから。うぅぅぅ……お願い、ミーシャ、頑張ってー!」
 ジタバタと暴れながら、マティエ・エニュールが半べそで叫んだ。
 
    ★    ★    ★
 
「よし、ちゃんと冷えたな。頑張るんだぞ」
 七尾 蒼也(ななお・そうや)が、ミニ雪だるまのダイヤを氷術で冷やしてやって言った。念のため、禁猟区もかけてやる。
「くぁー」
 ダイヤの隣で、パラミタペンギンのはやぶさが元気に鳴き声をあげる。
「はやぶさも元気そうですね」
 カナンから一時的に戻っていたジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)が、腕に毒蛇のリヨンを巻きつけ、頭にティーカップパンダのシンシアを乗せながら言った。
「はやぶさは、ダイヤと一緒に育ったから、仲良く一緒に走ってくれるさ」
 七尾蒼也が、ジーナ・ユキノシタに言った。はやぶさは、彼が彼女にプレゼントしたペットだ。
「ちゃんと完走できるといいですね」
 そう言うと、ジーナ・ユキノシタは七尾蒼也の隣の席に腰をおろした。
 
    ★    ★    ★
 
「おっしゃー!! 今度こそテメーらちゃんとゴールへむかえよ!!」
「……」
 気合いを入れるウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)であるが、相変わらずグレアム、ジョン、エリックのレイストリオは我が道をいくでフリーダムである。
「ふうっ」
 思わず、ウィルネスト・アーカイヴスが溜め息をつく。
「まあまあ、気にしちゃだめだよ」
 慰めるように、シルヴィット・ソレスター(しるう゛ぃっと・それすたー)が、ポンポンとウィルネスト・アーカイヴスの肩を叩いた。
「そうそう。主役はあくまでもウィルなんだから」
 ルナール・フラーム(るなーる・ふらーむ)が、ウィルネスト・アーカイヴスの着ているアイドルコスチュームのスカートの裾をぴらっとめくって言う。本人が目立って活躍できないのであれば、見た目で華をとれというわけで、パートナー三人がよってたかってウィルネスト・アーカイヴスを女装させたのだ。本人の性格と心情はさておいて、ウィルネスト・アーカイヴスの見た目は意外とかわいい。さらに、こうしてコスチュームでごまかしてしまうと、無意味に女装がひったりとはまってしまうところが悲しくもあり嬉しくもあり……。
「人が動けないと思って、貴様ら……」
 早々と椅子に縛りつけられていたウィルネスト・アーカイヴスが、ジタバタと暴れて叫んだ。そんなことをすると、よけい囚われの少女に見えて、パートナーたちのちょっと斜め上の好奇心をそそってしまう。
「似合うからいいのであります」
「俺は嬉しくなんかない」
 真顔で、ウィルネスト・アーカイヴスがルナール・フラームに言い返した。
「ところで、ミーツェさんは、お腹が空いたよ」
 周りの空気を読まないで、ミーツェ・ヴァイトリング(みーつぇ・う゛ぁいとりんぐ)が唐突に主張した。
 呑気なものだと、レイストリオがケタケタ笑う。
「お腹がすいたので、このペット、食べていいです? 三匹いるし、一匹減ってもきっと大丈夫ですー」
 のほほんと怖いことを言われて、レイストリオがカタカタと身を震わせた。
「食べてもいいが、お腹壊すぞ。とりあえず、ゴールするまでは待てな。お前たちも、ミーツェに食われたくなかったら、必死で走れよ」
 にたあっと笑いながら、ウィルネスト・アーカイヴスが言った。
「さーて、ウィルのために頑張って妨害していくのですよー! というわけなのでミーちゃん、ルナちゃん、準備をするのです!」
 シルヴィット・ソレスターが二人をうながすと、罠を仕掛けにでかけていった。
「レイちゃん、ゴーちゃんを失った怒りで、伝説のスーパーアンデッドに覚醒したあなたなら、もう死角はないわ。ゴーちゃんの分まで、存分に走ってくるのよ!」
「!!!!!!!」
 『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)の言葉に、レイスのレイちゃんが全身から黒いオーラを噴き上げて応えた。
 ちらんと、『空中庭園』ソラが、レイストリオの方を横目で見る。
 件のレイストリオの方は、レイちゃんを一瞥すると輪を組んでひそひそと相談し始めた。
「おお、ライバルを見つけて、やっとやる気になったか」
 ウィルネスト・アーカイヴスが、嬉しそうに言った。その唇には、うっすらとパールピンクのルージュがシルヴィット・ソレスターによってひかれていた。
 だが、そんなウィルネスト・アーカイヴスの期待もなんのその、レイストリオは麻雀卓を用意すると、レイちゃんをしきりに手招きしていた。どうやら、足りない面子がいたと思って喜んでいたらしい。
「貴様ら〜!!」
 ウィルネスト・アーカイヴスの怒声は、むなしくレイストリオの頭の上を通りすぎていった。