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奪われた妖刀!

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奪われた妖刀!

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★3章



 善がどうとか悪がどうとか、それはとても重要でありさして重要ではない。
 世界も、そして全ての物語も、相反するものが存在するからこそ在り続けるのだ。



「ボルド空賊団も結構やるって話だったが、やっぱ歴戦の学生相手じゃ分が悪ぃな」
 小型飛空艇ヘリファルテで戦場に出てきた国頭 武尊(くにがみ・たける)は、瞬殺ではないものの、さして粘れず落ちていく空賊達を見て率直な感想を漏らした。
 武尊は学校に張り出された依頼書を手土産に、ボルド空賊団に加担した1人だった。
 空賊というのは、パラ実にとって大事な就職先の1つであり、そこには希望も野心も満ち溢れている。
「武尊、尻尾を巻いて帰るか?」
 小型飛空艇オイレに搭乗するパートナーの猫井 又吉(ねこい・またきち)は、弱腰になっているのかと思い、ニヤリと口角を上げて言った。
「馬鹿言うな。ボルド空賊団を壊滅させるわけにはいかないんだ」
「計画はある程度成功させなければ、な」
「その通り。ふう……行くぜ!」
 ――ボフッ!
 大きく吹かして武尊が戦場のド真ん中で飛空挺を走らせた。
(大きな光……? それに……空賊達の動きが)
 火村 加夜(ひむら・かや)は宮殿用飛行翼で戦場に出て、しばらくの間空賊の動きを逐一観察していたが、先の閃光のあとに空賊の動きが変わったことに気付いた。
 少しずつ統制が取れているような、そんな感覚。
 慌てふためき、直観で愚直に進むような光の筋はなくなりつつあった。
(気になります。ボルドが前線に出てきたのでしょうか?)
 だとすればここで戦線に加わらなければ、手遅れになりかねない。
 加夜は翼で加速し、閃光が発した空間へと向かった。
「オラオラー!」
 武尊が空賊を援護すべく、煙幕ファンデーションや光術を使って視界を悪くしていた。
 だがそれは、敵味方分別なく巻き込むもので、援護とは到底思えなかったが、そこをパートナーの又吉が援護していた。
 迷彩塗装を施した又吉の飛空挺は誰に気付かれることなく、テクノコンピュータを用いて空賊達に敵位置の情報を的確に示していたのだ。
 加夜はその全てを知ることはなかったが、この煙幕の発生源であるのが武尊とわかると、行動予測と超感覚を駆使して、近づいた。
「ボルド空賊団の者ですか!?」
「いいや、違ぇ! 違ぇけど、空賊を潰されちゃたまらねぇ!」
「なら、敵……でいいですね!?」
 武尊がニヤリと笑みを浮かべたのを見て、加夜は敵とみなした。
「手加減はしません!」
 武尊と加夜の追いかけっこが始まった。
 小型飛空艇ヘリファルテと宮殿用飛行翼の直線距離の走行では、ヘリファルテの方が若干有利だった。
 その優位さを利用して武尊は同様に戦闘空間の視界を悪くし続けるのだが、今、自らを守るために効果があるとは言い難かった。
 それは加夜の飛行翼の方が急激な小回りに利くために、直接的な被害を与えるには、それなりに近距離にいなければいけない。
 有効な距離までスピードを落とせばいいだけなのだ。
 だが、魔道銃でうまく被害を拡大させないように武尊の進みたい方向を塞ぐように射撃で牽制していた。
 加夜は牽制しつつ、博識でじっとエンジン部の位置を頭に覚えさせ、機会を窺っていた。
 埒が明かない。
 武尊は意を決して、舵を切ろうとした。
「チィッ――!」
 右下へ降下しようとしたがあえなく牽制され、仕方なく大きな弧を描きながら左上方に上昇した。
「かかりましたね!」
 機、訪れる。
 加夜は風圧を堪えながら急上昇をかけ、武尊の真下を取ることに成功し、龍殺しの槍でエンジン部目掛けて一突きした。
 ――ガッ、ガガッ!
 だが、武尊も危機を察して飛空挺を揺らし、槍はエンジンを捉えることができず、飛空挺のボディを削るに留まった。
「仕留めきれませんでしたか!」
 しかし、次の機に仕留めればいい。
 加夜は自らの優位を確信し、再び追いかけっこを始めた。



「思いっきり殺り合いたいんだよ! それだけなのに……はあ……。ガッカリだね」
 レッサーワイバーンに乗る霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は拳の疾風突きでボコボコに顔が腫れ上がった空賊の胸倉を掴みながら、肩を落として言い放った。
「空賊ですか。己の野望のためならどんな非道なこともできる、そういうところは立派なことだと思いますが、所詮目立つだけの集団です」
 宮殿用飛行翼で飛ぶ緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は、保険のために空飛ぶ魔法をかけたパートナーにそう言った。
「空も妖刀も雑魚でもどうでも。人を殺せればなんでもいいのよ。ふふ、空賊共がどんな表情で死んでいくのか楽しみだわ〜」
 レッサーワイバーンに乗る月美 芽美(つきみ・めいみ)は槍で身体を一突きにされ、口から泡のように血を吹く空賊をまるでゴミのように空に放り投げ、落ちゆく様を見送った。
「でも戦うのなら命を懸けて、殺るか殺られるか。そうでないと面白くないからねえ」
 掴んだ胸倉をパっと離し、そのまま落ちていく空賊に一瞥もくれずに、透乃は言った。
 空賊では物足りない。
 そんな思いだった。
 ――ゴオオオッ!
 突如透乃を襲った火の玉を陽子が天のいかずちで打ち消した。
「……流れ弾にしては随分と正確だね」
 小さな火の粉が目の前を過り、透乃は流れた方向をゆっくりと振り向いた。
 その顔は、笑っていた。
「自由無法者同盟は、無法者達の組合、相互援助組織。正義の名の下にアウトロー狩りする学生契約者達に脅威を加え、空賊達の自由な空を守るため、参りました」
 ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は凜とした声で、杖を突きだしたまま言った。
「おまえは私が仲間だったらどうするよ? 仲間殺しは立派な罪に問われるけどね」
「ようゆぅよ。空賊を殺すゆっとったじゃないか」
 ガードルードのパートナーシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)は、証拠はあると言わんばかりに顎を突き出して言った。
「自由無法者同盟として、無法の同志を守ります」
「愉しくなりそうだねえ!」
 額に指を当てながら笑う透乃のその言葉で、一斉に5人は弾け飛んだ。
 透乃と芽美は一旦後ろへ大きく弧を描き引き、レッサーワイバーンを叩き、炎を吐かせた。
「ワイバーンの炎如きで私を倒せると思わないでください」
「見せちゃれ!」
 ガードルードはワイバーンの炎をファイアストームで堪え、その間にシルヴェスターが距離を詰めた。
「行かせません!」
 陽子はすかさずシルヴェスターの前に出て、凶刃の鎖を頭上で回した。
「おもろい……勝負じゃ!」
 陽子が投げた鎖を、シルヴェスターは疾風突きを幾度となく繰り出しそれを弾き、間合いを詰める。
「このまんま押し切るんじゃ」
「――ッ! ウィッカー!」
「あなた、このまま勝てると思ったんでしょ!? 残念ッ、私がいるのよ!」
 ガードルードは堪える炎の勢いが弱まったことで危機を察知して声を掛けたが、心配は無用だった。
 突き出された芽美の龍殺しの槍の先端とシルヴェスターの剣の切っ先がぶつかり合い、火花を散らし、そのまますれ違うように避けて見せた。
 2人をかわした。
 後は残る1人に攻撃を仕掛けに行って仕留め切れれば特攻は勝ちだ。
 だが、透乃は視線の先にいなかった。
「これは、殺しという正当防衛よねぇ!」
 ワイバーンを羽ばたかせガードルードと距離を詰め、軽身功の身軽さで一気に飛び降りる。
「その程度で私が怖れ慄くとでも……?」
 透乃の拳の疾風突きを杖で受け流すように受け止める。
 一撃も加えられず舌打ちした透乃は、そのまま下に潜り込んでくるワイバーンの背に飛び乗ろうとするが、それはガードルードにとって絶好の好機だった。
 その背に向かってファイアストームを再び放つが、陽子の天のいかづちにまたしても打ち消されてしまった。
「人数負けで少し分が悪いですね。ウィッカー、本気で行きましょう!」
「げにおもろい、おもろい!」
 2人が眼の色を変えたのを見て、相対する者達もまた、笑うのだった。