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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

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 竜造はギロンゾの部屋を出、鞘に収めたままの長ドスで首を叩きながら戦闘の音を聞いている。最近手に入れた魔装――アユナがどこまで使えるかも試してみたい。そのアユナは外套として竜造の体を守っている。新雪を思わせる純白の色をしているのに、漂う空気は揺らめき、禍々しく歪められる。どうせ契約者はここへ向かってくる。おそらく強い奴らが。だったらここで待っていて、攻めて来るやつを迎え撃つだけでも十分楽しめそうではある。腕試しなら相手もそれに相応しく強いもので無いと面白味が無い。蛮族などどうでも良いが、力試しついでにぶちのめしてやるのも良いだろう。義仲は別のことを考えているようだが、勝手にやらせておけばいい。自分の邪魔さえしなければ。
 竜造の想像通り、松岡 徹雄(まつおか・てつお)は依頼主を殺すことのみを考えていた。こちら側からすれば一番の敵は依頼主だ。依頼はフェンリルの名を語っていたが。
――その積み荷と姉妹を奪われた「少年」とやらが真の依頼主だろうねえ。
 徹雄はそう睨んでいる。だったら狙うのはただ一人、その少年だ。
「徹雄、戻るぞ」
 何を言っているのかと竜造を見やれば、階下に奇妙な物でも見付けたような視線を向けている。同意も求めず、きびすを返し首領の部屋へ戻ってしまった。
「おい」
「あ? まだ商談中だ」
「なになに、面白いことでもあった?」
 右天が目をきらめかせて身を乗り出してきた。

 階段下の踊り場で、フェンリルの前に立ちはだかる影があった。
「待ってたぜ〜子犬ちゃ〜ん」
 フェンリルはその声だけで胃がキリキリと締め付けられる気がした。痛む胃を押さえ、見慣れた顔にうんざりと顔を背ける。まるで見なかった事にしたいと言わんばかりだ。
「ふっざけんな! 何だその顔はぁ!!」
「なになに、ランディってばアイツに子犬ちゃんって呼ばれてるの?」
「理子っち……」
 ツボに入ったらしい理子が「子犬のランディとか!」と一人で腹を抱えている。追い討ちを掛けられフェンリルは肩を落とした。
「んん〜……?」
 ゲドーは眉をしかめて、そんな理子を検分するようにつま先から頭まで視線を走らせた。そして何かひらめいたらしくカッと目を見開く。
「まさか! テメーは! ひょっとして! もしかして!」
 代王だと気付かれたか。意外と鋭い奴だったのか。ぴたりと笑いを止め、理子とフェンリルは次に来る言葉に固唾を呑んだ。
「“理子っち”なんて親しげに呼びやがって……さては子犬ちゃんの彼女だな!」
「あ、ああ、そっちね……」
「ゲドーにある意味、一瞬の期待をしてしまった……」
 思い思い呟き、勝手な勘違のお陰で理子とフェンリルは胸を撫で下ろした。「リア充が! 爆発しろ!」と喚きたてるゲドーを眺めていた理子がおもむろにフェンリルに肩を寄せる。どうかしたのだろうか。すると理子はフェンリルにくっつき、その腕に自分の腕を絡めた。
「なっ!?」
「りっ理子…さ……!?」
 目を白黒させたのはゲドーと、フェンリルと、もう一名。酒杜 陽一(さかもり・よういち)が2人の間を割くため突撃しようとするも、酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)に羽交い絞めにされていた。
「離せ美由子! 俺にはやらなくっちゃいけないことがあるんだあああ許すまじランディイィイイィイィ!!」
「お兄ちゃんのバカバカ! あんな枯れた女のどこが良いのようううううう! ここにピチピチな2歳の女の子がいるじゃないのよううう! ぶげらっ!?」
「いい加減にせんか……陽一も少し落ち着け」
 わめく美由子へフリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)は雷術を落とした。
「だって、だって! お兄ちゃんってば私とのフラグに気づかないどころかばきばき折りまくって、あの、あの女なんかに……こ、こく、こくは……キーッ! あの女狐めーッ!」
「ええい静かにしろ! もう一発食らいたいのか!」
「だってだってだってええええ!」
 落雷の音が今一度、砦内を震動を襲った。しかし、兄妹達のそんなやりとりもゲドーには一切聞こえていない。
「てめえ……この野郎、子犬ちゃんのくせに見せ付けやがって……」
 ゆらりと立ち上がったゲドーから黒い妖気が漂い始める。召喚されたアンデッドだ。
「子犬ちゃん、俺様なあ、お前の名前を見たときから楽しみで楽しみで仕方なかったんだ……今日という今日は正月とタシガン空峡でのカリを返してやるぜぇ…蛮族も人質も積み荷も俺様にはど〜でも良いんだ……何でってなあ、俺様は、この世で一番子犬ちゃんの事が大っ嫌いなんだよぉ!」
 フェンリルを指差し、ゲドーは積年の一方的な恨みを込めて叫んだ。今日こそぎったんぎったんにしてやる!と息をまくゲドーに思わず理子はつぶやく。
「なんか……熱烈ね」
「火に油を注いだ自覚を少しは持ってください」
 フェンリルはげんなりと額を押さえる。このままのらりくらり交わすのは時間の無駄だ。避けられないと悟り、フェンリルが一歩ふみだす。
「先に行ってくれ」
 言い合いをしているうちに、ライルの姉妹に何があるか分からない。素直に行かせてくれれば、の話ではあるが。ちらりとゲドーへ視線を向ける。
「助けに行きたきゃ勝手にいけば〜あ? さっきも言っただろーが。俺様には関係ねえからな。テメーらも蛮族共も勝手につぶしあって共倒れになれって話だ。だがな、子犬ちゃん、テメーはダメだ。俺がつぶす」
「はやく」
 肩越しに理子を見遣り、フェンリルは背中を押す。わかった、と頷き理子はライルの手を引いて階段へ向かった。
「本当に行かせるんだな」
「あったりまえだろ〜? 子犬ちゃんと遊ぶためにオレは此処に来たんだからよ〜お!」
 屍龍となったレッサーワイバーンがぬるりとゲドーに絡みつくように立ち昇り、フェンリルを睨みすえた。

 階段も半ばごろで、明るい声が理子たちに降り注ぐ。
「あー、やっと来てくれました!」
 階段の一番上でしゃがみ込んでいたつばめは、よいしょと立ち上がりスカートをぽんぽんと叩いた。耳から引っこ抜いたイヤフォンと音楽プレイヤーをリュックへ仕舞いながら溜息を吐く。
「ずっと待っててくたびれちゃいましたよ。ほら、もう充電も無くなりそうだし」
「つばめ――あんた、なんで」
「何で、なんて。理由なんてありませんよ。僕、ずっと思ってたことがあって、それが叶いそうだったからココに来たまで、です!」
 ダン、とつばめが床を踏み切った。と思えばその姿はどこにも見当たらない。ハッと顔を上げた時には上空で薙刀を理子目指して振り下ろしていた。
「――くッ!」
 咄嗟に剣を引き抜き一刀を受ける。面白そうな詰まらなそうな顔で、つばめは間合いを取った。薙刀を理子めがけて突き出す。
「この先へ進みたいなら僕と戦ってください。1対1で」
「蛮族側につくってわけ」
「僕は君と戦いたいだけですって。蛮族は僕にとっても敵ですよ。あんなやつら許せませんから」
 仕方が無い。剣を構える。ライルへ下がるように促したと同時に銃弾が階段の手すりを掠めた。2階に潜んでいた蛮族がこれはチャンスだと理子たちめがけて発砲してくる。まだ数人残っていたらしい。吹き抜けになっている構造上、ここからだと下の様子が丸見えだ。更に階段は逃げ場が少ない。
「ちょ、ちょっと! 君たち何なんですか! 邪魔しないでくださいよー!」
 銃弾を避けながらつばめが憤慨するも、やめる気配が無い。つばめが蛮族を敵だと思っているのと同様、蛮族もつばめを仲間とみなしている訳ではなかった。
 駆けつけた淳二が背中を切りつけ、銃弾の雨が止む。ほっと肩の力を抜いたつばめに、忍び寄る影。緊張の緩んだ隙を見逃さず、ぬっと現われたラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)はつばめに拳骨を一発おみまいした。
「調子に乗るんじゃねえ! 理子っちの邪魔しやがって!」
「いったーい……タンコブ出来たらどうしてくれるんですかあ……」
「どうしてくれるんですかあ……はこっちの台詞だ! 理子っちがケガしたらお前はどうするンだ!」
 つばめが頭を押さえしゃがみこむ。じんじん痛む頭を触り、涙目になりながらラルクを恨めしそうに見上げた。そんなつばめの抗議を鼻息で交わすと首根っこを掴んだ。決して身長が低いわけではないのに、ラルク相手だと子供のように見える。
「あー! ずるい! 卑怯です!」
 わたわた暴れるつばめを押さえ込んだラルクは理子へ溜息と共にごちる。
「理子っち、こいつは俺が見てるから先行ってくれ」
「ありがと! 頼んだわ!」
「ちょ、ちょっと! まだ決着がついてないですー!」
 さっさと背を向けた理子に向かって言葉を投げつけるも、「また今度ね〜!」と振り返りもせず階段を上っていった。