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奪われた妖刀!

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奪われた妖刀!

リアクション

 ――左舷バリスタ――

「私はね、輝夜さん、女性と素敵な夜間飛行ができると聞いて依頼を受けたんです」
「こ、このぉぉぉ!」
 空に出た遊撃隊を数で潜り抜けてきた空賊達は、旗艦であるクロカス家の大型飛空挺を狙ってきた。
いくら空賊を殲滅しても、帰る家を失っては元も子もないと、緋王 輝夜(ひおう・かぐや)は即座に飛空挺に供えられたバリスタに向かい、引き金を取った。
「オープンデッキで優雅にお茶を愉しみ、素敵な星達ですねと口説く、ええ、それはもう最高のシチュエーションです」
「女のあたしにはこの引き金は重いんだよ! 何で火砲じゃないんだ!」
 文句を言いながらも輝夜は引き金を引く。
 ――ダァァン!
 バリスタで1機の小型飛空挺を打ち抜いた。
「よし! まずは1機……ッ! ちょっと可哀そうな気もするけど、仕方ないよね!」
「それが、目ぼしい子を探しているうちに襲撃ですか。がっか――」
「ダァァァ!」
 ごちゃごちゃうるさい、とパートナーであるエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)に回し蹴りをした。
「あたた……輝夜さん、痛いです」
「ちゃんと仕事しろ!」
「モチベーションが駄々下がりです」
「う、ぬ……あ、あああ! エッツェルの敵、三道六黒だぁぁぁ!」
 輝夜は外を指差し、敵対している者の名を上げた。
 が……、
「スルーで」
「あああああっ、もうぉぉぉぉ!」
 何て役に立たないんだと、輝夜は地団駄を踏んで憤る。
「あ……」
「せっかくの依頼なんだよ! 張り切らないとさあああ!」
「輝夜さん、そっちそっち、きますよ」
「三道六黒がいるなんて嘘だよ!」
 違う、と否定している暇はなさそうだった。
 エッツェルは輝夜に覆いかぶさるように抱きついた。
 直後、爆音と炸裂した飛空挺の破片が2人を襲った。
 バリスタがあった部分は大きな穴が空き、そこには藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が、乗ってきた飛空挺を非物質化して髪を払った。
「これはこれは……美しい方ですね」
 エッツェルは埃を払いながら立ち上がり、優梨子を見た。
「あら」
 優梨子は満更でもないと言った顔で、エッツェルに応えた。
「なら、踊っていただけます? ダンスの最後に貴方の首を頂戴できれば幸いです」
「ええ、ええ、もちろんです」
「な……何がもちろんだよ!」
 輝夜は反動をつけて起き上がると、一気に間合いを詰めてフラワシでもって切り裂こうとした。
「うふふ」
 優梨子が剣で突きを繰り出そうとするのがわかり、輝夜は反応した。
 が、それはフェイントである。
 本命は組み付いてからの吸精幻夜だとわかったのは、既に肩口を掴まれ、優梨子が歯を向けた段だった。
 輝夜は腰を落とし踏ん張り、身体を弾けさせるようにして掴まれた肩から手を離した。
 だが、すぐさま蹴りで突き飛ばされ距離を開けられると、カクタリズムで瓦礫をぶつけてくる優梨子の前に防御で手一杯になり、そのまま艦内に逃げ込まれてしまった。
「追わないと……ッ!」
「私は歓迎ですけど」
 エッツェルはそう言いながら、ぽっかりと穴の空いた場所を指差した。
 その先の空には、こちらを窺うような空賊達が見えた。
 ここを離れればどうなるかは、火を見るより明らかだった。
「今度はちゃんと仕事しろ!」
 その言葉にエッツェルは鼻で笑い、輝夜と共に構えた。

 ――コントロールブリッジ前――

「――ッ!? 鉄心……ッ」
 イコナはディテクトエビルで突如感じた感覚に身体を硬直させると、鉄心の袖を引いた。
「……どっちだ……ッ!?」

 ――重要区画・通路――

「もしもし、どんな御用ですか?」
 姿を隠し歩哨に当たっていたティーが声をかけると、
「探し物です。それとも、収集でしょうか?」
 しかし、正当な理由のようだが、ティーは嘘感知で引っ掛かりを覚えると、殺気看破も使って把握に努めた。
 瞬時、ティーがスタンスタッフを構えると、優梨子は唾を返し、一気に遠ざかる。
「大変です! 鉄心に連絡を……ッ!」
 一気に逮捕術で取り押さえられなかったことを悔やんでいる場合ではない。
 ティーは鉄心の元に急いだ。

 ――艇内・通路――

「行きはよいよい、帰りは怖いってか」
 エンジンルームを見回ったのはいいが、帰り道で迷子になってしまったソーマは、頭をガシガシと掻いて艇内を見回した。
「まあ、また美人を探してたってことで……ん……」
 そのソーマの目の前に美人がT字路の横から現れた。
「お聞きしたいのですが、そっちに動力があるのかしら?」
「……あんた、さっきいなかったよな……。それに、美人なのはいいが、何だか鼻につくぜ。ちょっと詳しく聞かせてもらおうか?」
 何も望んでいた美人相手に吸血幻夜で事情聴取をしたいわけではない。
 ソーマの感覚が、嫌な予感を告げたのだ。
「その人は不審者だよッ! 空賊側かもッ!?」
「皆さん、手練れですね。もう殺気立って、勘付いて♪ うふふ♪ 早く止めませんと、人死にが増えたり船が落ちたりしちゃいますよー♪」
 バリスタを見回っている途中、異変を察知した北都が即座に駆けつけ、ヒプノシスで先制攻撃を仕掛けた。
 が、なんなく回避される。
「燃えちまいな、ファイア――ッ!」
「それは飛空挺が燃えるよぉ!?」
「チッ、俺に肉弾戦をしろってか!?」
 その一瞬の躊躇のうちに、ソーマは蹴り飛ばされた。
「船をめちゃくちゃにしたいのと、いろんな首が欲しいだけです」
 瞬時、優梨子は遠目から放たれた攻撃を紙一重で避け、その方向を見やった。
「そこまでだ……ッ!」
 魔道銃を構えた鉄心が駆けつけ、ティーとイコナも逃げ道を塞ぐようにさっと通路の壁沿いに回った。
「もっと皆さん血気盛んで、船は手薄だと思っていたのですが。私はこのまま捕虜ですか、処刑ですか?」
「逮捕です!」
 ティーがそう言うと、優梨子は盛大に溜息をついて、あからさまに残念そうな顔を向けた。
「残念です。首のコレクションを増やしたり、血をいっぱい吸いたかっただけですのに、うふふ」
 優梨子は光学迷彩で姿を眩ますと、飛空挺の壁を再び力づくで破壊して大穴を空けた。
「逃がすな……ッ!」
 鉄心が叫び、北都とソーマが空いた大穴から空を覗く。
「――ッ!」
 瞬時、大きく手を広げて降下する優梨子が見え、次の瞬間には散らばっていく破片が艦内に向かって高速で飛び込んできた。
「あら、これでもダメでしたか。うふふ、もう少し人が少なければ楽しめたのに、本当に残念です」
 物質化で再び飛空挺を出して、優梨子はそのまま飛び去って行った。

 ボルド空賊団に加担する契約者達が動き出した合図だった。